プレビュー・アジアパシフィック・トレイルランニング選手権2024、韓国蔚山 Preview Asia Pacifit Trail Running Championships 2024, Ulju #APTRC

2024年10月23日から26日にかけて、韓国・蔚山広域市の蔚州(ウルジュ)郡に広がる嶺南(ヨンナム)アルプスで、アジアパシフィック・トレイルランニング選手権(Asia Pacific Trail Running Championships, APTRC)が開催されます。トレイルランニングの国際競技団体であるITRAが主催して今回が初開催となるイベントで、アジア太平洋地域から約200名の代表選手が集結し、アジアパシフィックの頂点を決めるとともに、各国選手の交流の場となるレースが繰り広げられます。

金曜日、土曜日にはライブ配信も

今回のAPTRCは10月24日木曜日午後の開会式に続いて、25日金曜日の午前7時(日本時間も同じ)にショートトレイル種目(41km、標高差2,783mD+)がスタートします。続いて同日午後1時に23歳以下の選手によるU23種目(15.9km、標高差1,182mD)が行われます。翌日26日土曜日は午前5時30分にロングトレイル種目(74km、標高差4,787mD+)が開催されます。

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各種目の男女個人上位三選手にメダルが贈られるほか、上位5選手には総額4万ドル(日本円で約600万円)の賞金が与えられます。各レース男女別に上位3選手の合計タイムの上位3チームには団体戦のメダルが授与されます。さらにショート、ロングの選手の順位に基づくポイント(男女を通じて最大で9選手のリザルトが対象)による団体総合についても上位3チームにカップが贈られます。

10月25日金曜日、26日土曜日のAPTRCの各レースはYouTubeでライブ配信が行われるほか、大会のInstagramFacebookやITRAのInstagramでアップデートの投稿を見ることができます。

APTRCの各種目の注目選手

今回のAPTRCのエントリーリストから有力選手を紹介します。

ショート40km女子:日本勢の上位入賞に期待

ショート女子のレースに出場する選手のITRAパフォーマンスインデックスのトップ2に位置するのは秋山穂乃果 Honoka AKIYAMA髙村貴子 Takako TAKAMURA という日本の二選手です。秋山は2022年のチェンマイでのWMTRC世界選手権・ロングで14位と健闘したのちに、ITJ70kで優勝、昨年春のハセツネ30Kで準優勝。その後のインスブルックでのWMTRC世界選手権・ロングでは9位となってトップ10入りを果たしています。今シーズンは春のKAI70Kで3位、比叡山50マイル2位ののち、9月のスペインでのスカイランニング世界選手権・スカイウルトラ 65kmで準優勝しています。海外の大舞台で実力を発揮してきた秋山には今回のAPTRCでも期待がかかります。髙村貴子はハセツネCUPのコースレコードホルダーと五連覇で知られる第一人者です。今シーズンはハセツネ30Kで2位ののち、野沢温泉37kmで優勝、霧島えびのエクストリームトレイル33kmで優勝と国内での活躍のほか、ゴールデントレイルワールドシリーズに参戦。4月の神戸トレイル(9位)、6月のMarathon du Mont Blanc(18位)、8月のSierre-Zinal(16位)と海外のトップ選手を相手に結果を残しました。

優勝争いにはオーストラリアのパトリシア・マッキビン Patricia MCKIBBIN(AUS)の名も上がります。Ultra-Trail Kosciuszko by UTMB 100kmで2022年に3位、2023年に優勝。オーストラリアを代表するトレイルレースであるBuffalo Stampede 42kでは昨年準優勝しています。プリヤ・ライ Priya RAI (NEP) はここ数年でネパール国内のレースで優勝を重ねて頭角を表してきました。国際的なレースでは2023年のDoi Inthanon by UTMB 50kmで5位のほか、先月のAsia Trail Masterのイベント、The Most Beautiful Thing 85Kでは総合5位で女子優勝という結果でした。今回のAPTRCでも上位を走る可能性は高そうです。

続く選手は実力が伯仲しています。日本代表選手の楠田涼葉 Suzuha KUSUDA福田恵里佳 Erika FUKUDA山内菜摘 Natsumi YAMAUCHI の各選手にもトップ5入りのチャンスはありそうです。

