【レビュー】まるで腕にある紙地図。Suunto Vertical 2の圧倒的な視認性とバッテリーが変える「冒険の質」

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フィンランドのスポーツウォッチブランド、 SUUNTO( スント)は10月に「Suunto Vertical 2」を発表しました。

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9月に発売されたランニングとトレーニングに焦点を当てた「Suunto Race 2」と同様に鮮明なAMOLEDディスプレイとデュアルバンドGPSを備えつつも、大容量バッテリーやLEDフラッシュライト搭載によりアウトドアでのアドベンチャー仕様に仕上げられたのが「Suunto Vertical 2」です。

DogsorCaravanではこの新製品をSuuntoからレビューのために一週間借りることができたので、そのレビュー記事をお送りします。

Suuntoのフラッグシップモデルが高精細のAMOLEDディスプレイにアップデート

「Suunto Vertical 2」ではディスプレイが前世代モデルで使っていたMIP(メモリインピクセル)液晶から、AMOLED(有機EL)に変更されました。このことはこの新製品の最大の注目ポイントです。

アウトドアのフィールドで長時間のアクティビティを行うトレイルランナーやハイカーにとって、ウォッチのディスプレイはバッテリーの消費が抑えられることで長時間の使用が可能なMIP液晶が当然の選択でした。その結果、ディスプレイの視認性は犠牲になっていました。

美しい発色と高解像度を誇るAMOLED(有機EL)ディスプレイは魅力的ですが、長時間のウルトラトレイルや数日間にわたる縦走登山においては、バッテリー消費への不安が常につきまといます。バックパックに予備のモバイルバッテリーと充電ケーブルを忍ばせておき、アクティビティのログが途切れないようにするには「どのタイミングで充電しようか」と頭を悩ませた経験があるのは私だけではないでしょう。

一方で、省電力性に優れた従来のMIP液晶は、バッテリーの持ちこそ素晴らしいものの、複雑な地形図の判読や、薄暗い森の中、あるいはヘッドライトの光が乱反射する夜間の視認性には限界がありました。コントラストの低い画面でもタイムや距離の数字を読み取るのは容易ですが、マップの等高線やナビゲーションの軌跡を追うのは、疲労した脳にとって少なからずストレスとなります。

Suuntoがフラッグシップモデルとなる「Vertical 2」にAMOLEDを採用したことは、ディスプレイとバッテリーのトレードオフはもはや気にする必要がない、と判断したということになります。

アクティビティに「トレイルランニング」を選択。スタート前にバッテリー持続時間が確認できる(左上)。

アクティビティに「トレイルランニング」を選択。スタート前にバッテリー持続時間が確認できる(左上)。

「MIPの終焉」と新たなバッテリーキングの誕生

Suunto Vertical の先代モデルではMIP液晶ディスプレイにソーラー充電機能を組み込むことで長時間の駆動を可能にしていました。しかし、AMOLEDを採用した新しい「Vertical 2」でも駆動時間は犠牲になっていません。

スペックを見るとVertical 2は最大輝度2,000ニトを誇る1.5インチの高精細なディスプレイを搭載しながら、最もバッテリーを消費する「デュアルバンド(マルチバンド)GNSSモード」において、最大65時間という驚異的な駆動時間を実現しています。

この「65時間」という数字が持つ意味は絶大です。これは、100マイルレース(制限時間が概ね30〜48時間)を、画面を常時表示させ、最高のGPS精度でログを取り続けても、一度も充電することなく完走できることを意味します。競合のハイエンド機でも同様のシナリオでバッテリー持続時間は約35〜47時間というものが多く、実用面において圧倒的なアドバンテージとなります。

さらに、GPS精度を落としたツアーモードでは最大250時間の連続稼働が可能。これは1週間以上の縦走や遠征においても、充電ケーブルから解放されることになります。もはや、バッテリーのために画面の美しさを犠牲にする必要はなくなったのです。

この技術的ブレークスルーの背景には、LTPO(低温多結晶酸化物)技術によるディスプレイのリフレッシュレート制御の進化と、バッテリー密度の向上が寄与しています。必要な時だけ画面を高速で書き換え、静止時は極限まで電力を抑えるこの技術により、ソーラーパネルを排除してでもディスプレイの視認性とバッテリー容量を最大化するという判断が可能になりました。

