先日ファーストインプレッションをお送りした、超小型ながらハイエンドのアクションカメラに匹敵する画質を誇る「Insta360 GO Ultra」に続いて、異なるアプローチでトレイルランナーの映像体験を革新する360°カメラ「Insta360 X5」もお借りすることができました。大胆なアクションや疾走感があるスキーやスケートボード、モータースポーツのシーンで、360度動画で8K/30fpsの解像度が実現する臨場感あふれる映像が撮れることで話題のこのカメラを、トレイルランニングで使ったらどうだろうと考えたのです。
2025年4月に発売された「Insta360 X5」は前後二つのレンズで周囲360度の風景を丸ごと記録してしまう、360°カメラと呼ばれるカテゴリーのアクションカメラです。前モデルのX4からセンサーサイズを大幅に大型化し、新たなプロセッシングシステムを搭載することで、あらゆる光の条件下での画質を劇的に向上させています。Insta360 X5の主なスペックは以下の通りです。
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Insta360 X5で撮影。カメラを中心に360度の風景を収めた「スモールプラネット」。今回の写真の多くは2025年9月にスペインのカンフランク・ピリネオスで開催されたWMTRC世界選手権で撮影している。
- 360度動画解像度: 8K/30fps, 5.7K/60fps
- シングルレンズモード: 4K/60fps
- 写真解像度: 7200万画素
- 防水性能: 本体のみで水深15m
- ディスプレイ: 2.5インチ 強化ガラス タッチスクリーン
- バッテリー: 2290mAh
- 手ブレ補正: FlowState 手ブレ補正 + 360度水平維持
- 特徴: 交換可能なレンズガード、AI自動編集機能
- 価格: 84,800円(通常版、公式ストアの通常販売価格)
360°カメラは撮影の常識を覆す魔法の箱
Insta360 X5の真価に触れる前に、少しだけ「360°カメラ」そのものについて紹介しましょう。360°カメラは、その名の通り全方位を一度に撮影できるユニークなカメラです。これにより、従来のカメラのように「構図(フレーミング)を決める」必要がなく、撮影者はただ録画ボタンを押すだけでその場の空間全てを記録できます。

360度カメラはカメラの周囲を球のように全て撮影できる
撮影後には、まるでその場にもう一人のカメラマンがいたかのように、自由に視点を動かして好きなアングルの映像を切り出すことができます。これを「リフレーム」と呼びます。この「撮る」という行為からの解放は、常に動き続けるトレイルランニングのようなアクティビティと相性が良く、あらゆる瞬間を撮り逃すことなく記録し、後から最も感動した瞬間を主人公にできる、全く新しい映像体験を可能にします。
「撮る」から解放され、走る喜びに、ただ集中する
普通のカメラが四角い構図の中に何を収めるかを考えて録画ボタンを押すのに対して、Insta360 X5ではカメラを取り出したら撮りたい位置にカメラを差し出して録画ボタンを押すことになります。「とりあえず録画ボタンを押しておけば、後からどうにでもなる」という、撮影の常識を覆す体験はちょっと不思議な体験です。

人が多い中、自撮り棒につけたInsta360 X5を差し出して撮影してみた。
360度すべてを8Kという、プロの映像制作者も驚くほどの高画質で記録するため、撮影時にアングルや構図を気にする必要なくなります。前後のレンズが撮影する映像のつなぎ目もカメラが上手に処理してくれます。このカメラを持った私たちはただ、目の前のトレイルと、仲間とのランニングに100%集中すればいいのです。
そして、帰りの移動の途中や家に帰ってから、まるでタイムマシンに乗るかのようにその日撮影した360度の映像をスマートフォンやPCの上で追体験できるのです。その中から好きな視点、好きな瞬間を縦長にでも横長にでも、自由に切り出す。これは「リフレーム」と呼ばれる360°カメラならではの機能ですが、Insta360 X5の8K高画質がもたらす恩恵は絶大です。映像のどこを切り取っても、まるでその瞬間を狙って撮影したかのようなシャープで美しい平面の動画や写真として書き出すことができます。例えば、前方の雄大な山の眺めを撮影していると思っていた動画から、すぐ後ろを走っていた友人の満面の笑みを高画質な写真として切り出す、といったことがいとも簡単にできてしまうのです。

