アジア・パシフィック地域のメジャーイベントとして開催される「 HOKA Chiang Mai Thailand by UTMB」。100マイル、100kmと紹介してきたプレビュー連載の最終回は、今大会で最も高い競技レベルが予想される「HMONG 50」にフォーカスします。
12月7日(土)に開催されるこのレースには、欧米のビッグネームとアジアの最強ランナーたちが一堂に会します。ITRAパフォーマンスインデックス900前後のスコアを持つ選手がこれほどまでに集結する50kmレースは、世界的に見てもそう多くはありません。まさに「スピードスターの祭典」と呼ぶにふさわしいラインナップとなりました。
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(Photo © UTMB)
よりワイルドに、よりタフに進化した「HMONG 50」
「HMONG 50」(約50-55km、累積標高約2,000m+)は、今年コースの改良が行われました。舗装路の区間が短縮され、タイ北部の豊かな自然をより深く感じられるトレイル区間が増加。これにより、純粋な走力だけでなく、テクニカルな路面への対応力や、ジャングル特有の環境変化への適応力が、勝負の鍵を握ることになります。
レースは日中に開催されるため、チェンマイの日差しと湿度との戦いも避けられません。短距離ゆえの高速展開と、過酷な気象条件。一瞬の判断ミスや補給の遅れが命取りとなる、スリリングなサバイバルレースが展開されるでしょう。
欧州・米国のタイトルホルダーがその貫禄を見せるか、それともアジアの精鋭たちが地の利を活かして頂点に立つか。ワールドクラスの激突が目前に迫っています。
ライブ配信で応援しよう、DogsorCaravanも現地からレポート
今回の HOKA Chiang Mai Thailand by UTMB の模様は、UTMB Liveなどで生中継される予定です。
DogsorCaravanでも12月3日からチェンマイに入り、今年の大会を現地からレポートします。現地からのレポートはDogsorCaravanのInstagramアカウントやYouTubeチャンネルのショートや投稿でご覧いただけます。さらに、DogsorCaravanのウェブサイトでは大会中のイベントのレポートや、各レースのリザルト紹介記事をタイムリーにお届けする予定です。
2025年シーズンの締めくくりとして、アジアのトレイルが世界の中でどのような存在感を示しつつあるのか。その現在地を、ぜひその目でお確かめください。
大会スケジュール(レーススタート時刻)
- 12月5日(金) 09:00(日本時間 11:00): ELEPHANT 100 (96km, 4600mD+)*
- 12月5日(金) 11:00(日本時間 13:00): CHIANG DAO 160 (168km, 8100mD+)*
- 12月6日(土) 07:00(日本時間 09:00): HMONG 50 – DAY (56km, 2400mD+)*
HMONG 50-DAY の舞台設定
HMONG 50-DAYは距離56km・累積標高2,400mD+で、ドーイ・ステープ=プイ国立公園の山岳地帯を巡りながら、チェンマイPAOパークをスタート/フィニッシュとする周回コースで行われます。
大きなアップダウンに、走れる林道と急なシングルトラックが混在し、山岳民族の集落を抜けるトレイルが続くため、登りの強さと下り・フラットのスピードを兼ね備えたオールラウンダーに有利なコースデザインです。
UTMBワールドシリーズ・メジャーとして開催され、完走者には4つのランニングストーンが付与されるほか、上位選手はUTMBワールドシリーズ・ファイナル種目へのアクセスにも直結するため、各選手がシーズンのピークをここに合わせてきます。今回の大会では男女ともに最もエリート選手の層が厚く、どんな展開となるか予想が難しい、激しいレースとなりそうです。
スタートは12月6日土曜日の7:00(日本時間 9:00)で制限時間は15時間30分。最初のフィニッシャーは4時間半でPAOパークに戻ってくる予定です。
女子のHMONG 50-DAYは欧米勢中心の展開になるか、日本の髙村貴子に期待
HMONG 50-DAYの女子は、ミドルディスタンスの世界的エリートとアジアのトップ選手が一堂に会する、今大会でも最も層の厚いカテゴリーの一つです。
エリート中のエリート、マティスとダワー
