【2026年新春】岩井竜太さん、岩井絵美さん・トレイルラン界のパワーカップルに訊く、揃って手にしたCCCへのチケットと100人超のコミュニティを育てる熱量【ポッドキャスト Run the World】

2026年の幕開けを飾るDogsorCaravanのポッドキャスト「Run the World」。新春特別ゲストとしてお迎えしたのは、日本のトレイルランニング界を牽引する「パワーカップル」として親しまれる、岩井竜太 Ryuta IWAI さんと 岩井絵美 Emi IWAI さんのご夫妻です。

2025年、お二人はそれぞれUTMBワールドシリーズのハードな大会で表彰台に登るという輝かしい成績を収め、2026年8月末にフランス・シャモニーで開催されるUTMBワールドシリーズファイナルのレースである「CCC」へのダイレクトエントリー権を揃って獲得しました。東京・高尾を拠点とするコミュニティ「竜太練・RTRT」の運営と、世界の頂点を見据えるプロアスリートとしての活動。公私ともに高め合う二人に、昨シーズンの激闘と新年にかける想いを語っていただきました。

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この記事の元となるインタビューをポッドキャストのエピソードとして公開しています。

灼熱のKaga Spa by UTMB 100k、一ヶ月続いた疲労の果てに

2025年シーズンの大きな試練であり転換点となったのは、6月に石川県加賀市の山中温泉で開催された「Kaga Spa Endurance Trail 100 by UTMB」でした。100kmカテゴリーに出場した絵美さんは、最高気温が37度まで跳ね上がる極限の気象条件の中、見事3位入賞を果たしました。

「コースの厳しさは覚悟して練習してきましたが、やはり熱波が想像を超えていました」と絵美さんは振り返ります。当時は深刻な足底腱膜炎から復帰した直後で、30km以上走ると痛みが再発するという爆弾を抱えての強行軍。しかし、「ボロボロになっても、来年のCCCへの切符だけは絶対に掴み取る」という執念が彼女の足を動かし続けました。

入賞という最高の結果を得た一方で、その代償も甚大でした。レース後、4〜5日の激しい筋肉痛が収まった後も、一ヶ月近くにわたり筋肉が思うように機能しなくなるという未体験の疲労に見舞われたといいます。「いつもなら軽快に登れる斜面でも、足が石のように重く、ただ息が上がるばかり。熱によるダメージの深さを痛感しました」。その後、夏には膝蓋骨の疲労骨折というさらなる苦難を経験します。最近になってようやく、ジョギングが可能なレベルまで回復することができたとのこと。「The North Faceチームの一員としての責任感と、他のアスリートたちからの刺激が、苦しい時期のモチベーションを支えてくれました」と語る彼女の表情には、成長したアスリートとしての自信が滲んでいます。

香港でのリベンジ。山力でねじ伏せたCCCへの切符

夫の竜太さんは、Kaga Spaの50kmカテゴリーで悔しい結果に終わっていました。必ずしも得意ではない暑さに苦しみ、目標としていたKaga Spaで3位以内に入ることで得られるOCCへのダイレクトエントリー権を逃すことになりました。その悔しさを晴らすべく背水の陣で臨んだのが、11月の香港で開催された「TransLantau by UTMB」100kmカテゴリーの「TransLantau 80」でした。

「100km以上の距離よりも、80km前後が今の自分の適性に最も合っている。香港の山々は、自分が得意とする『山岳力』を試す絶好の舞台でした」と竜太さんは分析します。ランタオピークやサンセットピークといった急峻な登り、そして延々と続く石段。テクニカルなセクションで、竜太さんは着実に順位を上げていきました。

レース序盤は10位前後で様子を見ていましたが、エイドでの補給戦略を徹底し、後半のNgong Ping(ゴンピン)の大仏付近では2位争いにまで食い込みます。特に中国勢の、前半から出し切るようなアグレッシブな走りに強い刺激を受けたといい、「彼らの『チャイニーズ・ドリーム』を体現するようなハングリーな精神力は凄まじかった。2位を逃した悔しさはありますが、それ以上の学びがあったレースでした」と振り返ります。

科学の導入と「竜太練」という家族の形

2025年、竜太さんはさらなる進化を求めて東京・聖蹟桜ヶ丘でTREATを営む矢田大 Hiromu YADA さんと 矢田夕子 Yuko YADA さんにコーチングを依頼するという決断をします。自分の感覚だけに頼らない科学的なアプローチを開始したのです。

「自分の限界を突破するためには、客観的なデータが必要でした」。呼気ガステストによるVO2Maxの測定や、緻密なコンディション管理。レースを「練習としてのBレース」と「必勝のAレース」に明確に区別し、目標に向けてピーキングを行うプロフェッショナルな姿勢が、香港での結果を呼び込みました。

同時に竜太さん、絵美さんが情熱を注ぐ「竜太練・RTRT」も、2026年には100人を超える巨大なコミュニティへと成長しています。単なるランニングチームを超え、仕事や家庭以外の「サードプレイス」としての繋がりを重視しています。「走り終わった後の温泉や打ち上げ、トレイル以外の話題で盛り上がる時間を大切にしています」という竜太さんの言葉通り、そこには家族のような温かさがあります。絵美さんも、100マイルに挑むメンバーが関門アウトで流した涙、そしてそこから再起して秋に劇的な成長を遂げた姿を、「自分の結果以上に嬉しい」と目を細めます。

2026年、高尾から世界のシャモニーへ

2026年のクライマックスは、8月末に待つシャモニーでのCCCです。

竜太さんは「まずは世界最高峰のレベルを肌で感じること。その上で、トップ20に名前を刻むための準備を徹底したい」と長期的な視点での挑戦を誓います。絵美さんも「会社員を辞めて走る道を選んだ自分にとって、CCCは一つの大きな到達点。支えてくれるチームや仲間が喜んでくれるよう、今の自分が持てるすべてを出し切りたい」と決意を語りました。

1月16日の抽選結果を待ちわびる竜太練の仲間たちと共に、岩井さん夫妻はシャモニーに向けて新たな歴史を刻み始めます。

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