イベントレポート・トレイルランナーが集って語り合う。トレイルランニング・フォーラム 2016

「トレイルランナーが集って語り合う1日」には実りはあったでしょうか。三連休の最終日となる1月11日に東京で日本トレイルランナーズ協会「トレイルランニング・フォーラム2016」を開催しました。このレポートではイベントの主な内容と当サイトが取材した印象をお伝えします。

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パネルディスカッションとテーマ別の意見交換会で構成

「トレイルランニング・フォーラム」は午前10時30分にスタートし、午後5時近くまで開催されるという長丁場のイベント。会場となる東京海洋大学には300人近くのトレイルランニング愛好家や大会主催者などが集まりました。

フォーラムの冒頭では日本トレイルランナーズ協会代表理事の山西哲郎さんが「日本トレイルランナーズ協会はトレイルランニングの将来を考えるために設立された。今日のイベントがトレイルランニングを通じて平和と幸福を担っていくきっかけになることを期待している。」と挨拶。

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冒頭にあいさつする山西哲郎さん(日本トレイルランナーズ協会代表理事)

続いて協会の副代表理事を務める石川弘樹さん、鏑木毅さんという著名なトレイルランナーがオープニングスピーチ。石川さんは日本におけるトレイルランニングの歴史を自身の経験を交えながら紹介。日本において山を走る歴史は非常に古いことや、トレイルランナーとハイカーや地元との軋轢という大きな問題が生まれてきたこと、近年になって大会がビジネスとして開催されたりプロのアスリートが生まれてきたことを概観。

鏑木さんは日本において2010年から2015年の間にトレイルランニングが爆発的に成長し、その背景にはランニング・ブーム、アウトドア志向、東日本大震災による日本人のメンタリティの変化があったと指摘。最近のトレイルランナーのマナーや大会運営のルールに関する問題については環境省や東京都によるガイドラインが昨年作られたことを評価しつつも「かなり広範にわたる内容で過剰な規制にならないか心配」と話しました。トレイルランニング界の現状についても各地域で議論の場が孤立しがちだとして「ルールやマナーは国内で統一して広めていくことが重要。そのためには協会は行政との結び付きを強めていくつもり」と発言。一方でトレイルランニングが社会に受け入れられるには社会にとってのメリットを訴求することも必要と話しました。

続いて行われた公開討論会には、このイベントを開催する日本トレイルランナーズ協会とは別に日本におけるトレイルランニングの競技団体として設立されている日本トレイルランニング会議(トレランJAPAN)から杉本憲昭さん(会長)、宮地由文さん(理事長)、日本スカイランニング協会(JSA)から代表の松本大さんが鏑木さん、石川さんに加わりました。

宮地さんは「トレイルランニングがこれほど大きく成長すると選手、愛好家の権利を守る必要がある」として、トライアスロンでの経験からも競技団体を作るには草の根から立ち上げるという発想だけでなく、日本体育協会や公認指導者制度などの既存の制度にどう対応するかを考える必要がある、と発言。トレイルランニングのナショナルセンターが求められているという考え方を示しました。杉本さんは北丹沢など丹沢山系で大会を開催してきた経験から「日本で山を使った大会を行うには行政や地域の理解と協力を得ることが非常に重要。また、環境の保護といっても常に人の手を借りて整備を行うことが必要」としてトレイルの利用と活用のバランスをとることが重要と話しました。

日本スカイランニング協会(JSA)の松本大さんは、すでに世界レベルでスカイランニングのシリーズ戦が活発に行なわれている現状では、日本の選手にそうしたレースへの門戸を開くには国内に団体が必要だと痛感したことがJSAの設立の背景にあると説明。スカイランニングという言葉の持つイメージを大切にして、オリンピックの種目入りを目指しながらも子どもから高齢者まで楽しめる山間地の地域スポーツとして成長させたい、との見方を示しました。

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パネルディスカッションの会場となった東京海洋大学には300人近くの参加者が集まりました。

参加者からの「『トレイルランナーズ協会』と『トレイルランニング会議』の間でどのように協調していくのか?」という質問に、『協会』の鏑木さんは「それぞれの組織に得意不得意がある。互いの知識や経験をお互いに生かし、一体となってやっていくべき時期が近づいている。」とし、「トレイルランニングは陸連、スカイランニングは山岳というのが世界の流れというが、同時に各国の事情が尊重されるべきとの考えもある」と発言。『会議』の杉本さんも「小異を捨てて大同につくべき。日本体育協会の傘下入りを目指して政治家と話し合っている。自分の経験からも山でのマナーはハイカーよりもトレイルランナーの方がいい。実態をもっと伝えていくことが必要。」との見方を示しました。

一方、『会議』の宮地さんは「組織をどう一体化するかということではなく、もっと高い視点からトレイルランニングの愛好家や選手の権利が脅かされている現実を共有し、一緒になって守ることが大事。」と組織の統合については牽制とも取れる見解でした。

パネルディスカッションの後は4つの会場に分かれてそれぞれのテーマに基づいて意見交換会が行われました。それぞれの会場では必携装備品についての考え方、トレイルランニングを通じた地域活性化の事例紹介、「クマにあったらどうしたらいいか」といった具体的な事例に基づくアウトドアでの安全のためのグループワーク、そしてトレイルランニングに関するマスメディアの報道の実態や今後の『協会』が取るべき対応などが話題となりました。

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トレイルランニングの報道に関する意見交換会。

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意見交換会の内容を報告する松永紘明さん(左)、眞舩孝道さん。

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意見交換会の内容を報告する鏑木さん(左)、渡邊千春さん。

話題や課題に新味はないが、多くの参加者が集まって発言したのは貴重な機会

当サイトでは一昨年に「トレイルランニングの未来を考える全国会議」の事務局を務めて以来、トレイルランニングの抱える課題と競技団体づくりについてはその先行きを追ってきました。そうした視点からは今回の「フォーラム」では特段新しい話題や課題は現れておらず、従来の課題や『会議』と『協会』の方向性を確認するにとどまった、といえます。本日までの時点で、今回のフォーラムを主催した『協会』も招かれた『会議』もここまでの活動の報告や成果の紹介は皆無であることもこのことを裏付けます。また、二つの競技団体が一本化することについても、上記のようにその具体的な形は共有されているようにはみえませんでした。

ただ、今回のフォーラムには大会主催者やトレイルランニングの「業界関係者」だけではなく一般の愛好家も多数集まり、300人程度の人が集まるイベントとなりました。これだけ多くの参加者が集まってトレイルランニングについて意見を述べ合う場は貴重な機会です。これは『協会』だからできることで『会議』にとっても協力を得たいところでしょう。昨年『会議』は会議と称する説明会を繰り返し開催して、その設立趣旨を説明していましたが、今後も『協会』は同様のアプローチを取っていくのかもしれません。会場では3月21日に『協会』の年次総会を今回のフォーラムのような形式で行うと代表理事の山西さんからアナウンスがありました。

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イベントの最後には『協会』の理事が壇上に揃い、一言ずつコメント。

おことわり・今回のフォーラムと当サイトについて

当サイトでは今回のフォーラムをトレイルランニングのオンラインメディアとして取材したほか、編集人の岩佐がITRAの日本におけるランナー代表としての立場からITRAの活動についてプレゼンテーションを行いました。当サイトおよび岩佐個人は日本トレイルランナーズ協会、日本トレイルランニング会議ともその活動や組織には関与していません。
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