2025年12月14日、日本のトレイルランニングシーンを締めくくる一大イベント「IZU TRAIL Journey (ITJ)」が開催されます。
伊豆半島の西岸、松崎新港をスタートし、修善寺温泉を目指すこのワンウェイコースは、総距離69.1km、累積標高差+3,242mというプロファイルを持ちながら、日本の主要な山岳レースの中でも屈指の「走れる」高速コースとして知られています。
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今年の大会当日はあいにくの雨予報が出ており、例年以上にタフで厳しいコンディションの中での開催となることが予想されます。冬の伊豆特有の冷たい西風に加え、雨による体感温度の低下や路面の泥濘化など、選手たちには走力だけでなく、過酷な環境への対応力も試される「旅」となるでしょう。
また、今年のもう一つの大きなトピックは、フィニッシュ会場がITJ史上初めて修善寺温泉の中心部「虎渓橋(こけいばし)」へ移設されることです。修禅寺山門の目の前という絶好のロケーションは、長い旅の締めくくりにふさわしい情緒あふれる舞台となります。フィニッシュエリア周辺には修善寺温泉の象徴である「独鈷の湯」があり、ゴール後そのまま温泉街の風情を満喫できるほか、今年からはおもてなしとして蕎麦が振る舞われるなど、レース後の体験もより豊かに進化しています。
競技面では、前半の林道区間でスピードに乗れるか、そして後半、伊豆山稜線歩道に入ってからのテクニカルなトレイルと、駿河湾から吹き付ける冷たい西風(季節風)、そして雨にいかに対処できるかが、勝負の鍵を握ります。
2025年は、春の「Mt. FUJI 100」で世界トップランナーと日本勢が激突し、6月には日本初のUTMBワールドシリーズ「Kaga Spa Trail Endurance 100 by UTMB」が開催されるなど、日本のトレイルランニング界にとって激動と進化の年となりました。さらに9月、スペインで開催された世界選手権(WMTRC)では日本代表選手たちが世界の壁に挑み、その実力を証明しました。
これらのビッグレースを経て迎えるITJ2025は、単なるシーズンの締めくくりではありません。世界基準で戦うトップアスリートたちが国内で再び相まみえる「真の王者決定戦」であり、次世代の台頭を占う重要な試金石となります。
本記事では、ITJ 2025の70kカテゴリーおよび、独自の競技性が注目されるAround Alone 28kカテゴリーの有力選手を紹介します。
ITJ70k 男子プレビュー:スピードスターとウルトラの実力者たちによる三つ巴の戦い
男子は昨年の優勝者でありスピードでは絶対王者である小笠原光研、アジアを席巻する圧倒的な走力を持つジョン・レイ・オニファ、そして百戦錬磨のベテラン勢が激突する、極めてレベルの高い構成となっています。トップ選手によるレースは展開の予想が難しい激しいものとなるでしょう。

小笠原 光研 (Koken OGASAWARA)
ディフェンディングチャンピオンとして臨む小笠原 光研 (Koken OGASAWARA)は、北海道を拠点とし、元サッカー選手としてのフィジカルと瞬発力を武器に、近年の日本のトレイルランニングシーンをリードしています。最近、関東に拠点を移しました。
ただ今シーズンの小笠原は決して順風満帆ではありませんでした。4月のASUMI 40kでは準優勝しましたが、6月のKaga SpaでのDNFや、9月の世界選手権(ショートトレイル)での苦戦など、思うような結果が出せない時期もありました。しかし、11月のIsland Trail Awaji 43kでの優勝や12月のChiang Mai by UTMB 50kでの6位は、彼がコンディションと自信を取り戻したことをうかがわせるパフォーマンスでした。今回のITJ70kは日本の夏を思わせるチェンマイを走った翌週となり、リカバリーや調整は気になるところです。しかし、昨年の優勝タイム6時間00分56秒を上回るタイムでの連覇が期待されています。
ITJでは昨年の優勝のほか、2022年に2位, 2021年に5位でした。

ジョン・レイ・オニファ (John Ray Onifa)