「Vertical 2」は、曇天や樹林帯でも変わらない視認性とスタミナを提供し、ユーザー体験を飛躍的に向上させる現代のアウトドア・スマートウォッチの進化の現在地を象徴する新製品だといえます。

ウォッチにダウンロードしたマップ上で、設定したGPXファイルのルートを表示しながら現在地が確認できる。ルートから外れるとこのようにウォッチが振動して「オフルート」と表示される。

ウォッチにダウンロードしたマップ上で、設定したGPXファイルのルートを表示しながら現在地が確認できる。ルートから外れるとこのようにウォッチが振動して「オフルート」と表示される。

「冒険」に特化した硬派なハードウェア設計が兄弟機「Race 2」との決定的違い

Suuntoの製品ラインナップにおいて、Vertical 2は「冒険と遠征(Adventure & Expedition)」に特化したモデルとして位置づけられています。

8月に発売されたレースやトレーニングにフォーカスした兄弟機「Suunto Race 2」と比較検討する方も多いでしょう。両モデルはディスプレイや心拍センサー、GNSSチップ、プロセッサといったGPSスマートウォッチの「心臓部」のスペックは共通していますが、その設計思想には明確な差があります。Race 2がデジタルクラウン(回転式リューズ)による軽快な操作性を重視し、「速さ」やトレーニングの快適さを追求しているのに対し、Vertical 2は伝統的な3ボタンインターフェースを頑なに守り続けています。

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3ボタンによる操作は一見古風に見えるかもしれませんが、これも極限のアウトドア環境での操作を想定したものなのでしょう。例えば、冬山で分厚いグローブを装着している時や、泥まみれの手で操作するシーンを想定すれば、回転式リューズでは誤操作のリスクがあります。しかし、物理的に「押した」感触が得られるボタンであれば、意図した通りの操作が保証されるということなのでしょう。

また、ウォッチのケースのサイズはRace 2の12.5mmに対して、Vertical 2が13.3mmと僅かに厚みを増しただけにとどまっているにもかかわらず、バッテリーの持続時間は大幅に強化されました。最も精度の高いデュアルGNSSモードでの稼働時間はRace 2の稼働時間が約55時間であるのに対し、Vertical 2は約65時間と、プラス10時間の余裕を持たせています。重量こそRace 2より若干増しますが(チタンモデルでRace 2の65gに対してVertical 2は74g)、それでも49mm径の大型ディスプレイ搭載機としては他社の競合製品と比べてもかなりの軽さです。

シンプルなパッケージ。専用の充電ケーブルが付属する(左下)。

シンプルなパッケージ。専用の充電ケーブルが付属する(左下)。

実用的な内蔵LEDフラッシュライトを搭載

さらに、Vertical 2が備える機能で、Race 2にはない重要な機能があります。それはウォッチの上側の側面に設けられたLEDフラッシュライトです。小さな発光面ですが、光量を四段階で切り替えられるほか、SOSの点滅、赤色での点灯といった発光モードがあります。

万が一の遭難時の非常用ライト、救助隊へSOSのシグナルを発信するといった使い方だけでなく、暗い中でバックパックやドロップバッグの中を手元で照らすためのライトとしても実用的です。筆者の体験では、普段の生活の中で家族が横で寝ている時に起き出すというような場合の灯りとしても便利でした。

夜も走ったり歩いたりするアクティビティを想定するなら、この独立したLEDフラッシュライトの存在はVertical 2を選ぶ大きな理由になるでしょう。

ハイエンドモデルながら戦略的な価格設定、コアなスポーツユーザーには魅力的

革新的なスマートウォッチとはいえ、価格とのバランスは無視できない問題です。昨今の円安に高機能化もあって、トップエンドのアウトドアウォッチの価格帯は20万円に迫る勢いで、購入のハードルは年々上がっています。

しかし、Suunto Vertical 2はこの点においても非常に戦略的です。

  • Suunto Vertical 2 Titanium: 約12万円
  • Suunto Vertical 2 Stainless Steel: 10万円以下

