UltrAspireのランニング・バックパックが生まれるまで ブライス・サッチャー / Bryce Thatcher ロングインタビュー #PR

UltrAspire Zigos Bryce Thacher
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UltrAspireはトレイルランナーにはおなじみのバックパックのブランドです。そのUltrAspireのファウンダーであるブライス・サッチャー / さんが6月に来日された際にインタビューする機会がありました。

ブライスさんはトレイルランニング用のバックパックの生みの親であり、自身もトレイルランニングやクライミングにおいてトップレベルのアスリートとして活躍。1983年に29歳で記録したグランド・ティトンの 山頂往復記録(3時間6分)は2012年にキリアン / Kilian Jornetに破られるまで最速記録(Fastest Known Time, FKT)となっていました。

インタビューはアウトドアスポーツに親しむようになった少年時代の話から始まりました。

グランド・ティトンを眺めながら育った少年時代

DogsorCaravan.com(以下DC): 子どもの頃からアウトドアスポーツをされていたんですか?

UltrAspire Bryce Thatcher

日本には時々訪れているというブライス・サッチャーさん。今回は長野県で開催された「菅平スカイライントレイルランレース」の模様も見学したとのこと。

ブライス・サッチャー / Bryce Thatcher(以下BT):私が 生まれ育ったのはアイダホで、西側にあるグランド・ティトンを見ながら育ちました。まだ幼い頃から父に連れられてハイキングをしましたが、あのグランド・ティトンの 一番高いところまで行ってみたい、といつも考えていたのを覚えています。ハイキングをするときに、父は私を鍛えようとして「20歩歩いたら20歩走る、それを繰り返しなさい」といっていました。そうすれば速く山に登ることができる、というわけです。それが私にとって最初のトレーニングでした。

DC: まだ小さな子どものときからそんなトレーニングを始めていたわけですね。

BT: そうなんです。そうするうちにどんどん速く山に登れるようになります。すると今度はロッククライミングを始めました。ティトンではロッククライミングができる場所までのアプローチが長いんですね。そんなわけで今度はロッククライミングをするためにアプローチのトレイルを走るようになりました。ロッククライミングを終えて帰りもトレイルを走ります。そうやってティトンの山に入ることが走るトレーニングにもなっていたんです。そうするうちに、「ティトンの頂上まで走っていって、そこから戻ってくるまでの記録に挑戦してみたら」と友達やクライミングの仲間からけしかけられるようになりました。その頃すでに友達同士で自分の記録を見せ合ったり、地元の新聞が取り上げたりして、誰が最速記録(FKT)を持っているかが話題になっていたんですね。

最初のバックパックが生まれるまで

DC:その経験がランニングやクライミングのためのバックパック作りにつながったわけですね。当時はドリンクや補給食はどうやって持ち運んでいたんですか?

BT: その頃使っていたバックパックは、ちょうど今使っているこんな形のシンプルなものでした(注・ブライスさんはUltrAspireの来春発売予定の製品のプロトタイプを見せてくれました)。こういう普通のバックパックの中に水を入れた1.5Lのガラスのボトルを入れて走っていました。でも、これだと水を飲むためにはバックパックを背中から下ろして、ボトルを取り出して、飲んだらまたボトルをしまって、という具合で面倒ですよね。これをなんとかしたいな、と思うようになりました。

DC:一番最初に作った試作品はどんなものだったんですか。

BT: 15歳か16歳くらいの頃、祖母から裁縫を習い、うちにあった電動じゃなくて自分でペダルを踏んで動かす古いミシンが使えるようになりました。それで自分の古いジーンズをバラして縫い合わせ、ボトルを外側に取り付けることができるバックパックを作ってみました。その頃はそんなバックパックはどこにもなかったんですよ。次にもっといいボトルはないか、と探し始めました。最初に目をつけたのは自転車で使うボトルでした。1980年ごろだと、持ち運びしやすいボトルはそれくらいしかありませんでした。そのボトルを外側に取り付ける小さなバックパックを作って、自分で試してみると、山を駆け上がるタイムも短縮することができたんです。

