来週、9月24日水曜日から28日日曜日の日程で2025年の「マウンテン&トレイルランニング世界選手権 World Moutain & Trail Running Championships」(WMTRC世界選手権)が開催されます。2年に一度開催されるトレイルランニングとマウンテンランニングの世界の頂点を決めるイベントの舞台となるのはスペイン・アラゴン州のカンフランク・ピリネオス Canfranc-Pirineos 。ピレネー山脈を貫いて建設されたスペインとフランスを結ぶ鉄道の両国をつなぐ玄関口として1928年に開業された「カンフランク国際駅」はヨーロッパで最も美しく山深い国際駅として知られ、壮麗な駅舎は長らく人々の往来を見守ってきました。その後、鉄道駅としての重要性は低下しましたが、地域を代表するランドマークであるこの国際駅を再興しようという機運が高まり、2023年には駅舎をリノベーションしたホテルが開業します。今日ではこの国際駅を会場にしたトレイルランニング大会も毎年開催され、ピレネー山脈に深く抱かれたこの地は世界のアウトドアファンの関心を集めつつあります。
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今回このカンフランク・ピリネオスで開催されるのは、陸上競技を統括するワールドアスレティックス(WA)が、ウルトラランニングのIAU、トレイルランニングのITRA、そしてマウンテンランニングのWMRAという各種目の国際競技団体と共同で開催するトレイルランニングとマウンテンランニングの世界選手権です。マウンテンランニングは1974年、トレイルランニングは1987年にそれぞれの国際競技団体による世界選手権が始まりましたが、両競技の人気の高まりを受け、WAが主催する統一されたWMTRC世界選手権として再出発します。第一回大会のタイ・チェンマイ Chiang Mai (2021年<コロナ禍による延期で2022年に開催>)、オーストリア・インスブルックおよびステュバイ Innsbruck – Stubai (2023年)に続く3回目の開催となる、WMTRC世界選手権は、マウンテンランニングとトレイルランニングのエリートが一堂に会する最高峰のイベントとしての地位を確立しつつあります。今大会には、過去の大会で栄冠に輝いた8人の世界チャンピオンをはじめ、世界のトップアスリートが集結し、熱い戦いを繰り広げます。

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今年のWMTRCには5大陸73カ国から約1,600人ものアスリートが参加し、美しくも厳しいピレネー山脈に挑みます。斜度の大きい登りと下りが連続し、テクニカルな山岳要素を含んだセクションも含む今年のWMTRCのコースが選手たちの間でどんなドラマを演出するのか。世界のトレイルランニングファンの注目が集まります。
レースは、9月25日木曜日に登りのコースで純粋な登坂力を競う「アップヒル」、26日金曜日に45kmの山岳コースを走る「ショートトレイル」、27日土曜日に80kmにわたるコースで走力と耐久力が試される「ロングトレイル」、28日日曜日に14kmのコースでテクニカルな路面で最高レベルのスピードが求められる「クラシック」とそのハーフコースで「U20」が行われます。それぞれの種目の男女個人で世界一の座が争われるほか、各国チームの上位3選手の合計タイムで競う団体戦のメダルもかかっています。
WMTRCは開催を重ねるうちに競技レベルも着実に上昇しており、3回目の開催となる今回は世界各地で注目されるトップクラスのアスリートが顔を揃えます。過去2回のWMTRCで授与されたシニアカテゴリーのメダルは48個。そのうち、実に半数にあたる24人のメダリストが再びこのカンフランク・ピリネオスのスタートラインに立ちます。これは、現役の世界トップ選手たちがこのタイトルをいかに重要視しているかの証左と言えるでしょう。まさにトレイルランニング界の頂点の座を守ろうとするディフェンディングチャンピオンたちと、次世代のスター選手の候補たちによる最高峰の戦いが期待されています。
この記事では今回のWMTRCに日本代表の計12名の選手がエントリーしている、ショートトレイルとロングトレイルを中心に各レースの有力選手を紹介します。
9月25日木曜日開催「アップヒル」:キプンゲノが3連覇に挑む
