【編者より ヴァンサン・ブイヤールの氏名表記を修正し、レース後のコメントを追記しました。2024.09.01】
2024年のHOKA UTMB Mont-Blancは大会のクライマックスとなるUTMBワールドシリーズファイナルの100マイルのレース、「UTMB」が開催されました。
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(写真・2024年UTMB男子トップ4、左から2位のシャサーニュ、優勝のブイヤール、3位のロペス、4位のナンバーガー Photo © UTMB)
男子のレースはUTMBインデックスが900を超え、これまでのUTMBでも上位に入った経験を持つアスリートが多数参戦する中で、勝利を手にしたのはヴァンサン・ブイヤール Vincent Bouillard (FRA)でした。トレイルランニングのレースでの記録はまだ少なく、今回の優勝候補とは誰も考えなかったこの選手は、HOKAでエンジニアとしてフルタイムで働く31歳。タイムは19時間54分23秒。歴代のUTMBチャンピオンで20時間以内で優勝したのはフランソワ・デンヌ(2017年)、キリアン・ジョルネ(2022年)、ジム・ウォルムズレー(2023年)だけで、ブイヤールはこの日、これらの偉大なアスリートに並び称されることとなりました。
ほぼ無名のブイヤールの優勝以外にも、今回のUTMBの男子のレースは思いもかけない展開の連続となりました。
UTMBの女子のリザルトについても別の記事でご紹介しています。
優勝候補のアスリートが次々に脱落していく波乱の展開に
8月30日金曜日の午後6時、約2,300人のランナーがUTMBワールドシリーズファイナルのレース、176.4km・9,915mD+のUTMBのコースへと飛び出しました。
今回もスタートからしばらくは先頭集団の顔ぶれは落ち着きませんでしたが、シャピュー Les Chapieux を過ぎてスタートから50kmを超えたあたりから、昨年のチャンピオン、ジム・ウォルムズレー Jim Walmsleyを先頭に、序盤をリードしたアルトゥール・ジョワイヨ-ブイヨン Arthur Joyeux-Buillon (FRA)、2022年UTMBで3位のトム・エヴァンス Tom Evans (GBR)、2023年UTMBで3位のジェルマン・グランジエ Germain Grangier (FRA)といった選手が続くことになりました。
しかし、コースのほぼ中間となるクールマイユール Courmayeur を前に、ウォルムズレーはスピードを落としてしまい、その後クールマイユールでDNFを選びます。代わってクールマイユールに先頭でやってきたのがヴァンサン・ブイヤール Vincent Bouillard (FRA)でした。しかし間をおかずに優勝候補と注目されていた選手が続々とクールマイユールを後にしていきます。
深夜のフェレの谷を上位選手が走りますが、ブイヤールがリードを奪われることはありません。一方、トム・エヴァンスがペースを落とし始めてリタイア。グランジェはその後もブイヤールを追いますが、グラン・コル・フェレから下りてきた早朝のラ・フーリー La Fouly(115.8km)ではブイヤールとグランジェの差は7分まで広がっていました。その後もブイヤールが単独で確実にコースを進む一方、トリアン Trient(146.2km)の手前で、グランジェは後に続いていたバプティスト・シャサーニュ Baptiste Chassagne に先を譲り、自身はその後リタイアします。ブイヤールとシャサーニュの間はトリアンで37分まで広がっており、この差を守り切ったブイヤールが19時間54分23秒でシャモニーにフィニッシュしてUTMBチャンピオンのタイトルを手にしました。
100マイルのUTMBで20時間ぎりを達成したのは2017年のデンヌ、ジョルネ、トレフソン、2022年のジョルネ、ブランシャール、2023年のウォルムズレーとミラーだけで、今回のブイヤールの記録は歴史的な快挙となります。
ヴァンサン・ブイヤールはフランス生まれの31歳。学生時代に陸上競技の経験がありますが、理工系の大学を卒業後はHOKAで8年以上のキャリアを重ねるフルタイムのプロダクトエンジニアです。トレイルランニングのレースの記録も残していますが、注目すべき結果は2023年のアメリカでのGorge Waterfalls 100Kでの優勝、同年のKodiak by UTMB 100マイルでの優勝、今年6月のMaXi Race 93kでの5位といったあたりだけで、この日のスタート前のUTMBインデックスは832でした。
シャモニーでフィニッシュ後にブイヤールは次のように話しました。「子どもの頃からUTMBは僕の人生の一部でした。最初はボランティアとして参加し、その後は他のランナーのサポート役を担いました。今ではHOKAのエンジニアとして、HOKA UTMB Mont-Blancに関連するプロジェクトに携わっています。レースに出場すること自体が夢の実現でした。30時間以内完走のCプラン、24時間以内完走のBプラン、トップ10入りのAプランがありました。20時間以内で優勝するなんて、想像もしていませんでした!」「僕にはアスリート契約がありません。このアマチュアの立場は信じられないほどの自由をくれます。好きなレースを選んで出られるし、ソーシャルメディアには何も投稿しません。トレーニングを積んでベストなパフォーマンスを目指すのは大好きですが、今のところこのアマチュアの立場に強くこだわっています。パートナー、両親、愛する人たち、HOKAの大家族、親友のジム・ウォルムズリーとティム・トレフソンに感謝したいです。二人は若い頃から僕にとって本当の憧れの存在でした」と付け加えました。
