香港の中でも自然に満ちあふれるランタウ島で優勝。原良和さんのトランスランタウ / Translantau・レースレポート

【編者より・原良和 / Yoshikazu Haraさんはロードでは24時間走で歴代世界2位、トレイルでは2013年のUTMFでの優勝など、100kmを超える長距離のレースでは世界のトップを狙える日本を代表するランナーです。その原さんが3月11日に香港で開催されたトレイルランニング・レース、トランスランタウ / Translantauで12時間21分で優勝しました。今年のトランスランタウを振り返るレポートを原さんから寄稿していただきました。今回のトランスランタウに先立って12月にはコースを試走しに行くなど、原さんにとって今回のトランスランタウはかなりの気合を入れて臨んだレース。なぜトランスランタウを舞台に選んだのか?原さんのレポートをご覧ください。】

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香港は国内よりも行きやすい。アドベンチャーに満ちた未知の大会に惹かれる。

トランスランタウ / Translantauは香港・ランタウ島で開催されているトレイルランニングレースです。ランタウ島は香港の島部では最大の島で、香港国際空港や香港ディズニーランドがあるので観光客は誰もが足を踏み入れているはずですが、島全体の人口は5万人ほど、香港の中でも全体的に自然が残されたのどかなエリアです。

トランスランタウは2012年に始まり、翌年からは100kmのレースが行われるようになりました。コースの中には藪漕ぎをするような区間もあるアドベンチャーに満ちた大会として知られています。もっとも、今年からコースが一部変更されて藪漕ぎをする区間はなくなったので、多少は文明的なコースとなったようです。100kmの他にも50kmや25kmのレースも行われますが、メインイベントは金曜日の夜、23時30分にスタートする100kmのレースです。

今年春の海外レースの予定を考える際に、まず考えたのがUTWT第3戦となる3月5日のトランスグランカナリア / Transgrancanaria HG(スペイン・カナリア諸島)ですが、日本からはあまりに遠く時差調整も大変なので選択肢からは外しました。一方で香港は関西国際空港からLCC(格安航空会社)で4時間程度。家族で渡航するのも国内旅行と変わらず気軽に行けます。正直なところ、サロマ湖に行くのに千歳空港からレンタカーで向かうよりも楽なのです。

香港には長距離のトレイルランニングレースがたくさんあり、私としては1月のビブラム香港100 / Vibram Hong Kong 100でリベンジしたい(昨年は途中で棄権しています)という気持ちもありましたが、同じ1月に開催されるHURT 100(ハワイで開催される人気に100マイルトレイルレース)の抽選に通ったので、両方の出場は不可能と考えて見送りました。そんな経緯もあって、3月のトランスランタウに挑戦することを決めました。

中盤に7分のロス、それでも落ち着いていた理由は?

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トランスランタウの中盤、44km地点を走る原さん。Photo courtesy of Yoshikazu Hara

トランスランタウはコースがテクニカルで、しかも夜間にスタートするのでコースを知っている方が有利になります。そこで今回は12月に香港でコースを試走しました。家族で渡航してスタートゴールに一番近いホテルに宿泊。CP8(75km地点)からフィニッシュまでを初日に、CP2(17km地点)からCP8までを2日目に試走しました。さらに、レースの前日にはスタートからCP2までを確認しました。大会当日は、試走時にコースを間違えた数km以外は頭に入っていて、安心してスタートできました。

こうして迎えた3月11日金曜日。定刻の23時30分にスタートします。ハイスピードで飛び出す選手もおらずゆったりとしたスタート。私はあえて先頭を追わず10位くらいでゆっくりした入りでした。仁科昌憲 / Soken Nishinaさんとお話しながら楽しく走っていました。

今回は、レース5日前にびわ湖毎日マラソン(42.195km)を走っていますので(編者注・2時間36分8秒でフィニッシュ)、当然疲労が残っています。疲労があるなかで100kmを走ることで、100マイルレースに近い疲労度になるのではないかと想定していました。この2年間はトレイルの100マイルで結果を出せておらず、練習の仕方やレース運びに迷いがありました。もし今回も失速するようなら、今後のレーススケジュールの見直しも検討するという気持ちで臨みました。

