受賞者発表・2018年日本トレイルランナー・オブ・ザ・イヤー Trail Runner of the Year in Japan, 2018

当サイト・が主催し、日本を拠点に広義のトレイルランニングやスカイランニングで活動するアスリートについて、その年にもっとも賞賛に値するパフォーマンスを示した人を選ぶ日本トレイルランナー・オブ・ザ・イヤー in Japan(TROYJ)の結果を発表します。2013年に始めたこの企画は今回で6回目の開催です。


一般投票に先立って、今年のノミネート対象者として発表した男性31人、女性18人のアスリートの皆さんの紹介は以下の記事をご覧ください。

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ノミネート発表、投票は12月30日まで・2018年日本トレイルランナー・オブ・ザ・イヤー (Trail Runner of the Year in Japan, 2018)

2018.12.24

選考のプロセスについて

稲葉実さん

日本トレイルランナー・オブ・ザ・イヤーはトレイルランニングのオンラインメディア・DogsoCaravanが独自に行う企画です。もっとも際立った成果を挙げたアスリートに与えられる本賞はDogsorCaravanのご意見番だった稲葉実さん(2014年9月逝去)への感謝をこめて、稲葉実記念賞(通称・稲葉賞)とし、男女各1名を選出。このほか男女各2名に特別賞を授与します。

選考のプロセスは次の通りで、一般投票と当サイトによる投票の結果を加重平均した結果に基づいて本賞受賞者を決定しました。特別賞については単に得票率の次点、次次点とするのではなく、当サイトが得票率を尊重しながら独自に選考しています。

  1. ノミネートの発表:当サイトにおいて、男女の候補者をノミネートして発表(12月24日発表)。
  2. 投票の受付(12月30日午後6時まで):受賞者は一般投票と当サイトによる投票を合算した結果から決定します。一般投票と当サイトによる投票の比重は1:1とします。
  3. 一般投票:ノミネート発表記事のオンライン投票欄において、当サイトをご覧の皆様からの投票を受付けました(お一人につき、期間中一票)。
  4. 当サイトによる投票:当サイトが百分率でそれぞれの候補者に投票します。投票は本記事公開前に行い、その内容は受賞者発表まで公開されず、投票内容も変更されません。
  5. 受賞者の発表(この記事):各候補者が一般投票で得た得票率と当サイトによる投票で得た得票率を1:1で加重平均。その結果、男女で最も得票率の高かった候補者を稲葉賞(本賞)受賞者とし、それに続いた候補者から特別賞を選考。

選考の基準について

TROYJの稲葉賞(本賞)は「広義のトレイルランニングやスカイランニングで活動するアスリートについて、その年にもっとも賞賛に値するパフォーマンスを示した人」を選びます。何をもって「もっとも賞賛に値するパフォーマンス」と評価するか、は意見が分かれるところです。ただ、この企画ではそのように意見が分かれることで議論が深まること、その結果として年によって評価の基準が変わっていくことは望ましいことと考えています。今回の当サイトの稲葉賞、特別賞、ノミネートの選考は次のような基準に基づいて進めました。

  1. コースの距離や累積獲得高度に対してフィニッシュしたタイムのレベルが高いこと。ITRAの成績指数を算出する際の各レースでのリザルトに対するスコアが高いこと、に相当します。
  2. レース展開や結果が劇的であること。レース後半の大逆転、終盤の激しい競り合い、厳しいコンディションの中でのレースで上位に入る、大会記録を更新する、など。上記のタイムについての基準を満たした上でこの条件を満たす場合に評価。
  3. 一年を通じて高いパフォーマンスを示したこと。上記の二つの基準で一年を振り返った時、個別のレースなどでは抜きん出ていなくても、高いレベルの結果を何度か残した場合にこれを評価。

今後について

6回目を迎える当サイトの「日本トレイルランナー・オブ・ザ・イヤー」(TROYJ)ですが次のような課題があると考えています。これらを踏まえ、次回はこの企画のあり方を見直すことを予定しています。