カンフランク駅から3km上流の緑豊かな渓谷からスタートし、ラ・モレタ La Moleta の高山帯まで容赦なく登り続ける、距離わずか7kmにして獲得標高1,000mというバーティカルレースが、マウンテンランニングの「アップヒル」種目となります。男子では、この種目の絶対王者であるケニアのパトリック・キプンゲノ Patrick Kipngeno (KEN) が、2021年、2023年に続く3連覇という偉業に挑みます。急斜面を軽やかに駆け上がってゆく彼の弾むようなストライドに、今回も世界中の注目が集まります。そのキプンゲノの3連覇を阻むべく、地元の声援を背にスタートラインに立つのが、2021年大会銅メダリストのアレックス・ガルシア・カリージョ Álex García Carrillo (ESP) です。地の利を生かし、ケニアの王者にどこまで迫れるか、その走りからも目が離せません。さらに2022年、2023年のゴールデントレイルワールドシリーズチャンピオンであり、山岳の登りの強さで知られるレミ・ボネ Rémi Bonnet (SUI)がWMTRCに初めて参戦します。アメリカのマウンテンランニングのレジェンド、ジョー・グレイ Joseph Gray (USA)、WMRAのW杯で活躍するルーカス・エーレ Lucas Ehrle (GER)やリチャード・アトゥヤ Richard Omaya Atuya (ESP)といった選手の間で激しい戦いが見込まれます。
一方、女子のレースは2023年大会を制したオーストリアのアンドレア・マイヤー Andrea Mayr (AUT) が不在、さらに2023年銅メダリストのグレイソン・マーフィー Grayson Murphy (USA) がショートトレイルに転向するため、表彰台を目指すレースは混戦となりそうです。そんな中で2023年のインスブルックで銀メダルを獲得したケニアのフィラリエス・ケサン Philaries Kesang (KEN) は、今回は優勝候補としてカンフランクに乗り込みます。彼女とタイトルを争うのが、2021年チェンマイでの銅メダリストで、アルプスの山々で磨かれた洗練された走りが持ち味のスイスのレジェンド、モード・マティス Maude Mathys (SUI) です。二人の実力は拮抗しており、激しい優勝争いが期待されます。加えて、フランスのクリステル・デワレ Chrstel Dewalle (FRA) やWMRAのワールドカップで表彰台常連のスカウト・アドキン Scout Adkin (GBR) 、昨年のオフロード欧州選手権でアップヒル、クラシックで二冠となったニーナ・エンゲルハート Nina Engelhard (GER)も上位が期待されます。
9月26日金曜日開催「ショートトレイル」:熾烈なレースに上田瑠偉がどこまで上位に食い込めるか、女子は激しい先頭争いの予感

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金曜日の午前8時(日本時間同日午後3時)にスタートする「ショートトレイル」種目は距離45kmのコースの累積獲得標高が3,600mD+に達し、非常に大きい斜度の登り下りを含むのが特徴です。その中には視界を遮るものが少ない露出度の高い稜線、長く続く下りのほか、標高2000mを超える山頂セクションでは高山帯のテクニカルなセクションが連続するという、美しくも過酷なコースです。
男子では、チェンマイとインスブルックの2大会で金メダルを獲得したノルウェーのスティアン・アンゲルムンド Stian Angermund (NOR) が三連覇に挑むことになります。インスブルックでの栄光の後、ドーピングによる出場資格停止で2023年から2024年にかけて16ヶ月間の空白を経験したのち、今シーズンからレースに復帰しましたが、かつてのパフォーマンスのレベルを取り戻せたかは見方が分かれるところでしょう。アンゲルムンドとともに今年の金メダルに最も近いのはITRAパフォーマンスインデックスが920を超える5選手、ロベルト・デロレンツィ Roberto Delorenzi (SUI) 、トマ・カルダン Thomas Cardin (FRA)、ルカ・デル・ペロ Luca del Pero (ITA)、デビッド・シンクレア David Sinclair (USA)、フレデリック・トランシャン Frederic Tranchand (FRA)となります。デロレンツィは昨年11月のスカイランニング世界選手権(スペイン)で金メダルののち、Acantilados del Norte 28k、Skyrace des Matheysins 26kでそれぞれ2位とスカイランナーワールドシリーズで好成績を連発。