今週末の10月7日(日)午後1時にスタートするハセツネカップこと日本山岳耐久レース。実行委員長である宮地由文さんに、レース前のインタビューに応じていただきました。
後半では、トレイルランニングの組織作りと共有したい自然保護の考え方、今年のレースの見どころについて伺っています。組織作りについては、トレイルランニングの競技団体やルール作り、指導者要請といった意見の分かれがちなテーマが話題となりました。宮地さんがいうとおり、意見は分かれるとしても誰かが考えなければならないことだと感じました。
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*前半は以下をご覧ください。
[DC] ハセツネ事始めと今後の方向性・ハセツネ実行委員長・宮地由文さん レース前インタビュー(1)
【日本のトレイルランニングの組織化、自然保護・ハセツネ実行委員長・宮地由文さん レース前インタビュー(2)】
(トレイルランニングの組織作り)
DC:今回で20回目を迎え、ハセツネは一つのマイルストーンを刻んだということができるかと思います。これからのハセツネカップの進む方向、こんな方向に育てていきたいという思いをお聞かせいただけるでしょうか。
宮地:まずトレイルランニングの大会が雨後の筍のごとく出てきていて、それらは管轄、管理していかなくてはならないのではないかと思います。さらにトップ選手とどのように育てるかを考え、世界に羽ばたくためのバックアップをしなくてはならないと思います。どんな競技でも中央競技団体があってそうしたフォローをしています。私たちは日本山岳協会にトレイルランニング小委員会を立ち上げています。近々、トレイルランニング委員会というのを作って、日本におけるトレイルランニングの窓口としていきたいと考えています。今のところ日本陸連は山岳競技、あるいはトレイルランニングについて考えていないようです。陸連の規則では山岳競技は12キロ以下ということになっています。我々の方ではそれと抵触しないようにしていきたいと思っています。国際化についても、先日モンブランの大会(UTMB)の後に国際トレイルランニング会議が行われました。ハセツネにも招請がありましたが参加はできませんでした。ただ、そこでの議論については我々も検討しています。さらに例えばスカイランニングでは競技団体(ISF/国際スカイランニング連盟)はIAU(国際ウルトラランナーズ協会)UIAA(国際山岳連盟)に加入しています。(修正しました。2012/10/02 14:16)日本においてもIAU(国際ウルトラランナーズ協会)の日本の参加団体である日本ウルトラランナーズ協会とは親密な関係を築いています。IAUが行う大会については、日本山岳協会からも推薦状を出すというようなことを行っています。このような国際化の対応も進めています。
宮地:もちろん日本におけるトレイルランニングの定義や大会の公認、指導者の養成ということも必要です。私は山岳のスポーツ指導員もやっていますが、日体協の公認指導者で構成している日本スポーツ指導者協議会というのがあります。トレイルランニングを山岳のスポーツとして確立して、指導者を養成し、競技規則も作り、マーシャル制度も作る必要があると思います。ハセツネについては指導者養成の講習会を行っており、その中から山において救急ができ、どこでも登れて走れるレスキューマーシャルという制度を作っています。そうした講習会を中心にハセツネクラブは150人の組織になっており、これを全国に広げていきたいと思います。これを土台に日本山岳協会にトレイルランニング委員会を設けていく。先日も第一回の会合を行って、ハセツネで活躍して育った人たち、田中さんや石川さんに来ていただいて、ともに論議していきたいという話をしたところです。また、パワースポーツのような大会主催企業とも合わせて話をしていきたいと思っています。一部には「ハセツネの全国制覇だ」とか「つぶしにかかっている」というような声も聞きます。第一回大会からたたかれてここまできたハセツネですので、新しい方向に向けて大道に立って進めていきたいと考えています。
DC:日本を代表するレースとして、マーシャル制度をはじめとする仕組みづくりを進めてこられた経験を日本のトレイルランニングレースに広げていきたい、というお考えなわけですね。
