TORX トル・デ・ジアン 2025 リザルト・巨人たちのレースはドラマティックな展開で新記録ラッシュに

イタリアのアオスタ渓谷 Aosta Valleyで開催されたTORX with Kailasは、今年も壮大な山岳レースの舞台となりました。メインイベントであるTOR330 – Tor des Géantsでは、優勝候補の筆頭がリタイアするという衝撃的な展開から、新たな王者が誕生しコースレコードが更新されました。TOR450 – Tor des Glaciersでは、男女ともに圧倒的な強さを見せつけたチャンピオンが誕生しました。各レースの最終制限時間となる9月20日土曜日18時(日本時間21日日曜日午前1時)までアオスタ Aostaでは完走を目指すランナーの奮闘が続きます。この記事では上位選手たちのレース展開を紹介します。

(写真 フィニッシュまであと45kmほどを走るヴィクトール・リシャール Victor Richard。Photo © Jacopo Greppi – Zzam! Agency / TORX)

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TOR330 – Tor des Géants:優勝候補コッレが去り、ヴィクトール・リシャールが新記録で王座に

今年のTOR330 – Tor des Géantsは、誰もが予想しなかったドラマチックな展開となりました。レース序盤、50km地点のヴァルグリザンシュ Valgrisencheでは、大会4度の優勝を誇る地元の英雄、フランコ・コッレ Franco Collé (ITA)が、ルーマニアのコルネリウ・ブリガ Corneliu Buliga (ROU)、オーストリアのフロリアン・グラーゼル Florian Grasel (AUT)らとトップ集団を形成。その後、コッレは単独で抜け出し、自身の持つコースレコードを1時間以上も上回る驚異的なペースでレースをリードしました。誰もが彼の5度目の優勝を確信しかけた2日目の午後、レース中盤のラーゴ・キアーロ Lago Chiaro付近で、コッレは目の不調を訴え突如ストップ。約1時間の休息で回復を試みましたが、状況は改善せず、無念のリタイアを決断しました。絶対的王者の離脱は、大会全体に衝撃を与えました。

この展開により、レースは一気に混戦模様となります。王者が去ったコースで、新たな主役として躍り出たのは、ベルギー国籍でフランス在住のヴィクトール・リシャール Victor Richard (BEL)でした。リシャールは序盤、先頭集団の消耗戦には加わらず、その後着実に順位を上げていました。周囲を驚かせたのは、最初の主要エイドであるコーニュ Cogne(104km)のライフベースでの戦略です。トップで到着しながらも、彼はここで1時間10分という長い睡眠をとることを選択。これにより一度は6番手まで順位を落としましたが、この休息が後半の驚異的な追い上げの原動力となりました。十分に体力を回復させたリシャールは、そこから一人、また一人と前方のライバルを捉えていきます。そして、コッレがリタイアしたのとほぼ同じタイミングで先頭に立つと、その後は完全に独走態勢を築き上げました。

しかし、リシャールも終盤に入ってピンチを迎えます。レース終盤にアキレス腱の激しい痛みに襲われ、オロモン Ollont(286km)のライフベースで手当てを受けることを余儀なくされます。さらに、ボナッティ Bonatti小屋(325km)とベルトーネ Bertone小屋(332km)の間では、極度の疲労からトレイル上で眠りに落ちてしまう場面もありました。それでも彼は精神力で困難を乗り越え、最後まで力強い走りを維持。そして、66時間8分22秒という驚異的なタイムでフィニッシュゲートを駆け抜けました。コースの一部が変更されたため単純比較はできないものの、これまでの記録を30分以上更新し、新たな「巨人」の王座に就きました。

2位争いもまた、感動的な結末でした。マルタン・ペリエ Martin Perrier (SUI)とイタリアのシモーネ・コルシーニ Simone Corsini (ITA)は、レース終盤に行動を共にし、最後のエイドであるボッス Bosses(308km)からは並んで走り続け、71時間48分55秒の同タイムでフィニッシュ。互いの健闘を称え、2位の座を分ち合いました。

日本の中谷亮太 Ryota Nakatani (JPN)は男子18位の85時間5分28秒でフィニッシュ、南圭介 Keisuke Minami (JPN) は255kmでDNFでした。

TOR330の男子チャンピオン、ヴィクトール・リシャール Victor Richardのフィニッシュ。Photo © Stefano Coletta - Zzam! Agency / TORX

TOR330の男子チャンピオン、ヴィクトール・リシャール Victor Richardのフィニッシュ。Photo © Stefano Coletta – Zzam! Agency / TORX

