この骨伝導ヘッドフォンの前世代モデルとなる「Suunto Wing」をレビューした経験があり、一見したところデザインもよく似た新モデルにはさほど期待していませんでした。しかし実際に試してみると、それはよくできてはいたものの普通の骨伝導ヘッドホンだった初代モデルから大きく進化し、アスリートのための「ギア」となっていました。
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Suunto Wing 2は、単なる骨伝導ヘッドホンというカテゴリーには収まらない、ユニークな立ち位置を確立した製品だと感じます。それは、アスリートがトレーニング現場で直面するリアルな課題、たとえば専用充電ケーブルの煩わしさや長距離アクティビティでのバッテリー切れといった問題に、一つひとつ丁寧な答えを出しているからです。さらに、SuuntoのGPSウォッチと連携することで、トレーニングデータを音声でリアルタイムに受け取れるなど、その真価は最大限に発揮されます。新世代の「Wing 2」となったことで、もはや単体のオーディオ機器ではなく、アスリートのパフォーマンスと安全性を向上させるための、統合された「システム」の一部なのです。
Suunto Wing 2の主な進化点:ランナーの声に応えて使い勝手が大きく向上
先行モデルの「Wing」から見た目はほとんど変わらない「Wing 2」がどのように進化したのか?四週間にわたって使って感じた、単なるスペックの向上にとどまらない、Wing 2の質的な進化を紹介します。
防水キャップ付きUSB-Cポートで専用ケーブルが不要に
シンプルですが、これがSuunto Wing 2で最も嬉しかった改良ポイントです。これまで他社のものも含めて骨伝導ヘッドホンは試してきましたが、外出する度に専用のマグネット接続の端子のついた充電ケーブルを持ち歩くのは小さいけれども確実なストレスでした。Wing 2ではヘッドセット本体に直接、防水キャップ付きのUSB-Cポートが搭載されました。スマホ、ワイヤレスイヤホン、GPSウォッチ、ラップトップPCと多くのガジェットをUSB-Cで充電できるようになった今、「一本のケーブルでいつでも充電できる」と安心感は大きなものです。
パワーバンクと合わせて36時間の持久力
ヘッドホン本体に、充電台ともなる専用のパワーバンクが付属することで、長時間の使用が可能になるという構成は初代のSunnto Wingと同じですが、初代の最大30時間から新登場のWing 2では36時間へとさらに長時間の使用が可能になりました。実際に今回の試用でも一週間のランニングで合計10時間ほど、加えて一日1、2時間ほどデスクワークをしながらWing 2を使いましたが、パワーバンクの充電は一度も必要ありませんでした。
これであれば、100マイルレースのスタートからフィニッシュまでバッテリーの心配をすることなく、音楽を聴き続けることができるというランナーも多いのではないでしょうか。

この写真は初代Wingだが、充電台ともなるパワーバンクはWing 2と共用することができた。
この製品の場合は自動で電源オフになる機能は備えていないので、うっかり電源を切らないままにしてバッテリー切れとなっている可能性があります。この場合も10分で2、3時間の使用が可能な急速充電ができるのも便利です。
音質も着実に進化
耳を塞がずに外音が自然に聞き取れる骨伝導ヘッドホンに高い音質を求めるのは無理、というのが一般的な評価です。しかし、初代のWingと新製品のWing 2を付け替えながら音楽を聴いてみると、Wing 2の音質の方が深みがあると感じました。特に、骨伝導式が苦手としている低音の響きがWing 2でははっきりと感じられるのです。
これまでの骨伝導ヘッドホンでは軽くなりがちだったベースラインがしっかりと聞き取れるようになっています。これまで骨伝導で音楽を聴くことはなかったのですが、これならロードやトレイルのランニング中に積極的に音楽を聴こうという気になります。一方、これまでよく聴いていたポッドキャストについては、風切り音の中でもホストの声が驚くほどクリアに聞こえます。初代との比較でWing 2では最大音量が5dB上がっており、その恩恵は交通量の多いロード沿いを走る時にはっきりと感じらました。
なお、付属の耳栓を使うと外音は聞こえなくなりますがヘッドホンの音に集中できて、体感する音質は一気に向上します。移動中の電車や飛行機の中でこの手を使えば、もう一つイヤホンを持ち歩く必要もなくなります。
