南三陸で里山とイヌワシと人間を繋ぐ現在進行形の物語。パタゴニア・フィルム「共生のために走る」【レビュー】

は自然と人間のつながりを確かめるアクティビティ。将来の可能性は身近なところに広がっています。

パタゴニアはトレイルランナー・さんが南三陸でイヌワシの生息環境の復活に取り組む人たちとともに取り組む火防線トレイルの整備をテーマとするフィルム「共生のために走る」を発表しました。このフィルムの予告編と特設サイトが公開されているほか、2月25日から先行フィルムツアーを開催。南三陸を皮切りに全国9ヶ所でフィルムの上映とトークイベントが予定されています。ツアー閉幕の翌日となる3月9日にフィルム本編が一般公開されます。

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石川弘樹さん

(以下、本記事の映像は千葉弓子、写真は武部努龍、いずれもPatagonia Filmsより提供)

ストーリー・南三陸イヌワシ火防線プロジェクトと出会った石川弘樹さん

2015年から石川弘樹さんは宮城県南三陸町に通い、チェーンソーを片手にリアス式海岸の入り江を取り囲む里山に入っているといいます。海を見渡せる稜線上で倒木を取り除き、かつて山火事の延焼を防ぐために守られていた火防線を復活させるのがその目的。

南三陸を囲む稜線、その多くは分水嶺で町域の境界線となっている約60kmを整備する「南三陸イヌワシ火防線プロジェクト」を立ち上げたのは地元に生まれ育った鈴木卓也さんと佐藤太一さん。子どもの頃から野鳥観察に魅せられた鈴木さん(南三陸ネイチャーセンター友の会会長)が、地元で持続可能な林業に取り組む株式会社佐久の12代目である佐藤さんと一緒に始めたプロジェクトでした。
今や日本では見かけることが少なくなったイヌワシですが、かつては南三陸の里山を棲み家としていました。南三陸の人たちは里山に入り、炭を焼き、屋根を葺くためのカヤを採取する。生活の糧を産む山を火事から守るために稜線を幅広く刈りこんで火防線とする。そうしてできた広い草地は翼を広げれば2m近くになるというイヌワシにとって絶好の狩場でした。しかし、生活様式が変わって人が山に入ることは少なくなり、かつての草地や火防線は藪に覆われます。餌を得られなくなったイヌワシは2012年から南三陸に姿を見せていないといいます。

「トレイルランナーが自然のためにできることは何か?」と考え続けていた石川さんには、鈴木さんそしてこのプロジェクトとの出会いは運命的なものでした。以来、毎年藪の勢いがおさまる秋から早春にかけてトレイル整備活動に加わり、全体の3分の2までの整備が進んだ2022年の春。石川さんは各地のトレイルランナーを招いて火防線トレイルを走ります。フィルムはトレイルランナーが経験したトレイルと、プロジェクトについての石川さん、鈴木さん、集まったトレイルランナーの思いが交錯する様子を描きます。

火防線トレイルを通じてイヌワシが再び棲める里山を

フィルムの発表を前にした真冬のある日に、メディア関係者を対象に作品の舞台を石川さん、鈴木さんとともに訪れるツアーが行われ、筆者も参加しました。

ツアーの最初に「南三陸イヌワシ火防線プロジェクト」と今回のフィルムについてキーパーソンの3人にお話を聞きます。鈴木卓也さんは火防線プロジェクトのきっかけは震災復興のボランティアとして町に住んでいたある研究者の言葉だったと振り返ります。蜘蛛の専門家でスパイダーと呼ばれていたその研究者に頼まれて山に連れていった鈴木さんが、今は藪で見えないけど昔は火防線があって海が見渡せたと話すと、その研究者に「それを復活させよう」と言われたといいます。「その後、彼は不幸にも交通事故で亡くなったのですが、火防線を復活させようという言葉は私の中で残っていました。」イヌワシが棲める環境を取り戻すために佐藤太一さんとともに林業の側から取り組むのと並行して、鈴木さんが火防線を復活させるために動き始めたきっかけとなった言葉でした。

石川弘樹さんは南三陸でイヌワシのプロジェクトについて話を聞くと、すぐに仙台の八木山動物公園にいるイヌワシを見に行ったといいます。「山で動物に出会うのが大好きで、絶滅の危機にあるというこのイヌワシが再び棲んで繁殖する環境を取り戻すことに大きな夢があると思いました」という石川さんはその直後、2015年10月から南三陸に通い始めます。自らが関わるトレイルランニングの大会のコース整備に取り組んできた石川さんですが、トレイルランニングはもちろん、登山やハイキングでも使われることのない火防線を60kmに渡って切り拓くのは初めてのこと。「数年で終わるものではなく、まさに人生を賭けて道を作っていく。でも自分が作ったトレイルが次第に延びていくのが楽しい」といいます。各地で登山道の整備に人手が足りないという話が聞かれる中で、トレイルランナーに何ができるか。自分が楽しみながらトレイル作りに取り組むことでメッセージを伝えていきたい、と話しました。

