日本初、地球を再生する日本酒が誕生・郡山の酒蔵とパタゴニアが切り拓く新しい農業のかたち「リジェネラティブ・オーガニック」

アウトドアブランドのパタゴニアが、なぜ日本酒を作るのか。その答えは、私たちが足を踏み入れるフィールドそのものを守ることにありました。

2025年11月27日、パタゴニア日本支社は福島県郡山市の酒蔵・仁井田本家と共同で、日本で初めて「リジェネラティブ・オーガニック認証 Regenerative Organic Certified」を取得した日本酒「やまもり 2025」の発売を発表しました。この認証取得に至るまでの道のりは2021年から約5年。単なる有機栽培を超えて、作れば作るほど土壌や生態系が再生されるという、革新的な農業のあり方を日本の水田で実証した成果です。

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東京都内で行われた発表会を取材しました。

「再生型農業」という選択

リジェネラティブ・オーガニック Regenerative Organicとは、日本語で「再生型有機農業」と訳されます。従来の有機農業が化学肥料や農薬を使わないことに重点を置いているのに対し、リジェネラティブ・オーガニックは「作れば作るほど土壌や農地の生態系が再生される」ことを目指します。つまり、地球から受け取るよりも、より多くのものを地球に返すことができる農法です。

この認証制度は、アメリカの非営利団体であるリジェネラティブ・オーガニック・アライアンス Regenerative Organic Allianceが管理・運営しており、土壌の健康、動物福祉、社会的公平性という3本の柱から成り立っています。それぞれの柱には、オーガニック認証、アニマルウェルフェア認証、フェアトレード認証といった国際的な認証制度が紐づいており、これらすべてを包括的に満たすことが求められます。

パタゴニア日本支社の近藤さんは、「農地の管理手法だけにフォーカスを当てた認証が多い中で、リジェネラティブ・オーガニック認証は、そこで働く人々の生活や環境、その関係性にまで目を向けた本当に包括的な認証制度」だと説明します。健全な土壌や環境を再生していくためには、人々やコミュニティ全体の健全性も欠かせないという考え方です。

300年続く酒蔵の新たな挑戦

仁井田本家は、300年以上の歴史を持つ酒蔵です。18代目蔵元の仁井田穏彦(にいだ・やすひこ)さんは、「田んぼを守る酒蔵になる」というミッションを掲げ、農業法人「仁井田本家アグリ」を通じて、自社田で無農薬の米作りを続けてきました。

仁井田本家18代目蔵元の仁井田穏彦(にいだ・やすひこ)さん

仁井田本家18代目蔵元の仁井田穏彦(にいだ・やすひこ)さん

2021年、パタゴニアから日本でのリジェネラティブ・オーガニック認証の実証プロジェクトへの参加を打診された際、仁井田さんは真っ先に「ぜひうちもやりましょう」と声を上げました。しかし、そこには大きな衝撃も伴っていました。

「父が1965年から農薬や化学肥料を使わない自然栽培で米作りをしてきたことが、地球のためになっていると思っていました。しかしパタゴニアさんからROの話をいただいたときに、実は水田はメタンガスを出していて、それは二酸化炭素の20数倍の温室効果があるという話を聞いたときは、本当にショックでした」と仁井田さんは振り返ります。

多少は地球に貢献していると思っていたことが、実は温暖化の一因になっていたかもしれない。しかし仁井田さんは、このショックを前向きな学びの機会に変えました。「じゃあどうやったらそれが解消できるのかを勉強しましょうという思いが強くありました。今年認証を取ることができて、どういうことをしていけばいいのかが少し見えてきました」。

水田の多面的価値を世界基準に

今回の認証取得で特に画期的だったのは、日本の水田稲作システムにおける多面的価値が、国際認証の中で再定義されたことです。

リジェネラティブ・オーガニック認証は、もともとアメリカの大陸型農業、つまり畑作をベースに作られた認証制度でした。そのため日本の気候風土やアジアモンスーン地域に適合させるためには、一から探求していく必要がありました。

近藤さんは説明します。「水田には生態系を育み、国土の保全につながるような、非常に高い環境的な価値があります。単なる食料生産の場だけではなく、生き物の生態系としてその土地を育んで、ランドスケープの中で環境を保全していく意味合いを水田は持っています。その部分が水田稲作ガイドラインに国際認証の中で定義されたというのは、非常に大きなインパクトがあります」。

実際に仁井田本家の水田では、環境省の絶滅危惧種であるトウキョウダルマガエルが数多く生息しています。田んぼの横にビオトープがあることで、周辺の生態系全体が豊かになっているのです。

さらに仁井田本家では、水田から発生するメタンガスと、自社で管理する山林によるCO2吸収のバランスを考えた経営を行っています。島根大学教授の金子信博先生によれば、「田んぼからはメタンガスが出ますが、森林は一方でメタンガスはほとんど出さずにCO2をたくさん吸収して蓄えます。田んぼと森林を一緒に経営することで、温室効果ガスに関しては温暖化の抑制に仁井田本家が寄与していると言うことができます」。

地域の循環を体現する「やまもり」

今回発売される日本酒「やまもり 2025」は、パタゴニア プロビジョンズのオリジナル純米酒として醸造されます。この名前には、米を育む水田だけでなく、水を守る山も大事にするという仁井田本家の哲学が込められています。

仁井田さんは語ります。「毎年、自社山の杉の木で木桶を作っていくんですが、これは私の祖父が80年前に植えてくれた杉の木を使っています。祖父が植えた杉の木を切ることで、新たな杉の苗を植えることができますので、山の新陳代謝も促され、保水力が上がって大事な水が守られる。同時に、この村で育った杉の木を使って、この村の米で、この村の微生物たちがお酒を醸すので、とても良いテロワールを持ってくれると思っています」。

