ダイアルをカチカチッと回すだけでフィット感をコントロールする「Boa®︎フィットシステム」。当サイトでは今年4月にUTMFに参加するためにオーストリアから来日した「Boaランニングチーム」のミハエル・カビヒャーさんとレティシア・ピビさんに河口湖でお話を伺いました。それから2ヶ月、今度は当サイトが大会取材のためオーストリアに行くことに。この機会にオーストリアにあるBoaテクノロジー社の欧州オフィスを訪ね、Boaフィットシステムについてもっと詳しくお話を聞いてきました。
パートナーと一緒になって製品開発を進める
大作曲家・モーツアルトが生まれ育ち、夏の音楽祭に世界中から音楽ファンを集めるオーストリア・ザルツブルク。その市内から車で約30分、周囲を山に囲まれた湖のほとりの町・モントゼーにBoaテクノロジー社の欧州オフィスがあります。
オフィスに到着するとマーケティング担当のトビー・マクデルさん、クラウディア・エギンガーさん、そして4月にSTYで4位になったミハエル・カビヒャーさんが出迎えてくれました(Boaランニングチームのアスリートであるミハエルさんは、Boaテクノロジーの社員なのです)。
その後、Boaのシステムはハイキング、ゴルフ、自転車といったスポーツ用だけでなく、2008年には消防士のようなプロフェッショナル向けの制服や装備品、2011年には骨折した際の固定用具をはじめとする医療用製品へと、進出していきます。
実際にBoaフィットシステムを製品に導入することが決まると、Boaテクノロジーとメーカーの関係は多岐にわたります。製品のスペックやデザインが決まり、いよいよ生産工程に入るとBoaではメーカーの工場での技術指導やサポートを行うほか、営業やアフターサービスまで支援します。「アウトドア、ランニング、プロフェッショナル向け、医療用とどんな分野でも、Boaを使った製品の価値を最大限高めることが私たちの使命」だとクラウディアさんは会社のポリシーを説明してくれました。
アイディアを形にするのはこの工房から
Boaテクノロジーではアメリカ・コロラド州の本社で様々な用途に向けた製品開発を行う一方、ここオーストリア・モントゼーの欧州オフィスではBoaフィットシステムをパートナーの製品向けにカスタマイズする役割を担っています。お話を伺った後は、Boaを使ったプロトタイプを製作する工房を見学です。
伺った時にはちょうど既製品のシューズにBoaを載せるプロトタイプを作成中でした。工房にはミシンやグラインダー、レーザーカッターといった機械や工具、レザーやラバーなど様々な素材が並びます。
同じメーカーのシューズであっても、Boaフィットシステムを載せる場合にはモデルごとに毎回プロトタイプを作ります。ミハエルさんによれば「プロトタイプを実際に試してみて、どんなメリットが得られるか、どこを改善すればいいか、シューズメーカーの担当者と徹底的に議論します」。さらに、実際に製品となるまでにはいくつものチェックポイントがあり、例えば「ガイドからレースが出てくる角度が小さいとフィット感が下がってしまう」として、角度を一定の範囲に収めることを求めているとのこと。これはプロトタイプをデザインする段階はもちろんのこと、実際に製品としてメーカーの工場で生産する段階でもきちんと基準に収まっているかを確認するそうです。
Boaランニングチームがモーツアルト100でも大活躍
取材中に、翌日に開催されるトレイルランニングの大会、「モーツアルト100」に出場するBoaランニングチームの皆さんにお目にかかりました。モーツアルト100ではミハエルさんと一緒にBoaランニングチームを立ち上げたフロリアン・グラーゼル Florian Graselさんが見事優勝。フロリアンさんは昨年末に生まれたばかりの双子の赤ちゃんにフィニッシュで迎えられていました。
イノベーションはシンプルなアイディアを突き詰めたところから生まれる
創業者のゲイリー・ハンマースラグさんのアイディアはとてもシンプルで、今日私たちがランニングシューズでダイヤルを回して即座にシューズの締め具合を調整できるのも当たり前のように思えます。しかし、それは壊れないダイヤルの開発、用途に応じたダイヤル・レース・ガイドの組み合わせの追求、そしてプロトタイプの作成から生産、アフターサービスまで一貫したメーカーとパートナーシップ、というきめ細かい努力を重ねた結果だった、というわけです。
今回のモントゼー訪問で自由でリラックスしたオフィスの雰囲気が印象に残りました。オフィスは小高い丘の上にある3階建ての建物にあります。元々は修道院の施設だったというオフィスからは山と湖が見渡せて眺めは最高、駐車場の隣には羊が牧草を食べているというなんとものどかな雰囲気。オフィスには男女それぞれの更衣室とシャワーがあって、出勤の前後にランニングや自転車で汗を流す社員も多いとのこと。これからもシューズだけでなくトレイルランニングのギアのフィッティングにBoaはイノベーションをもたらしてくれるに違いありません。