トレイルランニングシューズに新しい選択肢が加わります。Hong Kong 100に参加する方は会場で見ることができるかもしれません。
中国のスポーツブランド大手、ANTA(安踏)からお誘いをいただき、同社のプレミアムライン「ANTA GUANJUN(安踏冠军)」の最新作となるトレイルランニングシューズ、「Saker 3RC」をレビューする機会を得ました。
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このシューズは、2026年1月に開催される香港100(Hong Kong 100)に合わせて現地で正式発表される予定です。残念ながら、現時点では日本国内での発売予定はないとのことですが、「アジアのトレイルシーン最前線で何が起きているのか」をお伝えするために、一足早くその実力をフィールドでテストさせていただきました。
ロードランニングの世界を席巻し、記録を次々と塗り替えてきた「厚底・高反発・カーボンプレート」というスーパーシューズの方程式。その興奮と爆発的な推進力を、そのまま荒れたトレイルに持ち込んだらどうなるか?これは、近年のトレイルランニング界における最大のテーマの一つであり、多くのブランドが最適解を模索している領域です。新登場の「Saker 3RC」がそこにどんな解答を示すのか?
ブランド名にある「GUANJUN」は、中国語で「チャンピオン(優勝)」を意味します。その名の通り、ANTAがオリンピック中国代表チームへの技術提供で培ったノウハウを惜しみなく注ぎ込み、競技で勝つための最先端技術を詰め込んだのが、このシューズです。
結論から言えば、これは「ロードのスーパーシューズの履き心地とスピード感を、そのままトレイルで再現したい」と願うランナーにとって、これ以上ないほど有力な選択肢となる一足です。

ANTA GUANJUN Saker 3RC
驚異的な「フォアフットの反発」:昨年レビューしたあのシューズを思い起こさせる圧倒的な弾む感覚
足を入れて走り出した瞬間に感じるのは、トレイルシューズとは思えないほどの圧倒的な「バウンス感」です。
スペックシートには、ミッドソールが高度な二層構造になっていると記されています。中心部には、窒素ガスを注入して成形された超軽量・高反発の「スーパークリティカルフォーム(コアフォーム)」が配置され、その中には航空宇宙グレードのT700カーボンファイバー製「アンチ・トーション(ねじれ防止)プレート」が内蔵されています。そして、それらの不安定さを補うように、外周を高強度のPOE(ポリオレフィンエラストマー)フレームが取り囲むという設計です。

Saker 3RCのミッドソールの構造図。メーカーの資料から。
実際に走ってみて驚かされたのは、ヒール(かかと)のクッション性の高さはもちろんですが、それ以上に「前足部(フォアフット)のエナジーリターン」が凄まじいことです。
多くのトレイルシューズは、路面情報の把握(接地感)や捻挫防止の観点から、前足部を薄く、あるいは硬く設計されています。しかし、このシューズは違います。踏み込んだ力が、まるでトランポリンのようにダイレクトに推進力へと変換される感覚があります。
この独特の弾むような感覚は、あえて例えるなら、昨年レビューしたカナダ発のプレミアムシューズ「norda 005」を初めて履いた時の驚きに近いかもしれません。ただ、今回のSaker 3RCの方がカーボンプレートの剛性が加わっている分、より直線的で攻撃的な推進力を感じます。
見た目はシンプルで大人しいデザインですが、中身は間違いなく最先端のレーシングスペック。ロードのスピード練習で培った走力やバネを、地面からの衝撃で殺されることなく、ロスなくトレイルでのスピードに変換できる構造になっています。特に登り坂において、カーボンプレートの「しなり」とフォームの反発が、ふくらはぎの負担を軽減してくれる恩恵を確かに感じられました。
単なるスピードだけではない。「ダメージ軽減」という隠れた恩恵
今回のレビューで、半日にわたって長い距離を走ってみて気づいたもう一つの大きなメリットがあります。それは「走行後の足へのダメージの少なさ」です。
これはロードの厚底シューズでもよく言われることですが、Saker 3RCにおいても顕著に感じられました。
通常、硬い岩場や長い林道を走ると、足裏や関節に地面からの衝撃が蓄積し、レース後半には「足が終わる」状態になりがちです。しかし、このシューズの分厚いスーパークリティカルフォームは、その衝撃の多くを吸収してくれます。さらに、カーボンプレートの反発が筋力による蹴り出しをサポートしてくれるため、ふくらはぎや太ももの筋肉消費が抑えられている感覚があります。
「速く走れる」だけでなく、「最後まで足を残せる」、そして「翌日の疲労回復が速い」。
100kmや100マイルといったウルトラディスタンスに挑戦するランナーにとっては、このことはタイム短縮以上に魅力的な要素かもしれません。
サイズ選びの注意点:日本の感覚より「0.5cmダウン」を強く推奨
もしこのシューズの購入を検討するのであれば、サイズ感の違いについては注意が必要かもしれません。海外ブランド、特に中国ブランドのサイジングは日本国内の基準と異なることが多々ありますが、このモデルも例外ではありません。
今回のテストでは日本のセンチ(cm)表記でサイズを選びましたが、実際のシューズはハーフサイズほど大きい感じでした。表記を比べると、他ブランドでは「27.0cm / US 9 / UK 8 / EU 42」であるのに対し、Saker RC3は「27.0cm / US 9.5 / UK 8.5 / EU 43」でした。このサイズ感の差がANTAのシューズに共通なのか、このSaker 3RCだけなのかは分かりませんが、Saker 3RCについていえば、センチ表記では一つ小さいものを選ぶのが良さそうです。