今年夏のEiger by UTMB E51で優勝しています。今年初めのカルダンはチェンマイ大会のショートで6位、インスブルック大会ショートで16位にとどまったものの、昨年のオフロード欧州選手権で金メダル、トンプリエ Templiers 80kで優勝。今年のMarathon du Mont-Blancでは3位に。デル・ペロはインスブルックのショートで銅メダル。今年のZegama-Aizkorriで4位、OCCでは7位となっています。シンクレアはWMTRCは初挑戦です。昨年はJFK 50mileで大会新記録で優勝、最近はCCCで準優勝しています。トランシャンは7月のフランス選手権の32kmで金メダルを獲得しており好調です。WMTRCではいずれもショートでチェンマイで12位、インスブルックでは9位でした。
日本代表選手では上田瑠偉 Ruy Ueda (JPN)の活躍が注目されます。最近の上田は昨年後半にスカイランナーワールドシリーズの2 Peaks Skyrace 25kで準優勝、中国のトップクラスが集結するTsaigu Trail 50kで優勝、ChiangMai by UTMB 50kで優勝。今シーズン前半は国内でハセツネ30kで優勝したのち、7月の富士登山競走で年来の目標だった勝利を成し遂げました。2023年のインスブルックでは12位。今回のカンフランクではまずはトップ10圏内、全てが噛み合った走りができればメダル獲得も狙えるでしょう。
続く日本代表選手も今後が期待される世代のアスリートが揃い、今回は20位圏内が期待されます。近江竜之介 Ryunosuke Omi (JPN)は今シーズンは春のChianti by UTMB 42kで4位、神戸トレイルで5位、6月のMarathon du Mont-Blancで7位に。小笠原光研 Koken Ogasawara (JPN)は昨年10月のAPTRC選手権・ショートで銀メダルののち、ITJ70kで優勝、今年に入ってハセツネ30kで2位、神戸トレイル8位、ASUMI40kで準優勝。笠木肇 Hajime Kasagi (JPN) は2024年にKAI70kで4位、霧島えびの高原33kで優勝、APTRC選手権ショートで5位。WMTRCには初出場となります。
このほか、トップ10入りの候補となる選手として次の選手の名前があがります。
- アントニオ・マルチネス Antonio MARTINEZ (ESP) : 2022年チェンマイ・ショートで9位。2025年Transgrancanaria 20K優勝、Zegama-Aizkorriで7位、OCCで8位。
- マヌエル・メリリャス Manuel MERILLAS (ESP) : 2024年Zegama-Aizkorriで5位、同年スカイランニング世界選手権42kで銅メダル。
- イーライ・ヘミング Eli HEMMING (USA) : 2024年OCC優勝、2025年Broken Arrow Skyrace 46k優勝、CCCで7位。
- ティモシー・キベ Timothy KIBETT (KEN) : 2025年Pitz Alpine Glacier Trail 20k優勝。
- シルバン・カシャール Sylvain CACHARD (FRA) : 2024年シエール・ジナル7位、2025年フランス選手権32kmで銀メダル。
- マルティン・ニルソン Martin NILSSON (SWE) : 2025年Hochkönigman Skyrace 30k優勝、2025年シエール・ジナル6位。
- ダニエル・パティス Daniel PATTIS (ITA) : 2025年Zegama-Aizkorriで3位。
- ダビデ・マニーニ Davide MAGNINI (ITA) : 2025年Marathon du Mont-Blanc優勝。
- トーマス・ローチ Thomas ROACH (GBR) : 2023年インスブルック・ショートで銀メダル。
