[DC] 国際化するアメリカの伝統の100マイルレース・ウェスタン・ステイツ/Western States Endurance Run 2014が今週末開催 #WS100

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ウェスタン・ステイツ/Western States Endurance Runが今年も今週末の6月28日土曜日午前5時(日本時間同日午後9時)にスタート。今年のウェスタン・ステイツは国際化が一段と進み、見どころの多いイベントとなりそうです。日本からの参加では、昨年2013年のウルトラトレイル・マウントフジ/UTMFで優勝して世界の注目を集めた原良和/Yoshikazu Haraさんに注目です。
2012年、2013年にこのウェスタン・ステイツに参加した当サイト・岩佐の経験をもとに、今年の見どころをご紹介します。

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最古の100マイルレースであり、アメリカで最も権威あるトレイルランニングレースの一つ

昨年2013年のウェスタン・ステイツで初めて100マイルを走ったGordy Ainsleighと当サイト岩佐。

初めて100マイルを走ったウェスタン・ステイツの生みの親、Gordy Ainsleighと当サイト岩佐。

1974年、アメリカ・カリフォルニアのウェスタン・ステイツ・トレイルで行われていた乗馬レース(Western States Endurance Ride)に参加しようとしていた一人の若者がいました。その若者の乗るはずだった馬はレースの前にケガで故障。そのときその若者に、この乗馬レースのコースを自分の足で走ってみたらどうだろう、というアイディアが浮かびます。その若者、ゴーディー・アインズレー/Gordy Ainsleighが自らの足で100マイルを23時間42分で完走したことが、ウェスタン・ステイツの始まりです。

今や世界各地で開催される100マイル(161km)のトレイルランニングレースで最初に開催されたレースであり、アメリカでは毎年実力あるトレイルランナーが集まるほか、力のあるルーキーのランナーが挑戦して注目されるなど、トレイルランニングの世界では最も注目されるイベントとなっています。

どんなコース?

ウェスタン・ステイツはアメリカ・カリフォルニア州のシエラネバダ山脈の山間のリゾート地、スコーバレー/Squaw Valleyをスタート。山や深い渓谷(キャニオン)を下って登ることを繰り返し、シエラネバダの入口の町、オーバーン/Auburnまで、ワンウェイの100マイルのトレイルランニングレースです。

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アメリカのトレイルランニングレースは走れるコースが多い、といわれます。このウエスタン・ステイツも切立った岩稜やガレ場といった過度にテクニカルなところはなく、コースは全般的にみると下り基調といえます。しかし、そうしたコースの100マイルを制限時間の30時間にせよ、優勝が狙える15時間以内で走るにせよ、完走するのは一筋縄ではいきません。

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序盤は標高2500m-2000mの深い山の中のトレイルを進みます。朝日に輝く自然の美しさを実感します。50kmを過ぎると日が高くなり気温が上がってきます。しかしまだまだ元気。やがてウェスタン・ステイツのレースの鍵となる、沢の流れで深く刻まれたキャニオン(渓谷)を登って下りることを4回繰り返します。その谷底は熱気がたまるため気温は40℃を超えることもあります。まだこの辺りも元気に走れるでしょう。下りはどうしてもペースが上がります。

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2013年のウェスタン・ステイツを走る当サイト岩佐。

100km地点のForesthillのにぎやかなエイドステーションで仲間やペーサーに迎えられてきっとほっと一息つくでしょう。しかし、そのとき自分の身体や気持ちはどんなふうでしょうか。気持ちはもちろん高ぶっているでしょう。しかし、エイドでとる補給食がだんだんすくなくなり、軽い吐き気がする。空腹を水で満たすだけ。そして足は下りを飛ばしすぎて太ももの大腿四頭筋に痛み。足首は腫れ上がって一歩一歩がじんじんする。以前傷めた腸脛靭帯に嫌な感触。もしそんなふうに感じ始めていたら、ウェスタン・ステイツの走り方を間違えたことにその後気付くことになります。しかし、そんな気持ちと身体のうめき声をうまくたしなめたことができたランナーだけが晴れ晴れとしたフィニッシュを迎えることができます。

