タイ・チェンマイで開催されたUTMBワールドシリーズ・メジャー「HOKA Chiang Mai Thailand by UTMB」。アジア太平洋地域のメジャー大会として、トップ10に入ればシャモニーでのUTMBワールドシリーズ・ファイナルへの出場権が確約される重要な一戦です。12月5日(金)にスタートした「Elephant 100」(距離約96km、累積獲得標高4600m)は、湿度80%を超える蒸し暑さと、ジャングル特有のテクニカルな路面が選手を苦しめる過酷なコンディションの中、男女ともに最後まで目の離せないスリリングな展開が繰り広げられました。
(All photo by HOKA Chiang Mai Thailand by UTMB)
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男子はミゲル・アルセニオが独走劇で圧勝
午前9時、ワット・ノン・ブア・ノイ(Wat Nong Bua Noi)の寺院からスタートとともに飛び出したのは、ホセ・アンヘル・フェルナンデス Jose Angel Fernandez Jimenez (ESP) や甲斐大貴 Hiroki Kai (JPN) らの先行集団でした。ホセは序盤から積極的な走りを見せましたが、レース中盤にかけて転倒のアクシデントもあり後退。代わって主導権を握ったのは、冷静にレースを進めていたポルトガルのミゲル・アルセニオ Miguel Arsenio (POR) でした。
アルセニオは序盤のエイドステーションをスルーする大胆な戦略も見せつつ、中盤以降は他を寄せ付けない圧倒的なペースで独走態勢に入ります。実況解説者が「まるでハーフマラソンを走っているかのようなバネのある走り」と評するほど、73km地点を過ぎてもその足取りは軽く、登りではポールを力強く使いこなし、下りでは攻めの走りを貫きました。
レース終盤、フィニッシュエリアであるチェンマイPAOパークに姿を現した時には、2位以下に30分以上の大差をつけていました。アルセニオのフィニッシュタイムは9時間14分20秒。フィニッシュ後のインタビューでアルセニオは、笑顔を見せながらもレース終盤の過酷さを次のように語りました。
「計画していたようなレース展開ではなかった。ゆっくり入るつもりだったけれど、最初から全力で行くことになった。得意なはずの最後のパートが一番きつかった。ラスト30kmは身体がボロボロだったけれど、脚ではなく『心』で走ってフィニッシュラインを目指した」
2位争いは、最後まで順位が入れ替わる劇的な幕切れとなりました。レースの大半で2位をキープしていたのは、2週間前のUltra-Trail Cape Town (UTCT) 100kmで準優勝したばかりのドミトリ・ミティアエフ Dmitry Miteev (AND)。序盤はアルセニオを追走し、ヤン・ロンフェイ Yan Longfei (CHN) との競り合いを制して単独2位を走っていました。しかし、レース終盤の急な階段セクションで、後方から驚異的な追い上げを見せたズー・カオ Zhu Kao (CHN) が猛追。カオはミティアエフをパスして2位に浮上します。
ミティアエフはさらに不運なことに、最後のダウンヒルセクションでコースマーキングを見失い、約10分のロスタイムを喫してしまいます。それでも最後まで諦めずに猛烈なスプリントで追い上げ、フィニッシュ直前の直線ではカオの背中を捉えるところまで迫りました。結果、カオにわずか1分差に迫る3位でフィニッシュ。カオは後半の素晴らしいペース配分と粘りで殊勲の準優勝を果たし、ミティアエフは2戦連続の表彰台を獲得しました。
女子は三つ巴の激戦、吉住友里が3位表彰台へ
女子レースは、ベトナムのハウ・ハ・ティ Ha Thi Hau (VNM)、昨年の覇者エカテリーナ・ミティアエワ Ekaterina Mityeva (AND)、そして日本の吉住友里 Yuri Yoshizumi (JPN) による、終始互いが見える距離での三つ巴の戦いが繰り広げられました。
レース前半から中盤にかけて、急登区間では登りに絶対的な強さを持つ吉住がポールを巧みに使いリードを奪う場面も見られました。しかし、ダウンヒルを得意とするハ・ティとミティアエワが下りで差を詰め、順位が目まぐるしく入れ替わる展開となります。特にハ・ティはエイドステーションでスイカやオレンジを頬張りながらスタッフや観客とハイタッチを交わすなど、高いエネルギーレベルを維持していました。
勝負が動いたのはレース終盤。ハ・ティはテクニカルな下りでその強さを発揮し、徐々にリードを拡大していきます。一方のミティアエワも急な階段セクションを手すりを使いながら力強く登り、2位の座を死守しました。
最終的にハウ・ハ・ティがトップでフィニッシュし、昨年の50kmカテゴリー優勝に続き、今年は100kmカテゴリーでのタイトルを獲得しました。フィニッシュラインではトレードマークの笠をかぶり、チームスタッフと共に喜びを爆発させました。
2位には粘り強い走りを見せたエカテリーナ・ミティアエワが入り、吉住友里はトップから離されはしたものの、世界の強豪相手に堂々の3位入賞を果たしました。吉住は持ち味である登坂力を遺憾なく発揮し、UTMBワールドシリーズ・メジャーの舞台でその存在感を世界に示しました。
また、注目を集めたネパールのスンマヤ・ブッダ Sunmaya Budha (NPL) は、2週間前のUTCTでの激走による脚の痛みを抱えながらのレースとなりました。彼女はレースを続行することを選択。来年のUTMBモンブランの出場権獲得(トップ10入り)を目標に不屈の精神で走り続け、見事4位でフィニッシュしました。
リザルトはこちらから。
ELEPHANT 100 女子
- ハウ・ハ・ティ Hau Ha THI (VIE) 10:43:28\
- エカテリーナ・ミチャエワ Ekaterina MITYAEVA (AIN) 11:02:02\
- 吉住友里 Yuri YOSHIZUMI (JPN) 11:30:39\
- スンマヤ・ブダ Sunmaya BUĐHA (NEP) 11:58:36\
- ヴァンヤ・クノプス Vanja CNOPS (BEL) 12:31:22\
- 板橋黎華 Reika ITABASHI (JPN) 12:32:18\
- イリナ・アメルキナ Irina AMELKINA (AIN) 12:33:36\
- イングリッド・ドゥー・グンダーセン Ingrid DUE-GUNDERSEN (NOR) 12:45:06\
- ウォン・キーチュン Ki Chun WONG (HKG) 12:53:29\
- ルー・チン Lu QIN (CHN) 13:01:26\
ELEPHANT 100 男子
- ミゲル・アルセニオ Miguel ARSENIO (POR) 09:14:20\
- カオ・ジョウ Kao ZHOU (CHN) 09:51:39\
- ドミトリー・ミチャエフ Dmitry MITYAEV (AIN) 09:52:24\
- ホンフー・ジャン Hongfu ZHANG (CHN) 10:13:25\
- ロンフェイ・イェン Longfei YAN (CHN) 10:35:31\
- ウェイ・フアン Wei HUANG (CHN) 10:53:15\
- 水谷冠太 Kanta MIZUTANI (JPN) 11:04:45\
- ロ・ア・ダオ Lo A DAO (VIE) 11:17:38\
- 大西元気 Genki ONISHI (JPN) 11:30:20\
- 工藤真理 Masamichi KUDO (JPN) 11:37:07\