女子のショートのレースはこれまでのWMTRC世界選手権で活躍してきた選手たちが揃います。中でも、前回2023年インスブルック大会の金メダリスト、クレマンティーヌ・ジョフレイ Clemantine Geofray (FRA)、同銀メダルのユーディト・ウィダー Judith Wyder (SUI) 、2022年チェンマイ大会・クラシックの銅メダリスト、モード・マティス Maude Mathys (SUI)は今回のレース展開の中心人物となるでしょう。ジョフレイは2024年のオフロード欧州選手権57kmで金メダル、同年のOCCで3位、同年のTempliers 80kで4位、今年のMarathon du Mont-Blancで6位となっています。ウィダーは今年8月のOCCで昨年に続いて2位でフィニッシュしたのが記憶に新しく、勢いを感じます。今年6月のMarathon du Mont-Blancでは2位でした。マティスは2022年のチェンマイからしばらくは故障からのリカバリーの時期が続き、2024年シーズンからレースに復帰。今シーズンは2022年まで四連覇し、大会記録も持つシエール・ジナルで3位となったのに続き、OCCでも3位に入り、調子は上向いています。
加えて、表彰台を目指す選手としてはサラ・アロンソ Sara Alonso (ESP) があげられます。今年は春の神戸トレイルでの勝利ののち、5月のZegama-Aizkorriで初優勝を成し遂げました。その後、トレーニング中に牛に衝突されて怪我を負ったものの、8月のOCCでは4位に入っています。怪我からのリカバリーが順調ならトップ3に食い込む展開もありそうです。ケイトリン・フィールダー Caitlin Fielder (NZL) も昨年はOCCで5位、Templiers 80Kで優勝。今シーズンはTarawera by UTMB 102kで2位となり、その後のウェスタンステイツで8位など、より長い距離での好成績も上げています。2023年のインスブルックでWMTRCに参戦しており、ショートで12位でした。2022年のチェンマイのクラシックで25位となった経験を持つナオミ・ラング Naomi Lang (GBR) はその後、メキメキと実力をアップしています。今シーズンはMarathon du Mont-Blancで3位となったのが注目されました。今回はサプライズとなるようなパフォーマンスを見せるかもしれません。
日本代表の髙村貴子 Takako Takamura (JPN)は今シーズンはハセツネ30Kでの優勝に始まり、神戸トレイルで4位、そして6月のKaga Spa by UTMB 50kでは厳しい厳しいコンディションの中、男女総合5位で優勝と好成績を上げています。その後は夏の海外遠征中に体調を崩す場面もありましたが、前期のパフォーマンスを取り返せていればトップ10に迫るレースができるでしょう。WMTRCでは2022年のチェンマイで14位、インスブルックではロングを走りDNFでした。
そのほか、トップ10の候補となる選手として次の名前が挙げられます。
- イオアナ・アマリエイ loana Madalina AMARIEI(ROU):2024年オフロード欧州選手権57kmで5位。
- イーダ・ロブサーム Ida Amelie Eid ROBSAHM (NOR):2025年Zegama-Aizkorriで7位、Marathon du Mont-Blancで8位、OCCで5位。
- カロリーヌ・キムタイ Caroline Jepkoech KIMUTAI (KEN):2025年Zegama-Aizkorriで優勝。
- リュシル・ジェルマン Lucille GERMAIN (FRA):2025年Skyrace des Matheysinsで優勝、フランス選手権32kで銀メダル。2023年インスブルックで15位。
- アンナ・プラットナー Anna PLATTNER (AUT):2025年KAT100 by UTMB 49kで優勝。
- イクラム・ラーサラ Ikram RHARSALLA (ESP):2025年Zegama-Aizkorriで6位、OCCで7位。
- テレーズ・ルブフ Theresa LEBOEUF (SUI):2023年インスブルックで銅メダル。2025年Marathon du Mont-Blancで7位、Eiger by UTMB E51で準優勝。
- アデリーヌ・マルタン Adeline MARTIN (née Roche) (FRA):2017年トレイル世界選手権(イタリア)で金メダル。2024年オフロード欧州選手権57kで3位、2025年Grand Raid Ventoux by UTMB 50Kで優勝。
- マレン・オサ Malen OSA (ESP):2025年神戸トレイル3位、Zegama-Aizkorriで3位。
- デニサ・ドラゴミル Denisa lonela DRAGOMIR (ROU):2022年チェンマイで金メダル。2025年Leaota Trails 36Kで優勝。
