Insta360 GO Ultra はトレイルランナーの「撮りたい」を叶える、超小型カメラの新たな選択肢【ファーストインプレッション】

トレイルランナーなら誰もが、記憶に刻みたい非日常的な瞬間に出会ったことがあるはずです。富士山の雲海を抜けた先で見たご来光、初めて走るシングルトラックのトレイルを駆け抜けるワクワクする感覚、100マイルレースのゴールが近い最終盤で分ち合った仲間の笑顔、他にもいろんな記憶に残る経験があることでしょう。

でもそれをカメラで記録するのは難しいものです。ユーチューバーのようにアクションカメラを片手に持ちながら走るのは大変だし、撮りたい瞬間に出会うたびに立ち止まってスマートフォンを取り出すのも煩わしいものです。どうしてもランニングのリズムや、そして何より「今、この瞬間」に集中している感覚が損なわれてしまいます。

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Insta360から発売されたアクションカメラの最新モデル「Insta360 GO Ultra」は、トレイルランナーが抱えるそんなジレンマに応える新たな選択肢となりそうです。Insta360のGoシリーズは最近では液晶ディスプレイのついたアクションポッドから、ワイヤレスで接続される小さなカメラ本体を取り出せるというユニークな構造になりました。その携帯性から「世界最小のアクションカメラ」として独自の地位を築いてきたGOシリーズの最新作「GO Ultra」は、単なる小型カメラの枠を大きく超え、画質や機能性においてフラッグシップモデルに迫る本格的な撮影ツールへと、大きな変貌を遂げました。

DogsorCaravanではInsta360からレビューのためにこの新製品をお借りすることができました。このレビュー記事では、GO Ultraがトレイルランナーにとってどのような可能性を秘めているのか、にフォーカスします。従って、細かなスペックの羅列よりも「トレイルでどう使えるか」という実践的な視点に絞ったファーストインプレッションがその内容となります。実際のトレイルでの使用感、撮影してからそれを誰かに見てもらうまでの使い勝手については、後日公開する実践編でレビューする予定です。

「世界最小」を捨て、画質を選んだ戦略的進化

アクションカメラ市場は長らくGoProが牽引してきましたが、この分野のリーダーとしての存在感を奪うまでに革新を重ねて頭角を現しているのがInsta360です。後発メーカーでありながら、360度カメラで市場に衝撃を与え、AIを活用したソフトウェア編集機能、そしてモジュール構造や超小型カメラといった独創的なハードウェアを次々と発表してきました。今や単なる模倣ではない、ユーザーの創造性を刺激するユニークな製品開発で、DJIと共にトップブランドの一角を担う存在となりつつあります。今回のGO Ultraは、そんなInsta360が既存のカテゴリーにとらわれず、常に新たな価値を追求するブランド哲学を色濃く反映したモデルとなります。

マグネットペンダントは裏側を回転させることで、カメラの角度を調整できる。右側のように薄手のシャツ越しにマグネットで固定することもできる。

マグネットペンダントは裏側を回転させることで、カメラの角度を調整できる。右側のように薄手のシャツ越しにマグネットで固定することもできる。

Insta360 GO Ultraの最大のセールスポイントは、「比類なき携帯性」と「フラッグシップ級の性能」という、これまで両立が困難だった二つの要素を極めて高いレベルで融合させた点にあります。アクションカメラ市場において、GoProやDJI、そしてInsta360自身のAce Pro 2といったモデルは、高い画質と堅牢性を誇る一方で、ランニング中に常に身につけるには大きく、重いと感じる場面がありました。これに対して、これまでのGOシリーズは圧倒的な小ささを武器にしていましたが、画質、特に光量の少ない場面での撮影品質にはある程度の妥協が必要でした。

GO Ultraは、単純にGO 3SとAce Pro 2の中間に位置する製品ではない。

GO Ultraはアクションカメラとして「世界最小」の称号は返上してサイズと重量を若干増加させることと引き換えに、画質の核となるイメージセンサーを大幅に大型化しています。これにより、本格的なアクションカメラに匹敵する映像クオリティを、手軽にマグネットでマウントできる軽さとサイズ感で実現した新しいコンセプトのカメラとなりました。これは、携帯性を最優先しつつも、作品と呼べるレベルの映像を求めるクリエイティブなランナーにとって、まさに「待望していた一台」と言えるでしょう。