今年のITJ70kの台風の目となりそうなのはジョン・レイ・オニファ (John Ray Onifa)です。「Stingray(スティングレイ)」のニックネームで親しまれ、母国フィリピンでは農業・漁業を通じて強靭な足腰を培ったといいます。今シーズンは6月のKaga Spa Eundurance 100 by UTMB の50Kカテゴリーで、強烈な蒸し暑さとハードな急登のコースを走り抜いて優勝して、日本のトレイルランニングコミュニティに強烈な印象を残しました。その後も、Vietnam Ultra Marathon 75kmで優勝、TransLantau by UTMB 80km で優勝をはじめ、アジア各地でその強さを見せつけました。
スティングレイのスタイルは、スタートから全開で飛ばすアグレッシブなもの。ITJのコース前半の走れるセクションでもそのスタイルでレースをリードするかもしれません。唯一の懸念があるとすれば、寒さに対する慣れが十分かどうか。南国育ちの彼にとって、伊豆の稜線特有の冷たい強風は最大の敵となる可能性があります。
今年のMt. FUJI 100 100マイルで3位の川崎雄哉 (Yuya KAWASAKI)はITJ70kでは毎回レース展開のキーパーソンとして見逃せない存在です。2017年の準優勝に始まり、2020年に優勝、2021年に3位、昨年は5位になっています。
長年日本のトレイルランニング界を牽引し続けるレジェンドはハセツネCUPで2度優勝しており、70km前後のレースは得意とするところ。前半から飛ばす若手選手たちを先行させたのちに、後半の粘り強い逆転劇という展開も考えられます。
ITJ70kで2019年と2023年の二度優勝、2020年と昨年2024年の二度準優勝している西村広和 (Hirokazu NISHIMURA)はこのコースを知り尽くした「ミスター・ITJ」とも呼ぶべき存在です。2022年のUTMF王者でもあり、さまざまな経験を積んできたベテランとして今回も上位が期待されるのはもちろん、レースが荒れて消耗戦になった場合は最後に勝利をつかむ展開も予想されます。今シーズンは「Formosa Trail 75km」優勝や世界選手権出場などの活躍を見せています。
有力なチャレンジャー
さらに、優勝争いに絡むポテンシャルを持つアスリートが今回のITJ70k男子には揃います。

小田切 将真 (Shoma OTAGIRI)
- 小田切 将真 (Shoma OTAGIRI): 2024年スカイランニング世界選手権「SkyUltra」での銅メダル獲得をはじめ、急峻な山岳エリアでの走破力では世界トップクラスの実力を持ちます。今年は2025年6月の「奥信濃100 50k」では2位、3月の「ハセツネ30K」では10位と、ショート〜ミドルディスタンスで安定して上位に食い込んでいます。
- 田村 健人 (Kento TAMURA): 2023年のKAI 69kのチャンピオンであり、ミドルディスタンスの高速レースではその強みを発揮するでしょう。2025年は世界選手権ロングトレイル日本代表として世界の舞台を経験しています。ITJでは2022年に4位入賞を果たしており、今回はさらに上位を狙います。
- 笠木 肇 (Hajime KASAGI): 学生時代に陸上競技で活躍したスピードスター。2024年のITJでは4位となっています。今シーズンはWMTRC世界選手権に出場後、11月に行われた「FunTrails Round 秩父&奥武蔵 (FTR50)」で見事に優勝を果たし、勢いに乗っています。
- 菊嶋 啓 (Kei KIKUSHIMA): 長く日本のトレイルランニング界で活躍するベテランですが、この秋はハセツネCUPで2016年以来二度目の準優勝、FTR100 100kmで優勝と好調ぶりが注目を集めています。ITJでもその勢いを見ることができるか。2023年のITJで9位となった経験も持っています。
- 古賀 聖 (Sei KOGA): 今年は2025年のKAI 70kで3位、志賀高原エクストリームトレイル55kで優勝と、ミドルディスタンスで抜群の強さを発揮しています。ロード区間での爆発力でレースを牽引します。
- 大川 駿平 (Shumpei OKAWA): 今年の奥武蔵ロングトレイル105kで6位、上州武尊山スカイビュー138kで優勝しています。