今回のチェンマイにはスイスが誇る山岳ランニングの「女王」が降臨します。モード・マティス Maude MATHYS(SUI)は、ヨーロッパを代表するマウンテンランナーであり、2024年にはゴールデントレイルシリーズ開幕戦のKobe Trailで優勝したのも記憶に新しいところです。この年にはマラソン・デュ・モンブラン42kmでも女子7位に入っています。2025年シーズンもTenerife Bluetrail 47kmで女子優勝、UTMB Mont-BlancのOCCでは女子3位と登りも下りもその強さを発揮しました。HMONG 50-DAYの56kmでも優勝候補筆頭と言えます。
タラ・ダワー Tara DOWER(USA)は、FKTの世界でも名を馳せるアメリカのウルトラランナーで、2024年9月に全長約3,500kmに及ぶアパラチアントレイル(Appalachian Trail)で、男性の記録をも上回る全体最速記録(FKT)を樹立し、世界中の度肝を抜きました。トレイルレースでは先日のJavelina Jundred 100マイルで女子優勝、来年のウェスタンステイツのチケットを獲得。今年4月にはLake Sonoma 50マイルでも女子優勝しています。超ロングで鍛えた粘り強さに加え、近年は50km前後のスピードレースにも適応してきており、チェンマイでもマティスに独走を許さない展開となるかもしれません。
欧州・北米のトップ3人
エカテリーナ・ミチャエワ Ekaterina MITYAEVA(AIN)は、UTMBや欧州の長距離レースで長年にわたり上位争いを続けてきたエリートアスリート。2024年のChiangMai Thailand by UTMBではELEPHANT 100で女子優勝を飾り、チェンマイの高温多湿な環境と長い登りに対する適性をすでに証明済みです。2025年もMaXi Race 60kmで2位、Transvulcania 73kmで上位に入るなど、50〜100kmの山岳レースで存在感を示しています。昨年に続いてチェンマイで頂点を目指します。
ロビン・レッシュ Robyn LESH(USA)は2025年のUTMB Mont-Blanc・CCCでは女子7位・総合47位と、世界最高峰の100kmクラスでトップ10入りを果たしました。その後のスピードゴート50Kで5位となるなど、北米のテクニカルな50kmレースでも上位フィニッシュを重ねており、岩場と急登が入り混じるコースでの走力と下りの技術には定評があります。初めてのチェンマイですが、終盤まで優勝争いに残っていても不思議はありません。
ナイアラ・イリゴイエン Naiara IRIGOYEN(ESP)は、スペイン北部出身のランナーで、スカイランニングのレースで活躍しています。特にバーティカルレースでは多くのタイトルを獲得しています。今年のスカイランナーワールドシリーズ最終戦の「Marató dels Dements」では女子2位となるなど、30〜40km級のテクニカルなレースで結果を残しており、ドーイ・ステープの長い登りとテクニカルな下りが連続するコースにどのように挑むか、注目です。
注目の5人と日本勢・髙村貴子
リー・アンナ Anna LI(CHN)は中国のトレイルランニングシーンを牽引する一人。2024年のUltra-Trail Ninghai (105km) で2位に入るなど、ロングレースでの実績が目立ちますが、スピード能力も高く、50kmカテゴリーでも上位を脅かす存在です。 チェンマイと同じく気温・湿度の高い東アジアのレースを主戦場としてきたバックグラウンドからも、コンディション面でアドバンテージを活かしたいところです。
髙村貴子 Takako TAKAMURA(JPN)は、日本の女子トレイルランニングを代表する存在で、日本山岳耐久レース(ハセツネCUP)での5度の優勝を重ねたことで知られます。昨年には第1回アジアパシフィックトレイルランニング選手権(APTRC)ショート種目で金メダル。その後、この大会のHMONG 50で女子3位に入った経験を持ちます。2025年シーズンはKaga Spa by UTMB 50kでタフなコンディションの中で優勝しています。今回のHMONG 50-DAYでも、優勝争いの一角として注目されます。
