地域から行動を起こす!レポート・パタゴニアのイベント「地方自治という解決策。暑くなりすぎた地球。日本の気候政策と生活のゆくえ。」

気候変動という地球規模の危機。その解決策として、地域から行動を起こす重要性が注目されています。パタゴニアが開催したイベント『地方自治という解決策。暑くなりすぎた地球。日本の気候政策と生活のゆくえ。』はこのテーマを深く掘り下げました。

このイベントは2024年10月23日の東京・ゲートシティ大崎から11月10日の大阪・梅田まで、パタゴニアの全国12ヵ所の直営店で開催されました。このうち、11月7日に東京・二子玉川で行われたイベントに当サイト・岩佐が参加させていただきました。その模様をレポートします。

Sponsored link


日本では昨年に続いて今年も厳しい暑さが長期間続きましたが、世界全体でみても2024年夏の世界平均気温は観測史上最高となりました。今回のパタゴニアのイベントは、熱波や干ばつ、海面上昇など、世界中で人命に関わる深刻な影響をもたらしている気候変動について、地方自治という切り口から考えるというもの。気候変動対策に取り組む団体を招いて、日本の自治体で取り組まれている新しい動きや、対策を実行するための市民参加の方法について知るとともに、参加者同士で意見を交わす機会となりました。

気温上昇を1.5℃以内に抑えるにはCO2排出を世界全体で半分にする必要がある

この日の一人目のゲストとして登壇したのは、自治体の気候対策をすすめたいと行動する市民がお互いに助け合うコミュニティである「ゼロエミッションを実現する会」の鈴木かずえさんです。

鈴木かずえさん(ゼロエミッションを実現する会事務局)

鈴木かずえさん(ゼロエミッションを実現する会事務局)

鈴木さんは、2020年までに実施されている政策だけでは産業革命以前からの世界全体の平均気温の上昇が2030年までに3.2℃に達し、これを1.5℃の上昇に止めるには2030年までに世界全体でCO2排出量を48%削減する必要がある、という見通しを示します。この地球温暖化の深刻さについて、アントニオ・グテーレス国連事務総長の「我々は気候地獄に向かう高速道路でアクセルを踏み続けている」という言葉を引用し、もはや気候変動は「グローバル・ボイリング=地球沸騰化」と呼ぶべき、人類が直面する最も深刻な危機だと警鐘を鳴らします。

日本においても今年度中に環境省による地球温暖化対策計画や経済産業省によるエネルギー基本計画の改訂が予定されており、まもなくパブリックコメントの募集が始まる見通しです。そこで鈴木さんが提案するのが、地域の住民として自治体の環境に関する基本計画や総合計画に対して声を届けることです。「自治体の側では市民からの意見は本当に反映させようと思って読んでくれる」(鈴木さん)のだといいます。例えば横浜市でパブリックコメントが募集された際は、鈴木さんたちの呼びかけにより当初の10倍近くの800通のコメントが寄せられ、多数のコメントが政策に反映されたとのこと。また神奈川県で学校の屋上断熱を始めたのも、鈴木さんの仲間が行政に情報を提供したことがきっかけでした。

地方自治が生活に与える影響は大きく、地域住民の声を反映させることができる

続いて登壇したゲストは、政策決定の場に若年層の意見を届け、若者や将来世代が生きやすい社会を作ろうと活動している「日本若者協議会」の代表理事、室橋祐貴さんです。「日本若者協議会」では経済産業省の分科会のヒアリングに参加したり、政権与党に働きかけて公約に1.5℃という目標を加えたりといった成果を挙げています。

室橋祐貴さん(日本若者協議会代表理事)

室橋祐貴さん(日本若者協議会代表理事)