DC:自分で手作りしたのが最初だったんですね。

BT: それからもいろいろ工夫していたんですが、大学生の時に転機が訪れました。私は大学では競技スキーでクロスカントリーをやったり、走ったりしていました。自分が使うために作った自作のバックパックを見たチームメイトが、「それいいな」って興味を示したんですね。それでチームメイトのために同じものを作ってやったんです。それが私が1985年に最初に作った会社(Ultimate Direction)の始まりでした。学生をしながら当時住んでいたワンベッドルームのアパートに一台のミシンでバックパックを作り始めたんです。卒業してからは、昼間はランニングショップで仕事をして、合間にバックパックを自分で縫う、という日々でした。

DC:そうやって作った最初の製品は周りに受け入れられたんですか?

BT:最初に僕のバックパックを認めてくれたのはクロスカントリースキーの選手でした。学生時代は毎年冬になると練習のために皆でモンタナのウェスト・イエローストーンへ合宿に出かけます。そこには11月となるとアメリカやカナダの各地からスキー選手が集まります。僕はそこにトヨタのセリカに自作のバックパック100個を詰め込んで出かけていって、選手が止まっているホテルの部屋を片っ端からノックしました。「こんにちは、スキー用のバックパックは要りませんか?」ってね。それでクルマのトランクから取り出しては買ってもらっていました。それが大変な人気で100個が1時間もしないうちに売れてしまったんです。そのスキーの選手たちが、バーモントとかコロラドとか自分の地元に帰ってそこでまた口コミで僕のバックパックの人気が広まっていきました。

Bryce Thatcher Astral

最初のバックパックを作った頃のエピソードを話すブライス・サッチャーさん。手に取っているのはUltrAspireの新モデルで女性専用設計のAstral

DC:それまでなかったボトルを外付けにしたバックパックというのがなぜ広まったのか、興味があったのですが、あったらいいなと思う人がそれだけいたんですね。それを普通に身の回りにある材料でブライスさんが作ってしまったわけですね。

BT: そうですね、それまでそんなアイディアを形にした人がいなかったんですね。ちょうどその頃、ワサッチ100といったレースも始まってウルトラランニングも人気が出てきた頃でした。ランニング向けに最初に作ったのはボトルを一本か二本つけたウェストパックのような小さなバックパックでした。補給食を持ち運ぶ必要があるだろうから、ボトルだけじゃなくて補給食も入れておけるポケットをつけました。こんなふうに実際に使うときに何が必要だろうか、と考えるのが出発点になります。UltrAspireでもドリンクと補給食をどのようにすれば行動中に取り出しやすいだろうか、と考えています。製品の形は違っていても基本的な考え方は同じなんです。

トレイルランニングの最中の補給で気をつけたいこと

DC: ブライスさんから、トレイルランニングを始めたばかり、あるいはこれから始めようという方にアドバイスをいただけますか。

BT: 初心者の方は必要以上の装備を身につけて走ってしまうことが多い気がしますね。準備はしっかりしないといけませんが、何が必要かよく吟味することも大事です。私の場合はエイドステーションの間の補給については、腕時計にタイマーをセットします。10分おきにドリンクを一口補給、20分おきにドリンクと食べ物を補給、といった具合です。そして1時間の間に補給しておくべき水分の量を計算しておきます。レース中にボトルの中身の減り方をみて、あらかじめ計算しておいた量より少なければ、脱水に気をつける必要がある、といったことがわかります。

DC:あらかじめ自分がどれくらいの補給を必要とするか確かめておく、というわけですね。用心しすぎても無駄になってしまうと。

BT:コースの特徴やエイドステーションの間の距離を調べて、あらかじめ補給の計画を立てておくことをおすすめします。行動中に必要なカロリーのために補給食を摂ると、体がそれを吸収するために水分を必要とします。そのため、十分な水分を取らずに補給食を摂っていると脱水の原因になります。水分と補給食の両方について補給のタイミングを合わせることが大事です。この点では自分が飲むべきドリンクの量の目安が立てやすいボトルは便利ですね。ハイドレーションバッグを背中に入れていると一目で飲んだ量を確認するというわけにはいかないですからね。