- グレイソン・マーフィー Grayson MURPHY (USA):2019年WMRA世界選手権・クラシック金メダル、2023年インスブルックのバーティカルで銅、クラシックで金メダル。2025年Speedgoat by UTMB 50kで3位。
- トーヴェ・アレクサンダーソン Tove ALEXANDERSSON (SWE):2023年インスブルックのクラシックで銀メダル。
9月27日土曜日開催「ロングトレイル」:新旧王者の直接対決、ウォルムズレーも参戦
土曜日に開催される「ロングトレイル」は、距離80km、累積獲得標高+6,000mという、ピレネー山脈の高山地帯でのレースとなります。このコースは、ピレネー山脈の心臓部を駆け巡り、選手たちは序盤に標高2,500mを超えるラ・モレタ La Moreta 山をはじめとする複数の峠を越えなければなりません。コース上には、この時期でも残雪が見られる可能性のあるセクションや、足指の爪が黒くなるほどの急峻でテクニカルな下りが連続します。ここでは単なる走力だけでなく、高所への順応、厳しい自然環境を乗り切る精神力、そして戦略的なペース配分といった、ウルトラランナーとしての総合力が問われます。レースは午前7時(日本時間同日午後2時)にスタートします。
女子のレースは2023年インスブルック大会金メダルののマリオン・デレスピエール Marion Delespierre (FRA)、銀メダルのカタリナ・ハルトムート Katharina Hartmuth (GER)、2022年チェンマイ大会で銀メダルのイーダ・ニルソン Ida Nilsson (SWE)といった選手が再びメダル争いを繰り広げます。中でもハルトムートは2023年のUTMBで2位、2024年Hardrock 100で3位、同年のTor des Geantsで優勝。今年もHardrock 100とUTMBでいずれも3位とタフな山岳レースで強さを発揮しています。ニルソンも今年は2月のTransgrancanaria Advanced 83kで優勝、6月のウェスタンステイツでは4位となっています。
今回のロングトレイルにはケイティ・シャイド Katie Schide (USA) が米国代表としてエントリーしており、誰もが彼女が世界チャンピオンのタイトルに近い存在であることを認めるでしょう。UTMBでは2022年、2024年の2度優勝。2024年にはウェスタンステイツとHardrock 100をいずれも優勝する偉業を達成しています。2023年CCC優勝ののち2024年にウェスタンステイツで5位となっているイングビルド・カスペルセン Yngvild KASPERSEN (NOR)も今回初のWMTRC参加です。2022年のチェンマイで4位と惜しくもメダルを逃したエスター・シラー Eszter Csillag (HUN)は2023年と2024年のウェスタンステイツでいずれも3位。今年はオーストラリアの名大会、Buffalo Stampede 100kで優勝しています。加えて、昨年のTORXの130kmのレースTot Dretでの優勝以来、今年6月のMont-Blanc Marathonで5位、Monte Rosa Walserwaeg by UTMB 122kで優勝した最近の注目株、ファビオラ・コンテ Fabiora Conti (ITA) も今回のロングの入賞候補だといえます。
日本代表からは前回のインスブルック大会で9位と健闘した秋山穂乃果 Honoka Akiyama (JPN)に注目です。最近は昨年のKAI70kでの3位やAPTRC選手権・ショートでの3位を経て、今年6月のKaga Spa by UTMB 100kで総合4位、女子優勝を勝ち取ったことが話題になりました。海外レースの参戦は少ないですが、いずれも確かな足跡を残しており、今回のWMTRCでもトップ10入りが期待されます。そして日本を代表するトレイルランナーの一人である吉住友里 Yuri Yoshizumi (JPN) はKaga Spa by UTMB 100kでは秋山に続いて2位と近年は100kカテゴリーでの経験も積み上げています。前回のインスブルックに続いてのロングでのWMTRC参戦となる今回はトップ10圏内を目指します。
さらに加えて、トップ10の候補となる選手として次の名前が挙げられます。
- シルビア・ノルスカー Sylvia NORDSKAR (NOR):2022年チェンマイ大会で12位、2024年Termpliers 80kで2位、2025年CCCで2位。
