2025年のHOKA UTMB Mont-BlancでUTMBワールドシリーズファイルの100マイルカテゴリーのレース、UTMBが行われました。22回目を迎えた今回は2,492人のランナーが集結。しかし、ランナーを待ち受けていたのは、気まぐれで厳しい山の天候でした。8月29日金曜日18:15のスタート後に、コース最高地点であるピラミッド・カルケール(Pyramides Calcaires)の通過が安全上の理由からショートカットされるという異例の措置が取られるほど、選手たちは極めて困難なコンディションでの戦いを強いられました。それでも、シャモニーの街と沿道は熱狂的な応援に包まれ、歴史に残る数々のドラマが生まれました。
全長172km、累積獲得標高9,600mという、モンブラン山塊を一周する壮大なトレイルランニングレースを制したのは、男子はトム・エヴァンス Tom EVANS (GBR)、女子はルース・クロフト Ruth Croft (NZL)でした。エヴァンスは3度目の挑戦で勝利を勝ち取りました。クロフトはこれでOCC、CCC、UTMBの三冠を達成しました。
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(写真・最初の夜が明けると地面には雪がついていた今年のUTMB。Photo © UTMB / Franck Oddoux)
男子:トム・エヴァンス、3度目の正直で悲願の初優勝
2022年に3位入賞を果たしながらも、2023年、2024年と2年連続で途中リタイアの悔しさを味わったトム・エヴァンス Tom EVANS (GBR)。彼にとって、今年のUTMBはまさに雪辱を期すレースであり、その走りは過去の経験に裏打ちされた冷静さと戦略に満ちていました。レース序盤、彼は先頭集団のハイペースな駆け引きから一歩引き、冷静に後方で機会をうかがいます。
そして勝負はレース中盤、スイスのグラン・コル・フェレ Grand Col Ferret (100km) への厳しい登りで動き始めます。エヴァンスはここで一気にスパートをかけ、ライバルたちを突き放すことに成功。その後も彼のペースは衰えることなく、レ・ツェップLes Tseppes(149km)で23分、ヴァロルシーヌVallorcine(157km)では29分と、着実にリードを広げていきました。最後の下りではさらに後続に差を広げて、19時間18分58秒でシャモニーでフィニッシュテープを切りました。イギリス人男子選手として史上初のUTMBチャンピオン(短縮版を除く)の座を掴みました。

Photo ©UTMB® Quentin Iglesis
「信じられないような最高のレースでした。まるで母国のイギリスのように、雪、雨、そして最後には少し暖かくなるという天候でした。山が持つすべての力で私たちを試し、そして常に山が勝者であるということを教えてくれる、本当に壮大な一日でした」と、エヴァンスは感動をかみしめるようにフィニッシュ後に語りました。
2位には、レースを通して安定した強さを発揮したベン・ディマン Ben DHIMAN (USA)がエヴァンスに31分差の19時間51分37秒でフィニッシュ。そして3位には、レース後半に驚異的な追い上げを見せたジョシュ・ウェイド Josh WADE (GBR)が20時間05分06秒で滑り込み、表彰台を確保しました。

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また、トップ10には5位のティボー・ガリヴィエ Thibaut GARRIVIER (FRA)、50歳にしてトップ10の常連で今回6位のルドヴィック・ポメレ Ludovic POMMERET (FRA) 、7位のヤニック・ノエル Yannick NOËL (FRA)とフランスの3選手が入りました。そして中国からは4位のドー・ジ Ji DUO (CHN)を筆頭に、8位にシェン・ジアシェン Jiasheng SHEN (CHN)、10位にチョウ・ジアジュ Jiaju ZHAO (CHN)が入り、中国勢のレベルの高さを示しました。
日本の選手では池畑拓哉が24時間58分、男子42位でフィニッシュしました。
一方で、過去4度の優勝を誇る”レジェンド”、フランソワ・デンヌ François D’Haene(FRA)が最初の夜に股関節の痛みでリタイア。そして優勝候補の一角であったジョナサン・アルボン Jonathan Albon (GBR)がシャンペ・ラック(128km地点)でリタイア。レース前半をリードしたテオ・デティエンヌ Theo Detienne(FRA)も中盤でDNF。日本から参加で、6月のKaga Spa by UTMB優勝で期待される黒河輝信 Terunobu Kurokawa (JPN)も20位以内をうかがう勢いでコースを進みますが、トリアン(144km)でリタイアを選びました。その他、多くの有力選手が姿を消し、レースの過酷さを浮き彫りにしました。

