アメリカ・テネシー州のフローズンヘッド州立公園で現地時間3月18日午前11時37分(日本時間19日午前0時37分)、世界で最も過酷なウルトラマラソンの一つとして知られる「バークレーマラソンズ Barkley Marathons」がスタートしました。
After multiple failed attempts, the conch was blown at 10:37. The 2025 Barkley Marathons begins in one hour. #BM100. pic.twitter.com/oFAdsCgSir
— Keith (@keithdunn) March 18, 2025
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特異なルールとベールに包まれたレース展開
このイベントは毎年3月から4月にかけて開催されるが、正確な日程やスタート時間は秘密とされています。今年は昨年に続いて主催者のゲイリー・「ラズ」・キャントレル(通称ラズ)が後継者として指名したカール・ラニアックが、伝統の「ホラ貝」を吹いてスタート1時間前を告げました。ラズがタバコに火をつけたのを合図にランナーは走り始めました。
バークレーマラソンは5つの20マイル(実際は約26マイル)のループから成り、総距離は約130マイル(約209km)、総標高差は60,000フィート(約18,288m)に達します。各ループは12時間以内に完走し、全5周を60時間以内に完了することが「フィニッシャー」となる条件です。
今年のスタートは、2015年の11時23分という記録を破り、大会史上最も遅い時間のスタートとなりました。現地の日没が19時49分であることから、ほとんどのランナーは最初のループを暗闇の中で終えることになります。
一般的な100マイルのトレイルランニングレースとは異なり、次のような特異なルールが設けられており、前年になかった新ルールが加えられることもしばしばです。
- GPSデバイスの使用は禁止、マップとコンパスのみで進む
- コース上に隠された本から、自分のレースナンバーに対応するページを引き裂いて集める必要がある
- エイドステーションはなく、水場は2カ所のみ
- コースの約80%はトレイルから外れており、鋭いイバラの茂みを通り抜ける
コースも一般には明らかにされず、毎年変更されています。昨年2024年大会では史上最多となる5人が完走し、ジャスミン・パリスが女性初の完走者となったことが世界的な話題を呼びました。今年はその反動からか、主催者側はさらに難易度を高めることを示唆しています。
参加選手
今年も例年同様に約40人が選手として参加している模様ですが、選手リストは明らかにされていません。様々な情報によれば、昨年までに3回完走を果たしているジョン・ケリーが今年も出場している模様です。ケリーは今回完走すれば、ジャレド・キャンベルに続き史上2人目となる4回目の完走達成者となります。またベルギーのバックヤードウルトラのスター選手であるラファエル・ダコや、2023年大会で初出場にして完走を果たしたフランス人のオーレリアン・サンチェスも参加していると見られています。このほか、昨年のドラゴンズバック・レースのチャンピオン、マックス・キング(USA)、4度目の挑戦となる女性選手のマギー・グテール(USA)も参加しているようです。後述のキース・ダン氏のレポートによれば日本の井原知一の参戦も示唆されており、6回目の挑戦で初完走を目指します。
気象条件
今大会の天候は、スタート時点では比較的好条件だったようです。キース・ダンによると「昨夜は冷え込んだが、非常に晴れていた。現在は晴れており、気温は上昇中。今日は気温が高い60度台から低い70度台(華氏)になる見込み」とレポートしています。
しかし、二日目となる水曜日には強風が予想され、三日目の木曜日には気温が急激に下がり、山頂付近では風速65mph(約29m/s)の強風とマイナス10度近い体感温度になる可能性もあるといいます。レース後半のランナーたちにとって大きな試練となりそうです。
完走への高いハードルと秘密主義
バークレーマラソンの完走者は1986年の初開催以来、これまでに20人を数えるのみです。今年のコース設定については、5人もの完走者が出たことから、創設者ラズとその後継者カール・ラニアクはより難易度を上げている可能性があります。ラズは69歳で、徐々にラニアクに運営の主導権を移していることも伺えます。
バークレー・マラソンはその特異なルールや過酷さゆえに世界中のウルトラランナーから注目されていますが、そのレースの展開を知る手段は限られます。公式情報源として唯一認められているのはキース・ダン氏のSNS投稿のみとなっています。今日のスポーツイベントとしてはリアルタイムで詳細な状況を把握することが難しいのは珍しいことですが、この神秘性もまた大会の魅力となっています。
60時間の制限時間を迎えるのは現地時間3月21日(金)の午後11時37分(日本時間22日午後0時37分)となります。
スタートから約10時間後、すでに4人がリタイアするなど厳しい展開に
キース・ダン氏のX投稿から、スタートから10時間が経過した今年のバークレーマラソンの状況を知ることができます。
コースコンディションについて、あるランナーは「皆さんが言うように悪いと思っても、実際はもっと悪い」と話したといいます。キース・ダンはこの状況について「昔ながらのバークレー」と表現しています。
すでに4人のランナーがリタイアしており、さらに増える見込みです。最初にリタイアしたランナーは6時間で約5マイル進んだところでリタイア。2人目のリタイア者は7時間で約7マイル進んだところでレースを断念。リタイアしたランナーたちはスタート地点のキャンプに戻ってきていますが、あらゆる方向から帰還しており、中には自分がどこにいたのか説明できない選手もいるとのこと。
選手の通過状況については選手名も含めて明確にされていませんが、「日本のラズ」が1周目のチェックポイントを通過したとコメントされており、これが井原知一さんだと思われます。
スタートから9時間44分で最初の二人のランナーが1周目を完走しています。
今年のバークレイマラソンの情報はキース・ダン氏のX投稿のほか、イギリスのRUN247、アメリカのRun by Outsideが発信しています。