  1. 読者の皆さんによる一般投票の仕組み。この企画に関心を持って参加していただくために一般投票を行ってきましたが、現在の投票の仕組みでは同じ人が複数回投票することを完全には防ぐことができません。
  2. 自然な環境の中を走るスポーツ全体を「トレイルランニング」と呼び、一つの賞の対象とすることの是非。TROYJではトレイルランニングという言葉をITRAによる「山、砂漠、森、平原などの自然な環境の中を走る」という定義で用いています。しかし、このように広義に「トレイルランニング」という言葉を使うことを避けるべき、との意見を聞くことがあります。
  3. 「日本トレイルランナー・オブ・ザ・イヤー」という名称の是非。日本のトレイルランニングを代表する競技団体ではない、一つの小さなメディアにすぎないDogsorCaravanが用いるのは適切でない、との意見を聞いています。

2018年日本トレイルランナー・オブ・ザ・イヤー(Trail Runner of the Year in Japan, 2018)受賞者

稲葉実記念賞(Minoru Inaba Memorial Award)《本賞》

女性の部:髙村貴子

一般投票と当サイトによる投票(結果はこの記事の末尾をご覧ください)の結果、今年の稲葉実記念賞は髙村貴子 Takako Takamuraさんと決まりました。今シーズンの髙村さんは10月にハセツネCUPで三連覇を達成、国内ではスカイランナー・ジャパンシリーズで上田、びわ湖、志賀高原を制して年間チャンピオンに。海外でも9月のスカイランニング・Ring Of Steall Skyrace 26kで10位となってその存在感を示しました。さらにシーズン終盤の11月にはFunTrails 50kで女子優勝、総合6位となっています。髙村さんはTROYJでは2016年、2017年に特別賞を獲得しており、今回は満を時しての本賞受賞となりました。

高村貴子 Takako Takamura。Photo by Koichi Iwasa

国内外ともに40代のベテラン勢がリードしてきた女子のトレイルランニングの世界で、久々に登場した20代のエースとして注目されてきた髙村さんですが、ここ数年で日本を代表するこのスポーツのクィーンとしての地位を固めています。そして髙村さんの活躍に続くように20代でこのスポーツで活躍しようとする女子選手が着実に増えつつあります。

髙村貴子さんは石川県白山市出身の25歳。中学、高校では陸上部に入っていましたが特に目立った活躍はありませんでしたが、旭川医大に進学すると子どもの頃から楽しんでいたスキーを再開。シーズンオフのトレーニングのために山を走るようになってから、日本を代表するトレイルランニングのアスリートになるまではあっという間のことでした。

男性の部:三浦裕一 Yuichi Miura

今年のTROYJにノミネートされた選手をみると、前年に続く常連に、関東以外での活躍が注目される選手、異なる分野からトレイルに挑戦した選手と顔触れは一新されました。昨年の稲葉賞を受賞した上田瑠偉 Ruy Uedaさんは今年も高いレベルの実績を残していますが、夏以降はケガのためにレースで実力を発揮する機会に恵まれませんでした。こうした中、当サイトによる投票で最も高い評価を受けた三浦裕一 Yuichi Miuraさんが2018年の稲葉実記念賞に決まりました。三浦さんは昨年、TROYJの特別賞を受賞したのに続き、今回は本賞の稲葉賞を手にしました。

三浦裕一 Yuichi Miura

2014年のシーズンに本格的にトレイルランニングのレースに出るようになってから、三浦さんはすぐに各地のレースで上位に入るようになりますが、昨年2017年夏頃からは粘り強いレース展開をみせて有力選手が揃うレースで上位に食い込むことが増えます。今シーズンは初の100マイルへの挑戦となったUTMFでは29時間58分と苦戦したものの、秋にはスカイランニング世界選手権・Ben Navis Ultra 47kで10位、ハセツネCUPで初優勝、スカイランニングアジア選手権・MSIG Lantau 50で3位と好成績を連発。中でも、上位選手が軒並み苦戦したハセツネCUPで後半にリードを奪って独走して勝利を勝ち取ったのは印象的でした。この他にも関東を中心に各地の大会に毎週のように出場していてその多くで優勝しています。

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神奈川県横浜市に生まれ育った三浦さんは高校時代には陸上部でインターハイに出場し、箱根駅伝出場を目指して國學院大へ。しかし学生時代は故障やケガからに見舞われ、夢を果たすことはできませんでした。しかし社会人になってからも走ることを愛し、その過程でトレイルランニングに出会うこととなりました。今シーズンからは地元の仲間たちで作る「三ツ池トレイルランニングクラブ」でもトレイルランニングを楽しんでいる31歳です。