  • キム・ヒョンジャ Hyunja KIM (KOR) :2023年UTNP 45kmで優勝
  • 楠田涼葉 Suzuha KUSUDA (JPN) :2024年フェアリートレイル40K優勝、中央アルプススカイライン38kで2位、霧島えびのエクストリームトレイル33kmで2位、ハセツネCUPで3位。
  • パク・スージ Sooji PARK (KOR) :2024年Korea 50K 22kmで2位、TNF Gangwon 50kで優勝、Geoje100K-30kmで優勝。
  • サラ・ルドウィチ Sarah LUDOWICI (AUS) :2024年Tarawera by UTMB 102kで4位、Ultra-Trail Australia by UTMB 100Kで7位。
  • 福田恵里佳 Erika FUKUDA (JPN):2022年信越五岳110Kで優勝、2024年KAI70kで7位。
  • 山内菜摘 Natsumi YAMAUCHI (JPN):2023年上州武尊山スカイビュートレイル80K優勝、2024年KAI70kで8位。
  • ローレン・ルーク Lauren ROOKE (AUS):2023年Ultra-Trail Kosciuszko by UTMB 50kmで2位、今年10月のMt. Bold 34kmで優勝。
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ショート40km男子:日本の選手の層は厚いが、激戦となりそう

今回のAPTRCの2週前に開催されたハセツネCUPを歴代4位の7時間20分で完走して二度目の優勝を果たした吉野大和 Yamato Yoshino (JPN) は今回の男子選手のITRA PIで首位となります。2023年インスブルックでのWMTRC世界選手権で負った怪我から半年後、今年のハセツネ30Kで2位となって復活。ゴールデントレイルナショナルシリーズでは中央アルプス、野沢温泉、白馬国際の3戦を全て制してシリーズチャンピオンとなりました。今回のAPTRCはハセツネCUP、前週末のスイスでのGTNSファイナルに続いて国境を跨いでの3連戦となります。

フィリピンのジョンレイ・「スティングレイ」・オニファ John Ray Onifa (PHI) は香港を拠点に東南アジア各地のレースで活躍するアジアを代表するトレイルランナーの一人です。2018年に来日し、STYで5位となって表彰台に立った経験も持ちます。最近では昨年のTransLantau by UTMB 50km、TNF 100 Hong Kong、今年の9 Dragon Ultra 50K、Lantau 70で優勝。アジア各地での豊富なレース経験は初開催のAPTRCで有利に働くかもしれません。

トレイルランニングの競技レベルが高い中国からはウ・アーチン Erqing Wu (CHN) が参戦します。今年1月のHong Kong 100 – 56kで優勝したのちは積極的に中国国内のレースで結果を残し、3月のChengdu 50で優勝、4月のUltra-Trail Mt YUN by UTMB 50Kで3位、9月のTNF 100 Beijing 40Kで準優勝。GTNS中国のチャンピオンとして先週末はスイスで開催されたGTNSファイナルに参加しており、今週末は連戦となります。

日本の小笠原光研 Koken OGASAWARA (JPN) も吉野と同じくハセツネ、GTNSファイナルを経ての連戦です。ハセツネCUPでは昨年の2位に続いて今年も3位に入り、日本のトップ選手として存在感を見せました。海外レースでは昨年12月にUltra-Trail Kosciuszko by UTMB 50Kで3位、GTWSの神戸トレイルで19位、Four Sisters Trail 22kで22位でした。

開催国・韓国のトップ選手、キム・ジソプ Jisub KIM (KOR) は自国でアジアパシフィックチャンピオンのタイトルを狙います。昨年4月のKAI70kでは、今回の日本代表の田村健人、甲斐大貴と接戦の末に3位に入りました。その後も昨年5月のTNF 100 Gangwon 100kmで優勝、今年も同レースを連覇。今年1月のHong Kong 100 – 32kmで優勝しています。

男子においても上位選手の実力差は小さく、激しいレース展開が予想されます。日本代表の笠木肇 Hajime KASAGI森本幸司 Koji Morimotoにも上位が期待できます。