SuuntoのGPSウォッチと組み合わせることで、手首を見ずに音声でフィードバックが受けられる
そしてこれこそがSuuntoがヘッドホンを作るからこそ可能になった、最大のメリットです。GPSウオッチのRace 2と骨伝導ヘッドホンのWing 2を組み合わせて使うことで、ランニング中のペース、距離、心拍ゾーンといったデータを、リアルタイムで耳元に音声で知らせてくれるのです。走っている最中に腕を動かしてウォッチに目線を落とすことなく情報が得られるのは、特にエリートレベルのアスリートにはメリットが大きいでしょう。
筆者はそこまで追い込んだ練習はしていないのですが、インターバルトレーニングではこの音声フィードバックが特に有効なようです。設定ペースから外れると即座に音声でアラートが来るので、ペースの維持や呼吸に集中できるそうです。スポーツブランドのSuuntoだからできる「統合されたトレーニング環境=エコシステム」を実現するための重要なピースが、Wing 2なのです。
赤いLEDライトがより賢くなり、安全に走るための装備になった
両耳の後ろ側に来るパーツに赤く点灯するLEDライトが設けられているのは初代のWingと同じですが、Wing 2ではより実用的な設定ができるようになりました。スマホのSuuntoアプリで自分のランニングピッチに合わせて点滅するモードに設定すると、後方から近づく車に自分が走っていることを効果的に知らせてくれるように感じます。
単に光っているだけ、規則的に点滅しているだけ、というよりも動きのある光の方がドライバーの注意を引くに違いありません。この辺りも実際にランナーからのフィードバックを受けながら開発するSuuntoらしい発想の現れなのでしょう。
装着感とワンサイズゆえの弱点
チタンとシリコンでできた35gの本体は着けていることを忘れるほど軽く、耳の前を抑えられているという圧迫感もあまり感じません。それでいて、弾むような動きをしてもWing 2がズレるような感覚は感じませんでした。
しかし、他ブランドでは子どもや小柄なランナー向けにミニサイズの骨伝導ヘッドホンも展開しているのに対して、Sunnto Wing 2は今のところ「ワンサイズ」のみの展開です。もしかすると人によっては満足できるフィット感が得られないかもしれません。
このほかにも、ランニング以外のシーン、例えば仰向けになって寝る時やヘッドレストに頭を預けて座る時も、ネックバンドが前方に押し出されてしまい、使いづらいと感じました。こうした使い方をしたい場合は、別のイヤホンなどを用意する必要があるかもしれません。
Suunto Wing 2はランナーのリスニング体験を変え、ウォッチと併用でさらに完成度を高める
この一ヶ月、Suunto Wing 2をランニングや日常生活で使い込んでみて、見た目は初代と大きく変わらないこの新製品は、見た目だけでは想像できないほど完成度を高めた骨伝導ヘッドホンだと確信しました。次のようなケースに当てはまるランナーにとっては、従来の骨伝導ヘッドホンを超えるギアとしてWing 2の威力を実感できるでしょう。
- エンデュランスアスリート。 100マイルのトレイルを走る、何日もバイクで旅をする。そんな人には36時間のバッテリーは他にはない選択肢です。
- Suuntoウォッチのユーザー。 Suunto Race 2と組み合わせることでウォッチから音声フィードバックを受けられるのは、Suuntoユーザーだけが得られる特権です。トレーニングの質が劇的に変わるでしょう。
- 安全を第一に考えるランナー: 夜間も走り続ける長距離トレイルレースはもちろん、早朝や夜間に走るランナーであれば、進化したLEDライトは交通事故から身を守るのに有効な機能です。
- 専用ケーブルにうんざりしているすべての人: いつも持ち歩いているUSB-Cケーブルさえあれば、充電できずに使えないという心配はなくなります。
一方で、ランニング以外でベンチプレスのような仰向けになる動作で使う人や、ワンサイズ展開では満足なフィット感が得られない場合は他社製品を選んだ方が良さそうです。
Suuntoウォッチユーザーにとって、Wing 2はエコシステムを完成させるピースとしての意味があるアイテムです。しかし、Suuntoユーザーでなくても圧倒的な持久力、安全性、そしてUSB-Cがもたらす解放感は、十分にその価格に見合う価値があります。骨伝導ヘッドホンの常識を破り、自分の限界に挑むアスリートのためのギアとしておすすめしたいアイテムです。