リフレームの例。同じ写真(正確には動画から切り出した写真)の画角を変えて書き出した。左から右へ、順に画角が狭くなっている。
もちろん、トレイルランニングの激しい上下動も全く問題ありません。Insta360が培ってきた世界最高峰の手ブレ補正技術「FlowState」はジンバルで撮影したかのように、滑らかな映像を実現します。まるで自分が森の中を滑空しているかのような、ダイナミックで没入感あふれるランニングシーンを、特別な機材やテクニックなしに、誰でも簡単に撮影できるのです。
X5と自撮り棒で手軽に撮りためていくだけで、家族や仲間との何気ない時間が一本の作品になる
Insta360 X5の真価が発揮されるのは、専用の「見えない自撮り棒」を使って身体から離れたところからの視点で映像を撮影するときです。その名の通り、撮影された画像では自撮り棒がなかったかのようにうまく処理されています。その結果、まるで専属のカメラマンや高性能なドローンが常にあなたの周りを飛びながら撮影してくれているかのような、三人称視点の映像が撮影できます。
この客観的な三人称視点で、走っている自分自身と、すぐ隣を一緒に走る仲間や家族、その周りを囲む山の風景や、エキゾチックな街並みといった背景が完璧な構図で一つの映像に収まるのです。これはこれまでのどんなカメラでも撮ることができなかった、全く新しい映像表現であり、実際に自分で試してみると新鮮な驚きがあり、一緒に映った仲間からも驚かれます。

世界選手権では日本代表チームを率いる福田六花さんに同行。慌ただしい1日の始まる前に朝の市内をランニング。筆者(右)の右手に持った自撮り棒の先につけたX5で撮影した。

こちらは別の日の朝。これも筆者(左)の右手に持った自撮り棒の先につけたX5で撮影している。
さらに、特筆すべきはその背後にあるソフトウェアの圧倒的な優秀さです。これは先にファーストインプレッションをお送りしたInsta360 GO Ultraでも紹介しましたが、スマートフォンのInsta360アプリが素晴らしい仕事をするのです。
長時間のランで心地よく疲れた体で、複雑な編集ソフトに向き合う気力は残っていないかもしれません。しかしInsta360アプリなら、そんな心配は無用です。AI編集機能がランの速度が上がったシーンや仲間との会話シーンなど、映像の「見どころ」を自動で検出してくれるので、あとは好きな音楽を選びます。

スマホのInsta360アプリのAIによる自動編集を使っているところ。360度動画の場合、サムネイルを見るだけでは映っているもの全ては確認できない。しかしその辺も含めて、AIがうまくやってくれる。もちろん、キーフレームを決めて始点から終点まででアングルを動かす、といった編集もできる。
すると、SNSでシェアしたくなるようなクールなショートムービーが、山からの帰り道や旅先のベッドの上で完成しているのです。もちろん、自分でこだわりのシーンを選んでムービーにすることもできます。インスタグラムやTikTokのための縦長動画でも、YouTubeのための横長動画でも作ることができます。トレイルを走って楽しかった時間があっという間に最高の作品に生まれ変わるのです。
ヘッドライトが頼りの夜明け前のスタートでも、一日の終わりに夕日が山々を赤く染めるマジックアワーの時間帯でも、X5なら撮影して思い出を残すことができます。「PureVideo」と名付けられた革新的な低照度モードが、これまでノイズに埋れがちだった光の少ない場面でも、AIの力でノイズを劇的に低減してくれます。驚くほどクリアで、その場の荘厳な雰囲気を余すことなく伝える映像として記録してくれるのです。
ハードなアウトドア使用も想定した製品作り、アクセサリーも豊富
いかにトレイルランニングの魅力を撮影できるカメラだとしても、アウトドアに持ち出せば岩の上に落としたり何かにぶつけたりすることは避けられません。高価で修理も難しいとなれば、積極的に外に持ち出すことも、撮影することも少なくなるかもしれません。
特に360°カメラでは、どうしても背中合わせに配置された二つのレンズは本体から飛び出す形になるのでレンズを汚したり、さらには破損してしまう可能性が高くなります。これについてInsta360 X5は別売りのレンズキットを販売することで、万一破損した場合にはユーザー自身の手で驚くほど簡単にレンズを交換できる、というソリューションを提供しているのです。これについてはプロの映像クリエイターからも革命的なアイディアとして賞賛されています。
これは単に「修理がしやすくなった」というレベルの話ではありません。万が一、岩場で滑ってレンズに深い傷がついてしまっても、もうその日の撮影を諦めたり、高額な修理費用に頭を悩ませたりする必要はないのです。
バックパックの隅に予備のレンズキットを一つ忍ばせておけば、その場で交換して撮影を再開することもできる、というわけです。このことは「高価なカメラを壊したくない」という心理的なブレーキを完全に取り外し、「もっと自由に、もっと大胆に撮ろう」というポジティブな気持ちを後押ししてくれます。木の枝が迫るテクニカルなシングルトラックも、岩がごろごろしたガレ場の下りも、もうためらう必要はありません。