女子のレースもまた、最後まで目の離せない劇的な逆転劇が繰り広げられました。序盤は、過去2度の優勝経験を持つリサ・ボルツァーニ Lisa Borzani (ITA)と、イギリスのナタリー・テイラー Natalie Taylor (GBR)が激しいトップ争いを展開。しかし、その後方で虎視眈々とチャンスをうかがっていたのが、オランダのノール・ファン・デル・フェーン Noor Van Der Veen (NED)でした。彼女は序盤のオーバーペースを避け、後方でエネルギーを温存します。そしてレース中盤からは徐々に順位を上げていきました。そして勝負どころとなったヴァルトルナンシュ Valtournenche(238km)を過ぎたあたりで、ついに先頭の二人を捉えてトップに立つと、そこからは圧巻の独走。後続との差を2時間以上に広げ、79時間34分30秒で優勝しました。昨年の優勝者、カタリーナ・ハルトムート Katharina Hartmuth (GER)に続き、史上2人目となる80時間切りの快挙を達成。2位には粘りの走りを見せたテイラー、3位にはベテランのボルツァーニが入りました。徳本順子 Junko Tomumoto (JPN) は94時間17分で7位でフィニッシュし、トップ10入りの快挙となりました。

後半の快走でTOR330を制したノール・ファン・デル・フェーン Noor Van Der Veen。 Photo © Luigi Vacchelli - Zzam! Agency / TORX

後半の快走でTOR330を制したノール・ファン・デル・フェーン Noor Van Der Veen。 Photo © Luigi Vacchelli – Zzam! Agency / TORX

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TOR330 – Tor des Géants 男子

  1. ヴィクトール・リシャール Victor Richard (BEL) 66:08:22
  2. マルタン・ペリエ Martin PERRIER (FRA) 71:48:55
  3. シモーネ・コルシーニ Simone CORSINI (ITA) 71:48:55
  4. ダニーロ・ランテルミーノ Danilo LANTERMINO (ITA) 73:37:07
  5. ウナイ・ドロンソロ・ガルメンディア Unai DORRONSORO GARMENDIA (ESP) 74:15:19
  6. ウェイチャン・ジャン Weiqiang ZHANG (CHN) 74:33:59
  7. アンドレア・マッキ Andrea MACCHI (ITA) 75:40:49
  8. ダニエーレ・ナヴァ Daniele NAVA (ITA) 76:33:52
  9. ジュリオ・オルナーティ Giulio ORNATI (ITA) 76:50:12
  10. フロリアン・グラーゼル Florian GRASEL (AUT) 78:24:51

TOR330 – Tor des Géants 女子

  1. ノール・ファン・デル・フェーン Noor VAN DER VEEN (NLD) 79:34:30
  2. リサ・ボルザーニ Lisa BORZANI (ITA) 83:26:06
  3. ナタリー・テイラー Natalie TAYLOR (GBR) 84:11:31
  4. メリッサ・パガネッリ Melissa PAGANELLI (ITA) 84:55:25
  5. ケイトリン・ガービン Kaytlyn GERBIN (USA) 90:34:20
  6. コリーナ・ゾンマー Corina SOMMER (CHE) 91:22:48
  7. 徳本順子 Junko TOKUMOTO (JPN) 94:17:59
  8. デニス・ツィンマーマン Denise ZIMMERMANN (CHE) 95:50:15
  9. ソフィー・グラント Sophie GRANT (NZL) 96:40:37
  10. シャルロット・ポラッツ Charlotte POLLATZ (FRA) 97:06:08
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TOR450 – Tor des Glaciers:不動の王者ライションと、記録を10時間以上更新したゴレイ=ジェイモン

TORXの最長にして最も過酷なレース、TOR450 – Tor des Glaciersでは、男子は王者、セバスチャン・ライション Sébastien Raichon (FRA)がその絶対的な力を見せつけ、2022年、2023年に続く3度目の優勝を果たしました。レース前、自身の持つコースレコード更新を公言していたライションですが、その挑戦は序盤から困難を極めました。初日の夜から気管支炎に悩まされ、深刻な食欲不振に陥り、ほとんどヨーグルトと水だけでエネルギーを補給するという過酷な状況でした。それでも彼は驚異的な精神力でレースをリードし続けましたが、記録更新は断念。124時間53分45秒でクールマイユール Courmayeurのフィニッシュゲートに帰還し、その揺るぎない強さを改めて証明しました。彼の背後では熾烈な表彰台争いが繰り広げられ、アイルランドのブライアン・マリンズ Brian Mullins (IRL)が6時間半差で2位を確保。3位にはポーランドのヤレク・ゴンチャレンコ Jarek Gonczarenko (POL)とイタリアのロレンツォ・フランコ・サンティン Lorenzo Franco Santin (ITA)が、最後まで並んで走り続け、同時にフィニッシュしました。