- スンマヤ・ブッダ Sunmaya BUDHA (NEP):2022年チェンマイ大会で10位、2024年Ninghai by UTMBで優勝、Tsaigu Trail 105kで優勝、2025年Hong Kong 100で優勝。
- ローザ・ララ Rosa Maria LARA (ESP):2023年インスブルック大会で11位。2025年Marathon du Mont-Blancで4位、OCCで6位。
- エリサ・クリスティンスドッティル Elísa KRISTINSDÓTTIR (ISL):2025年Sulur Vertical – Gydjan 100Kで優勝。
- アンドレア・コルベインスドッティル Andrea KOLBEINSDÓTTIR (ISL):2024年オフロード欧州選手権57kで6位。
- ベロニカ・レン Veronika LENG (SVK):2025年Hong Kong 100で2位、Vietnam Ultra Marathon 75kで2位、Chongli 100優勝、CCCで5位。
- アリソン・バーカ Allison BACA (USA):2023年インスブルック大会で6位。2025年Black Canyon 60kで優勝、Desert Rats by UTMB 50k優勝、CCCで10位。
- ジェニファー・リクター Jennifer LICHTER (USA):2023年インスブルック大会のショートで4位。2024年Templiers 80kで5位、2025年Transgrancanaria Marathon 47kで優勝、2025年Speedgoat by UTMB 50kで優勝。
- ジャズミン・ロウザー Jazmine LOWTHER (CAN):2024年Ultra Trail Cape Town 100kで優勝、2025年OCCで8位。
- ロザンナ・ブッカウアー Rosanna BUCHAUER (GER):2023年インスブルック大会で5位。2024年CCCで3位、2025年OCCで11位。
- カタルジーナ・ドンブロウスカ Katarzyna DOMBROWSKA (POL):2022年チェンマイ大会で22位。2025年Transgrancanaria Advanced 83kで3位。2025年Lavaredo by UTMB 80kで4位。
男子のレースはエリート選手の激しいレースであり、世界トップクラスのアスリートの夢の饗宴となるでしょう。2021年チェンマイ大会の覇者、アメリカのアダム・ピーターマン Adam Peterman (USA) と、2023年インスブルック大会を制したフランスのベンジャミン・ルビオル Benjamin Roubiol (FRA) という、スタイルの異なる二人の世界チャンピオンが直接対決します。安定したペースで長距離を走り抜くピーターマンに対し、ルビオルはチェスプレイヤーのように一つ一つの登りを攻略し、他者が力尽きた終盤に強さを発揮する戦略家です。ピーターマンは最近では昨年のCCCで3位、今年のOCCで6位でした。他方のルビオルは2024年オフロード欧州選手権で銀メダル、今年7月のフランス選手権で金メダルを獲得しています。
この二人に割って入るのが、2022年チェンマイで銅、2023年インスブルックで銀と、2大会連続で表彰台に上がっているイタリアのアンドレアス・ライテラー Andreas Reiterer (ITA)と、インスブルックで銅メダルを獲得したスロバキアのペテル・フラノ Peter Frano (SVK)です。ライテラーは今年6月のLavaredo by UTMB 120kで3位、フラノは今年5月のTransvulcania 73kのチャンピオンです。さらに、WMTRCの50マイルに初挑戦する二人の有力選手がレースをかき回しそうです。1人は2022年チェンマイ大会のショート銀メダリストのフランチェスコ・プッピ Francesco Puppi (ITA)。8月のCCCで優勝し、これまでのショートディスタンスのスペシャリストという評判を塗り替える活躍を見せました。もう1人は2019年のWMRA世界選手権の世界チャンピオンであり、UTMBで2度、ウェスタンステイツで4度の優勝経験を持つジム・ウォルムズレー Jim Walmsley (USA) の参戦には多くのトレイルランニングファンが注目しています。先日のOCCでは最終盤の競り合いを制して優勝しています。
