[science] ウルトラマラソンでは水分と塩分の補給は最小限で、糖質補給は切れ目なく:”Waterlogged”からの教え

やウルトラマラソンでの水分や食べ物の補給についてはランナーの最大の関心事ともいえる。当方もいろいろ教訓めいたことをブログに書きながらも、今年はでもでも途中で食べ物の補給がうまくいかず、体がふらついて大幅ペースダウンを経験してしまった。

iRunFar.comで今年のWS100で9位の好成績を残したが、南アフリカのスポーツ生理学の大家、Tim Noakes博士の近著、”Waterlogged”に書かれている補給の考え方をもとにWS100を走った結果について書いている。

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Waterlogged Part II: Trials, Questions, and Suggestions Regarding Hydration and Ultramarathons

“Waterlogged”は「飲めるときに飲めるだけ」という水分補給の考え方はドリンクメーカーの宣伝にすぎない、塩分補給は無用、と説いていて、従来の補給の考え方(少なくともアメリカの考え方)を覆すものとして注目されている。

Waterlogged: The Serious Problem of Overhydration in Sports

結論としてJoe Uhanによるウルトラマラソンでのおすすめの補給の方針は次の通り。

・Drink to thirst. ドリンクは喉が渇いたと感じたら飲むだけでいい(喉が渇かないように前もって飲んだり、時間ごとに量を決めて飲む必要はない)

・常にジェルなどの食べ物を摂って胃を働かせ続け、カロリーを体に満たし続ける

・塩分(電解質補給のためのドリンクや)はたぶん有効、でも理由は不明(有効なのは脳や神経に刺激を与えるからか)

・水分と塩分については最小限にとどめるようにする(日々のトレーニングでは水分や塩分の補給は少しにとどめているはず、レースでも同様に)

以下、当方が注目した部分のご紹介。

(Tim Noakes博士の考え方)

JoeがWS100の前にTim Noakes博士にインタビューをした際の博士の話は次にようなもの。

・100マイルレースのように長時間運動し続けるレースでも、塩分の補給は不要。通常の食事で摂取している分や前日までに接種している分で十分。

・水分を失うと血流に影響する、というが競技のパフォーマンスからみるとマラソンの優勝者の体重が10%以上減っていることもまれではない。2%程度の体重減はパフォーマンスには何ら影響ないといえる。

・ウルトラマラソンで最近起こっている横紋筋融解症(rhabdomyolysis、筋細胞が壊死して成分が血液に流出して体が麻痺し血尿などの症状がでる)については頻繁に起こるものではなく、脱水や電解質不足が本質的な原因ではないと考えられる。

・南アフリカやニュージーランドでは90年代初めから水分のとり過ぎの弊害に注意が払われているが、アメリカではスポーツ飲料メーカーの働きかけによって、ランナーができるだけたくさんのスポーツ飲料を飲むように仕向けられている。ランナーが飲めるだけの飲む方がいい、と考えた結果が水分のとり過ぎによる低ナトリウム症や満足のいかない成績につながっている。

・ランニングによって体温が上昇する程度は、運動量、具体的には走るスピードによる。100マイルのウルトラマラソンではスピードはさほど出さないのだから、特段体温上昇を気にする必要はない。

・レース中のメディカルチェックで、体重減少や血圧については注意は必要ない。注意しなくてはならないのは体重が増加している場合のみ。

(実際にWS100を走ってみたJoeの感想)

以上のアドバイスに従ってJoeが今年のWS100を走ってみたところ、前半で体が重くなってペースがダウン。経験上いつも摂っていた塩分補給のサプリ(S!Caps)を摂ったところ調子が戻ってよい結果をおさめることができたとのこと。まとめると:

・水分補給はのどが渇いたと感じたときだけ

・一時間にジェル3個(終盤は4個)を摂る。序盤はもう少しエイドの固形食(バナナやパン)を摂ってもよかった。

・塩分については何も摂らないつもりだったが、37マイル、5時間が過ぎたあたりで体調もメンタルも調子が落ちてきた。塩分を補給したところ調子が良くなったが、これが塩分補給によるものなのかどうかは明らかでない(プラシーボ効果なのか、調子のサイクルで自然と回復しただけなのか)。

これについてNoakes教授は、「塩分の摂取が脳に刺激を与えて良い結果につながったといえるかもしれないが、塩分を取らなかったからパフォーマンスが落ちるとはいえない」とのこと。

このほか、WS100nのメディカルディレクターに聞いた話なども。

Drink to thirstといってもどのくらいの水分補給が適当なのかは主観的な感覚もあるので、一概に今より減らした方がいいとはいえないだろう。ただ、当方自身の感覚では、水分の補給は本当にのどが渇いているとき以外にも、暑さや心拍の上昇からくる不快さを紛らわしたり、長い上りの途中で自分への褒美代わりに飲んだりすることも多い気がする。Joeも書いているが、ハンドボトルだと手元にドリンクがあってすぐに飲めるのでつい飲み過ぎてしまう(机の上にあるキャンディについ手が伸びるのと同じ)ので、バックパックにハイドレーションパックを入れて使う方がいい、ともいえるのかもしれない。

補給については自分を理解する能力と経験、自分を律する精神力が必要とされるのかもしれない。

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