【プレビュー】TaraweraとBlack Canyon・UTMB女王の参戦、五輪メダリストの挑戦、日本のアスリートへの期待。ゴールデンチケットを巡るビッグウィークの完全ガイド

今週末、トレイルランニングの世界は一つの大きな特異点を迎えます。2026年シーズン全体の勢力図を占う上で、これほど重要なトピックが重なる週末は稀です。太平洋を挟み、ニュージーランドではタラウェラ・ウルトラトレイル Tarawera Ultra-Trail by UTMBが、アメリカ・アリゾナ州ではブラック・キャニオン・ウルトラ Black Canyon Ultrasが同時開催されます。

いずれも、世界中のトレイルランナーが渇望するウェスタン・ステイツ・エンデュランス・ラン Western States Endurance Run (WSER) への出場権、通称ゴールデンチケットを争うシリーズ戦です。しかし、今年の注目点はチケットの行方だけではありません。Nike ACGグローバルチームに選ばれた日本人選手の初陣、オリンピックメダリストの本格参戦、そして伝説的なUTMB女王への挑戦と、競技のプロ化とボーダーレス化を象徴する濃厚なドラマが凝縮されています。

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Tarawera Ultra-Trail by UTMB: 女王への挑戦とマオリの魂

17回目の開催にして史上最大の5,600名以上を迎え入れるタラウェラは、ニュージーランドの原生林と豊かなマオリ文化が交錯する聖地です。時間軸では、この南半球のビッグイベントが週末の幕開けを飾ります。

Photo © UTMB

T102:絶対女王への挑戦と日本勢に巡ってきたチャンス

スタート:2月14日(土)午前7:00(日本時間:同日午前3:00)

ゴールデンチケット(男女各2枠)がかかる102km(T102)には、昨年のUTMBチャンピオンであり、世界最強の呼び声高い ルース・クロフト Ruth Croft (NZL) が凱旋します。彼女は地元ニュージーランドの走りやすいトレイルで圧倒的な強さを誇りますが、日本勢にとっても、十分にチャンスがある状況と言えるでしょう。

有力候補の一人、 ケイトリン・フィールダー Caitlin Fielder (NZL) はすでにWSERの出場権を保有しています。ゴールデンチケットのルール上、彼女が上位2名に入った場合、権利は 3位の選手にロールダウン(繰り下げ) されます。つまり、実質的なチケット獲得ラインが3位まで広がる可能性が非常に高いのです。ここに挑む 秋山 穂乃果 Honoka Akiyama (JPN)清宮 由香里 Yukari Seimiya (JPN) は、世界の強豪 陳 霖 Lin Chen (CHN) らとの競り合いの中で、いかに冷静にチケット圏内を確保できるか。一瞬の判断が夢の切符の行方を左右します。海外の実力者たちがひしめく中で決して容易な戦いではありませんが、二人の現在の実力をもってすれば、十分にその争いに加わる可能性があると言えるでしょう。なお、本命視されていた 上田 瑠偉 Ruy Ueda (JPN) 選手は怪我による欠場となりました。

100マイル(TMiler):王座奪還を期すNZの1日

スタート:2月14日(土)午前4:00(日本時間:同日午前0:00)

100マイル(TMiler / 163km)には、個人の誇りをかけた王座奪還(Redemption)の物語があります。注目は 安曇 樹香 Konoka Azumi (JPN) さん。現地を熟知する2024年大会の覇者ですが、昨年は無念のリタイアを喫しました。地の利と経験、そして昨年の雪辱という強烈なモチベーションが彼女の走りを支えるはずです。

男子では、圧倒的なロード走力を持つ 石川 佳彦 Yoshihiko Ishikawa (JPN) に加え、 横内 佑太朗 Yutaro Yokouchi (JPN) 、そして安定感に定評がある 澤柳 匠 Takumi Sawayanagi (JPN) ら日本の有力選手たちがエントリー。ニュージーランドの深い森とタフな夜を越え、グローバルな表彰台にどこまで迫れるかに期待がかかります。

Photo © UTMB

多様性のマイルストーン:男女比50:50の衝撃

今大会は、UTMBワールドシリーズ史上初めて、スタートラインに並ぶ男女の比率が完璧に50:50となりました。これは、ウルトラディスタンスという過酷なスポーツが、性別の垣根を越えて真に開かれたライフスタイルへと進化したことを示す歴史的な数字です。また、フィニッシャーに贈られるマオリの伝統的なポウナム・トキ(緑玉の石斧)の制作を手がける彫刻師たちが、自らもランナーとして出場する点も、大会の魂を象徴しています。

