14kmのクラシックで世界を極めたグレイソン・マーフィー Grayson Murphy が40kmショートに挑む理由【WMTRC 2025 Canfranc Pirineos】

【編者より:9月25-28日にスペイン・ピレネー山脈のカンフランクで開催されるマウンテン&トレイルランニング世界選手権(WMTRC 2025 Canfranc Pirineos)の開催が近づいています。レース主催者(LOC)から提供される情報をもとに、今年の世界選手権の話題を紹介します。】

スペイン・ピレネー山脈の麓に位置するカンフランク Canfranc国際鉄道駅が、2025年9月24日から28日まで、第3回マウンテン&トレイルランニング世界選手権の舞台となります。このイベントには80カ国から1,700人を超えるランナーが集結する予定です。

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(写真 2023年のインスブルックでのWMTRC世界選手権クラシック種目で優勝したグレイソン・マーフィー。Photo © WMTRC 2023 Innsbrook-Stubai)

山を走る競技の元祖、マウンテンランニングのクラシック種目

この世界選手権では5つの種目のレースが行われます。その中でもマウンテンランニングのクラシック種目は距離14.3km、累積獲得高度767mD+のコースを走ります。登りと下りが同等に重視されます。

マウンテンランニングが競技として確立されたのはトレイルランニングよりも早く、クラシック種目は1995年のマウンテンランニング世界選手権エディンバラ大会以来、独自の地位を築いてきました。これまでの記録を見ると、イタリアのマルコ・デ・ガスペリ Marco de Gasperi (ITA)が圧倒的な強さを誇り、1997年、1999年、2001年、2003年、2007年の5度にわたって世界チャンピオンに輝いています。

カンフランクではWMTRC世界選手権を前に、今年6月にスペイン選手権が開催され、世界選手権で予定されているコースで熱戦が繰り広げられました。クラシック種目ではヤン・トレリャ Jan Torrella (ESP)が1時間5分25秒で男子チャンピオンとなりました。女子はオンディツ・イトゥルベ Onditz Iturbe (ESP)が金メダルを獲得。両選手とも世界選手権へのチケットを手にしました。

クラシックの女王、グレイソン・マーフィーの軌跡

そんな歴史ある大会で、近年最も活躍してきたのがアメリカのグレイソン・マーフィー Grayson Murphy (USA)です。モンタナ州在住の若き土木エンジニアである彼女の経歴は、単なる記録の羅列以上の意味を持っています。それは努力と泥と雪、そして情熱で織りなされたストーリーだといえます。

マーフィーは近年のクラシック種目において絶対的といえる存在です。2019年のマウンテンランニング世界選手権パタゴニア大会、2023年のWMTRC世界選手権インスブルック大会で世界チャンピオンの座についています。さらに2021年にカンフランクで開催されたマウンテンランニングW杯では、現在も破られていない女子記録を樹立しました。この記録は、その後2度このカンフランスのレースで優勝したジョイス・ニエル Joyce Njeru (KEN)でさえ未だ破ることができていません。

そのマーフィーはまもなくカンフランクで開催されるWMTRC世界選手権にも米国代表選手として出場します。しかし、出場するのは三度にわたって制した14kmのクラシック種目ではなく、45kmのショートトレイル種目となります。アメリカでの代表選考レースで優勝してチケットを獲得した彼女は、ショートを選んだ理由、これまでの経験とこれからの目標について語っています。

2019年、パタゴニアでのマウンテンランニング世界選手権を制したグレイソン・マーフィー(中央)。Photo © Nancy Hobbs / ATRA

2019年、パタゴニアでのマウンテンランニング世界選手権を制したグレイソン・マーフィー(中央)。Photo © Nancy Hobbs / ATRA

次の世界選手権ではショートトレイルを選ぶ

「ユタ大学で土木工学を学び、3000m障害で五輪を目指していましたが、米国代表選考会では6位でした。そんな中でマウンテンランニングと出会い、これこそが私の進むべき道だと感じたんです」とマーフィーは振り返ります。

その後の彼女のマウンテンランニング界での活躍は目覚ましいものでした。より距離が長くトレイルランニングのカテゴリーに入るレースにも関心を持ち、スペインの名門レース、ゼガマ・アイスコリに参加を希望したものの、定員の関係で出場できなかった経験もあったといいます。40kmを超えるトレイルレースを走ったのは、米国代表選考レースだった今年6月のBroken Allow Skyrace 46kが最初(5位)でした。翌月には距離、累積高度がさらに大きい Speedgoat by UTMB 50K を走り(3位)、経験を積んでいます。