競合他社のフラッグシップモデル(Sapphire AMOLED搭載機など)が約17万円前後であることを考えると、この5〜7万円という価格差は、ユーザーにとって非常に大きな魅力です。

もちろん、Suuntoにはタッチ決済や音楽保存機能といった機能がないのですが、こうしたスポーツアクティビティの経験に直接関わらない機能のために、5〜7万円の価格上乗せを認められるユーザーは限られるのではないでしょうか。こうした機能は常に持ち運ぶスマートフォンでもカバーされています。

「多機能なスマートウォッチ」よりも「アウトドアギアとしての信頼性、視認性、そしてバッテリースペック」を純粋に求める層にとって、この価格設定はあまりにも魅力的です。

Suuntoのこうした価格戦略が可能になった背景には、製造拠点がフィンランドからグローバル(主に中国)へシフトしたことによるコスト競争力の強化があるといわれています。ただ、チタンベゼルの精緻な加工やサファイアガラスの質感など、Suuntoらしいハードウェアとしてのビルドクオリティは以前と変わらず、北欧デザインのミニマルな美学を維持しています。

実践レビュー:慣れ親しんだ鎌倉のトレイルで実力を測る

今回は製品をお借りできた限られた期間の中で、私が日常的に走り慣れており、地形や環境を熟知している鎌倉エリアのトレイルでVertical 2を試してみました。

スマホのSuuntoアプリの中でルートを作成します。マップ上のポイントを選ぶことでポイント間のルートを自動で道なりに繋いでくれるので気軽にルートを作成できます(トレイルについてはアプリのマップに情報がない場合があり、細かくポイントを指定することもありました)。もちろん、ダウンロードしたGPXファイルを読み込むこともできます。ウォッチに読み込んだルートを、実際に走るときにナビゲーション設定で指定すれば、オフラインマップ上でのナビゲーションができます。

オフラインマップは初期状態ではウォッチにデータがなく、自分でWiFi経由でダウンロードする必要があります。ほぼ世界中を網羅するマップデータから必要なエリアをメモリの上限の28GBまでダウンロードできます。日本列島をカバーする8つのマップデータをダウンロードしたところ、そのうち5.23GBを消費しました。

オフラインマップ上でナビゲーションしながらフィールドを走る体験はSuunto Race 2と同じで快適です。鎌倉のトレイルは、低山ながら複雑な地形が入り組み、分岐も多く、鬱蒼とした照葉樹林がGPS信号や日光を遮ります。ここで感じたVertical 2の進化はある意味で高山以上にリアルなものでした。

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1. 「紙の地図」を見るような圧倒的なナビゲーション体験

DogsorCaravanでは先日「Suunto Race 2」のレビューをお届けしましたが、そこで高く評価したナビゲーション体験は、このVertical 2でも健在であり、むしろ本機の最大の魅力と言えます。

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その魅力の多くはやはりRace 2と同等の、最大輝度2,000ニトを誇る1.5インチAMOLEDディスプレイによりもたらされます。これまでなら手で影を作って覗き込んでいたような直射日光下でも、Vertical 2はまるで紙の地図を見るかのように、等高線の一本一本、登山道の細かな分岐まではっきりと映し出します。樹林帯で木漏れ日と影が激しく入れ替わるような状況でも、その視認性変わることがありませんでした。

この高精細なAMOLEDディスプレイが、デュアルバンドGNSSとオフライン地図によるナビゲーション機能と組み合わされることで質の良い体験が実現されています。「地図を見て、現在地を把握し、進むべき方向を決める」。この一連の動作にストレスが一切ないこと。これこそ、Vertical 2がプレミアムモデルとして提供する最高の価値です。

2. テクニカルなトレイルで活きる「74g」

トレイルのテクニカルな下りで腕を大きく広げたり、降ったりしても、74g(チタンモデル)という軽さのVertical 2は手首の上で揺れたりする感じがなく、安定しています。ケースの厚みは13.3mmですが、シンプルなデザインのためかシャツやジャケットの袖口に引っかかることもなく快適です。

