林立する岩峰と雄大な漓江の流れを眺めながら走る・中国の観光地、陽朔で開催のマキシ・レース・チャイナ・ヤンシュオ MaXi-Race China Yangshuo 2017 レポート

中国でもトレイルランニングが盛り上がっているらしい。数年前からそんな話を聞くようになったが、実際に中国に行って大会を取材する機会は今までありませんでした。そんな中、今年の夏にフランス人の知り合いから中国の大会を取材しないか、という誘いを受けました。同じく、選手として招待された福島舞さんと一緒に「マキシ・レース・チャイナ・ヤンシュオ MaXi-Race China Yangshuo」が開催された中国・陽朔 Yangshuoにいってきました。

制限時間まであと1時間半。陽朔の街に次々に選手がフィニッシュする。

当サイト、初めての中国本土の取材に旅立つ

シーズンの最終盤となる11月、中国南部・広西チワン族自治区の桂林両江国際空港に到着。ちなみに日本から直通便はないので上海で国内線に乗り継いで行きました。空港に着くと、出迎えていただいた車に乗って大会の行われる陽朔に向かいます。空港からは南に約60kmで、一時間ほどの道のりです。ホテルについたのは夜で辺りの様子はよくわかりませんでしたが、一夜あけて窓から外の様子を見てみるとびっくり。町を取り囲む、鋭く切り立った山や岩壁が目の前に迫っていて、その中の小さな陽朔の街は観光客や地元の人たちで大にぎわいでした。

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陽朔の路上では美味しそうな炒め物の露店も。

一夜明けた陽朔の街。池に浮かんだ船の上で歌や踊りが披露されてお祭りのようでした。

桂林で有名なのは石灰岩が長い時間をかけて溶けてできたカルスト地形。塔のようにとんがった山がニョキニョキと林立する間を流れる漓江(リージャン)の川下りの目的地として有名なのが陽朔で、その中心にある西街は中華料理のレストランやカフェ、雑貨屋さんが軒を連ねるばかりでなく、イタリア料理やアジア料理、スターバックスやマクドナルドといった国際的なチェーン店もある観光地です。夜になるとまるで毎日がお祭りのように大勢の観光客が通りにあふれます。

フランスの名大会が中国の大会とタイアップ

この陽朔をメイン会場として「陽朔100」という大会がすでに4回開催されてきました。一方、フランス・アヌシーで5月に開催されている「マキシ・レース MaXi Race」は2005年に始まって、今では4kmのバーティカルから116kmのウルトラまでのレースに、2人か4人での駅伝、二日間のステージレースと10のレースが行われるビッグなイベントです。このマキシ・レースはさらにそのブランドを海外に展開。2017年は本国フランスに加えて、南アフリカエクアドル、そして中国でマキシ・レースが開催されました。中国でのマキシ・レースは今年が2回目で、陽朔は今回初めて「マキシ・レース・チャイナ MaXi-Race China」として開催されました。

観光客で昼も夜も大賑わいの陽朔

初日、陽朔のホテルに到着したのは夜9時ごろ。ホテルのフロントでも英語が通じず苦戦しますが、大会の準備をしていたスタッフの方に手伝っていただき無事チェックイン。とりあえずどこかで軽く夕食を、とホテルを出て街に出てみます。夜10時近いのですが、交通量は多く、開いているお店もたくさんで活気があります。結局この日は地元の人向け、あるいは中国人観光客向けといった感じの食堂で、スープの入った麺をオーダー。スープは割と穏やかな風味で、麺はつるんとした太麺で、なかなか美味。あとで知りましたが、これがこの地元の名物料理である「桂林米粉」というコメの麺でした。二人で30元(500円ちょっと)で中国で最初の食事となりました。

この後も陽朔では英語が通じるのは欧米人向けの一部のレストランやファストフードの店だけという感じで、どうしても必要なときはスマホの翻訳アプリを使いました。

翌日は街の中心に位置して大会会場となる陽朔公園や観光客向けのお店が並ぶ西街を散策。西街はいかにも観光客向けの個性を感じない店もあるのですが、歴史を感じさせる古い街並みがあったり、池があったり水路が通っていたりとなかなか雰囲気があります。ちょっと調べたところ、この陽朔でも漓江の川下りが楽しめるようなのですが、乗り場や料金がよくわかりません。一方、通りには私たちのような観光客に川下りや、バイクの後ろに乗せるタクシー、レストランなどなどの客引きのおばさんがたくさんいます。そこで思い切って、川下りを勧めてくるおばさんの誘いに乗ってみることにしました。

