スペイン・バスクの100マイル、エフンミラク・ウルトラトレイル Ehunmilak Ultra-Trail 2017 リザルト #Ehunmilak17

Ehunmilak-logo今までケガでリタイアはしたことのなかった山本健一が捻挫でリタイア、という結果に当地でも日本でも驚きが広がりました。先週末にスペイン・バスク自治州のベアサイン Beasainを拠点に開催されたエフンミラク・ウルトラトレイル / Ehunmilak Ultra-Trailで、100マイルのレースはUTMBで3位などの実績を持つハビエ・ドミンゲス Javier Dominguez Ledo(スペイン)が4回目の優勝で大会記録を更新する22時間22分で優勝。女子も昨年優勝のシルビア・トリゲロス Slivia Ainhoa Trigueros Garrote(スペイン)が28時間45分で3回目の優勝となりました。日本から出場した山本健一 Kenichi Yamamotoは中盤までトップ10圏内を走ったものの、序盤の捻挫が次第に痛み始め、最終盤の大きな山越えを前にレース続行を断念しました。


(写真・エフンミラク・ウルトラトレイル Ehunmilak Ultra-Trailの10km地点で大勢の観客に迎えられる山本健一。Photo by Koichi Iwasa / DogsorCaravan.com)

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現地の天候は曇りでしたが夜半過ぎには時折小雨が断続的に降るという天気。気温は日中は26-7℃、夜は麓では16-7℃。ただ湿度かかなり高く、特に日中は直射日光にさらされなくても蒸し暑さで汗がしたたるというコンディションでした。

168kmのレース、エフンミラク Ehunmilakのスタートを前に、バスクの民族舞踊が披露されました。

圧倒的な強さのハビエ・ドミンゲス、山本健一は捻挫で足を傷めて苦渋のリタイア

大会のメイン・イベントとなる168kmのレースは7日金曜日の午後6時(日本時間8日土曜日午前1時)にベアサイン / Beasainをスタート。序盤はベアサインの北側の標高600-800mの山間部の細かなアップダウンが連続するコースを走ります。レースはハビエ・ドミンゲス Javier Dominguez Ledo(スペイン)と昨年のこの大会3位の29歳でベアサイン在住のジョン・アイスプル Jon Aizpuruがリードします。二人は深夜の53km地点・アスペイティア Azpeitiaで5分差でドミンゲスがリード、77km地点のトロサ Tolosaでは逆にアイスプルが7分のリードと、一進一退。夜明け間近の96km地点・アメスケタ Amezketaではわずか数10秒差でした。しかし夜が明けてチンドキ山 / Txindoki(1,346m、105km地点)への山岳コースに入るとドミンゲスが本領を発揮。どんどん二人の差は開き、コース最終盤に待ち受けるアイスコリ山 / Aizkorri(1,528m、143km地点)への登山口となるサンアドリアン San Adrian(139km地点)ではドミンゲスが37分の大差でリード。168km地点のフィニッシュへは22時間22分3秒で到着して優勝。2011年、14年、16年に続く4回目の優勝。コースレコード(2013年のイマノル・アレゾン Imanol Aleson Orbegozoによる22時間59分19秒)を更新しました。今週末のヨーロッパではスカイランニング欧州選手権となるHigh Trail Vanoiseがフランスで開催されましたが、ドミンゲスは迷わず地元バスクのエフンミラクを選んだとのこと。地元が世界に誇るトップ選手として見事な成績を残しました。

フィニッシュまで10km、独走態勢のハビエ・ドミンゲス Javier Dominguez Ledo。

3位にはフェリペ・アルティグ Felipe Artigue Rodriguezで2位からは39分差。中盤以降はトップの二人のあとを追い続けた安定した走りを見せたアルティグもこの大会に何度も出ているベテランで2015年には6位になっています。4位から7位の4人はフィニッシュこそ少し差が開いたものの中盤以降、示し合わせたように前後2分ほどの差でコースを進みました。いずれもバスクあるいは近隣に在住でこの大会でもトップ10に入る経験を持つ選手です。

