現地レポート その7(最終回)・サハラマラソン Marathon des Sables 2017 ステージ5-6

Marathon-des-Sables-logo-square今年のMDSもそれぞれの参加者が万感の思いとともにフィナーレを迎えました。開催中のサハラマラソン Marathon des Sables(MDS)は14日金曜日に42.2kmのステージ5、15日土曜日にチャリティステージでレース結果には影響しないステージ6の7.7kmが開催されました。ステージ5のフィニッシュラインでは、すべての完走者がレースディレクターのパトリック・バウアーさんから完走メダルを受け取りました。全ステージを通じたレースの結果は、男子がラシッド・エルモラビティ Racid El Morabity(モロッコ)の5回目の優勝、女子がエリザベト・バーンズ Elisabet Barnes(スウェーデン)の2015年に続く2回目の優勝となりました。日本から参加の皆さんもステージ5で盛大な歓迎を受けながら最終ランナーとしてフィニッシュした中西雅子さん・真帆さん親子をはじめ、それぞれにMDS完走の栄誉を手にしました。

中西雅子さん・真帆さん親子はステージ5で最終ランナーとしてパトリック・バウアーさんに迎えられた。

当サイトではUltra-Trail World Tourの第4戦であるMDSの全日程にわたって、選手とともに移動しながら同行取材。随時現地から大会の模様をレポートしました。

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(写真・ステージ5で最終ランナーとしてフィニッシュした中西雅子さん・真帆さん親子。Photo by Koichi Iwasa / DogsorCaravan.com)

4月14日金曜日:ステージ5

大会を通じて最も長い86kmのステージ4を終えたランナーは4月14日金曜日に、レースとしては最後のステージ5に臨みました。上位の選手はステージ4がスタートした12日水曜日の夜に、一般的な選手も13日木曜日の午後までにキャンプサイトに到着しているので、ある程度まとまった休養が取れることになります。

ステージ5は42.2kmの「マラソン・ステージ」で制限時間は12時間と比較的緩やかな設定。コースはこれまでのステージにあった砂漠の山越えはないものの、足元が不安定な砂丘をひたすら進むことになります。最終盤の37.4km地点にある鉛鉱山の跡地を通過するとフィニッシュとなるキャンプサイトが視界に入ってきます。

ステージ5のコース概要図。

男子のレースはラシッド・エルモラビティ Racid El Morabity(モロッコ)がリードを保ってトップでフィニッシュ。そのすぐ背後には弟で今回MDSに初参加のモハメド・エルモラビティ Mohamed El MORABITY(モロッコ)が続きました。ラシッドは弟を見守りながら引っ張るかのような走りで、フィニッシュラインには両手を翼のように広げながら余裕の表情でフィニッシュしました。3番手はトーマス・エバンス Thomas EVANS (イギリス)でした。女子は前日のロングステージに続いてナタリー・マクレア Nathalie Maclairがトップでフィニッシュ。しかし、エリザベト・バーンズ Elisabet Barnesもペースを緩めることはなく、ナタリーからわずか2分ほどの僅差で2番手でフィニッシュ。エリザベトから20分後に Fernanda Macielが続きました。

ステージ5をトップでフィニッシュしたラシッド・エルモラビティ。背後には2位の弟・モハメドの姿。

この日のステージ5までのタイムの合計で大会を通じた総合成績が決まりました。男子ではラシッド・エルモラビティ Racid El Morabityが四連覇、5回目の優勝を勝ち取りました。今回はステージ1で弟に勝ちを譲ったほかは、コース前半は他の上位選手の力を見極めるように背後を走り、後半に易々とリードを奪う展開の繰り返しで、MDSの王者としての力量を見せつけました。男子2位にはラシッドの弟、モハメド・エルモラビティ Mohamed El MORABITYが入りました。今回が初参加の25歳ですが兄に劣らぬ実力の持ち主として見事なデビューとなりました。3位はトーマス・エバンス Thomas EVANS。英国空軍勤務のトーマスはレースに参加する機会が限られ、MDSにも初参加。大会初日にレースをリードしたのはサプライズでしたが、最終日まで手がたいレースを見せて3位を勝ち取りました。その他、トップ10に入った選手ではペルーのレミジオ・フアマン・キスぺ Remigio HUAMAN QUISPEが初参加で5位。今年11月末にペルーで初開催となる des Sable Peruでも活躍が期待されそうです。10位には香港のウォン・ホーチュン Ho Chung WONGが入り、アジア人の存在感を示しました。