コースは通称Cal Streetと呼ばれる川沿いの斜面を緩やかに下ります。大半のランナーはここで夜を迎えるでしょう。そしてウェスタン・ステイツの有名なポイントであるRucky Chuckyの渡渉ポイントで胸まで冷たいアメリカン川の水につかります。そこからの30kmは楽しいトレイルです、120km走った後の夜でなければ。このパートで100マイルレースを走り始めた序盤で、自分をしっかり律することができていたか、周りにつられて無茶なペースで走っていなかったかを知ることになります。

このウェスタン・ステイツはさまざまなスターを生んでいます。かつてのこの大会で7度優勝したスコット・ジュレック。つい最近までその大会記録を破られることがなかった伝説的な女性ランナー、アン・トレイソン。2010年にキリアントニー(アントン・クルピチカ)との激烈なレースを見事終盤の逆転劇で制したジェフ・ロウズ。その翌年、アメリカ人以外で初めて優勝したキリアン。そして2012年と2013年に連覇したティモシー・オルソン

日本からも鏑木毅さんが2009年にハル・コナーについで2位となり、当時外国人が上位に入ることが少なかったウェスタン・ステイツのファンを驚かせました。さらに日本からは奥宮俊祐さん、石川弘樹さん、鈴木博子さん、といったアスリートがウェスタン・ステイツを経験しています。

今年2014年の有力選手紹介

そんなウェスタン・ステイツは長らくカリフォルニアのローカルレースといった要素を残していたのが、90年代に入るとスコットが連覇を続けたように、全米選手権の様相を見せはじめます。そして2009年の鏑木毅さんの2位入賞はアメリカ人以外の選手が上位に入るようになったことで話題となりました。

今年はウェスタン・ステイツがUltra Trail World Tourのシリーズ戦に加わって、他の加盟レースで活躍する選手が参加することとなり、例年以上に国際的な顔ぶれのレースとなります。おなじみのアメリカのトレイルランニングウェブサイト、iRunFarの選手紹介(男子女子)を参考に今年の有力選手をみてみましょう。

女子

数多い女子選手のなかでも、優勝候補となるのはやはり昨年活躍したランナーでしょう。昨年優勝のPam Smithが連覇するのか。やはりウェスタン・ステイツでの経験が豊富なベテランで、昨年2位のNikki Kimballや3位のMeghan Arbogastはウェスタン・ステイツの上位常連です。

一方、若手で最近になってトレイルランニングの世界にやってきたルーキーもウェスタン・ステイツに登場します。中でも注目は今年2月のRocky Raccoon 100で2位になったKaci Lickteigで、3月にはLake Sonoma 50で3位、その後5月のIce Age 50では大会記録で優勝。ウェスタン・ステイツは初挑戦です。さらにルーキーという視点で注目はSally McRae。2月のSean O’Brien 50で2位となり注目されました。iRunFarのMeghan Hicksのコメントは「パフォーマンスに好不調の波が大きい」とのことですが、だからこそうまく波に乗れば素晴らしい結果にもつながりそうです。

昨年のレユニオンで優勝したNathalie Mauclair。

昨年のレユニオンで優勝したNathalie Mauclair。

海外からはUTWT枠で2人の女性ランナーが参加。Nathalie Mauclair(フランス)は昨年のTDS優勝、IAUトレイル世界選手権優勝、グラン・レイド・レユニオン優勝など素晴らしい結果を残して注目されました。今年のUTMFにも参加しています。序盤からハイペースで引っ張るタイプですが、それは時としてオーバーペースで後半の失速といったトラブルを招きます。UTMFでのリタイアもそうした例だったのでしょう。上記のようなウェスタン・ステイツのコースで彼女がどのようなレースをするか注目です。もう一人の注目の女性ランナーはBeth Cardelli(オーストラリア)です。地元オーストラリアのビッグレース、TNF 100 Australiaで4度優勝していますが、ここ最近はケガからのリカバリーを優先してTaraweraやTNF 100 Australiaを走るのを見送っています。リカバリーがどれくらい進んでいるかをみることになるでしょう。