FKTが人気を集めるわけ

DC: 最近アメリカでも多くのアスリートが挑戦している特定のルートの最速記録(Fastest Known Time)について伺いたいと思います。最近は日本でもトレイルランニングから一歩進んで、FKTやファストパッキングに興味を持つ人が増えています。この分野ではいわばアメリカでパイオニア的な存在のブライスさんから、こうしたアクティビティに挑戦しようとする人たちにアドバイスをいただけないでしょうか。

BT: 私が最初にFKTをやってみようと思ったのは、100%自分の力だけが試されるチャレンジだからです。自分でやってみて、「このタイムでここまで来れた、もう一回やったらもっとタイムが縮められるかも」と思うわけです。そうやってシーズン中に何度も、場合によっては次の年もそのコースにチャレンジし続けるんですね。誰かが企画してくれるイベントとは違って、そうしたアドベンチャーに挑戦するかしないかは自分次第です。競争相手はいないので、常に自分との戦いを意識することになります。私が始めた頃は 今のようにGPSでログをとる機器もありませんでした。自分でコースやタイムについてメモを残すだけです。タイムやコースは自己申告ですから記録が正確かどうかは、アスリートの良心だけが頼りです。私も最初の頃は登山ガイドブックにタイムを書き込んで「これが僕の記録です」というだけでした。今ではそうした記録を投稿するウェブサイトもありますけど、その頃は何もなかった。実は、最近私の息子がかつての私と同じようにグランド・ティトンのFKTに挑戦したいというんですね。若くて体力もありますが、ちょっと危なっかしく感じます。もっとも私も年を経るに連れて、かつてできたことでも今は危険だと感じることが増えているんでしょうね。息子が私のかつてのFKTの記録をみて「父さん、すごく速かったんだね」なんていうんですよ。「そうだろ、キリアンに破られるまで29年間も記録を持ってたんだからな」なんてね。当時はコットンのTシャツにブルックスのランニングシューズ、ナイロンのランパンにジャケットです。補給食はナッツやバナナでした。

DC:ブライスさんのグランド・ティトンの最速記録は29年間にわたって破られることがなかったんですが、かつてと比べて山岳アスリートがFKTに関心を持つようになったと感じますか?

BT: 最近のトレンドとしていえば、コロラドやユタだけでなくアメリカの若いアスリートは普通のトレイルランニングのレースだけでは満足できなくなっているといえるでしょう。普通に開催されるレースというのはあれこれ整えられすぎていると感じるんですね。エイドもたくさんあって安全に走れるからタイムも速くなる。昔話になりますが、かつてはアメリカのウルトラマラソンのレースではコースマーキングがされてはいても、地図をみてコースを探すことは当たり前だったんですよ。間違えそうな分岐点があったとしてもレースディレクターは特別な処置はせず、地図をみて正確にルートをたどるのはランナーの責任だ、と思われていたんです。そういう時代からすると最近のレースは冒険の要素が失われてしまっていると感じるのもわかる気がします。自分でルートを選んで、どんなスタイルでいくか自分で決めて、必要な装備を選ぶ。自分の体力、体調を見極める。どうやってそこにアクセスするかとか、どんなルートで進むかも自分で考える。そういうFKTに自分のクリエイティビティを発揮したいと考えるのだと思います。

DC:最近FKTにチャレンジするようになった若いアスリートをみてブライスさんが感じることはありますか?

BT:トレイルや山は世界中にあって、GPSウォッチが普及して、STRAVAのようにGPSログをシェアする仕組みも世界中で利用できる。FKTの記録も昔よりも正確、簡単に残せるようになりました。しかし、ベテランとしては多くのアスリートがFKTに挑戦するようになると、より細かい記録をちゃんと残しておくことが大事だといいたいです。先行する記録と同じ条件でチャレンジしたかどうかが重要です。装備だけでなく、途中で誰かのサポートを受けたかどうか、スイッチバックをショートカットしなかったか、クライミングでロープを使ったかどうか。私がグランド・ティトンの記録を作った時はロープを使わないフリーソロ・スタイルのクライミングでした。同じコースでロープを使って登って、降りるのは懸垂下降というのでは条件が全然違います。そういうことも細かく記録して残しておくようにしてほしいですね。純粋な意味でのFKTに取り組むなら、ソロで他からのサポートを受けないと言うスタイルを選ぶことになるでしょう。自分が必要とするものは全て身につけて行くことになります。誰かにサポートを受ける場合は、ギアを渡してもらったり途中の状況を聞いたり、同行している仲間と助け合ったりするわけで条件が変わってきますよね。自分の独力でルートを見つけるというのもFKTの重要な要素だと思います。そんなわけで、FKTにチャレンジしようという人はできるだけソロで他からのサポートなしというスタイルで挑戦してもらいたいですね。

