夏から秋にかけてはUTMBをはじめ本格的な山岳ルートでの長距離のトレイルランニングレースが開催されます。レース以外にも本格的な夏山のルートにトレイルランニングで挑戦しようと計画している人も多いはず。そんな場合にどんなトレイルランニングポールが必要か考えてみました。【追記・UTMF、レユニオンでは次回開催の大会では使用が認められていないことを反映して記事を一部修正しました。2015.7.9】
トレイルランニングにポールは必要?
ハイキングや登山ではトレッキングポール(ストック)が登りや下りを楽にするために使われていて、軽量ながら丈夫なトレッキングポールが発売されています。
一方、日本のトレイルランナーにトレッキングポールを使うというテクニックを教えてくれたのは、ウルトラトレイル・デュ・モンブラン(UTMB)の様子を紹介する写真や動画でした。ヨーロッパでは険しい山岳ルートでのトレイルランニングにポールを活用していて、それまで山を走るのにポールを使うことは少なかった日本やアメリカのトレイルランナーにも広まっていきました。
ハイキングや登山の場合には、大きい段差を登るためにポールを押す腕の力を使って脚にかかる負荷を軽減するとか、大きな荷物を背負って足元が不安定な場所を通過するときに体を支える、といった使い方をするように思います。また、雪や泥で足元が不安定なときに足元が滑るのをある程度支えるという使い方もあるかもしれません。こうした用途のために、トレッキングポールは軽量ではあっても体重がかかる使い方をしたり、足元が滑ってポールに大きな力がかかる場合も壊れない頑丈さと安心感が求められます。
一方、トレイルランニングの場合はどうでしょうか。もちろんトレイルランニングの場合もハイキングや登山と同じような使い方をすることもあるでしょうが、経験あるトレイルランナーであれば、実際にはちょっと違う使い方をすることに気づくでしょう。
ポールの利点を理解すると行き着くのは軽くてシンプルなもの
UTMBやウルトラトレイル・マウントフジ(UTMF)、トル・デ・ジアンといった長距離のトレイルランニングレースで実際にポールを使った経験では、ポールを突いた腕で体を引き上げるような激しい登りとか、岩が転がっていたり、大きな岩の割れ目をポールに体重をあずけながら進む、というシーンはあまりありませんでした。【追記・筆者がUTMFでポールを使用したのは使用が認められていた2012年大会ですが、2014年、2015年大会は使用が認められていません。2015.7.9】
トレイルランニングでは登りも基本的には脚の筋肉を使うわけで、ポールはあくまで上半身を支えるのが目的。テクニカルな下りでポールを使いながら安定して下りて行くときも、ポールは補助的についているだけで全体重をかけるような使い方はしないものです。そのほかに見逃せないのがポールを突くリズムの効用です。長いレースの中で現れる長い登りでは休んだりペースが落ちてしまいがちですが、交互に左右のポールを突くことで脚を確実に動かし、背筋を起こして姿勢を保って進むことができます。さらにいえば、普通に走れる場所ではポールは使わずに走りたいので、片付けたり取り出したりしやすいのが便利です。
こうして考えると、ある程度の経験を積んだトレイルランナーが長距離のレースやファストパッキングに使うトレイルランニング用のポールは、軽さ、適度な丈夫さ、組み立てや着脱がしやすいこと、が条件となります。もちろん、こうした道具にはメリットと同時にデメリット(トレイルランニングで想定される以上の大きな力がかかったら壊れる可能性がある、など)を理解していなくれはなりません。
ありそうで他にはないMountain KingのTrail Blazeシリーズ
こうした条件を満たすトレイルランニング用のポールはすでに国内外の各社から発売されていますが、Mountain KingのTrail Blazeシリーズは、トレイルランニングに求められる条件をシンプルに追求した、ありそうでなかったポールです。
Mountain Kingはイギリスのトレッキングポールやランニングポールの専業メーカー。欧州のハイキングやトレイルランニングのファンの声を製品開発に生かしながら、ニューカッスルにある本社工場ですべての製品を作っています。
長距離のトレイルランニングレースを想定したTrail Blazeシリーズはアルミ合金製の「Trail Blaze」(14,800円+税)とカーボン製の「Trail Blaze Skyrunner」(18,800円+税)の二種類。