火防線トレイルを自然について学び、行動を起こす場に育てたい

南三陸でのメディアツアーはフィルムの試写会、そして翌日の火防線トレイルの視察、と続きました。

「南三陸イヌワシ火防線プロジェクト」は現時点では2025年に約60kmのトレイルの全区間の整備を終える予定で、今後はそのトレイルをどのように利用し、活用するかが課題となります。しかし、プロジェクトの本来の目的は見晴らしのよい火防線を復活させることでイヌワシが狩りをできる環境を取り戻すこと。トレイルに入る人間が多すぎればイヌワシを遠ざけることになりかねませんが、見晴らしの良いトレイルを保つには人間が入る必要もあります。何らかのルールやトレイルの利用を管理する仕組みが求められます。

Photo: DogsorCaravan

Photo: DogsorCaravan

鈴木さんによれば、これまで各地で野鳥の保護のために生息場所を明らかにしないケースも多かったものの、それで野鳥を守れたという事例は多くありません。「秘密にするよりも、イヌワシについて情報をオープンにして多くの人に関わってもらい、イヌワシを守ろうという考えに賛成してもらうというアプローチが必要だと思います。南三陸に限らず日本の山になぜイヌワシがいた方がいいのか。火防線トレイルはその学びの機会として役立ってほしい。みんなでトレイルを走って、維持管理にも参加してもらう。そんな場所に育っていけばいい。」静かな話しぶりの鈴木さんの言葉に強い情熱を感じました。

石巻・川のビジターセンターに展示されているイヌワシの剥製。Photo: DogsorCaravan

石巻・川のビジターセンターに展示されているイヌワシの剥製。Photo: DogsorCaravan

先行フィルムツアーを全国9ヶ所で開催

パタゴニアではフィルム「共生のために走る」の一般公開に先立って、以下の日程でフィルムツアーを開催します。各会場のイベントにはそれぞれの開催地でトレイルランニングを楽しむ一方で自然環境の保護に取り組む方たちを迎えたトークイベントが行われます。

イベントの詳細と参加申込はパタゴニアの特設サイトで。フィルム本編はパタゴニアのYouTubeチャンネルで3月9日に一般公開されます。

フィルム「共生のために走る」先行フィルムツアー

  • 南三陸会場: 2月25日(土)19:00「南三陸町役場 マチドマ」宮城県本吉郡南三陸町志津川沼田101
    • スピーカー:石川 弘樹、鈴木 卓也、佐藤 太一、千葉 弓子、大嶋 慎也
  • 仙台会場:2月26日(日)19:00パタゴニア 仙台
    • スピーカー:石川 弘樹、鈴木 卓也、千葉 弓子、高橋 和之、須賀 暁、武田 忠之
  • 茨城会場:2月27日(月)19:00 BASE CAMP」茨城県久慈郡大子町袋田3708-1
    • スピーカー:石川 弘樹、和田 幾久郎
  • 東京会場:2月28日(火)19:00「Lifull Table」東京都千代田区麹町1-4-4 1F
    • スピーカー:石川 弘樹、桑原 慶(Run boys! Run girls! )、朝長 拓也(Trippers)、木村 大志、西城 克俊、上野 朋子
  • 静岡会場:3月3日(金)20:00「ATC Store」静岡県富士宮市小泉1649-20
    • スピーカー:石川 弘樹、芦川 雅哉
  • 三重会場:3月4日(土)19:00「moderate」三重県四日市市泊町1-18 タイズビル2F-3F
    • スピーカー:石川 弘樹、飯田 崇士
  • 兵庫会場:3月5日(日)19:00「菊正宗 樽酒マイスターファクトリー」兵庫県神戸市東灘区魚崎西町1丁目8
    • スピーカー:石川 弘樹、浅野 晴良(白馬堂)、西村 広和
  • 愛媛会場:3月7日(火)19:00「ケミビル705号室」愛媛県松山市喜与町1-5-1
    • スピーカー:石川 弘樹、菅野 哲
  • 福岡会場:3月8日(水)19:00パタゴニア 福岡
    • スピーカー:石川 弘樹、千葉 弓子、吉川 裕樹(YAMAP)
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