日本代表選手は吉野大和 Yamato Yoshino (JPN)、川崎雄哉 Yuya Kawasaki (JPN)、甲斐大貴 Hiroki Kai (JPN)、西村広和 Hirokazu Nishimura (JPN)、田村健人 Kento Tamura (JPN)が今回のロングにエントリーしています。吉野は昨年、2度目のハセツネ優勝を達成したほか、今年4月には100マイルデビューとなったFUJI100mileで6位と健闘しました。川崎は今年のFUJI100mileで3位。甲斐は今年のウェスタンステイツで10位。西村は今年4月のPenyagolosa CSP 106kで準優勝。田村は昨年のハセツネCUPで準優勝しています。選手層の厚い今回のロングのレースでは各選手ともまずは20番台がターゲットとなりますが、そこから何人が20位圏内に入れるかが見どころとなります。
さらにトップ10の候補となる選手として次の名前が挙げられます。
- ケイレブ・オルソン Caleb OLSON (USA):2025年Transgrancanaria 126kで優勝、同年ウェスタンステイツ優勝。
- クリスティアン・ミノッジョ Cristian MINOGGIO (ITA):2022年チェンマイ大会ショート10位、2023年インスブルック大会ショート15位。2025年OCCで2位。
- ペテル・エングダール Petter ENGDAHL (SWE):2023年インスブルック大会ショート13位。2025年Monte Rosa Walserwaeg by UTMB 43kで優勝、OCCで4位。
- アンジェイ・ヴィテック Andrzej WITEK (POL):2023年インスブルック大会ショート7位。2025年OCCで3位。
- ルイゾン・コワフェ Louison COIFFET (FRA):2024年Grand Raid Reunion Trail de Bourbon 101kで優勝、2025年フランス選手権銀メダル。
- バンサン・ブイヤール Vincent BOUILLARD (FRA):2024年UTMB優勝。2025年Chianti by UTMB 122kで3位。
- ミゲル・アーセニオ Miguel ARSENIO (POR):2025年MIUT 115kで2位、同年Swiss Canyon 111kで優勝。
- ラウル・ブタッチ Octaviu Raul BUTACI (ROU): 2022年チェンマイ大会13位、2025年MIUT 115kで3位、同年Lavaredo by UTMB 120kで2位。
- ホアキン・ロペス Joaquin Andres LOPEZ ITURRALDE (ECU):2023年インスブルック大会22位。2024年UTMBで3位、2025年FUJI100mileで優勝。
- バプティスト・シャサーニュ Baptiste CHASSAGNE (FRA):2023年インスブルック大会17位。2024年UTMBで2位、2025年フランス選手権銅メダリスト。
- ザック・ミラー Zach MILLER (USA):2023年インスブルック大会6位。同年UTMBで2位。
- ボグダン・ダミアン Bogdan DAMIAN (ROU): 2022年チェンマイ大会ショートで8位。2025年神戸トレイルで3位、同年OCCで14位。
- ホセ・フェルナンデス José Angel FERNÁNDEZ (ESP): 2022年チェンマイ大会4位、2025年Panyagolosa MiM 60kで優勝。
- ラモン・マネッチ Ramon MANETSCH (SUI):2022年チェンマイ大会12位、2023年インスブルック大会8位。2025年KAT100 by UTMB 81kで優勝。
9月28日日曜日開催「クラシック」:ケニア勢が男女での活躍を目指す
マウンテンランニングにおいて、クラシック種目(またはアップアンドダウン種目)はスポーツの始まりとともに親しまれててきたカテゴリーです。今回のカンフランクでは、メイン会場のカンフランク国際駅の東側の森林と山岳エリアをコースとしており、周回コースを2周して距離14km、累積獲得高度750mD+を走ります。それぞれの距離は短いとはいえ、急な登りとテクニカルな下りを猛スピードで連続して走ることになり、選手に休む暇を与えません。ここでは純粋なスピードだけでなく、変化に富んだ地形に対応する高度なテクニックが勝敗を分けます。