メーカー純正のX5専用のレンズ交換セットが販売されている。このほかにもレンズの上に被せる半球型のレンズガードも販売されている。画像はInsta360の公式ストアから。
レンズだけでなく、ボディ全体もアウトドアでの使用に耐える堅牢性が確保されています。防水性能は本体のみ剥き出しの状態で水深15mへと強化され、傷つきにくい強化ガラスで作られた大型タッチスクリーンを搭載しています。突然の豪雨に見舞われても、汗だくの手で操作しても、あるいは沢を渡る際に水しぶきを浴びても、全く問題ありません。あらゆる天候や環境が待ち受けるトレイルというフィールドにおいて、この「何があっても大丈夫」という信頼感は創作意欲を与えてくれるのです。
このほかにもX5のために作られたさまざまなアクセサリーをInsta360やサードパーティのメーカーが展開していて、このカメラの実用性を高めてくれます。Insta360の純正アクセサリーだけを見ても様々な「見えない自撮り棒」のほか、バックパックに固定するクリップ、録画の開始・停止ができるミニリモコン、強い日差しの下でも滑らかな映像をとるためのNDフィルターといったアイテムが展開されていて、本格的な映像作りにも対応できるシステムとなっています。

Insta360 X5の「エッセンシャルキット」として販売されているパッケージには、レンズキャップやレンズガード、予備バッテリーや充電ケース、自撮り棒に収納ケースが付属している。いずれも別売りされているが、個別に揃えるよりお得だ。画像はInsta360の公式ストアから。

メーカー純正のX5に対応したアクセサリーも多数販売されている。自転車やバイク、自動車に自撮り棒につけたX5を固定するためのマウントも各種展開されている。画像はInsta360の公式ストアから。
これはカメラを超えた“体験”を記録するツールだ
Insta360 X5は、単にスペックが向上した新しいカメラではありません。トレイルランニングの愛好家にとっては、自然や街の中を走るという「体験」そのものを、五感で感じた感動ごと余すことなく記録し、仲間との「思い出」を、かつてないほど豊かで鮮やかな形で未来に残してくれる、唯一無二のコミュニケーションツールです。
転倒を恐れない絶対的な『安心感』。走る喜びに没頭できる『自由』。そして仲間や家族との時間を最高の作品に変える『魔法』。この三つが揃ったInsta360 X5は、私たちのトレイルランニングを、もっと楽しく、もっと創造的なものへと進化させてくれる可能性を秘めています。
とはいえ、公平なレビューとしてはInsta360 X5についていくつかのデメリットも考慮に入れる必要があります。一つはあくまで超広角カメラであること。8Kの360度映像を撮影できますが、そこから中望遠の画角を切り出そうとすると、画質はどうしても粗くなります。しかし、トレイルランニングの広大な風景を記録するには十分な画質であり、特定の被写体をクローズアップしたい場合は、別のカメラとの併用も検討できるでしょう。
また、撮影後に自由に構図を変更できるのは大きな利点ですが、自分の意図した構図に調整するためには、ある程度の編集作業が必要になります。撮って出しでそのままSNSに公開したり、すぐに友人に共有したりする場合には、こうした手間がかからないスマートフォンやアクションカメラの方が便利でしょう。
この記事では、Insta360 X5がトレイルランナーにとってどんな可能性を秘めているか、その魅力の一端をファーストインプレッションとしてご紹介しました。これに続く実践編として、実際にトレイルランニングや街を歩いた経験をこのX5で撮影し、編集して公開する経験を紹介したいと思います。
