この循環の思想は、50年前から農薬・化学肥料を使わない農法を始めた父や、80年前に杉を植えた祖父から受け継がれてきたものです。「自分たちだけが良ければいいわけではなくて、次に何を残してあげられるか。もし私の寿命の中でそれが叶わなくても、きっと僕の子供と孫がそれを実現してくれる。自分の一生を超えた夢が見れるというのはとてもワクワクするし、楽しみです」と仁井田さんは語ります。

製品は「やまもり 2025」720mlと「やまもり 2025 ミニ」150mlの2種類で、アルコール度数は13%です。原材料は米、米こうじで、生産者は仁井田本家(福島県郡山市)、発売日は2025年12月11日(水)となっています。

日本の農業に開かれた扉

今回の認証取得により、日本国内でのリジェネラティブ・オーガニック監査サービスが、国際認証機関の日本支社であるエコサートでスタートすることになりました。これまで日本国内には、この包括的な認証を監査できる機関が存在しませんでしたが、2025年7月にリジェネラティブ・オーガニック認証で水田稲作ガイドラインが制定され、その制定にパタゴニア日本支社が協力したことで、世界の人口の約半分の主食である米の栽培方法を改善することが可能になりました。

現在、リジェネラティブ・オーガニック認証は世界46カ国、約340ブランド、約2,750製品に広がっています(2025年11月時点)。市場としてはアメリカやヨーロッパが牽引していますが、今回の「やまもり 2025」の誕生により、日本にも認証農地を示す点が地図上に加わりました。

仁井田さんは期待を込めて語ります。「農業から環境が悪化しているという話がありますが、そうではなくて、農業で地球環境を逆に再生するんだという思いを、まず関心を持っている日本の農業の皆さんにも見てほしい、聞いてほしい。オーガニックな米作りがどんな効果をもたらしてくれるのか、自分たちにも、土壌にも、周りの環境にも良い影響が生まれるという思いを持ってくださる農家さんが増えれば、日本の水田から環境を再生する力がより生まれてくるんじゃないかな」。

なぜパタゴニアが日本酒を作るのか

パタゴニアのミッションステートメントは「ふるさとである地球を救うためにビジネスを営む We’re in business to save our home planet」です。アウトドアウェアメーカーとして、自然のフィールドに依存するパタゴニアにとって、その自然を守ることは事業の根幹に関わる問題です。

近藤さんは説明します。「地球の資源、土壌や海の水域が地球を健全に保つ上で非常に重要です。その土壌の健全性に、世界中で営まれている農業が大きな影響を与えている。近代的な工業型農業は砂漠化を進め、土壌の劣化を速いスピードで招いてしまう。それを健全な状態に再生させていくことが、地球を良くしていく最大の手段だと考えて農業に入っていきました」。

パタゴニアは1996年に使用する全てのコットンを、慣行栽培からオーガニックコットンに100%切り替えました。しかし、オーガニックコットンでも土壌から養分を搾取する側面があることから、さらに一歩進んで、土そのものを作れば作るほど健全に戻していくリジェネラティブ・オーガニックにコミットすることを決めました。2017年には、健全な土壌と人間と動物の福祉を尊重する「リジェネラティブ・オーガニック認証」を他団体と設立しました。

食品ブランド「パタゴニア プロビジョンズ」も同じ哲学に基づいています。リジェネラティブ・オーガニック認証を取得した原材料を使った食品を提供することで、土壌を再生する農業を支援し、広げていくことが目的です。パタゴニア日本支社は、日本での食と農業の変革を目指し2016年にパタゴニア プロビジョンズを開始。2021年から3事業者と認証取得に取り組んできました。

山を、川を、里を守る

トレイルランニングにとって、健全な森林と水田の存在は、豊かなフィールドの基盤です。水を蓄え、土砂崩れを防ぎ、生態系を育む山と田んぼは、トレイルランニングのフィールドとしても貴重な里山の風景そのものを形作っています。

「やまもり」という名前には、そんな日本の風土を守り続けるという意志が込められています。1本のボトルの背景には、80年前に植えられた杉の木、50年前に始まった無農薬の米作り、そして5年間かけて取得した国際認証があります。それは、自分の一生を超えた夢を見ることができる、壮大な時間軸の物語です。

アルコール度数13%の「やまもり 2025」は、米の味がしっかりとしながらも軽快に飲める、中口の純米酒に仕上がっています。発売は12月11日(水)で、パタゴニア直営店、パタゴニア公式オンラインショップ、FOOD&COMPANY全店(ムスビガーデン青葉台、千葉幕山店、麻農家 六本木店、cask、ワイン館、ヤマダストアー(一部店舗)、ビオ・あつみエピスリー浜松など)で取り扱われます。

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やまもり 2025

容量・価格:720ml 3,300円(税込)

https://www.patagonia.jp/product/PRZ32.html

やまもり2025 ミニ 6本

容量・価格:150ml×6本 5,400円(税込)

https://www.patagonia.jp/product/PRZ53.html

Photo (c) Taro Terasawa, 2025 Patagonia, Inc.

Photo (c) Taro Terasawa, 2025 Patagonia, Inc.

Taro Terasawa(C)2025Patagonia, Inc.

一杯の日本酒から、地球を再生する農業が始まる。それは決して大げさな話ではありません。私たちの選択が、未来のフィールドを作っていくのです。

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