  • ビリー・カーティス Billy CURTIS (AUS):2023年Kosciuszko by UTMB 50Kで2位、2024年Buffalo Stampede 42kで優勝、Brisbane Trail Ultra 20kで2位。
  • ブレイク・ターナー Blake TURNER (AUS) :2023年Ultra-Trail Australia by UTMB 50kで優勝、Kunanyi Mountain Run 24kで2位。
  • 笠木肇 Hajime KASAGI (JPN) :2024年ハセツネ30kで5位、KAI70kで4位、奥信濃100-50kmで優勝、霧島えびのエクストリーム33kmで優勝、スカイランニング世界選手権・スカイで14位。
  • チャールズ・ハミルトン Charles HAMILTON (AUS):2024年Tarawera by UTMB 50kmで2位、Ultra-Trail Australia by UTMB 50Kで優勝。
  • ヴラド・イクセル Vlad IXEL (AUS):2024年Hong Kong 100 – 32kmで2位。
  • 森本幸司 Koji Morimoto (JPN):2022年霧島えびのエクストリーム33kで優勝、同レースで2024年6位。2024年KAI70kで8位。
  • ウェストン・ヒル Weston HILL (NZL):Three Peaks Mountain 55kmで2023年に優勝。
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ロング80km女子:シャン・フージャオが圧勝か、日本勢の上位を期待

近年のUTMBをはじめとする国際的なトレイルランニングイベントでの中国人アスリートの活躍をみると、APTRCに中国が本格的な代表チームを送ればメダルは独占しそうな勢いです。今回は中国から選手が出場しますが、香港やフィリピン、日本と比べるとその数は控えめです。しかし、シャン・フージャオ Fuzhao XIANG (CHN) が出場するなら彼女だけで中国の存在感を示すには十分かもしれません。2019年と2023年のUTMFでの優勝で日本のトレイルランニング界では最も有名な中国のアスリートですが、その後は2023年のUTMBで4位となって世界の注目を集めます。その後もTransJeju by UTMB 50k、TransLantau by UTMB 140k、Wenling Golden Coast 70kmなどアジアのレースで勝利を重ねたのち、今年のウェスタンステイツを16時間20分で準優勝してさらにその名声を高めました。今回のAPTRCの前週にはUltra-Trail Ninghai by UTMBで優勝しており、多少リカバリーが遅れたとしてもスタートラインに立てば優勝候補といって間違い無いでしょう。

日本の吉住友里 Yuri Yoshizumi も今回のロングのレースでは他の選手からは一歩抜きん出た存在です。OCCでの2017年に4位、2018年に3位を始め、海外レースの経験も豊富で国際的に知られる日本のクイーンとして今回はAPTRCに挑みます。最近はより長い距離のレースに活躍の場を広げており、昨年9月のNice by UTMB では100マイルを初めて走って準優勝しました。今シーズンも前半はもっぱら国内でハセツネ30K、KAI70K、比叡山50マイル、Tokyo Grand Trail 50k、奥信濃100などで優勝。富士登山競走の連覇記録も延ばしています。2週前にハセツネCUPを初挑戦で歴代2位のタイムで制しています。

昨年のシーズンからメキメキ活躍するシーンが増えている岩井絵美 Emi IWAI (JPN) がどのような走りを見せるか注目です。今年に入ってからはハセツネ30Kで5位の後、KAI70Kで吉住に続く2位に入ります。5月には阿蘇ボルケーノ109Kで優勝、7月に志賀高原100Kで優勝。前々週のハセツネCUPは準優勝となる快挙でした。今回のAPTRCでも注目されます。

オーストラリアのケリー・エンジェル Kellie ANGEL (AUS) は昨年秋のGrampians Peaks Trail 100mileで優勝、今年のウェスタンステイツは19時間47分で17位。セシリア・マッタス Cecilia MATTAS (AUS) は2022年Ultra-Trail Kosciuszko by UTMB 100kmで準優勝しています。香港のチュン・マンイー Man Yee CHUNG (HKG) はチェンマイ、インスブルックのWMTRCの香港代表選手で、昨年11月のTranslantau by UTMB 140kで2位、12月のTNF 100 Hong Kong 100kmで2位でした。表彰台を争う展開となるかもしれません。

日本代表メンバーも上位に続くことが期待されます。枝元香菜子 Kanako EDAMOTO (JPN) は昨年12月のスカイランニングアジア選手権(Lantau 50)で2位。今年5月のTokyo Grand Trail 50kmで準優勝しています。清宮由香里 Yukari SEIMIYA (JPN) は今年のMt. FUJI 100での準優勝、信越五岳100マイルでの優勝で注目を集めるアスリートで、初の海外レースとなるAPTRCで世界を驚かせるのか。伊藤ありか Arika ITOは昨年の志賀高原100kmで優勝の翌々週に霧島えびのエクストリーム63kmで勝利。霧島えびのでは今年も連覇しています。

