【ニュース】HOKAを離れたシャン・フージャオ。中国トップ選手が続々「移籍」する裏にある、トレラン界の地殻変動とは?

日本のトレイルランニングファンにも馴染み深いトップランナーたちが、次々と新たな道を歩み始めようとしています。この冬、中国のトレイルランニング界はかつてない「移籍市場」の活況を呈しています。

なかでも最大の注目を集めているのが、「アラレちゃん」の愛称で親しまれるシャン・フージャオ Fuzhao Xiang 選手の動きです。2026年3月12日、彼女は自身のSNSを通じて、6年間にわたりパートナーシップを結んできたHOKAとの契約を終了したことを正式に発表しました。

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世界の表彰台の常連である彼女の決断、そして他のトップ選手たちに連鎖する移籍の動きは、単なる「ユニフォームの着替え」ではありません。これは、グローバルなトレイルランニングシーンにおける「ある構造的な変化」を象徴しています。

 

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6年間の軌跡と、「野攀双修」への進化

シャン・フージャオとHOKAの歩みは2020年に始まりました。この6年間で、彼女は中国国内のトップ選手から、世界を代表するウルトラランナーへと見事な変貌を遂げました。

ヨーロッパでは2023年のUTMB(100マイル)で女子4位。北米では過酷なWestern States 100で2年連続(24年、25年)の女子準優勝。そしてアジアではHong Kong 100やMt.FUJI 100(旧UTMF)で優勝と、さまざまなコンディションのもとでビッグレースを席巻してきました。

彼女が新たなフェーズへ進む背景を探る上で見逃せないのが、彼女自身の「アスリートとしてのアイデンティティ」の進化です。

2025年、彼女はWestern StatesとUTMBという2つの大きなレースの合間を縫い、わずか20日間の日程で中国・新疆ウイグル自治区のムスターグ・アタ峰(標高7,546m)のスピード登頂に挑戦しました。極寒と強風の中、18時間16分で登頂を果たしました。

中国メディアでは、マラソンとトレイルを両立するヤオ・ミャオ Miao Yao のスタイルを「路野双修(ルーイエシュアンシウ)」と呼ぶのに対し、現在のシャン・フージャオのスタイルを、トレイルランニングと高所雪山登山を組み合わせた「野攀双修(イエパンシュアンシウ」と表現しています。彼女自身もHOKAとの別れを告げるSNS投稿の中で、「私は山野を愛している。トレイルランニングは、そこへ赴くための一つの手段にすぎない」と語っています。

このハードコアで未開拓の領域に踏み出した彼女をサポートするためには、単なる優れたランニングギアの提供にとどまらない、強力なグローバルネットワークと「高山」への理解が必要となるのも無理からぬことです。

シェン・ジアシェン、ヤオ・ミャオ。連鎖するトップ選手の動向

シャン・フージャオの動きに呼応するかのように、他の中国トップアスリートたちも新たな一歩を踏み出しています。

The North Faceの顔として長年活躍し、UTMBなどで中国男子選手を牽引してきたシェン・ジアシェン Jiasheng Shen 選手も、3月に同ブランドとの6年間にわたる契約が終了したことを発表しました。また、中国トレイルランニング界の女王、ヤオ・ミャオ Miao Yao 選手は先日の東京マラソンをナイキ ACGのウェアで走り、ファンの間で大きな話題となりました。2024年Mt. FUJI 100優勝をはじめ、数々の実績を持つデン・グォミン Guomin Deng 選手も新たなパートナーとの契約が秒読みと見られています。

DogsorCaravan Analyst Note

この冬の中国トレラン界の移籍ラッシュを見ていて感じるのは、トレイルランニングの「完全なるプロスポーツ化」と、ブランド側に求められる「サポートのハードル」が格段に上がった、という事実です。

数年前まで、中国の有力選手たちはグローバルブランドの「中国ローカルチーム」としての予算枠内でサポートされるのが一般的だったようです。しかし、シャン・フージャオやシェン・ジアシェンのような選手たちは、実力でその枠を軽々と飛び越えています。彼らの市場価値は今や世界基準であり、それに伴う活動資金やサポート要求は、ローカルの規模では収まりきらないとしても、不思議はありません。

中国メディアの分析によれば、今回の移籍ドミノの背景には「選手の急成長に対して、ブランド側のサポート(資金面やレース現場でのバックアップ)が追いつかなくなった」という切実な理由があるようです。シャン・フージャオのように活動の幅を高所登山にまで広げ、それに特化したDNAを持つブランドを必要とする選手が現れる一方で、他のトップ選手たちも競技に専念するためのより強固な資金的保障や、ブランドのグローバルな影響力を求めています。

ヨーロッパの急峻な山岳や北米の過酷なトレイルを転戦する彼らにとって、海外遠征時のビザ手配から、レース中の完璧なチーム補給まで、一国を代表するプロアスリートとしての包括的なバックアップ体制は今や必須条件です。今回の動きは、選手の成長スピードとスケールに従来のサポート体制が適合できなくなった結果生じた、健全な新陳代謝というべきなのでしょう。

また、巨大な中国市場を背景に、KAILASをはじめとする自国発ブランドの積極的な投資や、巨大資本の本格参入により、選手の獲得競争はかつてないほど激化しています。

ブランドにとっては、自社製品のショーケースとなることを期待するだけでは、もはやトップ選手は惹きつけられません。彼らの「成長」と「人生の物語」にどれだけベットできるか。2026年シーズン、新しいユニフォームを身に纏った彼らが世界のトレイルに登場するとき、私たちは選手の走りだけでなく、その背後にあるブランドの「本気度」をも目撃することになるでしょう。彼らの次なるパートナーがどこになるのか、その発表が非常に楽しみです。

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