先駆的なアイディアで「攻め」の姿勢を感じるフランスのブランド、RaidLightが展開する山岳スポーツブランドがVertical / バーティカル。このVerticalが今シーズン展開する新製品を試してRaidLightゆずりのきめ細かいものづくりを実感しました。
Verticalはフランス発の山岳スポーツブランド
ロッククライミングやハイキングなどの山岳スポーツのためのウェアのブランドとしてVerticalがフランスでスタートしたのは1984年。山岳スポーツの中でもアルパインクライミングやスキーを使った長距離縦走(スキーランドネ)といった経験と高度なテクニックを必要とするアクティビティの分野で知られるようになったVerticalに一目ぼれしたのがRaidLightのベヌワ・ラヴァル / Benoit Lavalさん(当サイトのインタビューはこちら)。2010年からはRaidLightの兄弟ブランドとして、RaidLightの先駆的なファブリックを取り入れてコアなファンの細かいニーズに応える製品を展開しています。
RaidLightのエスプリを感じるVerticalのものづくり
今シーズン展開されているVerticalの製品から当サイトが注目したアイテムは次の3点。
コンパクトで贅沢な作りのレインポンチョ、Raincape Respire / レインケープリスパイア
まずはRaincape Respire / レインケープリスパイア(S、M、L 19,440円 <税込>)。これはバックパックを背負った上から全身を覆うことのできるレインポンチョですが、非常に本格的で凝った作り。ベースとなる生地はRaidLightの開発した薄くてしなやかな防水透湿性素材リップストップライトMP+で全体の重量は300グラム。
フロントには止水ジッパーが用いられており、スライダーが2個付いているので裾から一部だけを開いて使うことも可能。雨が小降りになったら裾を開いて通気性を保ちながら歩くことができます。そしてフードにはなんと先端部分に透明な素材が使用されています。本格的なアルパインクライミングやトレイルランニングではこういう作りにはしないでしょうが、ポンチョを使うような場合には目深にフードをかぶっても視界が保たれるのが便利。
そして、背中には大きなスリットファスナーが設けられており、これを開くと40L以上の大きなバックパックも余裕でカバー。この辺りをスナップボタンのような簡易な作りにしないあたりに山岳スポーツブランドのこだわりを感じます。
軽量なのに機能に妥協しない防水透湿ジャケット、Trek Plume Jacket / トレックプリュームジャケット
Trek Plume Jacket / トレックプリュームジャケット(S、M、L 30,240円 <税込>)は防水透湿性を備えたフード付きで超軽量なジャケット。こちらもベースとなる素材はリップストップライトMP+で全体の重量は210グラム。
しかし軽量でもディティールをみると山岳スポーツ用のジャケットには欠かせない仕組みは省いていません。フードは左右だけでなく頭の後ろにもフィット感を高めるためのコードが設けられています。さらに左右の脇には大きく開放できるジッパーが設けられていて、天候やアクティビティの強度にあわせて通気性を細かく調整可能。
さらに袖口には開き加減を調整できるベルクロが付いており、左右にはポケット、内側には裏返した時に収納可能なポケッタブルポケットが設けられています。こうした使い勝手を高めるための細かい仕組みを削れば防水透湿ジャケットはもっと軽くすることができますが、こうした機能を残しながら210グラムという軽量性を実現したところに革新性を感じます。レースはもちろん、ハイキングや日本アルプスへの登山、さらにはクライミングなど様々なアクティビティを楽しみたいトレイルランナーにおすすめです。
また、左右の肩の部分にVerticalのロゴの形の樹脂製のパターンがプリントされていて、バックパックのフィット感を高めます。この辺りにも先駆的なアイディアを形にするRaidLightゆずりのものづくりが伺えます。
ウルトラライトでも普通のハイキング・パックでもない、機能の取捨選択にセンスが現れたAdventure 40L / アドベンチャー 40L
40Lのバックパック、Adventure 40L / アドベンチャー 40L(18,360円 <税込>)はスピードハイクや身の回りの生活用品も持ち歩く必要があるステージレース、アドベンチャーレースなどを想定して作られた今シーズンの新モデル。最近目にする機会が増えたほとんど生地を縫い合わせただけのシンプルなウルトラライトスタイルから比べるとかなりしっかりした装備ですが、一般的なハイキング、トレッキング用のバックパックから比べると機能を絞り込んだ軽量なバックパックといえます。この辺りの機能の絞り込みにVerticalの哲学とこだわりが現れます。
背中には6つの島状のクッションパッドを配置して軽量ながらも快適さを確保、背面には取り外しも可能な棒状のスチールのフレームが入っていて、約855グラムという軽さながらある程度の重さの荷物を快適に背負うことが可能になっています。
