[DC] 「名前も知らないランナーと走る」アリゾナの100マイルで永田務さんと走って優勝したキャロー・シペック/Catlow Shipekのレースレポート #ColdwaterRumble100

Catlow-Coldwater100

【追記・優勝したキャロー・シペック/Catlow Shipekのフィニッシュ後のインタビューの動画を追加しました。2014.2.1】
先週末の1月25-26日にアメリカ・アリゾナ州で行われた100マイルレース、Coldwater Rumble 100で日本から参加した永田務/Tsutomu Nagataさんが2位に入賞したことは、先日お伝えしました。このレースで優勝し、途中まで永田さんと一緒に走った、キャロー・シペック/Catlow Shipekが自身のブログでレースレポートを書いています。この記事では、以下にキャローのブログ記事の日本語訳をご紹介します。

片言の会話をかわしながら、キャローが永田さんの走りにインスピレーションを受けたこと、長いレースの一日をこの日出会ったばかりの「名前も知らない」永田さんのことを考えながらフィニッシュまでプッシュしたことが綴られています。


名前も知らないランナーと走る(The Unknown Runner)

キャロー・シペック/Catlow Shipek

(注・今もレースから続く余韻に浸っています)

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今、僕はこうして座りながらトラウマを癒している。脚の親指の爪が剥がれるなんて、初めての経験だ。そして、今年初めての100マイルレースの経験を振り返ってみる。ただフィニッシュに向けて夢中だっただけじゃなく、今回は「ゲーム」をしたんだ。

100マイルレースで最初のエイドステーションの少し手前だ。僕と一緒にペースを合わせて走っているのは誰だ?Coldwater Rumble 100の最初のエイドステーションから出て、僕は少しトレイルの横によけて、知らないランナーと隣り合わせで走ってみた。

「おはよう。調子はどうだい?」エナジーバーをかじって水で流し込みながら話しかけてみた。
「はあ、ハ、ハロー」
「僕の名前はキャロー。君の名前は?」
「え?英語ワカラナイ」
「君の、、名前!」
「あ、ナガタ」
「そうか、ナ・ガ・タ、か。会えてうれしいよ」
「そう。ナイスツーミーチュー」

それから僕たちは二人で走り続けた。このペースは僕には速すぎて持たないと気づいて、ナガタがいったいどんなランナーなのか知りたいと思った。12マイル程のところで砂漠の土ぼこりを洗い落とそうと少し立ち止まったら、それが間違いだった。ナガタはペースを上げてあっという間に引き離されてしまった。エイドにつくたびにナガタとの差が開いていく。最初のループが終わった20マイル地点で、レースディレクターのニック・コーリーに聞いてみた。

「あいつは誰なんだい?」
「私たちにも分からない。日本から来てるようなんだが。」

ハンドボトルに水を入れていると、ジェームズ・ベネットが近づいてきてアドバイスしてくれた。ペースを落とした方がいい、こんなペースじゃもたないぞ、と。このアドバイスを守ることにした。2回目のループの20マイルでは22分遅いペースで走った。それでナガタからは20分差だという。

Nagata-Coldwater100

序盤トップでエイドステーションに入ってきた永田務さん。Photo courtesy of Aravaipa Running

レースディレクターのニックが、ナガタは100キロを6時間43分で走るスピードランナーだと教えてくれた。僕の口から驚きが突いて出た。

「彼はこれが100キロのレースじゃなくて100マイルだって分かってるのか?」

まだランニングのシーズンは始まったばかりで、僕にとっては100マイルのレースを走る経験をするだけで十分なのだ。記録も目指してないし、レースをしようとも思わない。長距離を恐れずに走れるようになること、水分や栄養の補給になれること、そして身体をつくるために長い距離を踏んでおくことが目的だった。

この名前も知らないランナーとレースの最初に出会ったことが僕のやる気に火をつけた。しかし40マイル地点で20分差だ。彼とレースをすることは難しいだろうと思って、それからは彼のことを考えないようにした。

51マイル地点のエイドステーションに着いた時に、彼との差が2−3分だと知った。調子がよくなさそうで時々歩いているという。ああ、つぶれたんだな。彼をたぐり寄せて、追い越して、その後は彼のことは気にせず、レース前に考えていた通りに一人で走ればいいんだ。