プリヤ・ライ Priya RAI(NEP)は、ネパールを拠点にアジア各地の50km〜100kmレースで頭角を現しているランナー。昨年のAPTRC選手権ショートトレイル40kmでは高村に続き2位と健闘。今年はAmazean Jungle Thailand 50KやKailas Penang Skyrace 45kmで優勝するなど、アジアの山岳レースで安定して結果を残しています。昨年のHMONG 50でも5時間台半ばで5位でフィニッシュしており、今年のレースでも台風の目となるかもしれません。
ロベルタ・ジャカン Roberta JACQUIN(ITA)は、イタリアのスカイランナー。2025年の世界選手権(WMTRC)ショートトレイルで26位、Matterhorn Ultraks Extremeで5位など、技術的に難しいコースで結果を残しています。チェンマイの激しいアップダウンは彼女のスタイルに合っているかもしれません。
ミミ・コトカ Mimmi KOTKA(SWE)は、2010年代後半にUTMBやラヴァレド、ウルトラトレイル・ケープタウンなどで優勝・表彰台を重ねてきたウルトラトレイル界のレジェンドです。直近では2022年Ultra-Trail Cape Town 100kmで女子2位、2022年Lavaredo Ultra Trail 121kmで女子優勝、2023年Black Canyon 60Kで女子優勝と、100km超からミドルディスタンスまで幅広いレンジで結果を残しています。初めてとなるアジアでのレースでどんな走りを見せるか注目です。
さらに続く有力選手
さらに層の厚い女子フィールドには、以下の有力選手も控えています。
- ショング・ビンビン Binbin XIONG(CHN): 昨年のHMONG 50で8位、2025年 OCCでも27位と世界大会で健闘。
- ラム・マヤ・ブダ Ram Maya BUDHA(NEP): 姉のスンマヤ・ブダとともにネパールの山岳地帯を拠点に力をつけてきた若手で、国際レースでの経験を積みながらミドルレンジでの飛躍を狙います。
- ヤスミン・ヌニーゲ Jasmin NUNIGE(SUI): クロスカントリースキーのオリンピアンでもあるスイスのアスリート。Kaçkar by UTMB 50K優勝、Trail Alsace Grand Est 50K5位、Cappadocia Ultra-Trail 63.6km優勝、Lake Sonoma 50マイルで5位と、2024〜25年も欧州と北米の主要レースで上位をキープし続けています。
- ヤン・リンリン Linlin YANG(CHN): Ultra Trail Mount Haituo 50KやNike ACG Ultra-Trail Chongli Thaiwoo50など中国の50km級のレースで優勝を重ねてきました。2025年のHong Kong 100 (Half) で4位。
HMONG 50-DAY 男子は熾烈な優勝争いとなることは必至
HMONG 50-DAY(56km)は、HOKA Chiang Mai Thailand by UTMBの中でも最もスピードと層の厚さが際立つ男子レースで、世界トップクラスのスカイ/トレイルランナーがタイトルを争うカテゴリーとなります。
パフォーマンスインデックス900前後の選手がずらりと並び、昨年のチェンマイでのリマッチや欧米・アジアのビッグレース王者が激突する、今大会随一の激戦区といえるでしょう。
世界トップクラスの7人
アントニオ・マルティネス・ペレス Antonio MARTINEZ PEREZ(ESP)は、スカイランニング出身のスペイン人ランナーで、急登とテクニカルなコース終盤の下りをハイペースで押し切るスタイルが持ち味です。2024年のHOKA UTMB Mont-BlancのOCC(50km)では3位に入り、表彰台に立ちました。標高差とリズムの切り替えが激しいHMONG 50-DAYでは、序盤から主導権争いに絡んでレース全体のペースを押し上げていく存在になりそうです。
ヘイデン・ホークス Hayden HAWKS(USA)は、北米の100km前後のトレイルレースで優勝経験を持つスピードランナーで、ロードとトレイルを往復するような「走れる」コースを得意とします。最近では2024年のHOKA UTMB Mont-BlancのCCC(100km)で見事に優勝を果たし、同年のWestern States 100でも3位に入りました。タイの高温多湿環境への順応が進んでいれば、終盤のPAOパークへの戻り区間でのロングスパートが見どころとなることでしょう。