アッパー素材には、通気性と耐久性を両立させた「TPUヤーンニット」が採用されています。非常に薄く、足が透けるほどのメッシュ素材ですが、見た目に反してフィット感は抜群です。薄さゆえの頼りなさを懸念しましたが、実際にはかかと周りのヒールカウンターもしっかりしており、中足部のホールド感も優秀です。サイズさえ間違えなければ、足とシューズの一体感は高いレベルにあります。これから選ぶ方は、普段より0.5cmサイズダウンして試着することを強くお勧めします。
香港100公式スポンサーとしての矜持:ミッドソールに刻まれた「HK100」
アウトソールには、信頼と実績のVibram社の Megagrip コンパウンドに、ベース部分を薄くして軽量化を図る Litebase テクノロジーを組み合わせたものが採用されています。
ラグの高さは3〜4mmほど。この設定は、泥深いテクニカルな急斜面をガリガリと登るというよりは、「乾いた硬い路面」や「走れるセクション」でこそ真価を発揮するというシューズの性格を物語っています。
ANTA GUANJUNは、アジア屈指のメジャーレース「Hong Kong 100」(HK100)の公式メインスポンサーを務めています。そして、この「Saker 3RC」は、2026年1月に開催されるHK100に合わせて、現地香港で大々的にお披露目される予定となっている勝負シューズなのです。
その証として、シューズのミッドソール側面(ヒール寄り)には、誇らしげに「HK100」のロゴがプリントされています。
香港のコースは、コンクリート舗装や硬いサーフェス、延々と続く階段が多く、反発力とクッション性の両立がタイムに直結します。このシューズがHK100のデビューに合わせて開発されたという事実は、まさにそのコース特性に最適化されていることの何よりの証明です。
もちろん香港だけでなく、アメリカの「ウェスタンステイツ」やヨーロッパの「UTMB」のような、走れるセクションが多い長距離レースにも最適です。日本国内で言えば、ロードセクションや林道でのスピードが勝負につながる「Mt. FUJI 100」や、走れるトレイルが多い「信越五岳」のようなレースで、この反発力が強力な武器になるでしょう。
「汚れは勲章」:潔い純白のデザイン哲学と視認性
最後にSaker 3RCの大胆なカラーリングについて触れなくてはなりません。
ガチの競技用トレイルシューズで、ここまで「真っ白」なモデルは稀かもしれません。泥や土埃で汚れることが宿命のスポーツで、なぜ白なのか? ブランドはこれを「トレイルで刻まれた汚れはランナーの勲章であり、成長の証である(Every trace of dirt earned on the trail becomes a badge of honor)」と定義しています。

デザインはモデル名の「はやぶさ」(saker)をイメージしているという。メーカーの資料から。
実際にトレイルを走れば、当然すぐに汚れます。一度のランで純白は失われます。しかし、その汚れすらもデザインの一部として受け入れ、自身の挑戦の履歴として肯定する。この潔い哲学は、非常にユニークで面白いと感じました。
また、薄暗い森の中や霧の中でも、白に鮮やかなオレンジの「Aライン・サポート構造」を配したデザインは極めて高い視認性を発揮し、レース中の足元の確認を容易にしてくれます。
まとめ:日本上陸が待たれる、266gの「白い翼」
メンズ41サイズ(約26cm相当)で実測266gという軽さも、この反発力を活かすための重要な要素です。高機能なクッションとカーボンプレート、そしてVibram Magagripソールを搭載しながらこの重量に抑えたことは、ANTAの技術力の高さを証明しています。
冒頭でも触れた通り、残念ながら現時点では日本国内での販売予定はないとのこと。しかし、アジアのトレイルシーンを牽引するHK100でのデビューを皮切りに、その実力が広く知られるようになれば、日本でこの白い翼を目にする日もそう遠くないかもしれません。
Saker 3RCは、ロードランニングのスピード感をトレイルでも維持したい、そして何より長い距離を走った後でも脚へのダメージを最小限に抑えたいと願うランナーにとって、待望の一足になるはずです。今後の展開に強く期待したいと思います。