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今年のUTMFでは選手、私的サポーターは大会前日受付時の新型コロナ高原検査が必須、フィニッシュ2kmで順位確定の特別ルールも

男子

男子の優勝候補としてiRunFarのBryon Powellが上げたのはRob KrarRyan SandesMiguel Herasの3人でこれは多くのファンが納得する名前でしょう。Rob Krarはトレイルランニングにデビューしたのは実質的に2013年に入ってからとキャリアが浅いにもかかわらず昨年のウェスタン・ステイツで2位。昨年は優勝したレースだけでもRed Hot Moab 55k、Leona Divide 50、UROC、TNF EC 50mileといった具合で、オフスタイルでカウボーイハットを愛用しているそのスタイルと相まって、最もアメリカで注目されるトレイルランナーの一人です。

Ryan Sandes in UTMF

UTMFで2位のRyan Sandes

Ryan Sandes(南アフリカ)は今年4月のUTMFに来日して2位となっています。今年はTransgrancanariaで鮮やかな優勝、Drakensberg Grand Traverseのタイムトライアル(FKT)で記録更新と好調です。しかも、彼は2012年のWestern StatesでTimothy Olsonに続いて2位という経験もあります。当然今年はもう一つ上の順位を狙ってくるはず。

Miguel Heras(スペイン)は昨年のUTMBで2位に入っています。アメリカでもTNF EC 50mileで2度の優勝経験を持っています。ただ、2012年UTMBでキリアン、イケル、セバスチャンのトップ集団からケガで離脱してリタイア、最近もケガでサハラ砂漠マラソン参加見送りなど、ケガに悩まされている話しも聞きます。現在のコンディション次第では今回のレースを面白くしそうです。

昨年の4位、5位、6位のIan SharmanDylan BowmanNick Clarkもウエスタン・ステイツではトップ10の常連です。それぞれこれまでのウェスタン・ステイツでの最高順位は4位、5位、3位。Nickは今年4月のUTMFで後半に胃の調子を崩して大きく減速しながらも10位に入っています。

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2013年でGrand Slumの初戦、Western Statesを完走した翌日のNick Clark(左)

さらに当サイトとして注目したいのは50マイルまでのレースでは圧倒的に強いMax King。なんと今回が初めての100マイルレースへの参戦。どんな結果をみせるか注目です。

そしてUTWT枠もあって数多く集まる海外勢。上記のRyan Sandes、Miguel Herasの他にもトップ10を狙えるランナーが揃います。Jez Bragg(イギリス)はウェスタン・ステイツでは2009年に鏑木毅に続く3位、2011年に鏑木より一つ前の4位という経験を持ちます。

ウェスタン・ステイツを前に御嶽山でトレーニングキャンプをしたという原良和。

ウェスタン・ステイツを前に御嶽山でトレーニングキャンプをしたという原良和。

原良和/Yoshikazu Hara(日本)は今年のUTMFは胃腸の調子を崩してリタイアでしたが、ケガ等はなくその後順調にウェスタン・ステイツに向けて準備してきたといいます。走りやすいトレイルが特徴のウェスタン・ステイツは原さんにとって得意なはず。しかしアメリカでのレースは2008年のホノルルマラソン以来、カリフォルニアは初めてという原さんにはアメリカのトレイルランニングレースはどのように映るか。チャレンジャーとして臨んで成功した昨年のUTMFと同じ気持ちで臨めば、輝かしい結果につながるかもしれません。

さらにMike Aish(ニュージーランド出身)はフルマラソン自己記録が2:13でオリンピック代表選手経験もあってトレイルでも結果を残し始めています。Vajin Armstrong(ニュージーランド)も今年はVibram HK 100で4位、Taraweraで3位。Brendan Davies(オーストラリア)は昨年に続いて参加した今年のUTMFで6位。その2週後のTNF 100 Australiaでは3位。Facebookへの書き込みをみると今回のウェスタン・ステイツにかける意気込みは大きそうです。

参考

当サイト・岩佐の過去の参戦レポート

(2012年)

これも読む
DC Weekly 2023年4月17日 Istria、Ninghai、Desert Rats、善光寺、チャレンジ富士五湖、平尾台

(2013年)

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