この軽さを可能にしているグレード5チタンとガラス繊維強化ポリアミドの筐体は、強度にも優れます。積極的には試せなかったものの、岩に擦ったり路面に落としたりしたくらいでは傷つく気配もありません。防水性もRace 2と同じく100m防水となっています。

3. 短時間のテストでも確信できるスタミナ

今回は半日程度のランニングでしたが、GPS最高精度のデュアルバンドモードで常時表示を使用し、地図を頻繁に確認しても、バッテリーの減りは数パーセントにとどまりました。

この減り方の緩やかさを見れば、100マイルレースや数日間の縦走でも充電不要であることは容易に想像がつきます。「バッテリーを気にして設定を変える」という行為自体が、過去のものになったと実感しました。

なお、アクティビティをスタートするときにバッテリーの持続時間が表示されるので、必要に応じてGPS精度のモードを変更すればランニング中にバッテリー切れとなることは避けられます。

4. 気になった点と今後の期待:ソフトウェアの成熟に期待

ハードウェアの完成度が極めて高い一方で、ソフトウェア面ではDogsorCaravanが先日レビューした「Suunto Race 2」と同様の課題をいくつか感じました。

まず、オフラインマップの視認性は素晴らしいものの、地図上に山頂名や山小屋名、主要な道路名などの「文字情報」が表示されない点はRace 2から変わっていません。地形の判読には問題ありませんが、現在地周辺のランドマークを文字で確認できないのは、ナビゲーション時の安心感という点で少々惜しい仕様です。また、地図のズームイン・アウトの操作中に、表示されていた登山道のラインが一時的に消えてしまう挙動も散見されました。これはマップの見やすさを考慮してあえてこういう仕様になっているのかもしれません。

さらに、光学式心拍計についても、走り始めや急激な運動強度の変化時に数値が不安定になる場面がありました。これらはソフトウェアのチューニングが不足しているのかもしれません。

加えて、Vertical 2独自の機能である側面のフラッシュライトについても、デフォルトの状態ではメニューを掘り下げる必要があり、瞬時に光が欲しい場面でのアクセスには少々まどろっこしさを感じました。この点については、設定でボタンの長押しショートカットにフラッシュライト機能を割り当てることで、使い勝手を大幅に改善することが可能です。とはいえ、より直感的な操作フローへの改善は今後のアップデートに期待したいところです。

しかし、これらは「ハードウェアの欠陥」ではなく「ソフトウェアの成熟不足」であり、今後のファームウェアアップデートで十分に改善可能な領域です。Suuntoの継続的なアップデートに期待します。

結論:原点回帰が生んだ、未来のスタンダード

Suunto Vertical 2は、多機能化・高価格化が進むスマートウォッチ市場において、あえて「冒険に必要な機能」だけにフォーカスを絞った、純度の高いアウトドアウォッチです。

タッチ決済や音楽再生機能はありません。しかし、その代わりに、圧倒的に美しく見やすいディスプレイ、驚異的なバッテリー寿命、そして過酷な環境で生き残るための堅牢さとライトを手に入れました。これは、「全部入り」を目指して肥大化するのではなく、使う人の目的を深く理解し、不要なものを削ぎ落とした結果生まれた機能美といえます。

これは、週末のジョギングだけでなく、地図を片手にまだ見ぬトレイルへと足を踏み入れる、真の冒険者のための道具です。

実際の冒険のシーン以外でも、日常生活の中で「充電の手間から解放されたい」「くっきりと見やすいディスプレイのウォッチを使いたい」「不要な機能を削ぎ落とした、最高スペックのギアを適正な価格で手に入れたい」と考えているなら、Suunto Vertical 2は間違いなく、今選ぶべき最良のパートナーとなるでしょう。

MIP液晶からAMOLEDに変わり、ディスプレイの見やすさとハードな冒険のための尖った仕様は両立できるようになりました。Suunto Vertical 2の登場はそんな時代が来たことを教えてくれる新製品です。

スント SUUNTO VERTICAL 2 スポーツウォッチ 1.5インチ AMOLEDディスプレイ 長時間稼働 オフライン地図 デュアルバンドGPS サファイア製レンズ 100m防水 心拍計 HRV計測 体調管理 アプリ連携 トレラン アウトドア 日本正規品 (ステンレス, BLACK)

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