Photo © UTMB® Marta Baccardit
女子:ルース・クロフト、UTMBワールドシリーズファイナル3冠の歴史的偉業
女子のレースは、まさに歴史が動く出来事となりました。ニュージーランドのルース・クロフト Ruth CROFT (NZL) が、22時間56分23秒というタイムで優勝。ニュージーランド人として初のUTMB制覇となっただけでなく、2015年のCCC、2018年・2019年のOCCでの優勝に続き、UTMBワールドシリーズの3つのレース(UTMB、CCC、OCC)をすべて制覇しました。これは男子のグザビエ・テベナール以来となる快挙であり、女子選手としては史上初という、前人未到の金字塔を打ち立てたといえます。
「10年前の2015年にCCCに出場したとき、これほどの冒険を経験するとは想像もしていませんでした。3つのファイナルを制して歴史に名前を残すことは当初の目標ではありませんでしたが、最高の締めくくりです。(中略)今年は勝つために序盤から速いペースで入る必要があると分かっていました。夜になり寒さが厳しくなってからは、ただ夜が明けるまでサバイブすることだけを考えました。そして夜明けの光とともに、再びプッシュすることができたのです」と、クロフトは冷静なレース運びと勝利の喜びを語りました。
レースは、大会3連覇を狙う絶対女王、コートニー・ドウォルター Courtney DAUWALTER (USA)が、彼女らしい笑顔を絶やさずリードして始まりました。カミーユ・ブリュヤス Camille BRUYAS (FRA)、そしてクロフトが続き、強力な先頭集団を形成します。しかし、一夜明けてオオkな山を下り、シャンペ・ラック(128km地点)へ向かう途中で、クロフトがドウォルターを捉えて逆転。ここから彼女の独走が始まりました。一方のドウォルターはペースを落とし、最終的にはヴァロルシーヌ(157km)手前でカタリナ・ハルトムート Katharina HARTMUTH (GER)にも抜かれます。ペースが上がらず歩くペースで進むコートニーですが、今回は諦めることなくシャモニーを目指し、10位でフィニッシュしました。女王にとっては苦しい一日だったに違いありませんが、コースでの応援には終始笑顔で応える姿が印象的でした。
2位には地元フランスの大声援を受けたカミーユ・ブリュヤス Camille BRUYAS (FRA)が23時間28分48秒で、3位にはカタリナ・ハルトムート Katharina HARTMUTHが24時間16分39秒で続きました。日本の宮﨑喜美乃 Kimino MIYAZAKI(JPN) は20位前後で走りましたが、コース後半のトリアンでリタイアとなりました。

Photo © UTMB® Marta Baccardit

Photo © UTMB® Gabriele Facciotti
2025年UTMBリザルト
全体のリザルトはこちら。
UTMB 男子

thutmb25-utmb-mb-00-1781© UTMB® Marta Baccardit.jpg
- トム・エヴァンス Tom EVANS (GBR) 19:18:58
- ベン・ディマン Ben DHIMAN (USA) 19:51:37
- ジョシュ・ウェイド Josh WADE (GBR) 20:05:06
- ドー・ジ Ji DUO (CHN) 20:15:05
- ティボー・ガリヴィエ Thibaut GARRIVIER (FRA) 20:20:25
- ルドヴィック・ポメレ Ludovic POMMERET (FRA) 20:40:34
- ヤニック・ノエル Yannick NOËL (FRA) 21:03:41
- シェン・ジアシェン Jiasheng SHEN (CHN) 21:11:59
- ロッド・ファーヴァード Rod FARVARD (USA) 21:18:24
- チョウ・ジアジュ Jiaju ZHAO (CHN) 21:19:47
- バティスト・コアタンティエ Baptiste COATANTIEC (FRA) 21:42:54
- アントワーヌ・ランボワ=マルタン Antoine LAMBOY-MARTIN (FRA) 21:50:00
- キャニオン・ウッドワード Canyon WOODWARD (USA) 22:03:39
- カミル・レシニアク Kamil LEŚNIAK (POL) 22:08:47
- サントス・ガブリエル・ルエダ Santos Gabriel RUEDA (ARG) 22:11:25
- コーディ・リンド Cody LIND (USA) 22:11:28
- ギヨーム・ドゥネフ Guillaume DENEFFE (BEL) 22:11:32
- ウィリアム・エングルンド William ENGLUND (SWE) 22:24:03
- ニコラ・グルドン Nicolas GOURDON (FRA) 22:43:34
- オーレリアン・デュナン・パラ Aurelien DUNAND PALLAZ (FRA) 22:50:40

thutmb25-utmb-mb-00-1787© UTMB® Marta Baccardit.jpg
UTMB 女子
- ルース・クロフト Ruth CROFT (NZL) 22:56:23
- カミーユ・ブリュヤ Camille BRUYAS (FRA) 23:28:48
- カタリナ・ハルトムート Katharina HARTMUTH (GER) 24:16:39
- アンナ・カールソン Anna CARLSSON (SWE) 24:39:42
- マエル・デルアズ Maëlle DERUAZ (FRA) 24:43:02
- マガリ・メロン Magali MELLON (FRA) 24:48:12
- ルーシー・バースロミュー Lucy BARTHOLOMEW (AUS) 24:51:32
- ローレン・ピュレッツ Lauren PURETZ (USA) 24:54:57
- クラウディア・トレンプ Claudia TREMP (ESP) 25:05:07
- コートニー・ドウォルター Courtney DAUWALTER (USA) 25:50:38
- エマ・スチュアート Emma STUART (IRL) 25:57:55
- ズザンネ・ツァウラウアー Susanne ZAHLAUER (GER) 26:19:45
- マイテ・マイオラ・エリソンド Maite MAIORA ELIZONDO (ESP) 27:17:41
- ローラ・ハンセン Laura HANSEN (USA) 27:43:53
- メラニー・ドラソワ Mélanie DELASOIE (SUI) 27:49:17
- ケルシー・ホーガン Kelsey HOGAN (CAN) 28:23:27
- リンジー・ドワイヤー Lindsey DWYER (USA) 28:30:55
- エレナ・ホートン Elena HORTON (USA) 29:23:30
- ヘザー・ジャクソン Heather JACKSON (USA) 29:33:00
-
ブルーク・ディーンズ Brooke DEANS (USA) 29:44:23