- 新地 司 (Tsukasa SHINCHI): 2025年Mt.FUJI 100 ASUMI 40kで5位に入賞ののち、FunTrail Round 皆野30Kで優勝。
- 西方 勇人 (Hayato NISHIKATA): 2024年Mt. FUJI 100で4位、同年彩の国100マイル優勝、信越五岳100マイル6位と、100マイルでの強さで知られるウルトラランナー。過去のITJでは2020年に26位、2022年に17位でした。
さらに続く注目選手
トップ10入りを虎視眈々と狙う、個性豊かな実力者たちが今年のITJ70kのスタートラインに揃います。
- 茂木 敬史 (Takashi MOGI): 2025年鬼ヶ城50kで5位。ITJでは2024年に20位、2023年に21位。
- 野口 拓也 (Takuya NOGUCHI): 2025年Kaga Spa Trail Endurance 50で3位入賞。
- リッキー・ソン (Sung Ricky): 台湾から参戦。今年のKAI 70kで10位。
- 藤岡 学 (Manabu FUJIOKA): 2024年信越五岳100マイルで3位。ITJ70kでは二度のトップ10入り(2019年8位、2020年10位)。
- 白川 裕登 (Yuto SHIRAKAWA): 2024年信越五岳100マイルで5位、2025年に3位。
- 松山 優太 (Yuta MATSUYAMA): Asia Trail Masterシリーズで活躍し、2025年Mantra 116(インドネシア)優勝、Lampang 100(タイ)準優勝。
- 板垣 辰矢 (Tatsuya ITAGAKI): 100kmで日本代表の経験を持つウルトラランナー。2022年ITJ70kで3位、2024年に8位。
- 直江 城太朗 (Jotaro NAOE): U20世代でスカイランニングユース日本選手権で入賞経験を持つ。2025年4100D野沢温泉 37kで4位。
- 石井 克弥 (Katsuya ISHII): ITJ70kで2023年に4位、2024年に9位。
- 向井 孝次 (Koji MUKAI): 2024年ITJ 11位、2024年Fairy Trail 60k優勝。今年は比叡山50マイルで16位、志賀高原エクストリーム54kで6位。
- 加藤 聡 (Satoshi KATO): 2023年OSJ新城32kで優勝。
- 南 圭介 (Keisuke MINAMI): 2025年Mt.FUJI 100で13位、2024年Crossing Switzerland 396kmで5位と、超長距離での実績が豊富。
ITJ70k 女子プレビュー:女王・秋山穂乃果に勢いあるチャレンジャーが挑む
女子フィールドは、今シーズン圧倒的な強さを見せている秋山穂乃果に対し、ウルトラの女王・伊東ありか、そして急成長中の小谷奈穂らが挑む構図となります。
優勝候補

秋山 穂乃果 (Honoka AKIYAMA)
今年6月のKaga Spa by UTMB 100kで厳しいコンディションにも関わらず女子優勝、総合4位という圧巻のパフォーマンスを見せた秋山 穂乃果 (Honoka AKIYAMA)が今回のITJ70kを走ります。10月のWMTRC世界選手権でも12位と健闘しました。プロトレイルランナーとして一歩成長した走りを今回も見せるか、注目です。ITJでは2020年に優勝、2021年に2位、2022年に優勝、昨年は2位と安定した成績を残しています。
有力なチャレンジャー
今シーズンの伊東 ありか (Arika ITO)の活躍には勢いを感じます。春のMt. FUJI 100 100マイルでの3位入賞に続いて、阿蘇ボルケーノ112kで優勝。秋にはTransJeju by UTMB 149kで優勝、TransLantau by UTMB 120kmで準優勝とウルトラディスタンスのレースで好成績を連発しています。ITJ70kでは2021年に9位、2022年に6位となっていますが、今回は優勝争いに加わることが期待されます。ただ、TransLantauからは4週しか経っておらず、リカバリーが十分かは気になるところです。

伊東 ありか (Arika ITO)