DC:最近だと、アントン・クルピチカやキリアンのFKTへのチャレンジが話題になりましたが、ウェアも装備も限界を超えて削ぎ落としているようにも思えます。ブライスさんはどのように感じますか?

BT: 確かにアントンをみているとシャツも着ない、ろくにジャケットも持たないでクライミングなんてクレイジーだと思いますよ。もしトラブルが起こったら一体どうするのか。それでもアントンなら大丈夫なのかもしれないけれど、それを真似する若い人たちがみんなアントンと同じようにできるわけじゃないでしょう。アントンはそういうスタイルで通していて、慣れているのかもしれない。でも他のアスリートにとっては同じように安全とは限らないことを忘れないでほしいですね。私も常にエマージェンシー・キットは携帯していますし、いつも大きなプラスチックのゴミ袋を持っていくようにしています。緊急時にはこれがシェルター代わりになります。もちろんちゃんとしたレインジャケットも持って行きますが、クライミングの途中で雷雨に見舞われた場合はゴミ袋のシェルターが役に立ちます。その他には水の浄化用タブレットや予備の食料、状況に応じてダウンの上下も。想定外のトラブルがあっても大丈夫な装備を持って行きます。家族や子どもたちが待っているんですから、リスクは取りません。必ず無事に家に帰ります。

UltrAspireの新製品

DC:ブライスさんが今取り組んでおられるUltrAspireは革新的なメッシュ素材や、パーツを組み合わせるMBSシステムなど、独創的な製品開発をされています。UltrAspireのポリシーはどんなところにありますか?

BT: 製品開発は我々がエリート・イモータル / Elite Immortal と呼ぶ提携アスリートのニーズがきっかけになることが多いですが、ニーズに応えるアイディアを自ら生み出すことにこだわっています。自分がこの分野を切り開いてきたからわかるんですが、誰かのアイディアを真似するのは簡単だけどそのアイディアを実現するのに開発者は大変な苦労をしていますからね。そうした苦労にはリスペクトの気持ちを持っています。それに製品の開発に協力してもらっているアスリートには「具体的な製品のアイディアを考えなくてもいい、アクティビティの最中に面倒に感じていること、困ったことをそのまま聞かせてほしい」とお願いしています。すぐには解決策が思いつかないようなことに製品開発のヒントがあると考えています。

DC:ブライスさん自身も新製品のアイディアを日々考えておられるのですか?

BT:もちろんです。私はレースのエイドステーションではいつも選手の様子を観察しています。何に時間をかけているか、どうやってバックパックに補給をしているか。レースの最中も補給食やドリンクをどうやって補給しているか。私自身も今でもレースに出て走るので、そこで自分が経験することも気づきを与えてくれます。

DC:2015年の今シーズンのUltrAspireの注目のアイテムを一つ紹介していただけますか。

BT:ではザイゴス / ZYGOSをご紹介しましょう。これは14Lの容量を持つバックパックで従来の当社の製品よりも収容力があり、しっかりと装備を持つ必要がある山岳コースでの100マイルトレイルランニングレースや夜通し行動するようなファストパッキングに最適です。体の全面でバックパックを固定するストラップには「MAXO2」という新しい仕組みを導入しました。ゴムで伸縮性のあるストラップをフックに固定するシステムで、体の動きによる揺れを吸収することに優れています。日本のトレイルランナーの皆さんにもぜひ試していただきたいですね。

UltrAspire Zigos Bryce Thacher

今シーズンから登場したUltrAspire / Zygosを手に取るブライス・サッチャーさん。「山岳コースの100マイルレースには最適です」とのこと。

DC:ありがとうございました。

(協力・UltrAspire

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