[DC] リタイア/ダコタ・ジョーンズ(Dakota Jones)のハセツネ2013参加レポート #Hasetsune

【編者より・今年も10月13日に開催されたハセツネ・カップ。昨年のハセツネで大会記録を更新する圧勝でファンを驚かせたアメリカのダコタ・ジョーンズ/(Montrail/MountainHardwear)が今年も来日して話題になりましたが、結果は体調不良でリタイア。本記事はダコタがアメリカのトレイルランニング情報サイト・iRunFar.comに寄稿した今年のハセツネの参加レポートを当サイトが同サイトおよびダコタ・ジョーンズの許諾を得て翻訳したものです。】

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リタイア

by ダコタ・ジョーンズ/Dakota Jones

《元記事:Dropping (iRunFar.com)

僕の仕事は走ること。長距離の山岳レースを走っている。いろんな意味でそれは夢のような仕事だ。この仕事に求められることはほとんど僕がやりたいと思えることだから。トレイルを走り、山に登り、世界を旅することで生計を立てるのは、僕がずっと望んでいたことでこれからも長く続けていきたい。ランニングを仕事にするために僕が成し遂げたことついて自慢に思う一方で、今の僕の生活を可能にしてくれた様々な人たちや出来事には感謝してもしきれない。自分のことを世界一ラッキーなヤツだと思う。

でも、「プロ」のランナーでいることはとんでもなく難しいことだ。オフィスで机に向かって朝から夕方まで仕事をしているわけではないけれど、それでもいろいろやることはある。写真撮影とかイベントに出席するのも仕事のうちで、時間や労力はかかるけれどたいていは楽しんで取り組める。柔軟に対応してもらえることが多いから、どうしても都合が付かない場合はまた次回に、ということで済む。悩むことはない。

基本的にはスポンサーは僕にレースでいい結果を出すことを望んでいる。それはもっともなことで、スポンサーが僕にお金を払うのは、彼らの製品を使って僕がレースでうまくやったということを広く知ってもらうことによって自社の製品が優れていることを示すことができるからだ。ただ、スポンサーにどのレースに出るようにと指示されることも、あるいは出るべきレースの数を指示されることもない。僕が自分で選んだレースではベストを尽くすこと、そうすることでスポンサーに貢献することをよく理解してもらっている。

大体の場合はこのスポンサーとの関係はうまくいっている。何かをしなければならないというプレッシャーに悩むことなく、考えられる限りの大胆な冒険について考えを巡らせてそれを実行することができる。昨年ヨーロッパに3ヶ月も滞在してレースに出ていられた。今年の春にはアラスカに行って一ヶ月のクライミング三昧。自分で思いついたことだからこそ、結果を出そうという意欲が自分の中から沸いてくる。そういう意欲が成功につながるのだけれど、いつだって意欲がわいてくるわけではない。

スポンサーとの関係のマイナス面は、僕が自分で出たいレースを選ぶことが大きなプレッシャーになることだ。プレッシャーは外からかかるのでなく、完全に僕の中から生じてくる。スポンサーは僕をあれこれサポートしてくれて、僕はそのサポートになんとか応えようとする。スポンサーが僕に投資してくれたことに応えることで感謝の気持ちを伝えたい。僕の心に浮かぶスポンサーの望みは一つ、レースで結果を出すこと。そんなことを考えるうちにだんだん自分が選んだレースが心の中で大きな出来事に膨らんでいく。そしてそうしたプレッシャーはレースの結果に影響する。

僕は10月13日の都民の森でこれを書いている。今日午後1時に、東京西郊の山岳部で行われる71.5kmのレース、ハセツネ・カップのスタートを切った。そして午後5時15分にリタイア。今、ホテルの部屋に戻って何が起こったかを振り返っていると、たくさんのことがあふれ出してくる。そして感情はよりいっそう強くあふれ出してくる。どうしていいか分からない。正直にいって本当に後味が悪い。

後味が悪いのはリタイアしてしまったからだ。僕が感じたあらゆるプレッシャー(それのほとんどは僕が自分で背負い込んだもので、誰かに強要されたものではない)は別にして、スタートしたレースをフィニッシュしなかったことが後味が悪いのだ。調子が上がらない間も自分をプッシュして何が何でもフィニッシュする人たちは素晴らしいと思う。実力のあるランナーがその日は調子が悪くてペースを落としながらも、はるかに後ろの方でフィニッシュすることには心を動かされる。きつかったから止めるなんて考えるのも嫌だ。いろんなことがあったとしても一日の終わりにはスタートしたレースをフィニッシュする、そんな人でありたいと思う。レースに勝つためじゃない、挑戦するためにスタートしたんだ。山岳レースに関わるあらゆる要素についてそんなふうに考えたい。年齢が上がるにつれて、こうした価値観が勝ち負けとか名誉とか、表面的なことに取って代わられることを恐れている。レースをリタイアしたことは僕の気持ちの持ち方に疑問を突きつけた。僕は自分で自分を問いつめる。