トップ10のうち6人はフランスの選手という意外な結果に
2位にはブイヤールから28分差でバプティスト・シャサーニュ Baptiste Chassagne (FRA) が続き、20時間22分でフィニッシュ。シャサーニュはCCCで2021年に9位、2022年に10位のほか、2022年のTransgrancanariaで4位、昨年のUTMBでは10位などの成績を残していますが、今回のUTMBでの準優勝はサプライズでした。
レースが大きく動き出した後半に粘り強く順位を上げてトップ3に入ったのはホアキン・ロペス Joaquin Lopez (ECU)で、シャサーニュに3分半の差、20時間26分でフィニッシュ。2019年のUTMBで6位、2022年のTDSで2位、昨年のUTMBで11位でしたが、今回の3位という結果は大きな飛躍を成し遂げたと言えます。
4位にはハネス・ナンバーガー Hannes Namberger (GER)。UTMBは2021年の6位、2022年のDNF、昨年の8位を経験しており、さらに高い順位でのフィニッシュとなりました。5位は2016年のUTMBチャンピオンのルドヴィック・ポメレ Ludovic Pommeret (FRA)。今年はHardrock 100で大会記録で優勝しており、49歳で1ヶ月半の間をおいて二つのビッグレースで素晴らしい結果を残しました。6位には序盤を先頭に立って走ったアルトゥール・ジョワイヨ-ブイヨン Arthur Joyeux-Buillon (FRA)。7位にはアメリカのコディ・リンド Cody Lind、8位にマヌエル・アンギータ Manuel Anguita (ESP)、9位にヤニック・ノエル Yannick Noël (FRA)、10位にゴーチエ・ボンヌカレール Gautier Bonnecarrere (FRA) が入りました。
近年のトレイルランニングの傾向を反映して、UTMBの上位入賞選手は国際的な顔ぶれとなり、プロとしてトレイルランニングに取り組むアスリートが活躍する場面が増えていました。フランス人選手がトップ10のうち6人を占める今年の結果は意外ではありますが、レースのレベルの高さを考えれば、フランスのトレイルランニング・コミュニティの成熟度や競技者層の厚さの表れだと考えることもできるでしょう。そして、ヴァンサン・ブイヤールのようなアマチュアのアスリートであることを大切にしながら、世界の頂点にも迫る成果を挙げるランナーが現れたことは、世界中のトレイルランニングファンの気持ちを昂らせる出来事でした。
2024年 UTMB 男子 リザルト
全体のリザルトはこちら。(追って追記します)
- ヴァンサン・ブイヤール Vincent BOUILLARD (FRA) – 19:54:23
- バティスト・シャサーニュ Baptiste CHASSAGNE (FRA) – 20:22:45 (Nike Trail)
- ホアキン・ロペス Joaquin LOPEZ (ECU) – 20:26:22 (Kailas / Imptek)
- ハンネス・ナンバーガー Hannes NAMBERGER (DEU) – 20:31:54 (DYNAFIT)
- リュドヴィック・ポムレ Ludovic POMMERET (FRA) – 20:57:48 (Hoka)
- アルチュール・ジョワイユー=ブイヨン Arthur JOYEUX-BOUILLON (FRA) – 21:12:12 (On Running)
- コーディー・リンド Cody LIND (USA) – 21:33:16 (SCOTT Running)
- マヌエル・アンギータ・バヨ Manuel ANGUITA BAYO (ESP) – 21:41:01
- ゴーティエ・ボンヌカレール Gautier BONNECARRERE (FRA) – 21:45:16 (La Sportiva)
- ヤニック・ノエル Yannick NOËL (FRA) – 21:45:18 (Inov8)
- ジョシュ・ウェイド Josh WADE (GBR) – 21:52:09
- ティボー・バロニアン Thibaut BARONIAN (FRA) – 22:07:48 (SALOMON RUNNING)
- オービン・フェラーリ Aubin FERRARI (FRA) – 22:33:07
- カミル・レシニャク Kamil LEŚNIAK (POL) – 22:47:34 (Hoka Garmin Team)
- ジョナサン・モンカニー Jonathan MONCANY (FRA) – 22:58:01 (SMAC)
- ユーソ・シンパネン Juuso SIMPANEN (FIN) – 23:11:39 (Team VJ / Rab / Suunto)
- ギヨーム・ドゥネフ Guillaume DENEFFE (BEL) – 23:12:54 (TRAKKS Belgium)
- アレクシス・セヴェンネック Alexis SEVENNEC (FRA) – 23:18:51 (Morzine-Avoriaz / LaSportiva)
- マリアン・プリアドカ Marián PRIADKA (SVK) – 23:22:52 (Salomon)
- キャニオン・ウッドワード Canyon WOODWARD (USA) – 23:26:04 (Green Racing Project – Patagonia Trail)