[DC] 訃報・稲葉実さん

当サイトのご意見番で、様々なアドバイスのほかライブ速報でもご協力いただいた稲葉実さんが9月14日日曜日、北アルプスの鹿島槍ヶ岳での山行中に岩稜から滑落して亡くなりました。享年50歳でした。

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稲葉さんは東京在住のトレイルランナーで数々のトレイルランニングレースに参戦。最近はよく日焼けした体で上半身はシャツなし、長髪にヘッドバンド、サングラスという個性的な出で立ちがトレードマークで、最近では8月末にウルトラトレイル・デュ・モンブラン()を38時間54分で完走したばかりでした。

2014年のSPA TRAILにて、スタート前に。

自由にランニングを楽しむアメリカ流のスタイルをこよなく愛し、行く先々で出会ったランニング仲間と幅広い交流の輪を広げ、トレイルランニング・コミュニティで広く知られた著名人でした。自らのスタイルを確立して安易に妥協しない一方で、自分の感性の琴線に触れた人には、国内外、年齢、性別を問わず敬意を払い、その魅力を周囲に熱く語っていました。最近では自ら「Super Trail Session」(STS)というトレイルランニングのグループを主宰し、自分が理想とするトレイルランニングのスタイルを実践する試みを進めていました。

UTMFのコースを試走。

当サイト・DogsorCaravan.comの活動にも関心を持っていただき、日頃から「D/Cファミリーだから」と応援していただいていました。日頃から自らが見つけたトレイルランナーやシューズなどに関する情報を紹介していただいたほか、当サイトが取り上げるべき人物やニュースについても助言をいただいていました。また、当サイトが行うレースのライブ速報では自らライブレポートチームに加わって下さいました。2013年のUTMF、昨年のハセツネではカメラを片手に縦横無尽に動き回って、熱心に情報を集めてくださいました。また、2013年末に行ったライブストリーミング番組「Trail Runner of the Year in Japan 2013」に出演していただき、番組を盛り上げていただきました。

稲葉さんは連休を使って自身よりも二周りほど若いトレイルランニング仲間と一緒にファストパッキングのスタイルで白馬、後立山連峰での山行を楽しんでいたところでした。滑落の翌日に発見された稲葉さんのスマートフォンには快晴の稜線上を進む様子を捉えたたくさんの写真が残されていたそうです。

早すぎる稲葉実さんのご逝去に接し、お悔やみを申し上げるとともに、心からご冥福をお祈りいたします。

最高に格好よく、絶えず周りを気遣う、自由と友情の人

稲葉実さんが鹿島槍ヶ岳で滑落して亡くなってからもうすぐ一週間が経つ。告別式で故人が愛用していたチェックの半袖シャツ、ジーンズのパンツ、サンダル、キャップ、ランニングシューズ、自身が主宰するSTSのシャツ、そして多くのトレイルランニング仲間に囲まれて柩に納まる姿をみて、稲葉さんがこの世から旅立ったことを受け入れざるを得なかった。

稲葉さんと当サイト・岩佐の出会いは随分前のことだと思うが、とりわけやり取りが増えたのはこのウェブサイト、DogsorCaravan.comをフルタイムで始めると宣言してからだと思う。全く無謀な企てで、一体何をしようというのか理解してもらえないことが多い中で、稲葉さんは何も詳しいことは話さなかったのに、折に触れて励ましの言葉をかけてくれ、様々な情報や提案をしてくれた。

稲葉さんの人柄については多くの人が知るとおりだが、私にとっては山やランニングの楽しさに忠実に生きようとしたこと、そうした関心をもつ自身が興味を持った人やイベントには分け隔てなく、我を忘れる程に応援していたことが忘れられない。反面、自分のスタイルへのこだわりも人一倍で、例えば来日した海外の著名ランナーのイベントであっても、参加費が必要な大規模なイベントには敢えて参加しなかった。一方で、そうしたランナーに人づてで記念の品を送ったりもした。著名なエリートランナーであっても、同じスポーツを愛する対等な仲間でありたい、という考え方が背景にあったと思う。

また、最近では稲葉さんはSalomonやBuffといった特定のブランドを熱心に応援していた。その背景にはそれらのブランドのサポートアスリートや、それぞれのウェアやシューズがお気に入りだったといった事情があったのだろう。しかしそれに加えて、それらのブランドがトレイルランニングの楽しみを熱心に紹介していることが、稲葉さんの関心に重なるところがあり、そうしたブランドを応援しようと思ったのではないかと思う。単に、個人的に友達だから、仲間だから、流行しているから、というだけでない軸があった。

2013年のUTMF取材後に。当サイトロゴがみえるようにと敢えて横向き。

当サイトの活動に関しては、何よりレースのライブ速報で一緒になって行動したことが忘れられない。昨年2013年のUTMFではスタートからフィニッシュまで稲葉さんの運転するクルマでエイドステーションを一緒に回った。稲葉さんはその先々で小さなデジタルカメラで熱心に写真を撮り、ジュリアンやセバスチャン、原さんの様子を興奮気味に語り、小川壮太さんなど日本の選手に声援を送っていた。同じく昨年のハセツネでは、私がレユニオン滞在のため現地に行けないなかで、自ら当サイトのレポートに協力してくださる仲間を集め、多くの写真や情報をレユニオンまで送ってくださった。フィニッシュ地点の五日市会館では三脚に一眼レフを据えた多くのカメラマンを目の前に、プレスのビブを身につけて、小さなコンパクトデジカメを片手に動き回り、選手がフィニッシュするたびに大騒ぎしていたと聞いた。当サイトのためにそこまで動いてくださったことにレユニオンで胸が熱くなった。

2013年ハセツネで当サイトの取材中。他のメディアを押しのけての精力的な取材。

2013年ハセツネで当サイトの取材中。他のメディアを押しのけての精力的な取材。

稲葉さん、今も遠くどこかで自由に走っていると信じています。そして、私はこれからいつも稲葉さんのことを思い出しながら走ることでしょう。本当にありがとう。

2013年春、来日したJoe Grantと箱根にて。

2013年春、来日したJoe Grantと箱根にて。

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