「ハセツネ安全走行講習会」の受講生を募集中・どんな講習会なの?責任者に聞きました。【インタビュー】

ハセツネCUPを主催する日本山岳スポーツ協会は今年度の安全走行講習会受講生を募集しています。秋のハセツネCUPを安全に完走できる知識と技術を身につけることを目的とし、春から秋にかけて6回の講習が行われます。座学だけでなくハセツネCUPが行われる山中での実習も予定されています。

この講習会では走力の向上にとどまらず夜間走行や補給の計画といったテクニック、緊急時のセルフレスキューや地図読みの知識と実践、気象やマナーなど山でのアクティビティの基礎知識と幅広いテーマについて学びます。講習の最後に行われる検定試験に合格して修了すると、その年のハセツネCUPに選手マーシャルとしてエントリーすることができます。

Sponsored link


募集人数は35人で募集期間は3月10日まで。応募動機などについて書類選考が行われます。募集の詳細はハセツネCUPのウェブサイトに掲載されています。

安全走行講習会の責任者、坂上明子さんに聞きました

「安全走行講習会」はこれまでに約400人が講習会を修了していて、今シーズンで16年目を迎えます。その年のハセツネCUPを選手兼マーシャルとして走ったあとは「東京ハセツネクラブ」のメンバーとなり、多くの方が秋のハセツネCUPと春のハセツネ30Kの運営スタッフとして大会を支えています。一緒に講習会を修了した同期生のつながりの強さもよく知られています。

今年の受講生募集にあわせて、安全走行講習会の責任者を務める坂上明子(さかのうえ・あきこ)さんに、講習会とはどんな集まりなのか、お話を聞きました。

ハセツネCUPの選手マーシャルは安全走行講習会の修了生が務めている

安全走行講習会の責任者を務める坂上明子(さかのうえ・あきこ)さん。最近、日山協の自然保護指導員に。トレイルランニングで山を走るだけでなく、飛行機の操縦士免許を持ち空を飛ぶことも楽しむ。

DogsorCaravan岩佐(以下DC):トレイルランニングの大会が毎年講習会を開催するのはとても珍しいことだと思います。いつから講習会は始まったのですか。

坂上さん:2007年にハセツネCUPで不幸にも参加者が亡くなるという事故がありました。この事故を受けて、安全な大会として続けていくための対策の一つとして翌年から安全走行講習会、略して安走会が始まりました。

私自身はトレイルランニングの経験がほとんどない時にハセツネCUPを知り、6期生として安走会を修了しています。その後もスタッフとして安走会に携わっていて、今年で11年目となります。

DC:安走会の修了生が選手兼マーシャルを務めるというのは、より安全に大会を開催するためなんですね。

坂上さん:選手が走りながらコース上でマーシャルとして他の選手の安全に気を配る、というのはトレイルランニングではハセツネCUPが最初に始めました。選手として自分のペースで完走を目指しますが、コース上で傷病者を見つけたら速やかに応急処置をして大会本部に連絡をする、というのが役割です。安走会の受講生の選考では走力はあえて問わないのですが、それはマーシャルがレース中の選手の中で偏らないようにするねらいもあります。

講習会の内容は山に入る上での最小限の知識や基礎を身につけること、最近は地図読みが人気

DC :安走会では6回にわたって、コース上での実走を含めたカリキュラムが組まれていますね。受講生にどんな知識や経験を身につけることを求めていますか。

坂上さん:基本的な考え方は、山に入る以上は最低限知っておいてほしい知識や大切にしてほしい基礎を身につけよう、ということです。

トレイルランニングを始める人というのは、体力や走力は備えていても山の経験を持った人は少ないです。足を捻挫してしまって動けないという時に、山では自分でなんとかしないといけない。ロードのマラソンなら寒さ対策としてスタート前だけ大きなポリ袋に穴を開けて被っておけば済むかもしれない。途中でリタイアしてもすぐにバスで回収してもらえるかもしれない。でも山ではそうはいかない。

加えて、山を楽しむ上でのマナーも大事です。トレイルランニングでもハイカーさんたちとの不和が話題になったことがありました。トレイルランナーが山に入った時の振る舞い次第ではこのスポーツ全体の評判を下げてしまう。安走会ではマナーを学んでいますが、私自身はさらに進んで自然環境の保護についても、今後は受講生に意識してもらいたいと考えています。

DC:坂上さんは10年にわたって安走会に携わっていらっしゃいますが、この10年で講習の内容とか受講生が興味を持つことに変化はありますか。

坂上さん:受講生に身につけてもらう基本的な山の知識や経験に大きな変化はありません。受講生の皆さんの傾向としては、最近は地図読みとかナビゲーションに関心を持つ人が増えていると思います。ロゲイニングとかオリエンテーリングの要素を持ったイベントが人気を集めていることが背景にあるようです。受講生の中にはかなり熱心に取り組んでいる人もいて、スタッフの方も刺激を受けて日本オリエンテーリング協会の公認資格を取ったりしています。

受講生が互いに励まし合うようになり、修了してからも仲間として続いていく

DC:安走会の受講生は走力では選ばないとのことですが、受講生にはトレイルランニングの初心者の方が多いのですか。

坂上さん:募集フォームには山やランニングの経験も記入していただきますが、走力では選んでいません。トレイルランニング未経験という方もいますが、ハセツネCUPの71.5kmの完走を目指すわけですからみなさんモチベーションは高いです。

一方で驚くほど経験や知識が豊富な方たちも応募されています。ハセツネCUPをもう何回も完走している方が、今度は大会の役に立ちたいといって応募される。医師や看護師をされている方は今さらファーストエイドについて学ぶ必要はないと思うのですが、一般の人たちがどんな応急処置の仕方を習っているのか勉強したいから、と。

DC:それは驚きました。参加者は初心者ばかりではないんですね。

坂上さん:安全走行講習会が好評で長く続いているのは、さまざまなバックグラウンドを持ったモチベーションの高い方たちが集まっているからだと思います。一緒に学ぶ中でお互いの間に化学反応が起きるんです。お互いに相手の得意なことを学び合うことで、受講生全体のレベルがボトムアップで高くなっていると感じますね。

私自身は受講生を書類選考した責任者なので、課題の進捗が遅かったり、苦手な分野が多い人にはメールや電話でフォローすることもあります。でも、安走会の後半になってくると同期生同士で教えたり励ましたりするようになります。グループで一泊二日のコース実走をするんですが、みんなが力を合わせてゴールを目指すことになり、毎年いろんなドラマが生まれるんですよ。

DC:坂上さん自身がかつて安走会の受講生だったとのことですが、ハセツネでは安走会出身の方が大会の運営に積極的に携わっていますね。

坂上さん:安走会には受講生をサポートするスタッフがいて、これまでの修了生がボランティアでスタッフを務めています。うれしいことにこのスタッフをやりたいと手を挙げてくれる人が多くて選ぶのに苦労するほどなんです。

安走会の修了生で作る「東京ハセツネクラブ」は400名ほどのメンバーがいて、例えば今年久しぶりに開催されるハセツネ30Kの運営スタッフの大半はこのメンバーが引き受けてくれる見込みです。トレイルランニングと山の知識と経験を共有している仲間が集まってくれるのは心強いです。

DC:ハセツネの魅力の秘密の一端は安全走行講習会にありそうですね。ありがとうございました。

この記事が気に入ったらDogsorCaravanをBuy Me a Coffeeで直接サポートできます!

Buy Me a Coffee

Sponsored link