女子のレースは2023年のインスブルック大会の金メダリスト、グレイソン・マーフィー Grayson Murphy (USA) と銀メダリストのトーベ・アレクサンダーソン Tove Alexandersson (SWE) という二人の絶対女王が、揃ってショートトレイルに転向したことで、表彰台のメンバーは一新されそうです。その中で、金メダルの最有力候補となるのはインスブルックで銅メダルを獲得したケニアのジョイス・ニェル Joyce Njeru (KEN) です。短い登りでの爆発的なスピードと、下りでの力強い走りを兼ね備えた彼女が、この好機を逃さず、ケニアにこの種目初の女子金メダルをもたらすことができるか、大きな注目が集まります。アップヒルに続き、このレースも走るクリステル・デワレ Chrstel Dewalle (FRA) やスカウト・アドキン Scout Adkin (GBR) 、ニーナ・エンゲルハート Nina Engelhard (GER)も注目されます。加えて、2023年インスブルック大会のクラシック種目で4位のバレンティン・ルット Valentine Jepkoech Rutto (KEN) や昨年のイタリアでのゴールデントレイルワールドシリーズ・ファイナルの二つのレースでいずれも2位だったローレン・グレゴリー Lauren Gregory (USA)、今年のBroken Arrowで3kmの登りレースで優勝、23kmで3位のアンナ・ギブソン Anna Gibson (USA) もメダルを狙います。
男子でも新世代の活躍が見込まれています。その中でも前回のインスブルックで銀メダルに輝いたケニアのフィレモン・キリアゴ Philemon Kiriago (KEN) は、23歳で挑む今年のカンフランク大会で世界の頂点、すなわち金メダルを目指します。序盤から積極的にリードすることを厭わない彼のアグレッシブな走りは、男子のクラシックレースにスペクタクルな展開を約束するでしょう。しかし、同世代のケニアのアスリート達もその頂点を狙っています。ポール・マチョカ Paul Machoka (KEN)は8月のシエール・ジナルで昨年の6位に続いて今年も5位となりました。GTWSで活躍するティモシー・キベット Timothy Kibett (KEN)にも注目です。欧米勢ではアップヒルに続いての出場となるルーカス・エーレ Lucas Ehrle (GER)や、チェンマイで9位、インスブルックで7位のチェーザレ・マエストリCesare Maestri (ITA)、今年のシエール・ジナルで7位のドミニク・ローリ Dominik Rolli (SUI)といった選手も活躍が見込まれます。
今回のカンフランクでのクラシック種目は急な登りと滑りやすい下りが連続することから、地の利を持つ選手が有利と見られています。一方、クラシック種目はその距離の短さから一瞬の判断ミスが命取りになる一方で、若く爆発力のある新たな才能がブレイクすることも期待されます。カンフランクのクラシック種目では今後活躍するヒーローの才能を目にすることができるかもしれません。
世界選手権のレースをライブ配信で応援、日本代表の活躍にも注目
スペイン・カンフランで開催されるWMRTC世界選手権は9月24日水曜日の開会式で始まり、翌日からの四日間にわたって以下の日程で開催されます。いずれのレースについてもレースをリアルタイムで伝える大会公式のライブ配信が予定されています。また、一般財団法人日本トレイルランニング協会のソーシャルメディアでは日本代表選手の表情やレースの途中経過について発信する予定です。
9月25日木曜日
- アップヒル(6.4km, 990mD+): 男子:10:00(日本時間17:00) 女子:11:00(日本時間18:00)
9月26日金曜日
- 【日本代表出場レース】ショートトレイル(44.5km, 3,657mD+):8:00(日本時間15:00)
9月27日土曜日
- 【日本代表出場レース】ロングトレイル(81.2km, 5,413mD+):7:00(日本時間14:00)
9月28日日曜日
- U20(7.8km, 397mD+):女子:8:15(日本時間15:15) 男子:9:30(日本時間16:30)
- クラシック(14.3km, 775mD+):女子:10:30(日本時間17:30) 男子:12:50(日本時間19:50)
日本トレイルランニング協会の「日本代表応援プロジェクト」は締め切られましたが、引き続き協会の賛助会員となることなどを通じた支援を受付中です。
世界最高峰の選手たちがピレネーの山々に集う2025年マウンテン&トレイルランニング世界選手権について、DogsorCaravanでは、連日お伝えしていく予定です。