Insta360 GO Ultraのパッケージ。

Insta360 GO Ultraのパッケージ。

以下に、トレイルランニングファンの視点から特に重要となるGO Ultraの主要スペックをまとめました。

  • 最大動画解像度: 4K/60fps
  • センサーサイズ: 1/1.28インチ
  • 手ブレ補正: FlowState手ブレ補正 + 360度水平維持
  • 重量(カメラ単体): 53g
  • バッテリー駆動時間:
    • カメラ単体: 最大70分 (4K/30fps)
    • アクションポッド使用時: 最大200分 (4K/30fps)
  • ストレージ: 着脱式microSDカード (最大2TB)
  • 防水性能:
    • カメラ単体: IPX8 (水深10m)
    • アクションポッド: IPX4 (防滴)
  • その他の特徴: クイック撮影、AI自動編集機能、マグネット式マウントシステム
  • 価格:公式ストアで標準キット(マグネット式簡易クリップ、磁気ペンダントなどが付属)が64,800円

バックパックのポケットに忍ばせる本格派、携帯性と画質の両立という革命

アクションカメラにおいては機材の重量とサイズは常に重要なテーマです。特にトレイルランニングに持ち出して使おうとするならなおさらで、レース参加中に使うなら数グラムの差でも大きな差となるでしょう。そこまでタイムにこだわらなくても、嵩張って操作に一手間かかるようではトレイルランニングの途中で撮影するのが億劫になってしまいます。その点、GO Ultraのカメラ本体(ディスプレイのついたポッドを除く)の重量はわずか53g。前モデルのInsta360 GO 3S(39g)からは少し重くなりましたが、これは画質を飛躍的に向上させるための大型センサーや、ユーザーが待ち望んでいたmicroSDカードスロットを搭載したことによる、いわば「意味のある重量増」に他なりません。薄暗い夜明けや夕暮れの森の中でもノイズの少ないクリアな映像を記録できるようになったこと、一昼夜走り続けるようなレースや週末の間のトレイルランニングの旅でも交換するmicroSDカードさえ持っていれば、ストレージ容量不足の心配からは解放されたことを考えれば、この重量増は十分に価値のあるトレードオフと言えるでしょう。

より本格的なアクションカメラの代表格であるInsta360 Ace Pro 2やGoProといったモデルが150g前後であることを考えれば、その差は歴然です。トレイルラン用のバックパックのポケットに入れておいても、揺れや重さを意識することなく走り続けることができます。それだけでなく、キャップのつばに標準付属のクリップで装着したり、ヘッドバンドに固定したり、あるいはマグネットの接着ベースがついたペンダントで胸元に取り付けることでハンズフリーで撮影することができるのです。この圧倒的な手軽さこそ、GO Ultraがトレイルランナーにとって最大の魅力で、走りながら自分の見たままの風景を、リアルな一人称視点(POV)で記録できるのです。先を行く仲間の背中を追いかける臨場感、テクニカルな下りでの足さばき、そしてフィニッシュゲートに飛び込む瞬間の感動。GO Ultraならば全てをランニングの体験を妨げることなく映像として残すことができます。

揺れる視界も滑らかに、トレイルでの撮影体験を劇的に変える手ブレ補正

トレイルランニングの映像で、その質を最も左右するのが手ブレ補正機能です。岩や木の根が連続する不整地を走る際の激しい上下動や左右のブレは、並のカメラでは視聴に堪えないガクガクの映像になってしまいます。

GO Ultraに搭載されているInsta360が誇る独自のアルゴリズム「FlowState手ブレ補正」は、この問題をほぼ完璧に解決してくれます。まるで高性能なジンバル(電子式スタビライザー)を使っているかのように、物理的な揺れを吸収し、驚くほど滑らかな映像を生み出します。特に、下りのテクニカルなセクションでは、まるで空中を浮遊しているかのような安定した視点を提供してくれます。さらに、カメラがどんなに傾いても映像の水平を維持する「360度水平維持」機能により、カメラの持ち方が多少雑でもきれいに水平が維持された映像を撮り続けることができるのです。

