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IAU(国際ウルトラランナー協会)は、2026年5月23日から24日にかけて青森県弘前市で開催される「2026 IAU 24時間走アジア・オセアニア選手権(2026 IAU 24H Asia & Oceania Championships)」の一般情報シート(GIS)を公開しました。日本で初開催となる本選手権の舞台は、弘前市スポーツ公園内に設置される1,250mのフラットな特設周回コースです。完全に舗装されたコースは記録を狙うには絶好の条件と言えますが、24時間という果てしない沈黙の中で同じ風景を200回、300回とループし続けることは、ランナーにとって肉体以上に精神的な強靭さが試される「究極の沈黙の旅」となります。
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日本ウルトラランナー連盟(JUA)から発表された代表内定選手は、まさに世界の頂点を射程に捉えた圧倒的な顔ぶれです。女子の筆頭として期待がかかるのは、元世界記録保持者であり絶対女王の仲田光穂選手です。仲田選手は2023年に台北で開催された世界選手権において、270.363kmという驚異的な世界新記録(当時)を樹立して優勝を飾り、世界を震撼させました。さらに2025年のアルビ(フランス)大会では、当時の世界記録を上回る異次元のパフォーマンスを見せながらも、歴史に残るハイレベルな激戦の末に銅メダルを獲得しています。弘前のコースにおいても、2023年に246.953 km、2024年に249.198 kmを記録して連覇。今回のアジア選手権では勝手知ったる思い出の地で再び「世界女王」の貫禄を見せつけることでしょう。女子チームにはこの他にも、兼松藍子、加藤千代子、大野薫子、向山由美子、廣澤志保といった、世界の舞台を熟知した実力派の精鋭たちが名を連ねています。
男子のキーマンとして注目を集めるのは、弘前のコースで驚異的な進化を見せ続けている櫻庭健選手です。櫻庭選手は現在、北海道を拠点に活動していますが、弘前24時間走におけるその適性は群を抜いています。2022年の第1回大会を232.734 kmで2位という成績で滑り出すと、そこから毎年着実に記録を積み重ね、2024年に252.048 km、2025年はついに262.302 kmを叩き出して連覇。同時にM50日本新記録を樹立しました。櫻庭選手に加え、代表チームには荒井秀次、福元翔輝、田中秀和、木本匡昭、菊池裕樹といった鉄人たちが集結します。
しかし、今回のアジア・オセアニア選手権はかつてない激戦となることが確実視されています。日本勢の前に立ちはだかる最大の壁は、現在のアジア最強ランナーとの呼び声高いインドのアマル・シン・デバンダ選手です。彼は2024年のキャンベラ大会において272.537kmという好記録で優勝し、個人・団体の二冠をインドにもたらしました。
オーストラリアからはバックヤード・ウルトラの世界記録保持者として知られるフィル・ゴア選手の参戦が期待されます。24時間走の自己ベスト270.826kmを持つ彼は、102時間にも及ぶ死闘を走り抜く無尽蔵のスタミナと、絶対に折れない不屈の精神力を武器にしており、常に上位を脅かす存在となるでしょう。
かつて「日本のお家芸」と称された24時間走ですが、現在は日本、インド、オーストラリアが三つ巴で争う、世界で最もホットで過酷な激戦区へと変貌しています。
24時間走という競技は、単なる距離の積み上げではなく、不確定要素を排除した環境下で最小の誤差を競う、極めて数学的で緻密な戦略を要するスポーツです。仲田選手の270km超えや櫻庭選手の日本記録更新といったデータは、投入エネルギーと運動効率の最適解を、精神が完全にコントロールし続けた精密機械のような成果と言えます。
今回の弘前大会に注目すべき理由は、個人の圧倒的な走力に加え、サポートクルーのエイドワークを含めた組織力で、インドのアマル・シン選手のような「スピードとスタミナの怪物」をどう迎え撃つかという点にあります。
特に櫻庭選手のように、50代を迎えてなおパフォーマンスを向上させ続ける熟成のプロセスは、年齢を言い訳にしないすべてのランナーにとって、大きな希望と自己管理の重要性を物語る深い示唆となるでしょう。