56マイルのエイドステーションで彼に追いついた。見るからにやられてしまった感じだ。彼のことが心配になって、大丈夫なのか、と聞いてみた。こういう標高の低い砂漠では1月とはいえ油断できない。大丈夫そうなので、僕はすぐにペースを上げてトレイルを下っていく。2分後に、ナガタは僕の後ろにぴったりと付いてきて、僕と並走し始めた。こいつは誰なんだ?ここまで追い込めるとはスゴい奴だ。驚いたが、彼が復活してまたペースを上げてくるんじゃないかと思った。僕は思い切って、彼の前を走り、ペースを上げすぎないようにしながらも、最初のループのように彼に先を譲らないようにした。

60マイル地点に一緒に到着。直前の周回の20マイルから8分遅い。ナガタはまだ僕にぴったり付いてくる。僕はもう限界だったが、このペースならこのまま行けると思った。胃の調子が悪くて、エナジー・グミとバナナしか食べられない。足はつま先が痛むし、シューズの中は砂まみれだけど、シューズを替える時間の余裕なんてない。とにかくプッシュして、自分のペースで走りながらリードを守るんだ。

60-80マイルの周回の2/3ほどまではペースが上がって楽しめるダウンヒルがエイドステーションまで続く。ダウンヒルのテクニックを発揮だ。ナガタと少し間を空けた。エイドステーションを駆け抜けていく。ぼんやりとした記憶だ。夕暮れが過ぎて明かりは薄明りだ。僕は自分のライトを点けるのを遅らせて、ナガタとの距離を悟られないようにした。最後のループに入る2マイル程手前から、いよいよライトを点灯。直前のループから7分遅いペースでループの終わる80マイル地点に着いた。

僕が母親に手伝ってもらいながら補給をしていると、スティーブ・ポーリングがやってきて、最後のループを走るのにペーサーが必要かと聞いてきた。ペーサーなんて必要だろうか。ここまでずっとナガタのことを気にして走っていたから、ペーサーがいるかなんて考えもしなかった。スティーブは自分がペーサーをするはずだったランナーがリタイアしてしまったので、せっかくだからペーサーをしたいんだという。何だって、、じゃあお願いするよ。

スティーブを隣にして、最後のループを走り始めた。ナガタの姿は見えない。彼に何かあったのか。レースの序盤ではチャンスをものにしてやろうなんて考えもしなかったのに、今はペースを維持しようと自分を追い込んでいる。スティーブと僕は冗談も言わずに目の前に続く岩のゴロゴロしたトレイルに集中する。

脚は棒のようだ。エナジー・グミを喉に詰まらせて、さっき食べたグミ何個かをトレイルの横で吐き出してしまった。脚がもつれそうになりながら、前へと進み続ける。ナガタが来るかもしれない。今はスティーブがナガタの代わりだ。最後の20マイルをぴったり付いて走ってくる。そう考えたおかげで集中できた。

フィニッシュラインに飛び込んだ。最後の5周目のループは4周目から3分しか遅れていない。15時間9分。100マイルの自己新記録、しかもJavelina Jundred(訳注・同じエリアで11月に開催される100マイルレース)よりも少しだけきついコースだ。やった!でもナガタはどこだ?

ツトム・ナガタのブログはここだ(訳注・原文ではJRNの英訳にリンクされている)。ぜひ読んでほしい。名前も知らなかったけれど、尊敬すべき競争相手とレースをすることで自分を試すことができたことに感謝している。彼のおかげで最後まで集中して、今シーズン最初の100マイルを力一杯走り抜くまで自分を追い込むことができたのだ。最後まで親しい仲間でいてくれた。つぶれてしまっても諦めない意志の力。うんざりするほどダメになってしまってもフィニッシュを目指す粘り強さ。彼の存在は刺激になった。

気持ちの限界を越えて、走り、自分をプッシュすること。

名前も知らないランナー、ありがとう!

Catlow-Coldwater100

優勝したキャロー・シペック/Catlow Shipek。Photo courtesy of Aravaipa Running

赤く腫れ上がった足の爪を見て、この爪を失うくらいの価値はある経験だと思う。今年のレースシーズンが楽しみだ。そして自分のランニングチーム(Run Steep Get High Mountain Running Team)の一年も楽しみだ。上り調子のトレイルで会いましょう!

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DC Weekly 2022年6月13日 奥信濃100、テイネ、マウント湯沢、嬬恋スカイラン、成木の森、飛騨高山

レースを主催したAravaipa Runningとボランティアの皆さんに感謝します。レースでサポートしてくれた母親にも感謝。


以下は優勝したキャロー・シペック/Catlow Shipekのフィニッシュ後のインタビューの動画です。


Catlow Shipek Coldwater Rumble 100 Mile 2014 Post Race Interview – YouTube

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