ニュージーランドの北島、ロトルアを舞台に開催された「タラウェラ・ウルトラトレイル by UTMB Tarawera Ultra-Trail by UTMB」は、南半球の夏らしい湿気と、時折降り注ぐ雨によって泥化したテクニカルなトレイルという、非常にタフなコンディションの下で幕を閉じました。2026年大会は、地元勢のレジェンドたちが歴史的な記録を塗り替える一方で、日本の選手たちが100km、100マイルの両カテゴリーで世界の表彰台を席巻する、記念碑的な週末となりました。
(Photo © Tarawera Ultra-Trail by UTMB)
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T102:泥と湿気の死闘を制した女王たちのマッチレースと秋山穂乃果の快挙
最も注目を集めた女子102km(T102)カテゴリーにおいて、日本のエース 秋山 穂乃果 Honoka AKIYAMA (JPN) が9時間0分24秒でフィニッシュし、見事3位表彰台に輝きました。秋山選手はレース序盤から先頭集団にぴたりと食らいつき、深い泥のセクションでも崩れない安定した体幹と正確な足さばきを披露。終始トップ争いに絡む積極的な走りは、昨年の世界選手権ロングでの活躍が、決して偶然ではなく確かな実力に基づいたものであることを改めて世界に証明しました。
この3位入賞は、単なる順位以上の価値を日本コミュニティにもたらしました。上位2名が既に権利を保持していた、あるいは辞退したため、秋山選手には初夏のカリフォルニアで開催される世界最高峰の100マイルレース、ウェスタン・ステイツ(WSER)への「ゴールデンチケット」がロールダウンされ、彼女はこれを受諾しました。世界のスピードスターが集まるタラウェラで、自力でこの切符を掴み取ったことは、2026年の国内トレイルシーンにとって最大のハイライトとなるでしょう。
女子の優勝争いは、歴史に残るハイレベルな戦いとなりました。栄冠を手にしたのは、2022年のウェスタン・ステイツ覇者であり、今大会で実に4度目の優勝という金字塔を打ち立てたレジェンド、ルース・クロフト Ruth CROFT (NZL) です。地元ロトルアの期待を一身に背負ったクロフトは、中盤以降、同じく地元の有力選手で世界的なレースシーンで活躍する ケイトリン・フィールダー Caitlin FIELDER (NZL) との激しいマッチレースを展開しました。

T102優勝のルース・クロフト Ruth CROFT。 Photo © Tarawera Ultra-Trail by UTMB
特筆すべきは、クロフトが優勝、フィールダーが準優勝というトップ2の顔ぶれが昨年の今大会と全く同じであったことです。地元ニュージーランド勢が誇る鉄壁の牙城が改めて示された形となりました。フィールダーはフィニッシュ後のインタビューで「ルースからトロフィーを奪い取ろうとしたけれど、彼女は強かった。また来年も戻ってこなければならないわね」とユーモアを交えて語り、女子の競技レベルを新たな次元へと引き上げる攻勢を見せたものの、経験に裏打ちされたクロフトの強さが女王の座を不動のものにしました。
男子T102:「帝王」ダニエル・ジョーンズの4連覇と新鋭たちの台頭
男子のT102では、地元ニュージーランドの英雄が異次元の強さを見せつけました。ダニエル・ジョーンズ Daniel JONES (NZL) は、7時間31分27秒という圧倒的なタイムでフィニッシュし、大会史上初となる4年連続優勝(4-peat)という偉業を達成しました。最初の大規模な登りを終える頃には早くも独走態勢に入り、2位に26分もの大差をつける完勝でした。

T102優勝のダニエル・ジョーンズ Daniel JONES。 Photo © Tarawera Ultra-Trail by UTMB
2位には、今大会最大のサプライズの一人、アメリカの ジェイコブ・バンタ Jacob BANTA (USA) が食い込みました。フロリダ出身で現在はサンフランシスコのコミュニティで活動する彼は、泥まみれのコンディションを「フロリダの少年時代を思い出す最高のコンディションだ」と楽しんだといいます。昨年の7位からタイムを26分も短縮する驚異的な走りでウェスタン・ステイツへの出場権を確保しました。
3位争いも劇的でした。長らく3位を走っていたサンフランシスコの ニコラス・ハンデル Nicholas HANDEL (USA) を、残り数マイルの平坦区間で地元ニュージーランドの新鋭 マックス・ヤンジック Max YANZICK (NZL) が逆転。24歳のヤンジックが最後のゴールデンチケットを掴み取り、地元勢の層の厚さを改めて証明しました。
なお、今大会での活躍が期待されていた 上田 瑠偉 Ruy UEDA (JPN) 選手ですが、直前の不運な怪我の影響により、残念ながらスタートラインに立つことができませんでした(DNS)。ウェスタン・ステイツ出場を今シーズンの大きな目標に掲げていただけに苦渋の決断だったはずですが、再起を誓う彼の視線は既に次なるステージへと向いています。
100マイル:横内佑太朗、澤柳匠が男子2位・3位の快挙
100マイル(TMiler)カテゴリーにおいても、日本勢が歴史的な足跡を残しました。横内 佑太朗 Yutaro YOKOUCHI (JPN) が17時間28分5秒で準優勝。さらに、澤柳 匠 Takumi SAWAYANAGI (JPN) が17時間59分50秒で3位に入り、100マイルの国際レースにおいて日本人が表彰台の二角を占めるという壮挙を成し遂げました。
