一昨年の2023年10月に、フィンランドのスポーツテックブランドであるSuunto(スント)が骨伝導ワイヤレスヘッドホン「Suunto Wing」(スント ウィング)を発売した際には、ランナーにとってはもっぱらGPSウォッチのメーカーであったSuuntoからイヤホンが発売されたこと、そしてその価格が3万円越えと他社のライバル製品と比べて高価であったことが話題になりました。Suuntoは昨年にSuunto Sonic、今年はSunto Aquaと骨伝導方式のワイヤレスイヤホンを発売しており、着実にこの分野で存在感を高めています。
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アウトドアスポーツやランニングの分野で知見の深いSuuntoが作るワイヤレスイヤホンとはどんなものなのか?メーカーからレビューのためにSuunto Wingをお借りして、どんな魅力を持つ製品なのか、実際に体験してみました。
デザインと装着感:過酷なアウトドアでの使用に耐える堅牢性
Suunto Wingは、チタン合金のコアを柔らかく低アレルギー性のシリコンで完全に覆うという素材構成を採用し、本体重量はわずか33gと軽量です。実際に長時間使っていても、筆者の場合は耳にあたりや痛みを感じたり、装着する位置がずれてくることはありませんでした。ランニング中でもずれや脱落の心配をすることなく快適に着けていることができます。メガネやキャップとの相性がいいのも魅力です。
あえて言えば、ランニング以外の使用シーン、例えばヘッドレストのある椅子や座席に座る時に、ヘッドバンドがヘッドレストに当たってしまうのが残念なところです。しかし、このヘッドバンドの長さがSuunto Wingを耳につけた時のちょうどいい装着感につながっているのでしょう。ヘッドバンドの長さを調節する仕組みを作らないことで故障の原因になる構造を避けることにもなります。
Suunto Wingは、他社の競合製品と比べても一歩等級の高いIP67等級の防塵防水性能を備えています。激しい汗だけでなく、長時間の雨、砂ぼこりという条件下でも安心して使用できます。動作温度についても-20℃から+60℃という幅広さを誇ります。厳冬期の数百マイルレースから、灼熱の砂漠のステージレースまで対応するという、Suuntoのモノづくりの本気を感じさせるスペックです。
洗練されたデザインの中に、過酷なユースケースを想定したデザインと設計を優先していることが、Suunto Wingを見ているとわかります。
サウンドとマイク性能:音声の聞きやすさや会話のしやすさに重きを置いたチューニング
耳を塞がないことから周囲の音をそのまま聞き取れるというメリットを持つ骨伝導イヤホンの音質については、耳を覆うタイプのオーバーイヤー型のヘッドホンや、耳の穴に挿し込むように装着するカナル型のイヤホンに比べると、聞こえ方が違うのは確かです。どうしてもベースやドラムの重低音が弱くなってしまうのと、環境音が聞こえることから音楽やトークへの没入感が犠牲になります。この点はSuunto Wingも例外ではありません。
しかし、中音域や高音域はよく響き、人の声はクリアに聞こえます。屋外でのランニング中や室内でながら聞きをするような、周囲の音が聞こえることが好ましい状況であれば、そうした状況とSuunto Wingの音質は自然に両立することに気づきました。筆者の場合は、ランニング中にポッドキャストやオーディオブック、ラジオアプリといった音声コンテンツを聴くのに、Suunto Wingの音質はちょうどバランスが良いのです。
なお、骨伝導イヤホンを装着した時にイヤープラグ(耳栓)をすると低音域も響くようになります。もちろん、外音が聞こえるというメリットは犠牲になりますが、イヤープラグ一つで旅先や外出先で違う音質を楽しめます。Suunto Wingにもイヤープラグが付属しています。
技術的な側面ではBluetooth接続のコーデックとして、Suunto WingはSBCに加え、高音質・低遅延コーデックであるaptX Adaptiveに対応している点が大きな特長です。iPhoneではSBCしか使えませんが、対応するAndroidデバイスと組み合わせることで、より高品質なオーディオ体験が可能となります。
