2025年シーズンのグランドフィナーレは「2週間の旅」へ。HOKA Chiang Mai Thailand by UTMBが示すアジア・メジャーの進化。

11月も半ばを過ぎ、欧州や北米のトレイルシーズンがシーズンオフの静寂に包まれ始める頃、世界のトレイルランニングの注目はアジアへと集まります。

UTMBワールドシリーズの2025年シーズンを締めくくる最終戦であり、アジア・パシフィック地域の「メジャー」大会として不動の地位を築いた HOKA Chiang Mai Thailand by UTMB が、いよいよ開幕します。6回目を迎える今年は、従来のフォーマットを大胆に刷新。二つの週末にまたがるフェスティバル形式へと進化を遂げ、世界各地から7,200名を超えるランナーをタイ北部の山岳地帯へと誘います。

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参加者の56%がアジア地域から集まるというこのビッグイベントは、単なるレースの枠を超え、アジアのトレイルランニングシーンの成熟と熱量を示す象徴的なイベントとなります。プレスリリースから読み解く、今年の注目ポイントを解説します。

(All photo (c) UTMB)

「1つの大会、2つの週末」という実験

今年の最大の特徴は、開催期間とロケーションが2つの週末に分割されたこと。これは急増する参加者を受け入れるためのキャパシティ調整という側面だけでなく、タイ北部の多様なテレイン(地形)をより深く味わうための意図的な演出と言えます。

  • Week 1(11月29日〜30日): 「タイの屋根」の異名を持つ最高峰エリア、ドーイ・インタノン国立公園(Doi Inthanon National Park) が舞台。高所特有の冷涼な空気と神秘的な雲霧林の中を駆け抜けます。
  • Week 2(12月4日〜7日): 舞台を古都 チェンマイ(Chiang Mai) へと移し、PAOパークを拠点とした都市近郊型のトレイルを展開。12月5日のタイのナショナルデー(祝日)を含む日程で、街全体が祝祭ムードに包まれます。

レースディレクターの ティティ・ヤクル Thiti Yakul は、「この拡張は、アジア・メジャーとしての我々の地位と、比類なき体験を提供するというコミットメントの表れです」と語り、新設されたコースへの自信を覗かせています。

「Hmong 50」に集結する世界のエリートたち

競技面で特筆すべきは、今回は100マイルではなく、中距離カテゴリーに世界トップクラスのタレントが集中している点です。特に12月6日土曜日に開催される「Hmong 50 (Day)」のスタートリストは、ワールドシリーズファイナルさながらの豪華さを誇ります。

男子では、アメリカのスピードスター、ヘイデン・ホークス Hayden Hawks (USA) と、スペインの実力者 アントニオ・マルティネス・ペレス Antonio Martínez Pérez (ESP) がエントリー。両者ともUTMBインデックスが912という極めて高いスコアを持つアスリートです。これに中国の モン・グアンフー Guangfu Meng (CHN) や、イタリアの ロレンツォ・ベルトラミ Lorenzo Beltrami (ITA) がどう絡むか。激しい先頭争いとスピーディなレース展開が予想されます。

女子も負けてはいません。ショートディスタンスの「Suthep 20 (Night)」では、ネパールの若き女王 スンマヤ・ブッダ Sunmaya Budha (NPL) と、スイスのレジェンド モード・マティス Maude Mathys (SUI) が激突。

そして女子の「Hmong 50 (Day)」には イクラム・ラルサッラ Ikram Rharsalla (ESP) と チェン・リン Lin Chen (CHN) が、「Elephant 100」にはベトナムの ハウ・ハ・ティ Hau Ha Thi (VNM) が名を連ねており、アジア勢と欧州勢のハイレベルな攻防が見られそうです。

UTMBファイナルへの「210枚」の直行チケット

なぜ、シーズン終盤のこの時期にこれほどのエリートが集まる理由の一つは、メジャー大会特有の特典にあります。

本大会では、UTMBの各カテゴリー(100M、100K、50K)の三つのレースについて、男女トップ10および年代別優勝者に対し、シャモニーで開催されるUTMBワールドシリーズ・ファイナルへのダイレクトエントリー権が付与されます。その数は合計で210枠。

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抽選を排除し、確実にシャモニーへの切符を手にできるこの機会は、熱意あるランナーにとって見逃せないチャンスです。もちろん、完走者全員に通常の2倍のランニングストーンが付与される点も、多くの市民ランナーを惹きつける大きな要因となっています。

参加賞を「消防服」に変える選択

この大会では競技面だけでなく、大会が打ち出した環境への取り組みも注目されています。

近年、参加賞Tシャツが受け取る側にとって必ずしも歓迎されるわけではないにもかかわらず提供されているのでは、という議論があります。本大会では「オプトアウト(辞退)」の選択肢を提供。その結果、今年は1,381個のアイテムが辞退されました。

興味深いのはここからです。大会側はこの浮いたリソースを活用し、ドーイ・インタノン国立公園のスタッフのための「消防服」を作成・寄贈しています。また、ランナーの45%が森林火災防止プロジェクトへの寄付を選択したとのこと。

単に「モノを減らす」だけでなく、トレイルランニングのフィールドである山を守る人々への直接的な支援(装備)へと変換する。この具体的かつ循環型のサステナビリティアクションは、他の大会にとっても一つの指標となるでしょう。

ライブ配信でアジアの熱狂を目撃しよう

コースは今年も進化しており、100マイルの「Chiang Dao 160」と100kmの「Elephant 100」は、ユネスコ生物圏保存地域である ドーイ・ルアン・チェン・ダオ(Doi Luang Chiang Dao) の周縁を巡るルートに刷新されました。ロード区間が減り、より自然との調和を重視したタフなコース設定となっています。

このアジア最大級のトレイルランニング・フェスティバルの模様は、UTMB Liveなどで生中継される予定です。2025年シーズンの締めくくりとして、アジアのトレイルが世界の中でどのような存在感を示しつつあるのか。その現在地を、ぜひその目で確かめてください。

DogsorCaravanでも2週目の12月3日からチェンマイに入り、今年の大会を現地からレポートします。

大会スケジュール(レーススタート時刻)

第1週:ドーイ・インタノン(Doi Inthanon)

  • 11月30日(日) 07:00(日本時間 09:00): INTHANON 50 (39km, 2200mD+)
  • 11月30日(日) 08:00(日本時間 10:00): INTHANON 20 (20km, 800mD+)

第2週:チェンマイ(Chiang Mai)

*は上位入賞選手にUTMBワールドシリーズファイナルへのダイレクトエントリー権を付与

  • 12月5日(金) 09:00(日本時間 11:00): ELEPHANT 100 (96km, 4600mD+)*
  • 12月5日(金) 11:00(日本時間 13:00): CHIANG DAO 160 (168km, 8100mD+)*
  • 12月6日(土) 07:00(日本時間 09:00): HMONG 50 – DAY (56km, 2400mD+)*
  • 12月6日(土) 16:00(日本時間 18:00): SUTHEP 20 – NIGHT (21km, 1200mD+)
  • 12月6日(土) 18:00(日本時間 20:00): HMONG 50 – NIGHT (56km, 2400mD+)
  • 12月7日(日) 06:30(日本時間 08:30): SUTHEP 20 – DAY (21km, 1200mD+)
  • 12月7日(日) 07:30(日本時間 09:30): CHEDI 20 (17km, 700mD+)
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