  • エリザベス・ダンガダン Elizabeth DANGADANG (PHL) :2024年東南アジアトレイルランニングカップ 76kmで優勝
  • アンジー・ヤン Chi Yee Angie YAN (HKG):2024年Mt. FUJI 100 100mileで3位。
  • ウォン・ツーケイ Tsz Kei WONG (HKG) :2024年Hong Kong Dynamic 100kmで2位。
  • アンジェリー・カバロ Angelie CABALO (PHL) :Bali Ultra Trail 80kmで優勝。
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ロング80km男子:日本代表チームのメダル独占なるか

男子では日本代表の精鋭が揃い、上位を独占しても不思議ではありません。日本勢のライバルとしては、マイケル・ディムアンテス Michael DIMUANTES (AUS) があがります。オーストラリアのレースである昨年11月のGrampians Peaks 100mile、今年3月のBuffalo Stampede 20k、5月のUltra-Trail Australia 100kで優勝している実力派ですが、国際的な著名レースでは記録がまだありません。チー・ミン Min QI (CHN)は2018年CCCでの準優勝が記憶に残る中国のトップアスリートですが、レースでの成績は波がある印象。今年8月はCCCを走りましたがDNF、しかし3週前のYunnan Fengqing Ultra Trail 70Kでは優勝しています。

対して日本からは2017年からトレイルランニングの世界選手権には5回連続で日本代表メンバーに選ばれて走ってきた川崎雄哉 Yuya KAWASAKI (JPN) がAPTRCの日本代表として参戦します。世界選手権では2022年チェンマイで最高位の16位となっています。独特の緊張感のある選手権のレースの経験を活かし、メダル獲得が期待されます。ハセツネCUPでは二度のチャンピオンであり、2023年のUTMFでは準優勝しています。田村健人 Kento TAMURA (JPN) は選手権大会の日本代表は初めてとなります。大学陸上部を経てトレイルランニングの魅力に目覚めた田村は2023年KAI70kの優勝でブレイク。海外レースを経験し、2週前のハセツネCUPでは手堅いレース展開で7時間37分で完走し、準優勝という結果を手にしました。APTRCでも巧みなレースができれば上位が期待できそうです。手堅い走りでは長田豪史 Goshi OSADA (JPN) も引けは取りません。海外レースでの武者修行を経て昨シーズンからは国内レースで好成績を連発しています。今シーズンはOSJ新城ダブル64kでの優勝、KAI70Kでの準優勝、9月の信越五岳110kmの優勝が記憶に新しいところ。日本代表はさらに板垣渚 Nagisa ITAGAKI甲斐大貴 Hiroki KAIもロング80kmで上位を目指します。

  • 板垣渚 Nagisa ITAGAKI (JPN) :2023年Tamba 100 優勝、2024年広島湾岸109kmで3位、2024年Tokyo Grand Trail 100mile 優勝。
  • ティルタ・タマン Tirtha TAMANG (NPL) :2024年Hong Kong 100 – 103kmで7位。
  • ミルトン・アマット Milton AMAT (MYS) :2023年Borneo Trail Classic 50km 優勝、同年TNF Malaysia Mountain Trail Festival 50kmで2位。
  • ウォン・ホーチュン Ho Chung WONG (HKG) :2019年UTMBで6位、2021年UTMBで10位。2024年Mt. FUJI 100 100マイルで8位。
  • ジャンタラブーン・”ジェイ”・キアンチャイパイパナ Jantaraboon KIANGCHAIPAIPHANA (THA) :2023年Korea 50Kで優勝、2024年東南アジアトレイルランニングカップ76kmで優勝。
  • アーニー・マカネラス Arnie MACANERAS (PHL) :2022年Mt. Apo Skyrace 75kmで優勝、2024年The Most Beautiful Thing 85kmで3位。
  • デイヴィッド・シンパット Daved SIMPAT (MYS) :2023年TNF Malaysia Mountain Trail Festival 100km優勝。
  • 甲斐大貴 Hiroki KAI (JPN):
  • マン・クマール・ロカ・マガル Man Kumar ROKA MAGAR (NPL):2024年Majushree 55mile で優勝。
  • キム・ジス Jisu KIM (KOR):2023年Geoje100K優勝、2024年Korea 50Kで優勝。
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