女子では、エリザベト・バーンズ Elisabet BARNESが2015年に続く2回目の優勝となりました。ステージ3では転倒して膝を縫うケガを負うというというアクシデントがありましたが、続くステージでも大きく崩れることはなく、ステージレースでの粘り強さを印象付けました。2位にはナタリー・マクレア Nathalie Maclair。今回は前半のステージで暑さや補給のバランスに苦しみ、エリザベトの先行を許す形となりましたがステージ4の86kmでは持ち前のガッツある走りでトップに。結局エリザベトにはおよばなかったものの、昨年に続いて2位で日程を終えました。3位はこちらも昨年の3位に続くフェルナンダ・マシェール Fernanda Macielでした。

ステージ5を2位でフィニッシュし、トップのナタリー・マクレアと抱き合うエリザベト・バーンズ。2回目の女子総合優勝を果たした。

ステージ5 42km・男子リザルト

  1. ラシッド・エルモラビティ Rachid EL MORABITY (モロッコ)  3:10:09
  2. モハメド・エルモラビティ Mohamed El MORABITY(モロッコ) 3:10:16
  3. アジズ・エルアカド Aziz EL AKAD (モロッコ)3:11:20
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ステージ5 42km・女子リザルト

  1. ナタリー・マクレア (フランス) 3:52:17
  2. エリザベト・バーンズ Elisabet BARNES(スウェーデン) 3:54:31
  3. フェルナンダ・マシェール Fernanda MACIEL(ブラジル) 14:14:32

全ステージ総合成績・男子

  1. ラシッド・エルモラビティ Rachid EL MORABITY(モロッコ) 19:15:23
  2. モハメド・エルモラビティ Mohamed EL MORABITY(モロッコ) 19:38:21
  3. トーマス・エバンス Thomas EVANS(イギリス) 19:49:33
  4. アブデラジズ・バグハーザ Abdelaziz BAGHAZZA(モロッコ) 20:35:53
  5. レミジオ・フアマン・キスぺ Remigio HUAMAN QUISPE(ペルー) 20:53:01
  6. サミール・アクダー Samir AKHDAR(モロッコ) 21:08:50
  7. サラメ・アラクラ Salameh ALAQRA(ヨルダン) 21:29:53
  8. ミケル・カポ・ソレル Miquel CAPO SOLER(スペイン) 21:41:16
  9. アンディ・サイモンズ Andrew SYMONDS(イギリス) 22:19:39
  10. ウォン・ホーチュン Ho Chung WONG(香港) 22:34:19

兄弟で1位、2位を占めたラシッド・エルモラビティ(左)とモハメド・エルモラビティ(右)。

総合10位となったウォン・ホーチュン Ho Chung WONG(香港)

全ステージ総合成績・女子

  1. エリザベト・バーンズ Elisabet BARNES(スウェーデン) 23:16:12
  2. ナタリー・マクレア Nathalie MAUCLAIR(フランス) 23:36:40
  3. フェルナンダ・マシェール Fernanda MACIEL(ブラジル) 24:44:59
  4. エミリー・ルコント Emilie LECOMTE(フランス) 26:41:18
  5. メラニー・ルセ Mélanie ROUSSET(フランス) 27:47:59
  6. アジサ・ラジ Aziza RAJI(モロッコ) 27:48:39
  7. ジェニファー・ヒル Jennifer HILL(イギリス) 29:36:50
  8. ライラ・ディアス・フォンタネット Laia DIEZ FONTANET(スペイン) 30:17:18
  9. ナンシー・レベーン Nancy LEVENE(アメリカ) 30:32:25
  10. エスター・ペレイラ Ester PEREIRA DOS SANTOS ALVES(ポルトガル)33:15:06
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4月15日土曜日:ステージ6

