63歳のビッグチャレンジ、安藤正直が挑むイギリスの1000km「サウスウエストコーストパス South West Coast Path」への挑戦と進化し続けるランニング哲学【ポッドキャスト Run the World 159】

HOKAのフィールドエクスペリエンス・レプレゼンタティブとして、各地のイベントでもおなじみの安藤正直 Masanao Ando さんが、ランニングキャリア25年の節目に新たな挑戦に踏み出します。安藤さんが挑むのは、イギリス南西部に延びる約1,000kmのロングトレイル「サウスウエストコーストパス South West Coast Path」のFKTです。この壮大な冒険を来月に控えた安藤さんのインタビューをポッドキャスト「Run the World」のエピソードとして公開しました。

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「エベレスト4回登頂」に匹敵するサウスウエストコーストパス South West Coast Path

安藤さんが今回の挑戦の舞台に選んだのは、イギリスでも特に風光明媚な海岸線をたどる「サウスウエストコーストパス South West Coast Path」です。イングランド南西部のサマセット Somerset州 マインヘッド Minehead から、デヴォン Devon州、コーンウォール Cornwall州 を経て、ドーセット Dorset州 プールハーバー Poole Harbour に至るこのトレイルは、全長1,014km(約630マイル)にも及びます。

「海岸沿いというとフラットなイメージを持たれがちですが、実際はリアス式の複雑な地形をなぞるため、累積獲得標高は35,000mD+に達します。これはエベレスト Mt. Everest 4回分の登頂に相当するほどアップダウンが激しいコースです」と安藤さんはその厳しさを語ります。

一般的なハイカーであれば、数回に分けて合計2ヶ月(約52日間)をかけて踏破するこのロングトレイルですが、FKTの記録は10日12時間6分という驚異的なものです。安藤さんは6月9日にスタートし、有給休暇と土日を合わせて約1ヶ月での完走を目指します。

なぜ今、イギリスのロングトレイルなのか

FKTやスルーハイクの対象として、北米のアパラチアントレイル Appalachian Trail やパシフィッククレストトレイル Pacific Crest Trail がよく知られています。安藤氏がサウスウエストコーストパス South West Coast Path を選んだ理由の一つは、その距離でした。「有給休暇の範囲内で、ギリギリ頑張れば何とか踏破できる距離だと考えました」。

また、仕事柄アメリカのトレイル情報は豊富に持っていましたが、イギリスのトレイルについては未知の領域だったことも魅力だったと語ります。「イギリスのトレイルに関する知見がなかったので、この機会に挑戦してみようと思いました」。

さらに、コロナ禍を経てトレイルランニングに対する価値観が変化したことも、今回の挑戦を後押ししました。「以前は100マイルレースなどが自分にとって最も重要でしたが、コロナ禍で色々なことを考え、FKTという形で個人としてチャレンジしてみたいという気持ちが強くなりました」。

37歳でランニングに開眼、第二の人生を歩む

安藤さんのランニング歴は長く、2000年から本格的にトレイルランニングを始め、今年で25年になります。意外にもランニングを始めたのは37歳の時で、それまではオートバイに熱中していたといいます。

「若い頃はオートバイのレースをしていました。37歳の時、昔の仲間からレースに復帰しないかと誘われたのですが、当時の体重は82kg。革ツナギが全く合わない体になっていたんです。ツナギに体を合わせるためにランニングを始めたのがきっかけで、そのままランニングの世界にのめり込んでしまいました」。

運動が苦手で、最初は1km走るのも苦労したという安藤氏ですが、徐々にその魅力に開花します。特筆すべきは、246kmを走るスパルタスロン Spartathlon での14位入賞です。「それまでは完走目的でエイドを楽しむような走り方でしたが、スパルタスロンに挑戦するにあたり、それでは通用しないと気づかされました。そこからウルトラマラソンを競技として真剣に考えるようになりました」と、このレースが転機になったことを明かします。

また、2012年の50歳の時にはOSJおんたけウルトラトレイル100マイルで総合5位(18時間56分)という快挙も達成しています。この時の優勝したのは鏑木毅選手でともに表彰台に上がったことは良い思い出だと語ります。

レースから「旅ラン」へ、自身のルーツと重なる新たな挑戦

競技者として輝かしい実績を持つ安藤さんですが、今回の1,000km走破は、レースとは異なる新たな挑戦です。その原点には、数年前のチャリティランの経験がありました。

「コロナ禍の時期に、会社のボランティアウィークでチャリティランを行いました。東日本大震災から10年目だったこともあり、東京の日本橋から福島県の相馬市まで、数日かけて走ったのです。途中で宿泊しながら旅をするように走るスタイルが、自分にとって非常に新鮮で良い経験でした。地元の方との触れ合いなど、レースとは違う楽しみがありました」。

この「旅としてのランニング」というスタイルは、安藤氏がランニングを始める前に熱中していたオートバイでのツーリングと通じるものがあるといいます。「オートバイも最初はツーリングで各地を巡り、その後レースに打ち込み、そしてまたツーリングに戻るという流れでした。ランニングも同じように、レースに打ち込んだ後、また旅をするようなスタイルに戻ってきた。自分にとって自然な流れなのかもしれません」。

現在63歳を迎えた安藤氏は、年齢と共に変化する価値観を受け入れ、新たな楽しみ方を見出すことでランニングを長く続けていると語ります。「走るということの価値観は人それぞれです。幸いにも私の場合は、自分の価値観が時代に合わせて変化していったことで、ここまで長く続けることができています」。

準備と戦略:経験とウルトラライトの知恵を融合

1,000kmという長丁場に挑むにあたり、準備も入念に進めています。トレーニングについては、レースのようなピーキングは行わず、日々のランニングを継続し、月に1~2回山を走る程度だといいます。

宿泊については、前回の福島へのチャリティランの経験が生かされています。「あの時は事前に宿泊場所を決めてしまったため、それに縛られてしまい、きつい思いをしたり、逆にもっと進めたのにと思うこともありました。今回はスタート地点での宿泊以外は、現地で柔軟に対応するつもりです」。

装備は、ウルトラライトのスルーハイクの知見を参考に、ランニングとハイクの知識を融合させています。寝袋や基本的な食料は携行し、シェルターは長期間の使用を考慮して、ウルトラライトなものよりも堅牢なオーセンティックなモデルを選んだとのこと。

興味深いのは、ナビゲーションのスタイルです。「FKTではありますが、GPSトラッキングで距離を管理するのではなく、今回はアナログにガイドブックと時計だけで行こうと思っています」と、より自然体で旅と向き合う姿勢を語ります。

イギリスの6月の気候は、気温が10℃から20℃程度と比較的過ごしやすいものの、海沿いの強風が体感温度を左右する可能性があるため、装備は慎重に選定したそうです。

挑戦への思い、そして未来へ

安藤さんのこの壮大な挑戦は、多くのランナーにとって刺激となるでしょう。ご家族も長年の経験から信頼を寄せているようで、「過去に無茶なレースも経験しているので、多少のことでは動じないようです(笑)」とは語ります。

出発まであと1ヶ月弱。今後、イベントなどで安藤氏を見かける機会があれば、ぜひ応援の言葉をかけていただきたいとのことです。

「無事に帰国したら、この旅がどんなものだったのか、ぜひDogsorCaravanでお話ししたいですね」と安藤氏。その報告を楽しみに待ちたいと思います。

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