特別賞(TROYJ Honorable Mention)、順不同

女性の部:吉住友里 Yuri Yoshizumi、立石ゆう子 Yuko Tateishi

吉住友里 Yuri Yoshizumi

吉住友里 Yuri Yoshizumiさんは2016年の稲葉賞(本賞)、2017年の特別賞に続いて2018年の特別賞に選びました。昨年まで、バーティカルキロメーターのレースを初めとして国内外のレースで次々に目覚ましい結果を積み上げていったのに比べると、今シーズンの吉住さんは練習中の手の骨折やレース直前に体調を崩したりといったトラブルが続きました。それでもウルトラトレイル・マウントフジ STYでの優勝、での連覇、来年のトレイル世界選手権の日本代表選考レースとなった熊野古道トレイルランニングレースで優勝、と節目ではその存在感を見事に示しました。

立石ゆう子 Yuko Tateishi

今シーズンにデビューして好成績を連発したのが立石ゆう子 Yuko Tateishiさんでした。4月には粟ケ岳VKで2位、5月のスカイランニング日本選手権・上田VKでは優勝。5月には63kmのスカイランニング日本選手権・ひろしま恐羅漢トレイルで優勝、さらに10月のハセツネCUPでは3位でした。デビューシーズンに果敢な挑戦で結果を残したことが、今回の特別賞受賞につながりました。

男性の部: Kota Araki、城武雅 Masashi Shirotake

荒木宏太 Kota Araki

IAU(国際ウルトラランナーズ協会)とITRAが開催するトレイル世界選手権はここ数年で参加国数が着実に増え、各国での選考を経た代表選手のみによるレースのレベルは年々高まっています。今年のトレイル世界選手権・Penyagolosa Trails HG 85kで12位に入ったのが荒木宏太 Kota Arakiさんでした。昨年も世界選手権にに日本代表として出場したものの力を出し切れなかった荒木さんは、中盤の苦しさを乗り切って終盤に順位を上げる力強いレースに今回は手応えを感じたでしょう。客観的にみても12位という結果は例えるならUTMB®︎で同じ順位となるのに匹敵するレベルです。こうしたことを考慮して、今年の男子の特別賞に荒木宏太 Kota Arakiさんを選びます。

城武雅 Masashi Shirotake

一方、男子で今シーズンに突如現れたのが城武雅 Masashi Shirotakeさんです。ハセツネCUPに今年初めて出場した城武さんはレース序盤をリードして中盤で失速という展開でしたが、後半に復活して2位となる破天荒なレースをみせてくれました。今シーズンはハセツネ30kで優勝、スカイライントレイル菅平2位、優勝といった成績も挙げています。城武さんについても、鮮烈なデビューシーズンの結果に注目して今回の特別賞に選びます。

受賞者のコメント

2018年稲葉実記念賞・髙村貴子 Takako Takamuraさん

高村貴子 Takako Takamura

今年の稲葉賞に選ばれて光栄です。でも、今シーズンは試行錯誤の一年でした。9月のスカイランニング世界選手権を目標に春から練習していましたが、体調を崩したりして思うような手応えがなく焦りました。そのまま出場した7月のドロミテ(Dolomyths Run Skyrace、30位)から帰国して、焦りすぎてオーバートレーニングになっていたのかも、とやっと気づきました。それからしばらくは意識してリラックスする時間を作りました。大学の勉強をするのもリラックスになりましたね。

そのおかげで9月の世界選手権(10位)では今の自分の力を出し切ることができました。レースの途中で私を含めて女子の10位、11位、12位の3人で並んで走ったのは強烈な経験でしたね。表彰台に立てる最後の一人がかかってますから、お互い必死です。追い抜こうとしてもなかなか抜かせてくれないし、こっちも簡単には譲れません。日本のレースでは経験できないことで、今も思い出すとゾクゾクしますね。

