[DC] UTMFと富士山南麓の森・富士山勉強会での講演の紹介と感想

3月16日に静岡県自然保護課が事務局となっているふじさんネットワーク主催の富士山勉強会が開催されました。勉強会の後半で行われた吉永耕一さん(富士山エコレンジャー連絡会)の講演「富士山南麓の森とトレイルラン大会-トレイルラン植生保全環境調査・中間報告-」の要旨と当サイトの感想をご紹介します。

4月25-27日に開催が予定されているウルトラトレイル・マウントフジ/Ultra-Trail Mt. Fuji (UTMF)は今年で3回目ながら日本を代表する国際的なトレイルランニングレースとして注目されています。吉永さんの講演はこのUTMFの環境への影響と主催者への提案がテーマとなっていました。

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富士山エコレンジャーとは富士山の静岡県側のエリアでマナー啓発や来訪者への自然解説、動植物の保護や情報収集をされているグループです。

富士山エコレンジャー・吉永さんの講演

講演の内容は幅広く様々なテーマについてお話がありましたが、ここではトレイルランニングに関する部分のみをご紹介します(以下の要約は講演資料や当日の吉永さんのお話をもとに当サイト岩佐が要約したもので、吉永さんによるものではありません)。

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講演された吉永耕一さん(富士山エコレンジャー連絡会)。Photo by Koichi Iwasa / DogsorCaravan.com

なお今回の講演でも参考資料として配布された富士山エコレンジャー連絡会の「トレイルラン植生保全環境調査・中間報告」は下からダウンロードすることができます。

「連続踏圧」の影響

富士山エコレンジャーの皆さんが調査されたのは富士山の須山口登山道。UTMFのコースでいえばこどもの国を出て別荘地の先から入るトレイルで水が塚まで、水が塚から須山口登山道をへて、幕岩、四辻へと至る区間です。

調査によれば次のようなダメージが発生しており、その原因はこの地域が多雨地帯であることとトレイルランニングレースを開催したことによる「連続踏圧」によるものではないか、としています。

  • 明確な土壌変化(踏み固め)と植生の損傷
  • 踏み固められた部分の雨による土壌流出
  • 根回りを踏まれて不安定化した樹木の大雨による倒壊
  • コース沿いは崩れやすい地質でありそこが崩落
  • 走っても歩いても踏圧のインパクトは発生
  • コースを直線的に進むことで登山道が複線化、植生損傷が拡大
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富士山エコレンジャー連絡会「トレイルラン植生保全環境調査・中間報告」より。

大会主催者への疑問

エコレンジャーの皆さんが指摘するトレイルランニングレースの影響に対するUTMF主催者の対応についても、エコレンジャー側では次のような疑問を持たれています。

  • 主催者側の環境調査は説明責任を十分果たしていない。第一回(2012年)大会後の環境調査は公開されず、問い合わせることでようやく入手。第二回(2013年)大会後も環境調査の結果は12月末まで公開が遅れている。
  • 主催者側の調査地点の選定基準が不明確でインパクトが生じている箇所を見落としている。目視や不鮮明な写真による評価にとどまっている。
  • 主催者が第一回大会のインパクトを放置したまま須山口登山道(別荘地−水が塚)の再利用を計画、しかも第二回では前回の3倍近い約2000人が通過。
  • 第二回大会では新たに水が塚から須山口登山道-幕岩-四辻の使用を決定したが、事前の環境アセスメントは行われていない。この区間は大会側が自主的に歩行区間としたもののそれでインパクトが小さくなるわけではない。
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富士山エコレンジャー連絡会「トレイルラン植生保全環境調査・中間報告」より。

大会主催者への提案

エコレンジャーの皆さんは求めに応じてトレイルランナーの集まりで状況を説明しており、その際もトレイルランナーからは、「トレイルランニングのレースは走行後の環境への影響が気になる」、「UTMFは走っていてトレイルを崩していく感覚があった」などの意見が聞かれたとのこと。

その上でUTMFの主催者への提案として3点を挙げています。

  1. コース選定に当たっては崩壊が進んでいたり、環境アセスメントができていない登山道はコースとして使用しないこと。
  2. 環境調査においては事前事後の第三者による調査を行う。調査地点の選定基準を明確にする。使用コースの周辺の土壌、植生、野生動物、野鳥を対象に含める。
  3. 環境への影響報告書を公表し、説明・意見交換の場を設けて、合意形成の場を持つ。

感想・トレイルランナーとしては理不尽さも感じるが、お互いをリスペクトしなくては先には進めない

ここからは富士山勉強会に出席した当サイトの感想です。

エコレンジャーの主張に頷けない面はある

まず、エコレンジャーの皆さんの「連続踏圧」への評価については正当といえるかどうか、議論の余地はあると思います。彼らがフィールドに頻繁に入って誰よりも現地事情に通じていることは確かでしょうが、土壌の流出や植生へのインパクトの評価やトレイルランニングとの因果関係の判断は科学的といえるかどうか疑問はあります。

またそもそもの価値観の問題に遡れば、踏み跡が残らず柔らかな土や木の葉で覆われたトレイルをそのまま守るべきなのか、という問いに行き当たります。安全な利用とのバランスを考えるなら、ある程度人が入って踏み跡を作り補修すべき箇所を積極的に補修する、という考え方もあるでしょう。会場からは「崩壊しそうな場所については補修して利用するという考え方もあるのでは」という質問がありましたが、そうした考えに立ったものだと思われます。

また、環境アセスメントの実施やコース補修などを主催者の責任で行う、といったエコレンジャーの皆さんの提案ももっともなことではありますが、現実的な問題としてそのプロセスにかかる時間や負担は一つの大会には背負いきれないと思います。背負いきれないならば大会などやるべきでない、のかもしれませんが、自然の利用と保護のバランスを考えたとき、新しい試みは実質排除というのはバランスに欠けるのではないか、とも思えます。

しかしUTMFとの関係ではエコレンジャーには不信を持つだけの理由がありそう

しかし、こうした科学的な評価、価値観、利用と保護のバランスという問題はあるにしても、UTMFとエコレンジャーの関係についていえば、少なくともエコレンジャー側は自分たちの異議に耳を傾けることなくUTMFは強行されている、と考えているようです。どちらの立場に正義があるかは別として、エコレンジャーの側で納得できる姿勢を大会側がみせなければ、不信は消えないかもしれません。

当サイトが知る海外事情

海外の例について、当サイトも全て調べ尽くしているわけではありませんが、例えばUTMBやTor des Geantsは長年にわたって整備され、安全性や環境への評価が明確になっているトレッキングルートをコースにしています。アメリカの場合は管理当局による環境アセスメントやそれに基づく利用者数の制限が行われており、Western Statesのように一回のレースの参加者数が400人近いのはかなり大規模な部類です。また、UTMBやWestern Statesについていえば、選手の安全確保やコースの保護のために年によって大きくコースを変更することもあります。

当サイトもランナーとして、あるいはジャーナリストとしてUTMFに関わってきたため、中立的な立場とはいえません。ただ、UTMFが日本だけでなく世界のトレイルランナーが憧れるイベントであってほしいと願うばかりです。

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