小谷 奈穂 (Naho KOTANI)も今シーズンのトレイルランニング界で話題を集めた選手です。春のKAI 70Kで6位ののち信越五岳110Kでは昨年の5位から今年は優勝のタイトルを手にしました。続いて10月には志賀高原エクストリーム55kでも優勝。信越五岳の後のインタビューでは北海道でフルタイムの獣医師としての仕事の傍で、藻岩山で毎朝のトレーニングを積んでいると話しました。昨年のITJ70kでは6位でした。今回のITJで最も注目される選手の一人です。
ITJ70kで2023年、2024年の両年とも3位に入った冨井 菜月 (Natsuki TOMII)も今年のスタートラインに立ちます。フルマラソンのPRが2時間45分33秒という走力を持つスピードランナーであり、ITJのコースとの相性は良さそうです。前半のロード・林道区間でスピードを活かしてどれだけリードを広げられるか、そして後半の粘りが表彰台、あるいはさらに上を目指す鍵となります。
若林 綾 (Aya WAKABAYASHI)は2023年のKAI68Kでの2位、昨年のIsland Trail AWAJI 43kで4位という記録を残しており、今回はITJに初登場となります。
中野 沙知 (Sachi NAKANO)はITJでは今回が5回連続のエントリーで、2021年から順に19位、9位、8位、そして昨年は7位とコンスタントにトップ10に入る実力の持ち主。今年は志賀高原100で優勝、ハセツネCUPで6位、甲州アルプス・クレーシャ108で優勝しています。
Around Alone 28k プレビュー:「個」の強さが問われる28km
エイドステーションを利用しないというルールの下で仁科峠から修善寺を目指すのが「Around Alone 28k」です。28kmという距離ながら、無補給というルールが独自の戦略性を生み出します。選手は「重量と速度のトレードオフ」という究極の問いに挑みます。
男子では村田 諒 (Ryo MURATA)が優勝候補に挙げられます。2024年のMt. FUJI 100の100マイルで3位をはじめ、100マイルレースを得意としますが、今年は比叡山23kで優勝、Mt. FUJI 100「ASUMI 40k」で6位に入賞するなど、ショート〜ミドルレンジでのスピードにも強みを持ちます。ITJでは2020にITJ70kで20位でした。
韓国から参加するキム・ヨンジョ (Kim Youngjo KIM)は2023年のITJ70kで23位でした。今年10月のスカイランナーワールドシリーズのレース、2 Peaks Skyrace 26kmでは7位となっています。
さらに昨年のAA28kで3位の降矢 信彦(Nobuhiko FURUYA)や、大会オーガナイザーでありながら昨年のAA28kでは5位とアスリートとして活躍する松永 紘明(Hiroaki MATSUNAGA)など、経験豊富なベテラン勢が若手の壁として立ちはだかります。
女子では尾藤 朋美 (Tomomi BITO)がAA28kの有力選手に挙げられます。Marathon des Sablesでの2度のトップ3入りなど、サバイバル的要素を持ったウルトラマラソンに果敢に挑み、好成績を残してきた経験はAround Aloneのフォーマットでも強みを発揮するでしょう。今年10月には鬼ヶ城100の100kmで優勝しています。ITJでは2020年に14位でフィニッシュした経験を持ちます。
一方で、学生陸上で活躍する上村 琴 Koto UEMURAは今回がトレイルランニングレースには初登場と思われます。トレイルでどんな走りを見せるか注目です。
2025年の締めくくりに
ITJ 2025は、単なる順位争いを超えて、日本のトレイルランニングが世界基準へと進化していることを証明するレースになるでしょう。
ITJ70kは12月14日日曜日に松崎新港を午前6時に最初のウェーブがスタート。Around Alone 28kは仁科峠あまぎの森を午前11時に最初のウェーブがスタート。
選手の通過速報はTrail Searchで見ることができます。また、午前8時30分からは大会公式YouTubeチャンネルでライブ配信が予定されており、DogsorCaravanの岩佐も出演予定です。