男子トップ3。左から2位のジョン・アイスピル Jon Aizpuru Larrañag、優勝のハビエ・ドミンゲス Javi Dominguez Ledo、3位のフェリペ・アルティグ Felipe Artigue Rodriguez。

山本健一 Kenichi Yamamotoはこの大会に向けて万全の準備をしてスタートラインへ。初めて走るバスクのレースを存分に楽しみたい、といつも通りの爽やかな笑顔です。スタートから10kmのマンドゥビア Mandubiaを13位で通過した後、小さな起伏の連続が続いた後のゴルラ Gorlako gaina(29km)では8位になります。この後も上記の4-7位の4人の集団に続く形で走り、コース後半の大きな山の一つであるチンドキ山を控えたトロサ Tolosa(77k)では4人の集団と20分差。エイドでは「蒸し暑い」と漏らしながらも元気な様子で、夜が明けて得意の山岳パートとなればヤマケンの鮮やかなレースが期待できそう。

スタートラインに向かう山本健一。

しかし、ここに来るまでの30km地点あたりで左足のつま先を引っ掛ける形で足首を強く伸ばす捻挫というトラブルがありました。その後もしばらくは痛みも違和感もなく走れてはいたものの、コースを進むにつれて次第に違和感が大きくなり、ついには古傷を持つ右膝にも違和感が。左足首はみるみる腫れていき、シューズの上からテーピングでぐるぐる巻きという痛々しい姿となります。7kmで標高差1000mを一気に登るチンドキ山は朝の濃い霧の中、そこから降りた後は小さな起伏があるものの走りやすい林道のトレイルが14kmと続きますが、この辺りではすでに走ることは難しくなっていました。10位で通過したエツェガラテ Etzegarate(130km)からも、あとは歩いてでも完走を、と強い意志で進みます。

トロサ Tolosa 77kに8位で到着した山本健一。

コース最終盤のアイスコリ山 / Aizkorri(143km)への入り口となるサンアドリアン San Adrian(139km)にたどり着いたのは午後の遅い時間。山本は前へ進もうとしますが、エイドの救護スタッフに左足首の腫れを見せると少し様子をみるべき、とのアドバイスを受けます。エイドで少し休んでも痛みが引かない様子から、この状態でアイスコリに登ることは勧められない、という救護スタッフ。アイスコリの山頂は強風で気温も下がっていて時折小雨が降っていて足元も滑りやすいというコンディション。

救護車両に乗せられて移動する山本健一。

これまで足を傷めたことでレース中に棄権したことはない山本はアイスコリを目の前に悩みます。しかし、バスクに来てからアイスコリの下見をしている山本には今の足でそこを進むことは危険が伴うこともわかっています。スタートから23時間後の午後5時ごろ、ここでレースからはリタイアすることとなりました。

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女子のレースもこの大会で3回目の優勝となるシルビア・トリゲロスが制する

女子のレースはエバ・マヘール Ewa Majer(ポーランド)がレースをリード、男女総合で20位圏内という快走をみせます。ポーランド国内のウルトラマラソンでは出場するたびに表彰台に登り、国際的な大会では先月のLavaredo Ultra Trailで5位になったことで注目されています。しかし、Lavaredoからわずか2週間後のレースに疲労が残ったのか、胃腸の不具合でトップに立ったままトロサ Tolosa(77km)でリタイア。ここからはマヘールに続いていたシルビア・トリゲロス Silvia Ainhoa Trigueros Garroteがリードを守り28時間45分でフィニッシュしました。この大会では2013年、15年に88kmのg2hで優勝、2014年、16年に168kmのEhunmilakで優勝しているトリゲロスが今回も第一位の座を獲得。最近では2016年のHong Kong 100で3位、Transgrancanariaで4位、Tor des Geantsで5位、今年のHong Kong 100で7位といった結果を持つガッツ溢れる女性ランナーです。女子2位のエレナ・カルビロ Elena Calvillo Arteagaは昨年のg2h 88kで2位でトリゲロスからは50分差。そこから3時間弱でフィニッシュしたヨン・ウリキス Jone Urkizu Mendiolaは2015年のg2h 88kで4位、昨年のPenyagolosa CSP 115kで3位となっているバスク在住のランナーです。