優勝したニュージーランドの サイモン・コクラン Simon COCHRANE (NZL) は、16時間26分17秒という異次元のコースレコードで駆け抜けましたが、横内選手は中盤の苦しい局面でも力強い粘りを見せ、海外勢を圧倒。澤柳選手も持ち前の安定感で夜間セクションを攻略しました。この結果は、日本のロングディスタンス能力が確実に世界のトップレベルに到達していることを雄弁に物語っています。
Analyst Note :加速する「ハイブリッド」の時代
2026年のタラウェラを振り返ると、優勝タイムは雨天という悪条件を考慮しても驚異的なスピードでした。102kの選手たちは脛まで浸かる泥まじりの水たまりに苦しめられる場面もありました。
ロードの走力が、テクニカルな山岳能力と結びつく「ハイブリッド・アスリート」の時代が完全に到来しています。秋山選手や横内選手、澤柳選手が見せたパフォーマンスは、日本のアスリートが北米やオセアニアの高速ランナーと真っ向から勝負できることを証明しました。
2026 Tarawera Ultra-Trail by UTMB リザルト
T102 (102 km) 男子
- ダニエル・ジョーンズ Daniel JONES (NZL) 07:31:27
- ジェイコブ・バンタ Jacob BANTA (USA) 07:57:39
- マックス・ヤンジック Max YANZICK (NZL) 08:01:56
- ニコラス・ハンデル Nicholas HANDEL (USA) 08:07:43
- ヤノシュ・コヴァルチク Janosch KOWALCZYK (GER) 08:08:02
- シェン・ジアシェン Jiasheng SHEN (CHN) 08:28:35
- マイケル・ヴォス Michael VOSS (NZL) 08:30:12
- ゲイリー・カールトン Gary CARLETON (NZL) 08:31:12
- コール・ワトソン Cole WATSON (USA) 08:34:35
- レナード・テリー Leonard TERRY (GBR) 08:48:37
T102 (102 km) 女子
- ルース・クロフト Ruth CROFT (NZL) 08:41:11
- ケイトリン・フィールダー Caitlin FIELDER (NZL) 08:45:34
- 秋山 穂乃果 Honoka AKIYAMA (JPN) 09:00:24
- ホリー・ランソン Holly RANSON (AUS) 09:17:50
- ケイティ・アスムス Katie ASMUTH (USA) 09:37:47
- ゾーイ・マニング Zoe MANNING (AUS) 09:43:24
- アニー・ミルヴァング Annie MYRVANG (USA) 10:08:25
- ジュリエット・スール Juliette SOULE (NZL) 10:19:11
- ステファニー・オースティン Stephanie AUSTON (AUS) 10:19:45
- ルーシー・バーソロミュー Lucy BARTHOLOMEW (AUS) 10:40:11
TMiler (100 miles) 男子
- サイモン・コクラン Simon COCHRANE (NZL) 16:26:17
- 横内 佑太朗 Yutaro YOKOUCHI (JPN) 17:28:05
- 澤柳 匠 Takumi SAWAYANAGI (JPN) 17:59:50
- ロナン・マクナリー Ronan MCNALLY (IRL) 18:10:34
- デイヴィッド・ビショップ David BISHOP (NZL) 18:14:56
- スコット・ボーゲン Scott BOUGEN (NZL) 19:12:24
TMiler (100 miles) 女子
- デヴォン・ヤンコ Devon YANKO (USA) 19:58:28
- ハンナ・マクレイ Hannah MCRAE (AUS) 20:25:45
- サラ・パーキンス Sarah PARKINS (AUS) 21:34:06
- ウェン・ファンユエン Fangyuan WEN (CHN) 21:50:02
- アメリア・カー Amelia KERR (AUS) 24:57:03
- エマ・パットン Emma PATTON (NZL) 24:59:37
T50 (50 km) 男子
- サミュエル・マコーレー Samuel MACAULAY (NZL) 03:36:23
- チャールズ・ハミルトン Charles HAMILTON (AUS) 03:38:23
- サム・ルート Sam ROUT (NZL) 03:41:02
- ルーク・コッター Luke COTTER (GBR) 03:43:38
- ジョナサン・ジャクソン Jonathan JACKSON (NZL) 03:45:15
- ジャック・オーツ Jack OATES (GBR) 03:51:53
T50 (50 km) 女子
- ロビン・レッシュ Robyn LESH (USA) 04:05:35
- ジェミマ・クーパー Jemima COOPER (GBR) 04:12:31
- ジュリア・アンダーソン Julia ANDERSON (AUS) 04:19:37
- ハンナ・ウォール Hannah WALL (NZL) 04:19:43
- リーネ・リンギ Riine RINGI (AUS) 04:20:53
- エラ・マッカートニー Ella MCCARTNEY (AUS) 04:23:59