コース上は曇りか霧雨で、稜線は強風で寒さを感じる天候です。短パン半袖の選手もいましたが、ほとんどの選手は長袖かジャケットを羽織っていました。私はファイントラックのスキンメッシュのインナーとアームカバーの上に速乾性半袖Tシャツ、スピアラップジャケット。下はスキンメッシュのパンツにアシックスのランパン、ザムストLC1、4DMのタイツでした。シューズはHOKAのチャレンジャーATR。ヘッドライトはPetzl / Nao(現行モデル)、腰のライトにペツルTIKKA+。ハンドライトはあえて持ちません。

コースの路面は香港らしく階段が多く、コンクリートで固められた所が目立ち、フカフカのトレイルはほとんどありません。ランタウ・ピーク(20km地点)への登りまでは、昌憲さんと併走もしくは近くに見える感じで入っていましたが、下りに入ると皆さん速いこと速いこと。恐らく地元のランナーでコースもご存じなのでしょう。つられて私もペースが上がっていきます。CP3(22km地点)からは下り基調でこれまでよりペースが上がりました。CP4(32km地点)のエイドを過ぎたあたりでアクシデントが起こります。

なだらかなトレイルを右折して登るのですが、その入り口を見落としてしまいました。路面もスムースで走れる区間だったのでジェルや水分を補給していたのですが、ちょうどその時にマーキングを見落としてしまったようです。マーキングのない分岐でおかしいと思い始め、見たことのない柵が左手に出てきたところであわてて引き返します。戻り始めてコースに復帰するまで3分ほど。計7分ほどのロス。そこからはオーバーペース覚悟で意識的にペースを上げて前を追いました。

CP5(44km地点)にはスタートから5時間30分、4位で入りました。ここで家族が待ってくれていたので上位の様子を聞き、ゆったり追いかけようと考えました。しかし想定より速くCP6(50km地点)でトップを走るジェレミー・リッチー / Jeremy Ritceyに追いつきます。片言の英語でやり取りして「昨年まではここからブッシュだったんだよ」とか伺いました。Ngong Ping ケーブルカーの下の登りまで二人で併走しますが、ジェレミーのペースが落ちたので自然と私が前になりました。

CP7(62km地点)からはレース中一番気持ちよく走れる区間になります。路面は浮き石もあり、足の置き場には注意が必要ですが、キロ4分半を切って下れたと思います。無難に下りきったのこのあたりで優勝を確信しました。あとはフィニッシュまでエイドの食事などを楽しみながら、無理せず流します。万一追いつかれても再度スパートできるくらいの余力を持ちながらゴールしています。

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砂浜を走る表情には笑みが見える。Photo courtesy of Yoshikazu Hara

エイドの補給食の準備も万端、お勧めしたい大会

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今回も家族に見守られて勝利を手にした原良和さん。Photo courtesy of Yoshikazu Hara

エイドで摂れる補給については、事前に発表されていて確認できました。さすがにおにぎりはありませんが、柔らかい食パンには甘いジャムが挟まれていておいしく食べることができました。ハムやチーズ、バナナやオレンジもありました。CP9ではヌードルの準備がされていました。上位で走っているとエイドの補給食の準備が間に合っていないことがよくあり、1分1秒先を急いでいるとエイドで止まって麺をすするのはためらわれます。でも、今回は思わずいただきました。寒い中のレースでしたので本当においしく感じました。ライブトラッキングで上位陣の位置が正確に把握されていたようなので、エイドでも的確に準備できていたのかもしれません。充実したエイドの運営に感謝します。

ランタウ島は香港の中では一番自然を身近に感じることが出来る島ではないでしょうか。香港は日本からアクセスしやすく、ランタウ島の中はバスでの移動も容易です。来年は是非皆さんも参加をご検討ください。

プロフィール:原 良和(はらよしかず) 1972年8月生まれ。京都大学で陸上部に所属してランナーとしてのキャリアをスタート。2012年サロマ湖100kmウルトラマラソン6時間33分32秒は同年世界ランキング3位。2013年ウルトラトレイル・マウントフジ(UTMF)で優勝。昨年2014年は信越五岳トレイルランニングレースで10時間17分と大会記録を49分更新して優勝したのち、12月の台湾・東呉大学24時間走(Soochow International Ultramarathon)を285.366kmで優勝、日本記録を更新し世界歴代2位の記録となった。
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