【インタビュー】パタゴニア本社スタッフが見た日本のトレイルランニングの魅力とコミュニティの可能性とは

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ライフスタイルとスポーツを分け隔てることなく楽しむのが日本らしい。外からみた日本のトレイルランニングコミュニティの印象に、目から鱗が落ちる思いがしました。

カリフォルニアのパタゴニア本社からトレイルランニング製品を担当するスタッフが日本に来るよ、とお声がけいただいたのはある秋の日でした。それならばと早速インタビューをアレンジしていただき、パタゴニアからみた日本のトレイルランニングの印象、パタゴニアの最近のトレイルランニング製品について聞きました。そしてパタゴニアといえば自然環境の保護に果敢に取り組んでいることもよく知られています。こうした取り組みについてもこの機会に考えを聞くことができました。

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今回の日本への出張にあわせてインタビューに応じてくださったのはパタゴニア本社のトレイルランニングを含む事業部のジェイソン・ゴンザレスさん(事業部のヘッド)、ジェシカ・ロジャースさん(プロダクト・マネジメント)、ビアンカ・ボッタさん(マーケティング)の3人です。

今回のビジネストリップでは日本の山の楽しみ方を体験できた

今回インタビューに応じてくださった3人はカリフォルニアのパタゴニア本社でトレイルランニングやマウンテンバイク、ハイキングといったアクティビティをカバーする事業部の皆さんです。世界各地のアウトドア事情を知るためのビジネストリップは欠かせませんが、コロナ禍もあって日本を訪ねるのは久しぶりでした。

ジェイソン・ゴンザレスさん

ジェイソン・ゴンザレスさん

「主な目的は日本のアウトドア市場や販売店の現場を自分たちの目で見て、パタゴニアの製品を使ってくださるお客様をよりよく知ることです。私たちの製品はグローバルに展開していますが、それらが日本のユーザーの皆さんにもちゃんと響く製品であることが大事だと考えています。」(ジェイソンさん)

このインタビューの前には白馬(長野県)や高尾山(東京都)にも行ってきたという3人にとって、日本のアウトドアのカルチャーに触れる経験は新鮮なものでした。

「私は世界中の山を訪ねて楽しんできましたが、日本に来るのは今回が初めてでした。最初に白馬に行き、ハイキングをしたんですが、流れる雲が山々に交わっていく様子は神秘的でしたね。」(ビアンカさん)

白馬でトレイルを走るビアンカさん

白馬でハイキングするビアンカさん

「高尾山ではまるで熱帯雨林のような、緑の濃いトレイルに驚きました。東京からわずか1時間でこんな見事なトレイルがあるなんて。そこで年齢も経験もさまざまな人たちとグループで一緒に走って、美しいお寺でランニングを終えました。今回のようにトレイルランニングを通じて、自然だけでなく豊かな歴史と文化に触れるのはこれまでにない経験でした。」(ジェシカさん)

山頂に着いたらお弁当を広げてみんなで食べたり、山小屋に立ち寄って温かい味噌汁を食べる。そんな様子も皆さんにとっては日本で初めて見る風景でした。

「私たちが感じたのは、日本のコミュニティと山々との間には深いつながりがあるということ。年配の人たちだけでなく、若い人たちにもそれが受け継がれている。その様子を実際に見ることができて、インスピレーションを受けました。」(ジェイソンさん)

日本ではテクニカルな機能性とライフスタイルのためのファッション性がブレンドしている

今回のインタビューで筆者が聞いてみたかったのは、世界と比べて日本のアウトドア製品の市場や消費者がユニークなのはどんなところか、ということでした。アメリカを拠点にパタゴニアで日々世界各地の声を聞きながら仕事をしている皆さんの目に、日本のトレイルランニング市場がどんなふうに映るのか、興味があったのです。

ジェイソンさんは世界中のどこでも国際的な大都市は同じような特徴があると前置きしながらも、日本のアウトドア市場について感じることを話してくれました。

「私たちがとても誇りに思っているのは、日本でパタゴニアというブランドが日々の生活の中で着るのと同時に、アウトドアアクティビティでも使われているということです。私たちはまさにそういう製品を作ろうと努力を重ねているので、日本でその思いがお客様に届いていると思うとうれしいのです。」(ジェイソンさん)

ジェイソンさんによれば、アウトドア市場では本格的なアクティビティのためのテクニカルな製品とファッション性のある製品を分けようという傾向があり、特にヨーロッパではこの傾向が強いそうです。そうした中で日本ではアクティビティのための純粋な機能性と、日常的なライフスタイルのためのファッション性がユニークにブレンドすることが好まれる。この点が日本のアウトドア市場の特徴だといいます。