アライン・サンタマリア・ブランコ Alain SANTAMARIA BLANCO(ESP)は、スペイン国内のテクニカルなトレイルレースで頭角を現したランナーで、岩場を含む難しい下りでも攻めの姿勢を貫くタイプ。2024年のスカイランニング世界選手権(Desafío Urbión)で金メダルを獲得しています。スカイランナーらしいリスクを恐れない下りのスピードが、ドーイ・ステープの急なシングルトラックが連続する区間で発揮されれば、後半にかけての順位入れ替わりのキーパーソンとなり得ます。
モン・グアンフー Guangfu MENG(CHN)は、中国の山岳レースで安定して上位フィニッシュしてきた選手で、昨年のこの大会のHMONG 50では4時間23分台で2位と、ここチェンマイのコースへの高い適性をすでに証明しています。今年4月にMt. FUJI 100のASUMI40kで優勝したのも記憶に新しいところです。今回も上田やタオらとともに、昨年の上位勢としてレースの基準ペースを作る役割を担うとみられ、下り区間でどこまでリスクを取れるかが、初のメジャータイトル獲得へのカギとなります。
ロレンツォ・ベルトラミ Lorenzo BELTRAMI(ITA)は、短〜中距離のスカイレースで実績を残してきたイタリアのスカイランナー。2024年のスカイランニング世界選手権ではサンタマリアに次ぐ2位に入り、銀メダルを獲得しています。急斜面を駆け上がる登りの強さに定評があります。その強みが今回のコースで生きるか、注目です。
日本からは上田瑠偉 Ruy UEDA(JPN)が昨年に続いてチェンマイを走ります。昨年のHMONG 50では4時間21分25秒で男子優勝と、日本を代表するトップ選手としてアジアにその名を轟かせました。昨年はスカイランニング世界選手権で銅メダルを獲得、今年は富士登山競走山頂コースで優勝しています。昨年と同じくシーズン終盤を鮮やかな勝利で飾るべく、世界のトップ選手とのレースに臨みます。
ルオ・タオ TAO LUO(CHN)は中国のみならずアジアの50〜100kmレースを席巻するスピードランナーです。昨年のHMONG 50では4時間47分で11位と、このコースを既に経験しています。昨年はUltra-Trail Ninghai CNH60優勝、Tsaigu Trail 105優勝、そして今年はMount Yun by UTMB 50K連覇、Amazean Jungle Thailand by UTMB 50K優勝と実績は十分です。今年はUltra-Trail Shudao by UTMBで100Kを走って優勝。これまでレースで戦ってきた上田やモン・グアンフーとともに欧州勢との優勝争いに加わります。
日本勢では小笠原光研と長田豪史が参戦
小笠原光研 Koken OGASAWARA(JPN)は現在の日本トレイルランニング界で最も勢いのある若手の一人です。直近1年ではスカイランニング世界選手権で4位、ハセツネCUPで3位、ITJ70k優勝と山岳コースでの安定した強さを見せています。2025年シーズンに入ってからもTransvulcania 73kmで13位、MtFUJI100・ASUMI 40Kで2位、Marathon du Mont-Blanc 42kmで25位と、国際レベルのフィールドの中で着実に結果を残しています。
長田豪史 Goshi OSADA(JPN)は、日本国内の山岳マラソンや50〜70kmクラスのトレイルレースで表彰台を重ねてきたスピードランナー。安定感と粘りが強みで、2024年には信越五岳トレイルランニングレース(110km)で優勝を果たしました。レースのコンディションがタフなものになれば、じわじわ長田が上位に浮上する展開となるかもしれません。
さらに続く有力選手
層の厚い男子フィールドには、まだまだ有力選手がひしめいています。
- マリオ・オルメド Mario OLMEDO(ESP):スペイン国内のテクニカルなミドル〜ロングレースで優勝・表彰台を経験してきた選手で、岩場の多い下り区間でリスクを取れる攻めの走りが持ち味。
- グアン・ヨウシェン YOUSHENG GUAN(CHN):中国国内の山岳トレイルで実績を積み、標高差の大きいコースでのタフなペースメイクに定評があるランナー。
- チャン・フオファ Huohua ZHANG(CHN):東アジアのウルトラトレイルを中心に実績を伸ばしてきた選手。10月のTsaigu Trail 100kでは上田瑠偉やモン・グアンフーの追撃を退けて鮮やかな勝利をあげました。
- ウー・アーチン ERQING WU(CHN):今年のNinghai by UTMB CNH60で優勝。














