パタゴニアの気候変動を止めるための挑戦・「リジェネラティブ・オーガニック」とは?

猛烈な豪雨が河川の氾濫や山間地の土砂崩れを引き起こす。ヨーロッパアルプスの氷河はどんどん溶け出し、シベリアでは有史以来の気温38℃を記録する。2015年のパリ協定では平均気温の上昇を産業革命以前比で+1.5℃に抑えることを目標に掲げました。そして2018年のIPCC報告書は2030年にも目標である+1.5℃に達すると警告し、それを避けるには2030年までに2010年比で二酸化炭素排出量を45%削減する必要があるとしています。

パタゴニアでは7月30日から、気候変動を阻止するための取り組みとして取り組んでいる「リジェネラティブ・オーガニック」を紹介するキャンペーンを開始しました。コットンなど原材料となる作物を、リジェネラティブ・オーガニック農法という、土を耕さず雑草などの有機物で覆うことで生まれる多様な生物からなる豊かな土壌から作る。豊かで健康な土壌が大気中の炭素を地中にもどすことで気候変動をストップできる、といいます。

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農地の土壌を健康にすることで大気中の二酸化炭素増加が抑えられる

パタゴニア日本支社環境・社会部門シニアディレクターの佐藤潤一さん

パタゴニア日本支社環境・社会部門シニアディレクターの佐藤潤一さん

キャンペーンに先立って行われたプレス説明会で、パタゴニア日本支社環境・社会部門シニアディレクターの佐藤潤一さんは「アパレルと靴で世界全体の温室効果ガスの8%を排出しており、これからの10年で排出量は49%増加するという研究結果がある」と説明。これに対してパタゴニアでは、2025年までに再生可能またはリサイクル素材のみで製造することで二酸化炭素の排出そのものを抑制する取り組み、そして同年までに電力調達先の切替や再生可能エネルギー発電施設への投資によって実質排出ゼロ(カーボンニュートラル)とする取り組みを進めてきたといいます。リジェネラティブ・オーガニックは待機中の炭素を土に戻す、という第三の取り組みという位置づけです。

インドでのコットン農場の様子。

インドでのコットン農場の様子。

1996年からパタゴニアがコットンに100%使用しているオーガニックコットンは従来の農法に比べて環境負荷が少ない、というもの。これに対して「リジェネラティブ(再生)・オーガニックは環境負荷を低減するだけでなく、実施すればするほど土壌が改善して環境が再生される」(佐藤さん)といいます。

福島大学農学部・金子信博 教授

福島大学農学部・金子信博 教授

土壌の生態系や多様性を研究する金子信博教授(福島大学農学部食農学類)が続いて登壇。土壌が健康な状態となることで気候変動が抑えられるメカニズムを解説します。地球全体でみた場合、二酸化炭素排出源は化石燃料の消費だけではなく、森林や草原を切り拓き土壌を痩せさせながら特定の作物を作るという従来型農業も大きな排出源となっている。こうした近代的な農業のやり方を改めることが気候変動を抑制することにつながり、具体的には「土壌撹乱を防ぐ」、「地表を裸にせず雑草のような有機物で覆う」、「輪作や混作をする」という三つの原則からなる「保全農業」が国連食糧農業機関(FAO)により提唱されています。

地球規模でみれば農地が有機物の形で蓄えている土壌炭素は大気中の二酸化炭素よりも桁違いに多く、「保全農業で土壌炭素を一年で0.4%増やせば、その年の大気中の二酸化炭素増加分を全て相殺できる。土壌の劣化に対して農薬や化学肥料に頼るのではなく、農業のやり方を改善することが大切だ」と金子教授は土壌の健康が気候変動を防ぐカギとなることを訴えました。

綿花農場にはマリーゴールドも植えられている。害虫を綿花から遠ざける効果があるという。

綿花農場にはマリーゴールドも植えられている。害虫を綿花から遠ざける効果があるという。

認証制度を立ち上げて農家とwin-winの関係を作る

近代的な農業では長い時間をかけて豊かな土壌を育んでいた森林や草原を切り拓いて、そこに蓄積された有機物を搾取して作物を作り、化学肥料で延命してきました。それに対してリジェネラティブ・オーガニックはこの仕組みを逆転させて、農業を通じて大気中の二酸化炭素を取り込むことで土壌を健康にするわけです。農業と地球環境の両方にとってプラスとなる可能性があります。

パタゴニアでは他のブランドとともに2017年にリジェネラティブ・オーガニックの認証制度と認証機関を設立。制度運用のパイロット期間にはニカラグアでのマンゴー農園とインドでの綿作農園についてパートナー農家とともに参加します。二年間のパイロットプログラムを経て、ニカラグアの「ソルシンプレ」によるマンゴーはジェネラティブオーガニック認証を取得、「パタゴニアプロビジョンズ」の製品に使用されています。コットンについても認証を目指している段階。

伝統的なやり方で5種類の植物の葉をすりつぶして殺虫剤を作る。

伝統的なやり方で5種類の植物の葉をすりつぶして殺虫剤を作る。

認証制度は土壌の健康に加えて、動物福祉、社会的公平性が3本柱となり、各分野については既存の認証制度を活用。その上で土壌を保全する農業のやり方について段階的に基準を設け、最上級のゴールドのほか、シルバー、ブロンズの三段階の認証を設定し、認証済み製品としてロゴを使用することができる、というわけです。

ニカラグアの「ソルシンプレ」農場ではシングルマザーの女性を積極的に雇用して社会的自立を支援している。

ニカラグアの「ソルシンプレ」農場ではシングルマザーの女性を積極的に雇用して社会的自立を支援している。

リジェネラティブ・オーガニックのコットンTシャツとマンゴースナック

パタゴニアはインドの150以上の農場と提携して同社として初めてのリジェネラティブ・オーガニック認証・パイロット・コットンを調達。2020年秋冬シーズンには新製品としてこのコットンを使用したTシャツを発売予定(現時点ではまだパイロット段階で認証されていませんが、認証取得に向けて調整中)。説明会ではインドの農場で綿花の間に唐辛子やマリーゴールドが植えられている様子が紹介されました。

加えて、パタゴニアの食品ブランド「パタゴニア プロビジョンズ」からはニカラグアの「ソルシンプレ」農場で栽培されたマンゴーを使い、唐辛子を加えた甘くてスパイシーなドライフルーツも登場しています。こちらのマンゴーはリジェネラティブ・オーガニック認証のシルバーを取得済み。説明会ではマンゴーの隣にコーヒーやバナナが植えられている様子や、農場で収穫作業にあたる女性の様子が紹介されました。農場ではシングルマザーの女性を積極的に雇用し、彼女たちがその子どもたちのための学費を賄えるよう支援しているといいます。

パタゴニアがいち早く取り組んできたオーガニックコットンについても、実は市場全体でみれば普及率はわずかに止まっているとのこと。リジェネラティブ・オーガニックについても効率や採算だけを考えれば魅了的なビジネスではないはず。パタゴニアの佐藤さんは「ブランド、農場、そこで働く人、消費者の皆さんの誰にとってもwin-winとなるのがリジェネラティブ・オーガニックです」と説明会を締めくくりました。地球規模の課題にまだ誰も試していないアプローチで取り組んでいく、パタゴニアの本気をみた気がしました。

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