陽朔の観光客が集まる西街は深夜まで人であふれていた。

おばさんに連れられて歩くこと約10分。漓江の川辺にある乗り場で中国人のおじさん、おじいさんの二人連れと一緒に乗り込んだのは4人乗りのいかだでした。樹脂製のパイプを並べたようないかだに簡単な屋根がついていて、その下に木製のベンチが二つ。船頭さんがいかだのおしりの方に座って、先端にエンジンで動くスクリューのついた竿を水面に沈めると川下りのスタート。ベンチに座っている私たちのすぐ目の前に水面があるので迫力は満点です。天を突くようにそびえる岩峰や巨大な岩壁を眺めながらの往復1時間の旅。折り返し地点の売店では勝手に撮られた記念写真を買わせようとするのが少々煩わしかったですが、一人120元(約2000円)の旅としては満足です。

このほか、陽朔の街を取り囲む山に登ってみました。手元の地図で登山道らしき点線がある山を選んでみたのですが、踏み跡は薄く、ハイキングコースとしては整備されていない感じ。下から見上げた通りの急登で、足元は粘土質で滑る感じなので下りは何度も尻もちをつくことになりました。山頂は狭かったですが、陽朔の街を見渡すことができました。

街のすぐ横にそびえる山の一つに登ってみた。

粘土質で滑りやすい急坂に苦戦。

いかだで川渡り、地元の人たちが愛する麺の店、霧の中のコース

そうするうちにいよいよ11月25日土曜日のマキシ・レース・チャイナ・ヤンシュオ MaXi-Race China Yangshuoの当日になりました。115km、50km、25km、10kmのレースが開催され、115kmのコースの累積獲得高度は5,800m。コースは全般に走りやすくテクニカルなところはありませんが、コースの中盤に標高差1000mの大きな山を超えるのが特徴。コース上でもっとも標高が高いところで1,337mとなります。この日、私は115kmのレースをコース上で取材します。

MaXi-Race China Yangshuoのコースの概要図。左下にあるのがスタート・フィニッシュ地点の陽朔。

コースの高低図。コース中盤に標高1300mほどの山があり、前後は小さな起伏のあるコースとなっている。

スタートは午前5時。陽朔の中心地には約200人の選手が集合(115km以外のレースも合わせると今回は681人がエントリーしていました)。大会前にはエアロビクスのインストラクターが壇上にあらわれて、みんなで一緒に準備運動をしてから、真っ赤な花火に見送られてスタートしました。日の出までは約2時間あるので、しばらくはライトを頼りに漓江を遡る方向に川沿いの林道を進んでいきます。この日の陽朔は終日、厚い雲に覆われた太陽は姿を見せることなく、時折雨というお天気。地図上での陽朔は沖縄よりも南、香港と同じくらいの緯度なのですが、同じ時期の東京より少し気温が高い程度。翌週に訪れた香港に比べるとずっと肌寒く感じました。

午前5時、陽朔をスタート。

まず取材に向かったのは28km地点でエイドのある大坪村(ダーピンクン, Dapingcun)。漓江の西側にある山あいの農村です。25kmのレースのフィニッシュ地点となる村で、会場ではこの後フィニッシュする25kmの選手を迎えようと温かい食事の準備が始まっていました。

28km地点のエイドを出たところ。この後は農村をつなぐ里山のようなトレイル。

その後、コースマップを見ると37km地点で漓江を渡っているので、その川を渡るポイント・全家洲(カンジャゾウ, Quanjiazhou)に移動します。ここではなんと私たちが陽朔からの川下りで乗ったあのいかだがたくさん集まっていて、選手を2、3人ずつ乗せては対岸に渡していました。レース中ですが、漓江のちょっとした川下りも経験できる、というわけです。

選手を渡すためのボートがスタンバイ。

両岸にそびえる山や岩壁を眺めながら川を渡ります。

川渡りの取材を終えるとちょうど昼飯どきです。次の取材ポイントまでの移動の途中で白沙(バイシャ, Baisha)という町の食堂に。ドライバーをしてくれた地元の方が連れていってくれたのは桂林米粉の麺のお店。観光客にはちょっと立ち寄れないディープなお店でいただいたのは茹でた麺に薬味やタレをかけてよく混ぜる、というスタイル。これが本場の一般的な食べ方のようです。寒い日に温かい麺にちょっと辛い薬味をかけて、あっという間にいただいてしまいました。あとで聞いたところでは一杯で5元ほどということでした。

地元の食堂でいただいた「桂林米粉」。米粉でできた麺と皿の底にたまったタレをかき混ぜて食べる。

午後はコースの核心部となる標高1300mくらいの山のパートの取材に向かいます。エイドのある57.6km地点の茶花怜(チャファリン, Chahualing)から先にある山の中に向かうのですが、道路は舗装工事のため途中から車が入れず、片道約7kmの登り坂を歩いて登ることに。みかん畑や、かつての鉱山の村の跡などを通りながら目的地にたどり着きましたが、現地は濃い霧の中。夕方が近くなり全体に薄暗い感じで、選手としてはこの辺りはかなり心細いパートだったと思います。