宮地:そうですね。
(これからも受け継ぎ、共有したい価値観について)
DC:ハセツネ、あるいはトレイルランニングが変わっていく中で、変わらずに共有したい、あるいは受け継がれていくべき考え方や価値観についてお考えをお聞かせください。
宮地:この競技は自然が相手だということですね。その中には先駆者である登山者、クライマーや沢登りの人たちがいるということ、新しい人たちではマウンテンバイクの人たちもいます。そうした人たちとどう協調していくか、同じフィールドで協調していかなくてはならない。これが一番大きい問題だと思います。特に、山は走るものではなく歩くものだ、という中高年の山岳団体からは批判があります。トレイルランナーが草花を踏み荒らしたりストックでトレイルを傷めている-実際はそんなことはないのですが-という悪評をたてる人もいます。我々のところにもそうした抗議が来ています。そもそも、山を走るという行為は太古に生きる糧を得るための狩猟で走っていたころに遡ります。役小角(えんのおづぬ、飛鳥時代-奈良時代の修験道の開祖、役行者)にみられるように山を走ることが宗教に発展しています。このように日本には山を走るというすばらしい文化があります。しばらく、山に行くのは中高年で若い人たちは山に行かないという時代がありましたが、今は若い人たちにも山がブームだといわれています。山の自然をみて山のすばらしさがわかり、自然のすばらしさがわかる、ということ。それが自然保護の基本だと私は思います。東京にいて雑誌などのメディアをみて自然保護をいうのではなく、自然の中に入って自然のすばらしさをみて、自然保護の精神を養っていくというのが基本だと思います。山を走るのが大好きなランナーがどんどん増えていけば、それによって自然をもっと大事にしなくてはいけない、という考えも広がっていくでしょう。都岳連では世界環境デーに合わせて100ー数百人程度で毎年清掃山行を行っていますが、トレイルランナーにはグリーンフェスティバルを行っていて、お子さんも含めて7ー800人が参加し、山の清掃、植林や伐採をやっていただいてます。自然保護の精神は以前以上にトレイルランナーに広がっているといえると思います。
DC:土台となるフィールドの自然があってこその競技であり、国際化だということですね。
宮地:そうです。
(今年のレースの見所)
DC:最後に私の興味で質問させてください。今年のレースも様々な有力選手が参加されます。ズバリ、どの選手が優勝するでしょうか。
宮地:最近、世界の(トレイルランニングの)動向はエイドをしっかり設けて荷物を持たないというのが主流になりつつあります。特に欧米では水や食料を背負わずにエイドでとっています。しかしハセツネでは自己で完結する、自らが飲み物や食べ物を背負うというのが基本です。アメリカからはだいぶ前から選手がきていますが、ハセツネでは勝っていないですね。富士山(UTMF)にせよ信越(五岳)にせよエイドで補給できるというので、ジュリアンさんも抜群のスピードでいけるわけですね。でもあれがハセツネだったらどうなのかなと考えます。勝てなかったアメリカの選手は水が足りない、といいますね。彼らは背中に背負うという習慣もなくて、ボトルを両手に持つ程度です。それとは全く違うというのがハセツネのおもしろさだと思います。どれだけ水を持ち、何を食べるか、サプリメントではなく昔ながらのおにぎりや大福にしてみたり。自分なりにいいものを見つけていく楽しみがあると思います。外国の選手が今年もきますけれどね。
DC:アメリカからはダコタ・ジョーンズ選手が来ますが、そういう意味では日本の選手にはかなわないのではないか、ということになるでしょうか。
宮地:そうですね。一方で若手では強い選手がどんどん出ています。開けてみると素晴らしい新人が活躍することもあるかもしれません。今活躍している山本選手や後藤選手もハセツネで活躍して世界に羽ばたいていて、そういういい流れができています。またそのように素晴らしい選手が出てくることに期待したいですね。
DC:ありがとうございます。いよいよ今週日曜日にレースを控えて、大会の実行委員長である宮地由文さんに伺いました、今日はありがとうございました。