映画「メインクエスト2」試写会レポート・井原知一が語る完走への渇望、敗北からの学び、未来への情熱

プロトレイルランナー・井原知一の「バークレーマラソンズ」への挑戦を追ったドキュメンタリー映画「メインクエスト2 〜穢れなき負け犬の遠吠え〜」の試写会が2月22-24日に名古屋、大阪、東京で開催されました。上映後には、井原氏に加え、プロデューサーの藤巻翔氏、監督の上原源太氏が登壇してトークイベントが行われました。

この記事では、2月24日に東京・八王子で行われた試写会の模様をお届けします。

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(写真・八王子で行われた映画「メインクエスト2」試写会トークイベント Photo by DogsorCaravan)

話題作から一年、井原知一が再びイエローゲートに立つ

アメリカ・テネシー州のフローズンヘッド州立公園で毎年開催されている「バークレーマラソンズ Barkley Marathons」は周回コースを5周する100マイルのトレイルランニングイベントです。しかし、そのルールは非常に個性的で、コースも参加の仕方も謎に包まれています。顎ひげにニット帽とネルシャツがトレードマークの主催者、「ラズ」が予告なしに吹くホラ貝を合図に集まり、タバコに火をつけるのを合図にスタートする。GPSに頼らず、正しくコースをたどった証拠にラズがコース上に置いた本の決められたページを破って一周するごとにラズに手渡す、といった独自のルールが完走へのハードルを高めます。1986年に始まり、毎年40名前後が参加するこの挑戦を完走したのは20名に過ぎません。2023年大会では大会史上最多の3名、2024年大会ではそれを上回る5名が完走したことでも話題になりました。

2024年大会の結果については、昨年3月の当サイトのコラム「DC Weekly」でもお伝えしていますが、井原さんは4周目の途中でリタイア。5回目の挑戦を持ってしても完走は果たせませんでした。

DC Weekly 2024年3月25日 Barkley Marathons、Chianti、OSJ新城、広島湾岸

2024.03.25
2023年の挑戦を追ったドキュメンタリー「メインクエスト〜バークレーマラソンズに導かれし者たち〜」が昨年公開されており、2024年の大会を主題にした今回はその続編となります。

レビュー・「メインクエスト〜バークレーマラソンズに導かれし者たち〜」井原知一が悪魔のレースから得た人生哲学とは

2024.01.21

五度目の挑戦、バークレーマラソン2024を振り返る

試写会では約1時間の作品の上映に続いて、トークイベントが行われました。

井原さんは、クラウドファンディングでの支援への感謝を述べるとともに、自身の18年間のトレイルランニング人生を振り返り、初期の頃から支えてくれた先輩や、近年コーチとして指導にあたる仲間のランナーへの感謝の思いを語りました。

プロトレイルランナー・井原知一氏

プロトレイルランナー・井原知一氏

今回の第二弾の映画の題材となった2024年のバークレーマラソンズについては「絶対完走する自信があった」と語るも、結果は4週目でのリタイア。「完走を逃す度に、自分に足りないものが見つかる」と述べ、フィジカル、地図読み、呼吸法など、ウルトラランニングに必要な要素を常に追求し続けていると明かしました。

プロデューサーとしてこの映画の制作を指揮した写真家の藤巻さんは、18年間トレイルランニングを追いかけてきた中で、このジャンルの映画の少なさに着目して「メインクエスト」シリーズを制作した、と経緯を話します。クラウドファンディングでの支援への感謝とともに、今後もシリーズを継続していきたいという意欲を語りました。

「メインクエスト2」プロデューサー 藤巻翔氏

「メインクエスト2」プロデューサー 藤巻翔氏

監督の上原さんは、前作「メインクエスト」ではアメリカの現地に行けなかったものの、今作では自らカメラを回し、藤巻氏と共にアメリカへ渡り制作に臨んだことを明かしました。試写会での観客の反応を通して、前作よりも自身が深くバークレーマラソンに関われたことで、作品に新たな深みが加わったのではないかと振り返りました。