通話品質に関しては、ノイズキャンセリング技術を搭載したデュアルマイクが右側に搭載されています。時速30kmまでの風切り音を効果的に低減する能力があり、サイクリストにとっては魅力的な機能でしょう。ただ、Bluetooth接続の規格による制約により、マイクの音質は16kHzにとどまり、マイク使用中のイヤホンから聞こえる音質も犠牲となるのは他社の製品と同じです。
プレミアムな独自機能
以上で紹介した機能に加えて、Suunto Wingには競合する製品に比べてプレミアムな骨伝導ワイヤレスイヤホンにしている三つの機能があります。
まず第一に、コンパクトで充電ドックにもなる専用パワーバンクが付属しています。Suunto Wingの右耳ユニットに充電用の専用端子がありますが、このパワーバンクにはめ込むことでこの端子からイヤホン本体に充電されます。イヤホン本体のバッテリーは10時間持続しますが、このパワーバンクにより加えて20時間の再生が可能となります。急速充電機能も備えており、10分の充電で3時間の再生ができます。
このパワーバンクにイヤホンを乗せる際にイヤホンが外れないように上から留めるクリップが付属しているので、バッグに放り込んでおいても充電が中断しません。また、このパワーバンク自体の充電は汎用性の高いUSB-C端子からとなります。これとは別にイヤホン本体の専用端子にマグネットで接続するUSB-C充電ケーブルも付属しています。20時間もトレイルで走り続けるならバックパックの中でも充電が中断しないパワーバンクが便利そうですが、ホテルに泊まる旅行や出張ならUSB-C充電ケーブルで荷物を減らせそうです。
二つ目はヘッドセットの左右の側面に設けられた赤色LEDライトです。常時点灯、点滅、SOS信号と消灯をスマホのSuuntoアプリで切り替えることができます。発光面が小さく、暗い道路上で通行する車両に注意を促すにはちょっと物足りないかもしれないので、他のライトや反射材テープもあわせて使った方がよさそう。それでも照明が全くないトレイルや林道では安全対策として威力を発揮するでしょう。なお、常時点灯にした状態ではバッテリー駆動時間が10時間から4時間まで短くなってしまうそうです。
三つ目のヘッドムーブメントコントロール機能は、Suunto Wing を着けた状態で頭を縦や横に振る簡単な動作で、電話の応答・拒否や曲のスキップができるというもの。スマホのSuuntoアプリでオンに設定することで、使えるようになります。ランニングであれば指でイヤホン本体のボタンを操作した方が早いかもしれません。しかし自転車に乗っている最中のように文字通り手を離せない場面では役に立つでしょう、この機能もオンにした状態ではバッテリーの持つ時間が10時間から8時間へと少し短くなります。
まとめ:アスリートのためのプレミアムなワイヤレスイヤホン
Suunto Wingは、SuuntoのスポーツGPSウォッチのものづくりの経験やコンセプトをオーディオという領域に展開して生まれた製品です。しなやかでシンプルなデザインに、丈夫で豊富な機能を備えただけではありません。パワーバンクが付属している点は、野外で長時間使用するならば決定的な選択肢となるでしょう。
Suunto Wingとの比較では、やはりShokzの最上位モデルで実際の販売価格で肩を並べるOpenRun Pro 2が気になるところです。OpenRun Pro 2は骨伝導ドライバーに加えて空気伝導ドライバーを備えることで音質を高めているほか、ヘッドバンドを短くした「ミニ」モデルも選択できるのが魅力です。しかし、IP67の完全防水防塵性能を備えるなど、アウトドアスポーツで長時間の使用に耐える信頼性はSuunto Wingが上回ります。様々なメーカーがスポーツ向けのワイヤレスイヤホンを手掛ける中で、Suuntoは狙う方向性を示すことに成功しているといえるでしょう。
Suunto Wingは、狭い意味でのオーディオ製品としてはベストなイヤホンではないかもしれませんが、より優れた「アウトドア・アドベンチャーのためのギア」であることは間違いありません。活動の場が都市の公園にとどまらず、過酷なトレイルを昼夜を徹して進み続けるアスリートにとって、Suunto Wingは唯一の選択肢となり得るプレミアムな製品です。
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