そして室橋さんは「地方自治の方が日常生活に直接影響を与えるので重要」だといい、若者の声を政策決定の場に届けるには地方自治が大きな意味を持つと話します。地方自治体は国の政策に対して独自の目標を設定することができ、実際に2030年までの温室効果ガス削減目標においても、国が2013年度比46%削減としているのに対して、長野県や神戸市が60%削減を掲げるなど、国よりも高い目標を設定している自治体が各地にあるといいます。「皆さんもぜひ自分が住んでいる自治体で地球温暖化対策としてどのような削減目標を設定しているか調べてみてください」(室橋さん)と提案します。

室橋さんからは若者の意見を反映させるために奮闘してきたこれまでの経験から、地方自治体の総合計画や予算が策定されるプロセス、行政や首長、地方議会の議員に意見を伝えるための具体的なやり方が紹介されました。とりわけ、選挙での立候補や投票や政策を提言するアドボカシーといった活動が重要だといいます。こうした活動の土台として、社会課題について話し合う主権者教育や現行の制度や予算の仕組みについて理解を進めることも欠かせません。「政策を提言するにあたっていろんな人の意見を反映するためにアンケートや署名活動をするとか、提言した後も議員さんに継続的にコンタクトしてフォローアップすることも大事」と室橋さんは実践的なアドバイスも披露してくれました。

ワークショップを体験・耳を傾けて声に出すことで社会は変わる

二人のゲストのお話に続いて、およそ40名のこの日の参加者が5、6人のグループに分かれてグループセッションが行われ、筆者も参加しました。グループセッションのテーマは「生活の中で目にした、気候変動対策として行われている取り組みや活動を教えてください」と、「脱炭素を進めるために、地域で取り組めるアクションは何でしょうか」の二つ。

今回参加された方は、パタゴニアのスタッフやいつもショップで買い物をされている方たちに加え、二子玉川でお仕事をされている方や地方議員として自治体の環境政策にも携わっている方まで様々です。テーマについての意見はいずれも鋭く、経験談は具体的で聞き入りました。その中でも私の印象に残ったのは、自治体が補助金を出すことで太陽光発電の導入を支援しているものの、地域によって導入率に差が大きいという体験談でした。有力な政策があったとしても情報を共有する地域のコミュニティがあるかどうかで効果は違ってくる、というのは小規模ながらメディアを運営する筆者にとっては示唆に富むお話しでした。

短時間ではありましたが、各自が自らの体験を持ち寄るワークショップでは濃密な議論が行われました。ゲストのお話を聞くだけでなく、様々なバックグラウンドを持つ人たちと話し合うことで一歩進んでアクションを起こすきっかけとなることを実感しました。

気候変動は人類が直面する最大の危機、上からのアクションに加えてボトムアップでもアクションを起こせる

人類の排出するCO2のために地球の温暖化が急速に進み、私たちは命に関わる重大な危機に瀕している。そのことは多くの人が知るところですが、2030年までに排出するCO2を半分にするという大きな目標には、社会のあり方や制度を大きく変える必要があります。

そのために自分が生活する地域の中で地方自治という枠組みからアクションを起こすことができる。国際会議や中央の省庁の審議会では利害の対立で合意形成が難航する場合でも、地域の問題意識を共有しやすい地方自治体では迅速にアクションを起こせるかもしれない。今回のイベントがテーマとした地方自治は私たちの社会が抱える困難を乗り越えるための、一つの大きな可能性を示してくれました。

地方自治を動かすには、地域のコミュニティの中で活発な議論と共感が必要です。今日ではインターネットのソーシャルメディアが社会のコミュニケーションで大きな役割を占め、議論が一方向に押し流されることが少なくありません。様々な背景を持ったコミュニティのメンバーが互いの顔を見ながら直接対話する機会を持ちやすい地方自治は私たちの社会でますます大事になる。今回の取材を通じてそう感じました。

(取材協力・パタゴニア)

この記事が気に入ったらDogsorCaravanをBuy Me a Coffeeで直接サポートできます!

Buy Me a Coffee

Sponsored link