来年2019年の予定ですか?実は国家試験が2月に控えているので今は猛勉強中なんです。それまでは来年の予定は考えずに勉強に集中したいと思います。

2018年稲葉実記念賞・三浦裕一 Yuichi Miuraさん

三浦裕一 Yuichi Miura

山を初めて走ったのは学生時代の陣場山トレイルレース(2009年)だったと思います。その時は特に目標とかはなく、興味半分でただ楽しむために走っただけでした。いろんなレースに出るようになったのは2014年ごろからですが、トレイル、それも長い距離をどう走ればいいか、最近になってようやく分かってきました。そのおかげて今回の稲葉賞をいただけたと思います。

以前はずっとロードのマラソンをやっていて、勢いで最後まで押し切るような走り方をしていました。だから自分はハセツネのような長距離のレースには向いていない、と思っていたんです。ただ経験を積むうちにやっと走り方のコツが見えてきました。大瀬(和文)さんにアドバイスしてもらったり、(山田)琢也さんにストックの特訓をしてもらったりしたのがよかったんですね。

来年2019年は今年うまくいかなかったUTMFにまた挑戦します。そのあとは6月のトレイル世界選手権(ポルトガル)、8月のTDS®︎に出場できればと思っていて、100kmを超えるトレイルのレースでも自分の力を試したいですね。地元の横浜では仲間と作った「三ツ池トレイルランニングクラブ」の活動も頑張ります。

今年の審査を振り返って

その年に最も賞賛に値するパフォーマンスをみせたアスリートを選び出す。それも距離やコースの性質も異なる様々な(広義の)トレイルランニングのイベントでの結果を敢えて並べて比べてみる。今回は当サイトによるノミネートの際により客観的で幅広い視野で考える一助としてITRAの成績指数(performance index)の元になっているデータを参考にしました。その結果、新たに注目すべき選手に気づく反面、選手を比較することの難しさにも悩むこととなりました。

女子については、稲葉賞(本賞)に髙村さん、特別賞に吉住さん、立石さんを選びました。これまでの受賞経験者をみると、それぞれに注目すべき成果をそれぞれ挙げています。丹羽薫 Kaori NiwaさんはUTMFで2位のほか、Gaoligong、Lavaredo、Hardrock、UTMB®︎、Formosa Trailと文字通り世界各地で100kmを超えるレースに挑戦。星野由香理 Yukari HoshinoさんはSkyrunner World Seriesに参戦しました。斎藤綾乃 Ayano Saitoさんはトレイル世界選手権に日本代表として出場。大石由美子 Yumiko Oishiさんは道志村、美ヶ原80k、北丹沢、上州武尊山スカイビュートレイル120、神流ロング40k、Izu Trail Journeyと国内で優勝を重ねています。さらに浅原かおり Kaori AsaharaさんのUTMF3位、FunTrails 100k優勝、宮崎喜美乃 さんのハセツネCUP2位、政雅恵 Masae Masaさんの上州武尊山スカイビュートレイル120での2位も今年の様々なリザルトの中で光る結果でした。

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男子についても、上記で言及していないアスリートで特に注目すべきパフォーマンスを紹介しましょう。UTMFで6位タイでフィニッシュした大瀬和文 Kazufumi Oseさんと土井陵 Takashi Doiさん。大瀬さんはその翌月のUltra-Trail Australiaで6位、土井さんは秋のTrans Jeju 111Kで2位となっています。川崎雄哉 Yuya KawasakiさんはUTMB®︎並の選手層の厚さのトレイル世界選手権で27位と善戦。菊嶋啓 Kei Kikushimaさんの白馬国際50k優勝もここに並べることができます。バーティカルの帝王・宮原徹 Toru Miyaharaさんが久々に走った道志村ハーフで優勝した際のタイムも注目すべきレベルに達します。ロードのマラソンで活躍している青木純 Jun Aokiさん、 クロスカントリースキーのオリンピック日本代表選手の吉田圭伸 Keishin Yoshidaさんもノミネートのリストに加えさせていただきました。

当サイトでは来年2019年もできる限り幅広く、広義のトレイルランニングでの有力選手の活躍をお伝えしていくつもりです。読者の皆様からの情報の提供や、ご教示を歓迎いたしますので、どうぞよろしくお願いいたします。

投票の集計結果

女子 Female

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男子 Male

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