スポンサーや友達、家族をがっかりさせたことが申し訳ない。実際のところ、スポンサーに申し訳ない。友達や家族にまた日本に行くんだと話すとみんな、「え、どうして?」という反応だった。彼らが僕のことを応援してくれないということではない。アメリカ人にとってはなんだかよくわからないレースだからだ。去年のハセツネの情報を追いかけようとしてアメリカ人が分かったことは、(1)アメリカの時間では午後10時とかのスタートなのでインターネットの速報を追いかけるのは難しい時間帯だということ、(2)日本語でしかインターネットの速報がなかったこと、だった。Google翻訳も使い物にならないので、一体レースがどうなっているのか知る術がなかった。だから彼らが日本に行く僕を中途半端にしか応援してくれなかったを責めるつもりはない。

でもスポンサーは僕のためにお金を払ってくれた。レースのために。このレースは国際的にみればあまり重要とはいえないかもしれないけれど、Montrailにとってはとても大事なレースだ。Montrailの日本での事業はとてもうまくいっていて、日本で一番売れているトレイルランニングシューズのブランドだ。3000人近くの選手が走るこのレースのタイトルスポンサーでもある。ハセツネ・カップについて聞いたことはないかもしれないけれど、Montrailはこのレースに深く関わっている。少なくないお金をかけて2年連続で日本に行かせてくれたのはそんな背景があるからだ。ビジネスを成功させるチャンスを広げようとしていたのだ。僕は昨年優勝したけど、今年はリタイアだ。50%はF(落第)だ。

それ以上に申し訳がないのは、日本のランナー全員をがっかりさせたことだ。去年優勝した僕に、みんなが期待していた。誰もが僕が今年も優勝して大会記録を更新することを期待しているのが分かっていた。レース前には、去年のハセツネでの活躍で僕のことを知ってくれた人たちと一時間以上も一緒に写真をとっていた。その人達はただ僕に会いにきただけではなく、今年はもっとやってくれるんじゃないかと思ってきてくれたに違いない。速いヤツが限界に挑戦して頑張るのをみるのはエキサイティングなことだから。彼らの期待はわがままや要求事項ではなくて、善意から生まれたもの。こういう素晴らしい人たちが信じていることに応えたいから、優勝して大会記録を更新したかった。熱心に応援してくれることに対して、期待に応えることで報いたかった。でも結果はリタイア。大会記録どころか、フィニッシュすらもできなかった。なんてことだろうか。

最初のうちは、いいスタートができたと思っていた。ペースは速かったけれど、数マイルほど走るうちに5人くらいのグループになり、全く問題ないいいペースで走り続けた。登りは歩いて、下りは走る。身体への強度は十分余裕の範囲内で、この調子でずっと長く走って最後にはスパートをかけよう、と思った。第一関門の22キロ地点を過ぎても、調子はよく、トップの選手から30秒差でペースは安定していた。ここからコースは登ったり下りたりを繰り返しながら徐々に登っていって最高標高地点の三頭山に向かう。僕は夢中になってピークを目指していた。

でもこの登りは身体に堪えた。途中からめまいがし始めて、頭がふらつき始めた。目は前を追っているのに、脳の反応が見たものに追いつかない感じがした。歩きに切り替えてShot Bloksを食べた(そう、ここでもスポンサーの信用を取り戻そうとしている)。すると今度は背中が痛み始めた。最近「セブンイヤーズ・イン・チベット」の中でハインリヒ・ハラーが座骨神経痛に苦しんだ日々のことを読んでいたので、腰の神経がどこかおかしいのでは、と思い始めた。

本当の理由はすぐに分かった。

立ち止まって小便をしたら真っ赤な血尿だった。僕は血尿の話を人から聞くたびに「何だって、最低だな、ひどい」とか思っていた。僕自身は一度も経験したことがなかった。人の血尿の話を思い出して、自分の思いやりのなさにぞっとした。血尿は恐ろしい症状で、身体がはっきりと「おい!何をぼやぼやしてるんだ!」といっているサインの一つだ。ウルトラランニングをしている人は身体のサインを無視することには慣れっこになっていて、それがトレーニングやレースのし過ぎにつながりがちだ。でも今回のこれはちょっと無視できない。まじめに考えないといけない。

まず水をたくさん飲んだ。少し食べた。電解質サプリメントは持っていなかったけれど、Shots Blokには電解質も入っているだろう。軽いジョギングを続けたけれど、まだ20マイルしか走っていないのに脚の筋肉痛がひどいことに気がついた。コースが信じられないほど急な下りに転じてからは、走りながらも太ももがあまりに痛むのでペースを落とし始めた。