撮影の制約と、監督の視点

プロデューサーの藤巻さんは、バークレーマラソンズを撮影するに当たって、主催者からは厳しい制約を守ることを求められたというエピソードを披露します。撮影が許可されたのはスタート地点の黄色のゴールゲートと、ファイアータワーに設けられた給水所などに限られました。急峻な斜面など、過酷なレースの様子を捉えたい場面は多いものの、限られた条件下でいかに映像を作り上げるかが、制作陣の腕の見せ所となったといいます。

こうした制約について、監督の上原さんは「それならトモさんの顔を撮るしかない」と考えたと語ります。前作「メインクエスト」では、井原氏の表情を捉えることに焦点を当て、今作でもその路線を踏襲。ドキュメンタリーの常套手段であるインタビューをあえて排し、井原さんの体験を追体験させるようなドキュメンタリースタイルを追求する道を選びました。

「メインクエスト2」監督 上原源太氏

「メインクエスト2」監督 上原源太氏

第二弾のテーマは「足りないもの」

「井原六箇条」として井原さんの大切にしているポリシーを軸に展開した前作に続き、今作「メインクエスト2」では井原さんが自分に「足りないもの」を軸としています。このテーマ設定について上原監督は、限られた撮影素材の中で作品を成立させる「仕掛け」であると説明。言葉の力を最大限に活かし、文学的な深みを持たせることで、ドキュメンタリーとしての魅力を高めることを意図したと語りました。

ラズとの対話

映画のハイライトの一つは、挑戦を終えた井原さんが敬愛するバークレイ・マラソンズの主催者「ラズ」の自宅を訪ね、対話するシーンとなります。このシーンの撮影について、井原さんはラズとの会話を通して、彼が本好きだという一面を知り、知的な印象を受けたことを明かしました。また、最初にバークレーに挑戦した2018年にラズ氏から言われた「年をとって体力が落ちても、その年相応の最大のチャレンジをする」という言葉が、自身の心に深く残っていると語ります。年齢を重ねても挑戦を続けるラズの姿に勇気づけられ、自身も常に挑戦を続けていきたいという思いを新たにした、と述べました。

藤巻さんは、ラズの言葉の中で「諦めない」というメッセージが印象に残ったといい、ウルトラランニングに挑む人々に共通する心情に触れました。上原監督は、ラズが語った「バークレーの森と戦うのではなく、調和を重んじる」という言葉に共感したといいます。井原さんが彩の国100マイルを走った経験を通して越生の森に認められたと話したエピソードと重ね合わせ、バークレーの森はまだ井原さんを受け入れていないのではないか、とラズの言葉を敷衍してみせました。

女性ランナーが初めての完走したことに「本当にしびれた」

2024年のバークレーマラソンズを振り返って感想を求められた井原さんは、映画でも象徴的に映し出される、ジャスミン・パリスが女性として初のバークレーマラソンズ完走者となったシーンについて話しました。2022年から3年連続でジャスミン・パリスと並ぶようにバークレーを走っているという井原さんは、彼女の完走について「本当にしびれた」と表現。同じように完走を目指す仲間として、その偉業を目の当たりにした感動を語りました。

現在進行形で物語は続く

単なるレースドキュメンタリーではなく、井原知一という一人のランナーの挑戦を通して、人生における葛藤や学び、そして未来への希望を描いた作品が「メインクエスト2」です。同時に人生の喜びや苦しみ、成功や失敗を圧縮した形で経験することになるトレイルランニングの魅力に満ちた作品だと感じました。

これから6月、7月に一般公開される予定の映画「メインクエスト2」は、観る人の心に深く響き、新たな挑戦への勇気を与えてくれるでしょう。

映画「メインクエスト2」の公開に関する情報は未定ですが、新しい情報はTomo’s Pitのウェブサイトやソーシャルメディアで発信される予定です。

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