富士山吉田口登山道の歴史ある休憩所「中ノ茶屋」が、アウトドアブランドのサロモン Salomon と富士吉田市の連携プロジェクト「Mt.FUJI Re-Style Project」の一環としてリニューアルされ、2025年5月16日に関係者向け発表会が開催されました。このプロジェクトは、富士山の麓から続く歴史的な登山道の価値を再発見し、現代的なマウンテンスポーツの要素を取り入れて新たな魅力を創造することを目指すものです。
発表会では、富士吉田市の 堀内茂市長と、アメアスポーツジャパン株式会社のショーン・ヒリアー Sean Hillier 代表取締役社長が登壇し、プロジェクトへの期待を語りました。堀内市長は、「サロモンとの包括協定が叶ったことで、姉妹都市であるフランスの シャモニーのような山岳文化都市に一歩も二歩も近づくことができた」と述べ、サロモンのスピード感と富士山への熱い思いに感謝の意を示しました。また、これまで利用者が減少し存続が危ぶまれていた「中ノ茶屋」について、市が買い取りリニューアルを進めてきた経緯を説明し、「サロモンがここを拠点に素晴らしい活動拠点を作っていただいたことに感謝している」と語りました。
Sponsored link
ショーン・ヒリアー社長は、「富士山は日本を象徴する存在であり、個人的にも特別な思いがある。このパートナーシップを通じて、富士山だけでなく、その麓の美しい自然や文化にも目を向けてもらい、多くの人に富士吉田の素晴らしさを体験してもらいたい」と述べました。
富士山麓の価値創出と登山の安全に向けた 「Mt.FUJI Re-Style Project」
発表会では、富士吉田市とサロモンによる包括連携協定に基づく「Mt.FUJI Re-Style Project」の具体的な5つの取り組みが説明されました。
中ノ茶屋リニューアル:300年以上の歴史を持つ「中ノ茶屋」の内装をリニューアルし、利用者がくつろげるスペースを提供。また、ハイキングシューズやトレイルランニングシューズのレンタルサービスを開始し、特にサロモンのメンバーシッププログラム「S/PLUS」会員には無料提供などの特典を用意します。さらにStarlink によるWi-Fi環境も整備され、情報検索などが容易になりました。富士吉田観光振興サービスの 宮下隆 氏は、「バードウォッチングをされる方や浅間神社への参拝者の立ち寄りも増えており、この機会に多くの方に知っていただき、拠点施設として利用してもらいたい」と期待を述べました。

馬返しは富士山の聖域への入り口として賑わったという。
地域事業者を含めた連携事業の展開:下吉田エリアなど、地域の事業者をサロモンの「ライフスタイルパートナー」として連携し、アクティビティの拠点や付加価値を提供することで、地域の活性化を図ります。
富士山八合目救護所との連携:登山者の安全確保のため、富士山八合目に設置されている救護所の医療従事者への支援や、その活動の発信、安全登山の啓発活動をサロモンの支援を受けて行います。石田氏は、「救護活動がボランティアで行われていることを知り、その労働環境のサポートや、安全啓発の観点から救護所の活動にスポットライトが当たるような発信をしていきたい」と述べました。
登山道整備:富士吉田市が策定した「富士山吉田口登山道保存と活用のための活動計画」に基づき、サロモンおよびアメアスポーツジャパンも登山道整備や環境保全活動に積極的に取り組んでいきます。
「富士山の山岳信仰の文化と歴史を伝えたい」と堀内茂・富士吉田市長
囲み取材で堀内市長は、「富士山は安易に登ってスリルを楽しむ山ではなく、本来の世界遺産にもなった原点である山岳信仰の文化、歴史を多くの人に味わってほしい。一合目上がるごとに木々の種類も鳥の鳴き声も変わる。家族連れで安心安全に楽しめる道に力を入れていく」と、富士道の持つ多層的な魅力を強調しました。また、かつて女性が富士山に登れなかった時代に、女性が富士山を眺めた「女人天上」や、おにぎりを食べた「中食道」といった歴史的な場所の再現にも意欲を見せました。

堀内茂・富士吉田市長(右)とショーン・ヒリアー・アメアスポーツジャパン社長。
ショーン・ヒリアー社長は、ビジネスとしての側面よりも、「富士山の周りの楽しみを提供し、皆がもっと気軽にスポーツを楽しめるようにすること」がプロジェクトの主眼であると語りました。
サロモンの石田氏は、富士吉田市との連携の経緯について、「いくつかの企画でご一緒する中で課題を共有し、サロモンとして課題解決に協力できることがあるのではないかと話し合いが進んだ」と説明しました。
「中ノ茶屋」のリニューアルオープンを皮切りに、「Mt.FUJI Re-Style Project」は、富士山吉田口登山道の歴史と文化を尊重しつつ、新たなアウトドアの楽しみ方を提案し、地域の活性化を目指す事業が展開される見込みです。

吉田口登山道を散策してみた
イベントに続いて、太田安彦氏(一般社団法人マウントフジトレイルクラブ)の案内により参加者の皆さんと一緒に吉田口登山口を実際に散策する機会がありました。
馬返しは中ノ茶屋から2kmほど登ったところにあり、かつては富士山の聖域と俗界を隔てる場所とされていたといいます。富士スバルラインの開通後は寂れて荒廃していたそうですが、今では整備されています。
少し進むと山小屋「大文司屋」がありました。こちらも長く閉店されていたそうですが、5年前に営業を再開し、海外からのハイカーさんたちに人気とのこと。この日もバードウォッチングを楽しむ人たちが庭から森を見つめていました。

馬返しにある大文字屋。
その先には大きな石鳥居があり、石碑が並びます。その一つは江戸時代に33回の富士登山を果たしたことを記念したもので、江戸の富士講の名前が記されていました。

太田安彦さんから富士登山に熱心に取り組んだ先人たちの想いを聞く。
富士山に古くから人々が寄せてきた信仰とそこに生まれた文化を知ることで、さらに深く富士山を走ったり歩いたりすることを楽しむことができそうです。

中ノ茶屋では吉田うどんをいただいた。