女子トップ3。左から2位のエレナ・カルヴィオ Elena Calvillo Arteag、優勝のシルビア・トリゲロス Silvia Ainhoa Trigueros Garrote、3位のヨン・ウルキス Jone Urkizu Mendiola。

進取の気性と頑張る人を熱狂的に応援するバスクのカルチャーが作る100マイル・トレイルレース

イベリア半島の国、スペインはトレイルランニング、スカイランニングの世界有数の先進国。そのスペインにおいて、今回のエフンミラク Ehunmilak(バスク語で「100マイル」の意味)が開催されたバスクは、独自の文化と経済的な先進地としてヨーロッパでは大きな存在感を持っている地域です。今回で8回目となるエフンミラクは世界中から有力選手が集まるわけでなく、もっぱら地元であるバスクとその近隣からランナーが集まる大会です。しかし、その大会を今回初めて取材してみて充実した運営と熱狂的な応援に圧倒されました。スタート地点となるベアサインの街はもちろん、深夜のエイドステーションにもボランティアや応援の人たちが大勢集まります。聞けば、ほとんどの人たちはトレイルランニングというスポーツに詳しいわけではないそうですが、地元で開催されるスポーツイベントとなればこうしてみんなで繰り出して応援するのがバスク人のカルチャーだとのこと。トップの選手から最後のフィニッシャーまで同じコースを走った人たちを等しく応援するのがトレイルランニングのカルチャーですが、大会の規模が大きくなるにつれなかなかそのようにはいかないのも事実でしょう。大会を走る人全員を応援して、ベアサインの街で迎える。エフンミラクにはそうしたカルチャーを大切にしようという姿勢に満ちているように感じました。

深夜のエイドステーションにて。

家族に迎えられてフィニッシュ。

今回、日本から唯一の参加選手として走った山本健一は大会前の地元紙の特集記事で紹介され、大会会場に入るなり握手や写真を求められる人気ぶり。山本が今回も会話集で覚えてきたバスク語で応えると地元の人たちも大喜び。今回、脚に施したテーピングは色を工夫してバスクのフラッグカラー(緑・赤・白)という演出でしたが、これに気づいた地元に人たちもいた様子で話題となっていました。山本にとっては予想だにしなかった捻挫によるリタイアという結果は苦い経験だったかもしれません。しかし、バスクの人たちにとっては遠く日本からやって来て自慢の山を楽しそうに走った山本のことが記憶に残ったことでしょう。左足の捻挫は、救護の際の所見では腫れてはいるものの骨折などはなかった様子です。ヤマケンの次の挑戦とそのストーリーを楽しみにしたいと思います。

大会翌日に一日を振り返る山本健一。

リザルト

全体のリザルトはこちら

大会表彰式。

大勢の人が表彰式に集まりました。

男子 Men

  1. ハビエ・ドミンゲス Javi Dominguez Ledo 22:22:03
  2. ジョン・アイスピル Jon Aizpuru Larrañaga 23:14:38
  3. フェリペ・アルティグ Felipe Artigue Rodriguez 23:53:45
  4. Rui Pacheco 24:19:06
  5. Erlantz Zaldunbide Legarra 24:26:23
  6. Jonathan Jimenez Amilburu 24:49:47
  7. Unai Dorronsoro Garmendia 24:49:48
  8. Rui Sequeira 26:42:24
  9. Aitor Adrian Goikoetxea 26:47:56
  10. Josu Andueza Zabaleta 27:24:39
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女子 Women

  1. シルビア・トリゲロス Silvia Ainhoa Trigueros Garrote 28:45:17
  2. エレナ・カルヴィオ Elena Calvillo Arteaga 29:55:08
  3. ヨン・ウルキス Jone Urkizu Mendiola 32:43:46
  4. Esther Hernández Pereira 35:13:45
  5. Eva Lizarralde De La Fuente 36:06:56
  6. Amaia Ochoa De Alda Zudaire 37:33:10
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