霧の濃い夕方で気温も下がってきたが、テンションの高い選手の皆さんがポーズを決めてくれました。

この山の中の取材から戻るとすっかり日はくれていました。車で陽朔に戻る途中の午後7時過ぎ、トップの選手が14時間11分でフィニッシュ。天気は夜の間も時々雨が降るという厳しいコンディションでしたが、制限時間の30時間となる翌日26日日曜日の午前11時までに164人が完走。実際にレースをスタートした選手でフィニッシュしなかったのは数人にとどまったのでほどんどの選手は制限時間以内にフィニッシュしたことになります。さらにこの大会について気づいたのは女性の選手が多かったこと。115kmのレースでは20%が女性。50kmや25kmも合わせると31%が女性で、中国ではトレイルランニングに挑戦する女性が多いようです。

25km女子優勝で表彰台に立った福島舞さん(中央)。

25km女子優勝、福島舞さんがみた陽朔

福島舞さん

今回のマキシ・レース・チャイナ・ヤンシュオには、招待選手として福島舞 Mai Fukushimaさんが参加。福島さんはこの大会で唯一の日本人参加者で、25kmのレースで女子優勝、女子2位とは53分という大差で男女総合6位という成績でした。その福島さんに今回の感想を聞きました。

ー 今回は優勝おめでとうございました。雨が降ったり止んだりという天気でしたが、女子優勝という快挙でした。

ありがとうございます。25kmのコースは時々ロードの急坂が出てくるほかは全体的に走りやすいコースでした。スタート地点では周りのランナーがみんな長袖シャツにタイツを着込んでいた中で、私だけ半袖にランパンでしたが最後まで快適に走れました。

25kmのレースで女子優勝、男女総合で6位となった。Photo courtesy of MaXi Race China Yangshuo

ー ロードの急坂があったそうですが、25kmのレースのコースの様子を教えていただけますか。

コースはトレイルだけでなく舗装路や林道も結構ありましたね。途中にはミカン畑の間を通るトレイルもありました。途中で小さな集落の中を走るんですが、村の飼い犬なのか、犬に吠えられて、追いかけられることもありました。村の人たちが珍しそうに走る選手の様子を眺めていましたね。

ゴールテープを切った途端に足を滑らせそうになって爆笑。

ー 中国を訪れるのは今回が初めてと聞きましたが、走ってみて中国らしさを感じることはありましたか。

スタート前の雰囲気の盛り上がりがすごくて中国らしい活気を感じましたね。ステージ上では歌や踊りが披露され、スタートラインでは選手が仲間同士ですごく盛り上がっていて圧倒されました。陽朔の街は賑わっていますが、スタートしてすぐに豊かな緑と雄大な漓江の流れを楽しめました。街と自然の両方を楽しめるコンパクトなところがこの街の魅力だと思いますね。

自身のレースの翌朝、陽朔に戻ってきた115kmの選手を応援する福島舞さん。

中国のトレイルランニング大会初挑戦にマキシ・レース・チャイナ・ヤンシュオはおすすめ

以上、マキシ・レース・チャイナ・ヤンシュオ MaXi-Race China Yangshuoの取材レポートをお送りしました。今回訪れた陽朔は風光明媚な景観で知られる観光地として少なくとも中国国内では有名です。今後は川下りで風景を楽しむだけでなく、トレイルランニングやロッククライミングなどのアウトドア・アクティビティを楽しめる場所として知られていくことになるのかもしれません。現地では話し言葉では中国語以外ではコミュニケーションが取りづらいのは確かですが、トレイルランニング大会の運営においては日本や欧米の大会と大きく異なることはなく、中国語のわからない人でも安心して参加できます。

大会前日の受付会場の様子。英語の表示があり、受付はスムーズに進んでいました。

中国にはたくさんのトレイルランニング大会がありますが、日本からは情報を得にくい大会が多いのが現状です。しかし今回の陽朔のように魅力的な大会がきっとたくさんあるのでしょう。まずは、今回レポートをお届けした陽朔で最初の中国のトレイルランニング大会を経験して見るというのはいかがでしょうか。大会ではすでに来年2018年は11月24日日曜日に開催することを発表しています。大会参加申し込み、大会参加に前後の陽朔や桂林での観光も合わせたツアーへの参加申し込みについてもまもなく発表される予定です。

滞在の最終日になってやっと青空が広がった陽朔を散策。ホテルやカフェからは路上の緑がきれいでした。

漓江(リージャン)のほとりにもたくさんの観光客。

カルスト地形が作り出した岩壁が背後に迫ります。

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