ビアンカ・ボッタさん

ビアンカ・ボッタさん

トレイルランニングのマーケティング担当者であるビアンカさんは、日本はアウトドア製品の販売のされ方もユニークだといいます。日本のアウトドアショップでは、それぞれのブランドの製品の目的やデザインにこめられた意図やストーリーをよく理解した上で、品揃えされた商品が展示されている、と感じるのだそうです。これは特にアメリカでアウトドア製品を買う人の大部分が足を運んでいる大規模なスポーツ量販店と対照的だといいます。

「その理由の一つは、日本ではアウトドアを楽しむコミュニティがしっかりしているからではないかと感じました。高尾山で開かれるランナーの定期的な集まりには、東京中から毎回数十人が集まると聞きました。世界を探してもなかなかそんな集まりはないと思います。日本のトレイルランニング愛好家のコミュニティ感覚の強さは特別だと感じました。」(ビアンカさん)

今回のトリップでは高尾のAnswer 4 のショップ「Living Dead Aid」も訪問した。

パタゴニア本社スタッフが個人的にお気に入りのパタゴニアの製品は?

今年の春、パタゴニアから発売された「ストライダー・プロ・ショーツ」は足の動かしやすさやポケットの使いやすさといった機能面に優れるアイテムです。DogsorCaravanでもレビューしており、今シーズンのトレイルランニングギアの中で印象に残る新作です。パタゴニアの皆さんにもお気に入りのアイテムを聞いてみましょう。

ジェシカ・ロジャースさん

ジェシカ・ロジャースさん

ジェシカさんにとっても「ストライダー・プロ・ショーツ」を今年発売したことはエキサイティングな経験だったようです。特にフィット感を高めるために大きくデザインを見直したウィメンズ・モデルについては話に力がこもります。

「ストライダー・プロ・ショーツについてはOceanCycle認定の再生ポリエステル素材を用いています。これは海に近いエリアでリサイクルの仕組みがまだ整っていない地域から再生のための素材を調達します。これにより海洋汚染の原因を管理しようという取り組みです。」

パタゴニア Patagonia ウィメンズ・ストライダー・プロ・ショーツ 3 1/2インチ レディース WAVB XS

「ウィメンズモデルについては、この製品を使用する可能性のあるランナーの体型と経験レベルの多様性を考慮して、誰にとっても動きを制限しないことを目指しました。開発プロセスではデザインの書き起こしからプロトタイプのテストまで、多くの声を取り入れています。」

ビアンカさんはトレイルランニング用のバックパック・ベストである「スロープ・ランナー」をお気に入りに挙げてくれました。容量18Lの「スロープ・ランナー・エクスプロレーション・パック」と容量3Lの「スロープ・ランナー・エンデュランス・ベスト」の二つがラインナップされています。

「私が特に気に入っているのは小さい方のスロープ・ランナー・エンデュランス・ベストですね。ランニング中の補給に必要な水分やギアを完璧なフィット感とともに身につけることができて、私に安心感を与えてくれます。最初に発売して以来、ポケットを少し広げたりして改良しましたが、コアとなるデザインは変わらない優れた製品です。私たちはこのエンデュランス・ベストともう一つの容量の大きいエクスプロレーション・パックでトレイルランニングのほぼ全てのニーズに対応できると考えています。」

パタゴニア Patagonia スロープ・ランナー・エンデュランス・ベスト 3L STME S

ジェイソンさんはあらゆるスポーツにも、どんな旅行でも「エアシェッド・プロ・プルオーバー」は必ず持って行くといいます。伸縮性のあるパーテックス・ナイロンに耐久性撥水加工がされた本体にキャプリーン・クール・ライトウェイト素材の袖とフードを組み合わせた製品です。

「私たちのエアシェッド・プロはハーフジップのプルオーバーで、高い通気性を持ちながら、防風防水性も備えた超軽量アウターウェアです。内側に空気の層を確保しながらも通気性を高めているので、アクティビティの途中で汗をかいても早く発散させて肌を長く濡れさせないという仕組みです。フードにある小さなポケットに全体を収納できるので、携帯しやすくなっています。」

「少し寒い時にはちょうど快適で、気温が上がったら袖を上げたりジップを上下どちらからも開くことで調整できます。元はトレイルランナーと一緒にヨーロッパの山々で考案されたのですが、今ではマウンテンバイクやスノースポーツ、クライミングのアスリートにも愛用者が広がっているんですよ。」

パタゴニア Patagonia メンズ・エアシェッド・プロ・プルオーバー BURD M

自然環境への負荷を減らすことはパタゴニアの原則として埋め込まれている

パタゴニアの製品について考える上で、機能性やファッション性以上に注目されるのは自然環境への配慮の取り組みです。1996年には早くも自社製品にはオーガニックコットンのみを使用することを決めたパタゴニアは、2017年にはリジェネラティブ・オーガニック認証プログラムの制定を支援しています。多くの炭素を排出する従来の農法から、土壌が大気中の炭素を取り込むのを促進する農法への転換を促すという取り組みは、他のアウトドア企業と比べても一歩先を行くものです。