今回のMDSは6ステージ・計237kmのレースですが、最終日のステージ6は計時は行われるものの順位には影響しない(ただし参加は必須)のチャリティステージの7.7kmとなります。前日に完走メダルを受け取った各選手はこれまで携行してきた補給食をこの日の朝に食べきって、スタートラインに立ちました。実は最後のキャンプサイトはサハラ砂漠の観光拠点として有名なメルズーガの町から東側に広がるメルズーガの大砂丘を超えたところに設けられています。各選手はお揃いの黄色のチャリティTシャツを着て、サハラ砂漠を代表する大砂丘を走ったり、仲間とともに歩いたりと思い思いに楽しみながら進みました。

ステージ6(チャリティステージ)のコースマップ

メルズーガの町に設けられたフィニッシュラインに到着した選手は、順次待機していた大型バスに乗り込み、最初にチャーター機で到着したワルザザートまで350キロを6時間かけて移動。ワルザザートのホテルにそれぞれ分かれて宿泊し、初めてシャワーを浴び、温かい食事やアルコールとともに1週間に渡るサハラ砂漠での経験を仲間と振り返りました。

チャリティステージを前に思い出の記念写真を。

こちらも日本から参加の皆さん。

優勝したラシッド・エルモラビティ(No. 1)を讃えるランナーたち。

チャリティステージながら、軽やかに走り抜けるラシッド・エルモラビティ(左)。

メルズーガの大砂丘には観光客も多く、MDSの選手に声援を送っていた。

名残を惜しむかのように砂漠を歩く選手たち。

ラクダの隊列も選手を応援する。

ウクレレをかき鳴らしながら走る。大会を通じて軽やかに歌いながら進んでいた。

手押し車に乗った子どもとランナーもゴールを目指す。

MDSの思い出に砂漠の砂を持ち帰る。

日本から参加の3人も最後の砂丘を笑顔で駆け抜けます。

今回のサハラマラソンを取材して

トレイルランニングが人気を集めるよりもずっと前の1986年から続くサハラマラソン 。サハラ砂漠という地球上で最も厳しい自然の中で、文明の便利さから1週間切り離された中での過酷なランニング・イベントです。イギリス、フランスを中心に欧州では熱狂的なファンがいるこのイベントは、日本でも究極のウルトラマラソンとして知られていて、参加者を集めてきました。しかし、サハラ砂漠という場所の遠さや1週間以上という大会の長さが、大会の実情を実感しながら見守ることを難しくしています。今回当サイトは、大会日程のすべてにわたって選手とともに移動しながらサハラマラソンに触れる機会を得ました。

初めてみるサハラ砂漠は見渡す限り、広がる荒野の迫力とジリジリと照りつける日差しの強さに、自らの命の限界が試される思いがしました。砂漠とはいいながら、随所に断崖状に削られた地層が山を作っています。これらは大まかに標高差で200mくらいの岩山となっていてガレたテクニカルな箇所もあります。こうした岩の隙間を吹きだまった砂が埋めていて、砂に足を取られながら岩場を登るという不思議な「登山」をすることになります。もちろん見渡す限りの砂丘も随所に現れます。滑らかな風紋のついた高さ数十mはある砂の山を上り下りするのは不思議な体験ですが、コースマークがなければ進む方向を確実に見失いそうです。そのほかにも泥が固まったような地面が波打つように広がっているところもあれば、人のこぶしほどある大小の石がびっしりと広がる荒野があったりと、砂漠は様々な表情をみせます。

砂丘へとかける選手たち。

波打つ海のような地面を進む。

サハラマラソンで有名なのは必要な食料はすべて携行し、キャンプサイトでは同じメンバーが8人で最終日まで一緒に寝泊まりすること。快適なベッド、温かいシャワー、用意された食事といった文明の快適さから離れた体験が参加するランナーに人生を見つめ直すきっかけを与えるといいます。当サイトは取材者として参加者とは別に行動しましたが、1200人の参加者に対して700人におよぶ大会スタッフの一人としてキャンプサイトで生活しながらの取材は、不思議な一体感に包まれる経験でした。もちろん、このような大会を安全に配慮し、多くの支援を得ながら運営するというプロジェクトのスケールの大きさに圧倒されたのももちろんです。