長さは100cmから125cmまで5cm刻みで6つの長さが揃い、自分の体に合う長さを選ぶことができます(通常普通に体の前でポールを握った時に肘が90度になるのが適切なサイズですが、トレイルランニングの登りで活用する場合はやや短めの方が使いやすい)。100cmや125cmというのは他のブランドでは揃わないこともあるので貴重。
気になる重さは110cmの2本一組でアルミ合金タイプが276グラム、カーボンタイプは230グラム。他社のトレイルランニング向けポールではアルミだと300グラム、カーボンでも285グラムくらいなので、Trail Blazeシリーズは非常に軽量です。
さらにアルミ合金タイプの「Trail Blaze」はアルミの光沢感が美しい全8色のラインナップ。UTMFのようなレースでは人がたくさんいるエイドで補給する時にポールを脇に置くことがあるので、わかりやすい色遣いは実用的で便利。
使い勝手で見ると、グリップはメッシュ生地で覆われたエアフローグリップを採用。握り心地がソフトで握った感触があるのが快適。さらに雨でびしょ濡れになってもメッシュ生地はドライな感触のまま。腕を通して使えるストラップも付いています。ただシンプルな作りとするためか、グリップがやや小さめ(グリップが長めの方が握る位置を変えることでポールの長さを変えることができる)なのと、ストラップはシンプルなループ状でグリップに縫い付けられているので、ループの長さを変えたりストラップを付けたり外したりという調整はできません。
ポールの先端部はカーバイド製のチップでこれにかぶせるキャップが付属します。取り外し可能なバスケットが付属しているので、ぬかるみや雪のあるところなどでは便利。
一番気になる折りたたんだ状態からの組み立ては、4つのパートに分かれた中空のポールにコードが通してあり、下に垂らしてコードを引っ張りながらそれぞれのパートを組み合わせ、最後にコードの上部の結び目をポールの縁の溝に引っ掛けるというもの。シンプルですが、万一使用中に緩みを見つけた時もコードを結び直したりとメンテナンスしやすい構造です。なお、100cmと105cmについてはポールは4つではなく3つのパートに分かれています。
そして、溝から先に伸びるコードの先端にはマッシュルームトップキャップがついていて、これをポールの中に押し込むことでスマートにロック。このマッシュルームトップキャップが滑らかな曲面になっているのは、トレイルランニングポールを使ってツエルトや非自立式のシェルターを立てる時に収まりがよく、OMM Japan raceのようにツエルトを活用するイベントには重宝するはずです。
【いいところ】
- 同じタイプのトレイルランニングポールのなかでも軽量、シンプル
- 100cmから125cmまで5cmで揃うので自分に合うサイズが見つかる
- 濡れても握り心地がいいメッシュ生地のグリップ
- シンプルでスマートにコードを収納できるマッシュルームトップキャップ
【ちょっと残念なところ】
- グリップがやや小さめ、ストラップが調整できない
Mountain KingのTrail Blazeシリーズは決して珍しい構造や新素材が盛り込まれているわけではありませんが、実際にトレイルランニングで使う時に必要な要素を見極めて、シンプルに形にしたトレイルランニング・ポールです。まだトレイルランニングの経験が浅くて、ちょっとやそっとでは壊れそうにない頑丈さやガッチリと大きなグリップがないと安心できない人には向きませんが、ビッグレースに向けて経験を重ねてきたトレイルランナーにとってはありそうでなかった貴重なギアとなるでしょう。上州武尊山スカイビューウルトラトレイル、ハセツネ・カップ、OMM Japan、海外ならUTMBやトル・デ・ジアンといった長距離の山岳レースにチャレンジしたい人は夏の間のトレーニングで是非試してみてはいかがでしょうか。【追記・UTMFでは2014年および2015年大会ではポールの使用が認められていません。また、レユニオンでも2014年大会では認められていません。これらの事実に即して一部の文言を削除しました。その他の大会でも今後ポールの使用が認められない場合があるかもしれないので、最新の情報をご確認ください。2015.7.9】
(協力・Mountain King)