しかし、環境への取り組みはビジネス面ではコストを押し上げ、製品の競争力を損なうことにならないのでしょうか。ジェイソンさんはそれでもパタゴニアの社内では環境負荷の低減は重要な目標として根付いていると話します。

「パタゴニアの基盤には創業者のイヴォン・シュイナードが定めた環境へのインパクトを減らすという原則が埋め込まれています。製品作りにおいては機能性と同じくらい環境負荷の低減が強調されます。例えば、ある製品を生産することで環境へどれくらい影響を及ぼすかを社内独自のツールにより定量的に評価します。事業計画を立てる場合も議論の中で環境は最初から重要な論点になります。例えば製品ラインを評価する際には炭素排出量、水使用量、廃棄物の有無を考慮しています。」

「もちろん、環境のための新しい取り組みはいつだって困難が付きまといます。リジェネラティブ・コットンへの取り組みを広げるには、ゼロから新しいサプライチェーンを立ち上げることになります。生産者にその意義を説得し、農場のフィールド認証を受けてもらう必要がある。メーカーと生産者が協力して、共に学び、リスクを取る。小さく始めた取り組みが成長し始めると今度は需要を拡大することが課題になり、革新的な解決策が求められる。その繰り返しです。」

ビアンカさんはアウトドアで自然に触れることでユーザーの意識が変化することにも期待を寄せています。

「例えばトレイルランニングを通じて自然とのつながりを体感すれば、ランナーの皆さんがその自然環境を守ることに情熱を持ってくれるのではないでしょうか。トレイルランニング製品を選ぶ場合にも単に機能や価格だけでなく、環境への影響も考慮して意識的な選択をしてもらうことを望んでいます。」

アメリカでも日本でも消費者の意識は環境に配慮するように変わりつつある

ここまでのインタビューでパタゴニアが環境負荷の低減を事業の根幹に据えていると聞いて、私の頭に浮かんだのは消費者が商品を選ぶときに実際に環境負荷を考慮に入れるだろうか、という疑問でした。実際のところ、少しだけ機能がアップした新製品や、新シーズンの限定カラーが発売されれば、本当に必要かどうかは別にして買いたくなるのが消費者心理であり、メーカーはそこを突いて売り上げを伸ばしているのが現実ではないか。アウトドア製品を選ぶ消費者の意識は変わりつつあるのでしょうか。

ジェイソンさんは、アメリカでも日本でも消費者の意識は変わりつつある、といいます。

「消費者が個人として環境への責任を意識するのは大事なことですが難しいことでもあります。企業や政府が適切なシステムを作ることはより重要だと思います。」

「それでも近年では衣類を修理して使うことへの関心が増しているのは確かです。日本でもアウトドアブランドが共同でユーザーに商品のリペアを呼びかける取り組みが始まっていて、これは前向きな展開です。」

「パタゴニアでは『Worn Wear』という取り組みをしています。その中には、ユーザーから使用済みのパタゴニア製品を回収または買い取り、それを再販することも含まれています。まだ始めたばかりの取り組みですが次第に人気を集めています。私たちは使用済みのアイテムは新品より劣るという従来のマインドセットに挑戦します。中古品を購入して使うことの価値と魅力を理解してもらい、整った仕組みで販売される中古品は新品と同様に機能することを知ってもらえるよう、ユーザーを支援したいと考えています。」

ジェシカさんは製品を企画する視点からは耐久性を高めることが鍵になると話します。

「環境への影響を減らすためには、製品の耐久性を高めること、多様な新製品を投入するのではなく多目的な製品に絞ることが考えられます。クラシックで時代を超えた製品は物理的に長持ちするだけでなく、心理的にも価値が長く続きますよね。スポーツウェアでも耐久性があって、少しずつ機能を向上させる改良は加えつつもクラシックなスタイルを守り続けている製品があります。こうした製品は環境に配慮した製品開発のよい例です。」

ビアンカさんは個人では不可能な変化も、アウトドアアクティビティのコミュニティの力で実現できると前向きです。

「環境や社会の問題を個人で抱えて独りで行動を起こすのは困難です。でもコミュニティとして取り組めば変化を促すことができるかもしれない。トレイルランニングでは、高い目標を達成するためにグループで励まし合いながら走ることがあると思います。同じように環境保護の意識を共有して、団結して行動を起こしていけばコミュニティが意味のある変化を起こすこともできるのではないでしょうか。」

インタビューを終えて・日本のトレイルランニングに新しい気づきを得た

一時間以上にわたるインタビューは刺激的な話題の連続でした。世界の出来事や話題を追っている筆者には日本のトレイルランニングの独自の魅力について考える機会は少なかったので、今回のインタビューは貴重な気づきを与えてくれました。

自然環境に配慮した製品作りについても、パタゴニアという企業の本気を見た思いがします。インタビューを通じてこれからアウトドア市場が大きく変わっていく可能性を感じました。

インタビューを終えて、筆者も記念撮影させていただきました。

(協力・パタゴニア)

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