世界チャンピオンとなった記憶

2019年のパタゴニアのビジャ・ラ・アンゴストゥーラでの世界選手権初優勝について、マーフィーはこう語ります。「最悪のコンディションでした。雨、風、泥の中でのレースでした。序盤から飛び出して、誰も視界に入りませんでした。嵐の中を一人で走るのは奇妙な感覚でしたが、最後は少しリラックスして、それでも余裕を持って勝利できました。1時間15分20秒でゴールした後、わずか12秒差でエリーズ・ポンセ Élise Poncet (FRA)が続いたときは驚きました。そんなに接戦だったとは思いもよりませんでした」

2022年のタイ大会は怪我のため欠場を余儀なくされ、2023年のインスブルック大会への意欲が一層高まったといいます。「2023年のクラシックコースは独特で、長いアスファルト区間が含まれていました。事前にアップヒル種目に出場して、銅メダルを獲得できたことで、この環境への適応ができました」

インスブルックでのレースでは、スウェーデンのトーヴェ・アレクサンデルソン Tove Alexandersson (SWE)との壮絶な先頭争いを繰り広げました。「最初の下りでトーヴェに抜かれたとき、『分かった、まだ1周残ってる。ついてこられるなら認めるけど、最後まで苦しませてやる』と思いました」とレースを振り返ります。マーフィーは次の登りで反撃に転じ、最終的に約15kmのコースを1時間4分29秒、トーヴェに約1分差をつけて2度目の世界タイトルを手にしました。

カンフランクでの記録樹立、そして今年はショートトレイルを選んだ理由

2021年のカンフランクでのW杯、クラシック種目での勝利と記録樹立について、マーフィーは印象深い思い出を語ります。「アラゴン地方のピレネーを発見した素晴らしい日々でした。ランナーとして、ラ・モレタへの急登の厳しさは忘れられません。今度のマラソン(ショートトレイル種目)でも同じ坂を走ることになります」

ショートトレイルに転じた理由について、彼女は「コンフォートゾーンから出て新しい挑戦と新しいライバルを求めるのは楽しいことです。また、過去の自分の健康問題を考えると、マラソンのトレーニング方法が今の私の身体により適していると思います」と説明しています。クラシックの約3倍の時間がかかるショートトレイル種目に向け、より多くの走行距離と低い強度での練習に重点を置いているといいます。

新たな挑戦への期待

マウンテン&トレイルランニング世界選手権(WMTRC 2025 Canfranc Pirineos)は、パタゴニアの頂上からアルプスの麓、そしてピレネーの稜線まで、マウンテンランニング、トレイルランニングが進化していくストーリーにおいて、新たな一章となることでしょう。クラシック種目、ショートトレイル種目の両方とも、成長を続け、多様化し、激しいリズムと最高潮の心拍数で走るアスリートたちの目標として確固たる地位を築いています。

カンフランクでは、世界のトップ選手たちが登りでも下りでも全てを賭けた戦いを繰り広げることになります。まもなく世界最高のアスリートたちの情熱が、ピレネーの山々を羽ばたくように駆け抜けていくでしょう。

9月のカンフランクで新たな伝説が始まろうとしています。

日本代表の活躍にも注目

今回、グレイソン・マーフィーが参加するWMTRC世界選手権には日本代表の女子選手として、ショートトレイル種目に髙村貴子 Takako Takamura、ロングトレイル種目に吉住友里 Yuri Yoshizumi秋山穂乃果 Honoka Akiyamaが出場します。

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WMRTC 2025のショートトレイル種目は9月26日金曜日午前8時(日本時間同日午後3時)、ロングトレイル種目は9月27日土曜日午前7時(日本時間同日午後2時)にスタートします。レースの模様は大会公式のライブ配信が予定されているほか、一般財団法人日本トレイルランニング協会のソーシャルメディアでは日本代表選手の表情やレースについて発信する予定です。

一般財団法人日本トレイルランニング協会では日本代表選手を支援する「日本代表応援プロジェクト」を開催しています。支援プラン付き商品をすることで世界選手権に参加する日本代表選手の渡航費などを支援することができます。

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(Source: WMTRC 2025 Canfranc Pirineos)

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