3度目のTORX450優勝となったセバスチャン・ライション Sébastien Raichon。Photo © Marta Tomasoni - Zzam! Agency / TORX

3度目のTORX450優勝となったセバスチャン・ライション Sébastien Raichon。Photo © Marta Tomasoni – Zzam! Agency / TORX

一方、女子のレースでは、歴史に残る大記録が生まれました。フランスとスイスの二重国籍を持つフローレンス・ゴレイ=ジェイモン Florence Golay-Geymond (SUI)が、まさに異次元の走りを見せました。2023年の覇者である彼女は、レース序盤から男子のトップ選手に混じって総合12位前後を快走。序盤は胃の不調に苦しんだものの、それを乗り越えると、後続を全く寄せ付けない圧倒的なペースを刻み続けました。そして、144時間27分34秒でフィニッシュ。ステファニー・ケース Stephanie Case (CAN)が2021年に樹立した従来の女子コースレコード(155時間6分55秒)を、実に10時間以上も短縮するという、驚異的な記録を打ち立てました。彼女を追いかけた2位のサンドリーヌ・ベランジェ Sandrine Beranger (FRA)もまた、146時間47分2秒という、従来の記録を大幅に上回るタイムでフィニッシュし、今大会の女子レベルの高さを象徴しました。女子レースの有力候補であった日本の丹羽薫 Kaori Niwa (JPN)は、レース中盤まで首位のゴレイ=ジェイモンを追いかけ単独2位を快走していました。しかし、グレッソネイ Gressoneyのライフベースに到着する直前で後続のサンドリーヌ・ベランジェに追いつかれると、残念ながらそこでレースを終えることになりました。

TOR450で女子の記録を更新したフローレンス・ゴレイ=ジェイモン Florence Golay-Geymond。Photo © Luigi Vacchelli - Zzam Agency! / TORX

TOR450で女子の記録を更新したフローレンス・ゴレイ=ジェイモン Florence Golay-Geymond。Photo © Luigi Vacchelli – Zzam Agency! / TORX

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TOR450 – Tor des Glaciers 男子

  1. セバスチャン・レション Sebastien RAICHON (FRA) 124:53:45
  2. ブライアン・マリンズ Brian MULLINS (IRL) 131:25:36
  3. ヤレク・ゴンチャレンコ Jarek GONCZARENKO (POL) 135:56:34
  4. ロレンツォ・フランコ・サンティン Lorenzo Franco SANTIN (ITA) 135:56:35
  5. ミカエル・ベルソン Mickael BERTHON (FRA) 136:37:07
  6. ジャン・クロード・ルテリエ Jean Claude LETELLIER (FRA) 138:49:40
  7. ハビエル・ガルベ Javier GALVE (ESP) 139:40:40
  8. ルカ・パピ Luca PAPI (FRA) 140:47:27
  9. フロリアン・パサケイ Florian PASSAQUAY (FRA) 142:16:55
  10. シャシュワット・ラオ Shashwat RAO (IND) 142:38:00
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TOR450 – Tor des Glaciers 女子

  1. フローレンス・ゴレイ-ジェモン Florence GOLAY-GEYMOND (CHE) 144:27:34
  2. サンドリーヌ・ベランジェ Sandrine BERANGER (FRA) 146:47:02

(本稿執筆時点では2名が完走、追って追記します)

その他のレース:各カテゴリーで記憶に残る熱戦

TOR130 – Tot Dretでは、男子はダヴィデ・リヴェロ Davide Rivero (ITA)が序盤からレースを支配し、21時間44分33秒で圧巻の優勝を飾りました。2年前に大腿骨を骨折する大怪我を乗り越えての勝利でした。女子は、クリスティーナ・ヴェッコ Cristina Vecco (ITA)が28時間37分29秒で、本人も驚く初優勝を遂げました。フィニッシュラインで「私が勝ったの?」と尋ねる姿が印象的でした。

TOR100 – Cervino-Monte Biancoは、男女ともにKailasチームのアスリートが表彰台の頂点に立ちました。男子はルカ・アリゴーニ Luca Arrigoni (ITA)が15時間53分5秒で優勝。女子は中国のジャン・ウェンリ Wenli Jiang (CHN)が、総合7位の19時間10分12秒でフィニッシュ。昨年の女子記録を1時間以上も短縮する新記録を樹立し、TORX®史上初の中国籍チャンピオンという歴史的快挙を成し遂げました。

今年も数々のドラマを生んだTORX®。アスリートたちの情熱と、彼らを支えるボランティア、そしてアオスタ Aostaの雄大な自然が一体となったこの祭典は、また来年、私たちに新たな感動を与えてくれることでしょう。

(Source: TORX)

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