メインとなる荷室は大きな一気室で自由に使うことができますが、一般的なバックパックと比べると柔軟な構造なので、安定した背負い心地とするためにはパッキングには多少工夫が必要になりそうです。よく考えられていると思うのは、このメイン荷室の上端の部分はシルバーコーティングがなされていて、この部分から雨や汗で中の荷物が濡れにくい仕組みになっていること。
さらにバックパックの前面には大きめのハイドレーションバッグを収納して固定しておける専用のポケットが独立して設けられています。メイン荷室から独立しているので、補給がしやすく、中の荷物が露で濡れたりする心配もありません。さらに左右にはかなり大きなメッシュポケットがついているので、補給食でも1Lくらいのボトルでも、濡れたジャケットでもいろいろ便利に使えそうです。さらによくパックパック前面を見るとメイン荷室に直接アクセスすることもできるジッパーまでついています。
バックパックを上から覆うフタとなるトップフラップポケットは左右のショルダーストラップと繋がっていて取り外しも可能な構造。連絡先などを書いたカードを入れておける透明なポケットも付いていて、フロント側はストラップ一本で締めるシンプルな構造。
バックパックの底となる部分には4カ所にDカンパーツがついているので、シュラフやマットといった大きな荷物を外付けにすることもできます。
スペックを比べると、ウルトラライトと普通のハイキング・トレッキング用バックパックの中間的な存在。しかし、スピードハイクやファストパッキング、アドベンチャーレースといった場面で必要となる機能を選び取った他にはないバックパックがこのAdventure 40L / アドベンチャー 40Lだといえます。
実際に富士登山競走の取材で使ってみました
さて、上記でご紹介したVerticalのアイテムのうち、Raincape Respire / レインケープリスパイアとAdventure 40L / アドベンチャー 40Lを実際に今年の富士登山競走の取材で使ってみました。毎年7月末の金曜日に開催される富士登山競走を当サイトが取材するのは今回は3回目。今回はボランティアの皆様に取材をサポートしていただき、当サイト岩佐はフィニッシュ地点の富士山頂に向かうことにしました。
移動の都合から、今回の取材では荷物をどこかに預けておくことはできないので必要な荷物は全て持ち歩くことになります。気温が10℃以下になる富士山頂での待機に備えた着替えや帰宅するまでの間に必要な補給食や飲み物に加えて、カメラやインタビュー録画に必要な三脚といった荷物がかさみます。40Lのバックパックはほぼいっぱいになりました。
河口湖駅から富士山吉田口のスバルライン五合目行きの最終バスに乗って五合目に到着したのは午後9時過ぎ。たくさんの登山客で賑わう中、準備を整えて登山を開始します。多くの荷物を背負った状態では、翌日の富士登山競走を走るランナーのようには速く進めませんが、Adventure 40L / アドベンチャー 40Lのおかげで快適に足を進めることができました。
この日は深夜11時過ぎ、七合目を過ぎたあたりから富士山に約1時間ほど強い雨が降りました。この事態を想定して、背中のポケットに入れていたRaincape Respire / レインケープリスパイアを手探りで取り出し、さっと腕を通して雨対策は完了。普通のレインジャケットなら一度立ち止まってジャケットを着なければならないところでしたが、このポンチョであれば歩きながらでも着ることができました。また、ポンチョなので背中のバックパックも濡らさずに済みます。普通のハイキングならともかく、今回は取材道具のカメラなどもあるので濡れずに済むのは助かりました。雨が上がってからもフロントのジッパーを裾の部分から開いて空模様をみながら登り続けます。
この日は午前1時半過ぎに山頂に到着。さすがに人は少ないですが、人の気配はかなりあります。風も強いので山頂の建物の影でポンチョを着てビバーク。ビバークにはレインジャケットとパンツの組み合わせの方が適していると思いますが、この高機能なポンチョはうまい姿勢を取れば体の熱を逃さないで過ごすことができました。
というわけでVerticalのアイテムを使った富士登山競走取材ではまずRaincape Respire / レインケープリスパイアが大活躍。冬季や天候が荒れる高山には適しませんが、軽量で高機能なリップストップライトMP+とジッパーでしっかり雨から守ることができるので、一般的なハイキングや当方のようなトレイルランニングの取材ではかなり便利に使えそう。これからも取材道具として重宝しそうです。
Adventure 40L / アドベンチャー 40Lも軽量さと収納力のバランスが取れていて、重い荷物でありながら快適に背負うことができました。ただ、今回の当方の使い方だとカメラや三脚といった装備をしっかり固定し、一方では取り出したりしまったりもしやすいというニーズがあり、その面では使い方に工夫が必要な気がしました。また細かいところでは、バックパックにトップフラップポケットでフタをしようとすると、どうやっても背中側に隙間が空いてしまってメイン荷室を完全に覆うことができませんでした。この辺りもパッキングに工夫が必要なようです。
夏から秋にかけてのハイキングやファストパッキング、さらにはアドベンチャーレースに向けた準備に、先駆的なアイディアと工夫が詰まったVerticalのギアに注目が集まりそうです。
(協力・Vertical 同社よりレビューのためにご提供いただいた製品を使ってこの記事をお送りしています。)