また、電源オフの状態から本体のボタンを一度押すだけで録画を開始できるクイック撮影機能も、一瞬のシャッターチャンスを逃さないために有効です。例えばライチョウやカモシカのような野生動物との遭遇や、雲間から光芒が差し込む神々しい瞬間など、「撮りたい」と思ったその時にカメラ本体のボタンを押すだけで撮影が始まります。バックパックを下ろしたり、スマートフォンのロックを解除したりする手間なしで即座に撮影に入れる手軽さは、一度体験すると手放せなくなるでしょう。ランナーがトレイルに意識を集中していたり、カメラを取り出すことが煩わしいほど疲れている時であっても、撮影を始めることができるのはGO Ultraの大きなメリットです。

撮影後の「面倒」を解消する、スマートな編集ワークフロー

どれだけ手軽に素晴らしい映像が撮れたとしても、その後の編集作業が複雑で時間がかかるものであっては、宝の持ち腐れになってしまいます。GO Ultraは、撮影後のワークフローにおいても、忙しいトレイルランナーの良きパートナーとなってくれます。

まず、撮影した素材の取り扱いが非常に柔軟かつスピーディーです。着脱可能なmicroSDカードに対応したことで、100マイルレースのような長時間の挑戦を記録したい場合でも、カードを交換すれば容量を気にせず撮影を続けられます。そして撮影後、素材をスマートフォンやPCに取り込む方法も多彩です。5.1GHz帯の高速Wi-Fi経経由でスマートフォンアプリにワイヤレス転送できるほか、USBケーブルやmicroSDカードリーダーを使えばさらに高速なデータ転送が可能です。これにより、大会会場や移動の合間でもすぐに素材を確認し、編集作業に取り掛かることができます。

カメラ本体にmicroSDカードを取り付けることができる。

カメラ本体にmicroSDカードを取り付けることができる。

実際に3分54秒、ファイルサイズ1.7GB の4K動画をiPhone 16 Proに転送したところ、転送にかかった時間はWiFiによる無線接続で2分7秒、USB-C<USB 3.2 Gen2の最大10Gbpsに対応>による有線接続で44秒でした。

実際に3分54秒、ファイルサイズ1.7GB
の4K動画をiPhone 16 Proに転送したところ、転送にかかった時間はWiFiによる無線接続で2分7秒、USB-C<USB 3.2 Gen2の最大10Gbpsに対応>による有線接続で44秒でした。

さらに便利なのが、Insta360のスマートフォンアプリの賢さです。撮影したデータをスマートフォンに全てダウンロードしなくても、カメラとアプリを接続したまま、カメラ内の素材を直接編集に使うことができます。これにより、スマートフォンのストレージを圧迫することなく、撮ったばかりの映像からハイライトシーンだけを切り出して、素早くSNSにアップロードする、といった使い方が可能になります。

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もちろん、じっくり編集したい時もアプリは強力にサポートしてくれます。特に秀逸なのが、AIによる『自動編集』機能。撮影された無数のクリップの中から、AIがハイライトシーンを自動で検出し、BGMに合わせてリズミカルなショートムービーを提案してくれます。レース後に何百もの短いクリップを見返し、「どこにあの最高の瞬間が映っているんだ?」と探す途方もない作業は、もう過去のものです。走り終えた後の疲れた体で、難しい編集ソフトと格闘する必要もない。いくつかのクリップを選んでテーマを選択するだけで、SNSや仲間との共有に十分なクオリティの動画が、ほんの数タップで完成するのは、実際に試してみると驚きです。レース直後の興奮をそのままSNSで共有するショートクリップから、遠征全体の記録をまとめた本格的な映像作品まで。GO Ultraの柔軟なワークフローは、ランナーが思い描くあらゆる表現を、ストレスなく形にすることを可能にしてくれます。

Insta360アプリではAI編集であっという間にソーシャルメディアなどにアップロードできる動画を描き出せる。

Insta360アプリではAI編集であっという間にソーシャルメディアなどにアップロードできる動画を描き出せる。

【追記:この記事の初出時に、Insta360 GO Ultraだけでなく、Insta360 X5で撮った素材も含めていた動画を公開していました。改めてInsta360 GO Ultraで撮った素材のみで編集した動画を以下に掲載します。Insta360 X5については、こちらの記事をご覧ください。】