サハラマラソンをレースとしてみた場合、ランナーとしてのスピードが最も重要な要素となります。各ステージは30kmから80kmほどの距離となるので、例えばフルマラソンの自己ベストというのはサハラマラソンで上位を狙えるかどうかの指標となります。もちろん、そこに加えて暑さに強いか、必要な補給食や大量に補給する水分を合計250kmにわたってどう配分していくか、という経験やスキルも重要でしょう。実際に現地で見聞きした印象では、1週間にわたってキャンプサイトを移動するという生活リズムへの適応力の有無も影響するように思いました。もっとも、スピードが重要というのは優勝争いに加わるような選手に限った話。制限時間自体の設定は緩やかなので、完走できるかどうかは自分の目標に対してどのように挑戦するか次第となります。前回完走時のタイムに挑戦するか、あるいは何はともあれ完走を目指すか。サハラマラソンには参加する人の数だけ異なる挑戦の形があるといえそうです。

優勝したラシッド・エルモラビティはコースからもそう遠くない砂漠エリアに住む。今回も砂上で華麗な走りを見せ続けた。

今回のサハラマラソンでも「他の誰かに何かを伝えるために」完走を目指す人たちが注目を集めました。アフガニスタンでの英国空軍の任務の途中で両足を失ったランナーが義足の両足で完走。足の不自由な難病の子どもに過酷なサハラマラソンを完走する経験を与えようと、手押し車に乗せて完走したフランスのチーム。メディアで伝えられたこうしたストーリー以外にも、様々な思いを胸にこのサハラマラソンを走った人たちがいたに違いありません。

レジェンド、マルコ・オルモ。寡黙で感情を表に出さないイメージだが、完走後は満面の笑顔に。

今年9月末には「ハーフマラソン」、11月末には「MDSペルー」が開催

サハラマラソンに魅せられた人たちに向けて、モロッコで開催される大会に加えて新しい大会がスタートします。

すでに今年2月に発表されているのが、Half Marathon des Sables(ハーフMDS)。3つのステージで計120km、ステージのうち一つは長距離というMDSのハーフ版という位置付けで、9月25日から30日かけてモロッコの沖合に位置するカナリア諸島・フエルテベントゥーラ島で開催されます。サハラ砂漠と同じように砂丘が広がるほか、海沿いの断崖に沿って走るなど、サハラ砂漠以上にバラエティに富んだコースとなる模様。サハラ砂漠と比べると人が生活する町やリゾートからアクセスしやすいので、参加する選手にとっては家族と一緒に参加したり、大会の後にリゾートでの滞在を楽しんだりしやすいのが魅力です。

加えて、今回のサハラマラソンの途中で発表されたのが11月24日から12月5日の日程で開催されるMarathon des Sables Peru(MDSペルー)。こちらはルールやスタイルだけでなく、ステージ数や大会日程などもモロッコで開催されるMDSをそのまま踏襲して南米・ペルーで開催。ペルーのサハラ砂漠に匹敵する砂漠地帯で開催されます。今回の第一回大会の参加者のうち、希望する先着100人には大会への参加後に、マチュピチュからワイナピチュ山などを歩く三日間のトレッキングツアーが用意されます。保護区のため通常はアクセスが認められていない特別なトレイルを体験できるツアーとなるとのこと。今回のMDSを視察に訪れていたペルー政府観光局のコミュニケーション・ディレクターであるイザベラ・ファルコさんからは「ペルーでは日本から渡ってきた日系人が様々な分野で活躍していて、日本の皆さんの来訪を歓迎しています。例えば、ペルー料理の最先端は日本料理に影響を受けたフュージョン料理で世界的にも高い評価を受けています。ぜひ、日本のランナーの皆さんにもMDSペルーを通じてペルーの自然と文化をたっぷりと体験していただきたいと思います」とのメッセージを当サイトにいただきました。

来年2018年4月のサハラマラソン(モロッコ)、今年9月のハーフMDS、今年11月末のMDSペルーは現在エントリーを受け付け中(追記・MDSペルーの受付は5月17日にスタートです)。当サイトでは随時情報をお伝えしていきます。

日本から参加の皆さんの様子

今回のサハラマラソンは日本から約50人が参加しています。86kmのステージ4までであわせて4人がリタイアしていますが、その後は全てのみなさんがメルズーガの町まで自らの足でたどり着きました。ステージ5を完走してパトリック・バウアーさんから完走メダルを受け取った皆さんの様子はほぼもれなく、当サイト・DogsorCaravan.comのFacebookページのアルバムに掲載(その1その2その3)していますので、ぜひご覧下さい。

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