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Black Canyon Ultras: 砂漠の歴史、スピード、そしてACG世界デビュー

タラウェラから遅れてスタートするアリゾナ州のブラック・キャニオンは、歴史ある先住民の道と、現代の純粋なスピードが交錯する異色の舞台です。

100kmカテゴリー:五輪メダリストが変える走力の定義

スタート:2月14日(土)午前7:00(日本時間:同日午後11:00)

WSERへのゴールデンチケット(男女各3枠)を巡る争いは、かつてない異種格闘技戦となります。最大の焦点は、東京五輪マラソン銅メダリストの モリー・セイデル Molly Seidel (USA) の参戦です。彼女のパフォーマンスは、ウルトラトレイルにおける走力の定義を根底から覆す可能性があります。

迎え撃つトレイル勢も、レジェンドであるアン・トレイソンが持つLeadville 100の大会記録を昨年塗り替えた アン・フラワー Anne Flower (USA) や、昨年の覇者 ライリー・ブレイディ Riley Brady (USA) などが顔を揃えます。男子もCCC王者 フランチェスコ・プッピ Francesco Puppi (ITA) が、王者ジム・ウォルムズレイとの徹底的な合宿を経て万全の体制で臨みます。圧倒的な走力を武器とするエリートたちが、砂漠のトレイルを文字通り駆け抜ける、異次元の高速決戦となるでしょう。

50kmカテゴリー:日本人が背負うACGの看板

スタート:2月15日(日)午前7:00(日本時間:同日午後11:00)

先週飛び込んできたニュースが、Nike ACGグローバルチームへの 甲斐 大貴 Daiki Kai (JPN)高村 貴子 Takako Takamura (JPN) 両選手の加入です。今回の50kmは、二人がNikeの母国アメリカで、グローバルアスリートとして走る記念すべきデビュー戦となります。

世界トップレベルのチームメイトと肩を並べ、同じサポートを受けてスタートラインに立つ二人の姿は、日本のトレイルランナーが世界のトップエリートと対等に渡り合える存在であることを証明する絶好の機会です。ここで確かな結果を残すことができれば、彼らは単なる有力な海外選手という枠を超え、名実ともに世界のトップ選手の一人として認められることになるでしょう。

 

砂漠の変数:歴史的豪雨と渡渉の罠

今大会において最も注目すべき不確定要素が、近日の天候不順によるコースコンディションの変化です。通常は干上がっている河床に水が流れ、複数の深い渡渉(川渡り)が発生する見込みです。ハイスピードな展開の中に、この物理的な障害がどう作用するのか。また、標高1,200mのスタート地点付近での急激な冷え込みと雪の可能性もあり、極めてタクティカルな判断が求められます。

DogsorCaravan Analyst Note

今週末の展望として、DogsorCaravanでは以下の3つの視点を提示したいと思います。

  • 日本代表からグローバルアスリートへ 甲斐・高村両選手のNike ACG入りと本国デビューは、日本のトレイルランニング市場の成熟と選手の実力が、マーケティングの観点からも世界レベルにあると認められた証左です。この大舞台で結果を残し、世界のトップ選手と肩を並べる地位を確立できるか。日本のトレイルランニング史に刻まれる、重要なプレゼンスの変容を期待したいと思います。
  • ボーレス化の加速 モリー・セイデル選手の参戦は、ロードとトレイルの垣根が完全に消滅しつつある現状を象徴しています。高速化する米国のトレイルシーンにおいて、走力の定義がどう変わっていくのか、Black Canyonはその最前線となります。
  • Taraweraの戦略的価値 ルース・クロフト選手の参戦は、逆説的に2位・3位争いの価値を高めました。ケイトリン・フィールダー選手のチケット保有状況を考慮すれば、秋山・清宮選手には十分な勝算があります。もちろん、海外の層の厚い実力者たちが揃う中で決して容易な戦いではありませんが、二人の現在の実力をもってすれば、十分にその争いに加わる可能性があると言えるでしょう。冷静に自身のレースを組み立て、確実にロールダウン圏内でフィニッシュすることが、チケット獲得への鍵となります。

今週末は、日本時間の土曜早朝から日曜にかけて、寝不足必至の時間が続くことになりそうです。

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