絶妙なバランスか、中途半端か。GO Ultraの立ち位置

GO Ultraのユニークな立ち位置を理解するには、Insta360の他の2つの主要なカメラ、GO 3SAce Pro 2との関係性から見るのが最も分かりやすいでしょう。GO Ultraは、軽量小型でマウントの自由度が高いという新しい可能性を開拓したGO 3Sと、高画質で堅牢なアクションカメラの王道を行くAce Pro 2、両方の特性を兼ね備えた「いいとこ取り」のカメラと言えます。しかしそれは同時に、見方によっては「どっちつかず」のカメラであることも意味します。

左からGO 3S、GO Ultra、Ace Pro 2。(画像はInsta360のウェブサイトから)

左からGO 3S、GO Ultra、Ace Pro 2。(画像はInsta360のウェブサイトから)

実は筆者も、GO 3Sの前モデルであるInsta360 Go 3をしばらく使っていた経験があります。トレイルを走りながらPOV撮影ができるコンセプトは画期的で、そのコンパクトさには満足していました。しかし、撮影できる映像は最大でも2.7Kで、現在の主流である4Kには対応しておらず、せっかくの絶景も最高の画質で残せない点、そして音声が本体内蔵マイクしか使えず、POV撮影以外での使い道が限られる点から、最終的に手放してしまいました。

その後発売されたInsta360 Ace Pro 2を使うようになり、その画質や悪天候でも全く不安のない耐候性には絶大な信頼を置いています。しかし、その一方で「今の瞬間、Goシリーズのコンパクトさがあれば撮れたのに」と感じる場面も少なくありません。トレイルランニング中の何気ない会話や、イベント取材中の予想外の人物との出会い、早朝や夕暮れの一瞬の美しい光芒などは、Ace Pro 2を取り出すのをためらっているうちに見逃してしまう光景があることも事実です。

GO Ultraは、まさに筆者がGo 3に感じていた不満点を解消し、Ace Pro 2では拾いきれなかった瞬間を捉えるための、理想的な一台に見えます。大型センサーと「PureVideoモード」は、Goシリーズの弱点だった低照度性能を克服しました。さらに、アクションポッドのUSB端子経由での外部マイク接続や、最近のファームウェアアップデートでInsta360 Mic Airとのダイレクトなワイヤレス接続にも対応したことで、音声クオリティも飛躍的に向上しています。これならカメラに向かって話す一人喋りやインタビューのようなコンテンツも自信を持って撮れます。

では、GO Ultraが万能かというと、そうではありません。高画質と拡張性を手に入れた代償として、Ace Pro 2の領域には踏み込めない部分も存在します。最も大きな違いは、やはり防水性能です。カメラ本体は高い防水仕様であるものの、カメラ本体のみのバッテリー駆動時間は70分なので、長時間の撮影には防滴仕様にとどまるアクションポッドに入れて充電する操作が必要になります。そうなると、雨天での長時間の撮影や海沿いや沢沿いのルートなど、カメラ全体が濡れる可能性のあるシチュエーションでは、完全防水のAce Pro 2のような安心感はありません。また、バッテリー管理もAce Pro 2が一つの大容量バッテリーで完結するのに対し、GO Ultraはカメラ本体とポッド両方の残量を気にする必要があり、やや煩雑に感じるかもしれません。

カメラ本体部分とポッド部分のそれぞれをチャージしている。

カメラ本体部分とポッド部分のそれぞれをチャージしている。

結論としては、GO Ultraは『誰のためのカメラか』が極めて明確な製品だと感じます。1秒を削り出すエリートアスリートならGO 3Sを、完璧な映像作品を追求するクリエイターならAce Pro 2を選ぶべきだろう。しかし、そのどちらでもない、我々大多数の『自分の冒険を、できるだけ身軽に、しかし美しく記録したい』と願うトレイルランナーにとって、GO Ultraは後悔を感動に変えるための『現時点での最適解』だと言って間違いないでしょう。

このファーストインプレッションに続く実践編として、このGO UltraとInsta360から発売されている各種のアクセサリーを使って、トレイルランニングのシーンを撮影し、実際に編集したり公開したりする経験を具体的に紹介する予定です。

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