このとき、たくさんのことが頭に浮かんだ。脱水症状。腎不全。エリック・スカッグスダイアナ・フィンケル(訳注・いずれもHardrock 100で優勝するなど活躍したランナーでレース中の腎不全を経験している)。最近走ったばかりのレース、のこと。ハセツネでまた優勝したい。ロック・ホートンキャサリン・マタイズ(訳注・コロラド在住の大ベテランのウルトラランナー)からいわれるに違いない小言のこと。秋の日にリース・ルーランド(訳注・ダコタのガールフレンド)と一緒にハンモックの中で寝そべること。親父のこと。僕は進み続けた。平らなところ下りは走り、登りは歩く。でも僕の症状は悪くなるばかりだった。こんなにあっという間に具合が悪くなってしまうことに驚いた。ほんの一時間ほどの間に、快調に大会記録を更新するペースで走っていたのが完全にダメになってしまった。

コースから外れた時には全てがどうしようもなくなっていた。矢印のサインを見て、それに沿ってトレイルを進んだのだけれど、コースを間違えたことに気づくまでに1マイルほどは下ってしまっていた。引き返してまた用を足してみるとまた血尿だった。そのまま登って引き返してコースに戻った。そこから最後の5キロほどを歩いてエイドステーションに到着。リタイア。中止。諦めた。おしまいだ。

 

Dakota-Hasetsune-Drop

今年のハセツネでようやく第二関門・月夜見第二駐車場に到着したダコタ・ジョーンズ/Dakota Jones。体調を崩し、コースをロストした後にようやく到着し、ここでリタイアすることになった。 by Masakazu Sato / DogsorCaravan.com

僕は若いし、成功するためにはたくさん時間があることは分かっている。だからといって今日のハセツネで成功したかったこと、成功するようにすべきだったことには変わりがない。いえることといえば「血尿が出るなんてはっきりした身体のサインだよ、そんなことになったらリタイアするしかない、とくに水分の補給が限られるレースだったらなおさらさ。リタイアすることが残念なことなんて腎不全になる悪夢に比べれば大したことじゃない。」それでも僕は自分を許すことができない。もちろん、腎不全の危険を冒すのは無謀なことではあるのだけれども。

でもそんなリスクを抱えてしまったのは、僕がきちんと準備をしなかったからだ。レースの半分以上は準備で決まるのだし、ハセツネに向けてのの準備で僕はバカな間違いをしでかしてしたのだ。それで腎臓がレース中におかしくなってしまった。重大な間違いだ。

今までこんなことは経験したことがなかった。どうしてこんなことになったのかはっきり分からない。たぶん、急な登り下りで気温も高い71.5キロのレースで、最初の42キロ(4時間半)の間は水分の補充ができないことで脱水症状になったのも一つの理由だろう。2週間前のレース(UROC)を死にものぐるいで全力を出し切って走ったことも影響しているかもしれない。たぶん食事もきちんとしていなかった。レースが始まるまで十分に水分をとっていなかったかもしれない。たぶんいろいろな要素が組み合わさって今回の結果になった。今の段階ではよくわからない。なぜこんなことになったのか、これからどうしたら避けられるかをこれから数週間のうちにはっきりさせようと思う。もうリタイアしてしまった以上、今の僕にできることは将来こんなことがまた起こらないようにすることだけだ。

突き詰めていえば、レースというのはゲームでしかない。レースで世界が変わる訳じゃない。でも僕はレースをするし、たいていはとてもうまくいく。誰でも自分の時間や努力を自分の好みの活動に注ぎ込む。僕の場合は、いいのか悪いのか、山を走ることに力を入れている。山を走ることが大好きで、一生続けていきたいと思っている。いまそれをセミ・プロのレベルで取り組む機会を得ていることはとんでもなく幸運に恵まれている。ベストを尽くして自分自身にも自分のことを信じてくれる人にも誇りをもてる存在でありたい。レースを棄権すると、前に進む道はよく見えない。スポンサーで僕の成績がたまたま悪かったからといってスポンサーを止めるというところはないけれど、何があったのか、どうすれば避けられるかを理解しておく責任が僕にはある。その過程では厳しい真実と向き合わなくてならない。起こったことについて正直にならなくてはならない。起こったこととは何か。独りよがりになって、間違いを犯して、その間違いのせいでレースをリタイアした。こうなったのは全て自分のせいなのだ。

とはいうものの、これで世界が終わったわけじゃない。この後もたくさんのレースが待っている。失敗は最高の学びの素。これからの数週間で自分について貴重なことが学べることは楽しみでもある。僕はこのウェブサイト(訳注・本記事が最初に掲載されたiRunFar.com)に隔週で記事を書いているので、楽しみに待っていてほしい。僕の枕元に小箱に入った知恵が届いたらすぐに紹介する。僕の失敗についてここまで読んでくれて感謝!

《元記事:Dropping (iRunFar.com)

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