2025年シーズンのフィナーレを飾るのに相応しい結果となりました。南アフリカ・ケープタウンの象徴、テーブルマウンテンの麓で開催された「RMB Ultra-Trail Cape Town」は、まさに「The Grand Finale」の名に恥じない激闘が続きました。
世界中から集まった約3,000人のランナーが、16kmから160kmに及ぶ6つのカテゴリーで競い合う中、ワールド・トレイル・メジャーズ(World Trail Majors)の最終戦として、100kmの「UT100」と55kmの「PT55」が開催されました。これらのレースは単なる一大会の勝敗を決めるだけでなく、年間を通じたシリーズチャンピオンの行方を左右する重要な一戦でもありました。
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(Photo © Sam Clark-RMB Ultra-Trail Cape Town – World Trail Majors)
世界のトレイルを繋ぐ「グランド・フィナーレ」の舞台
2024年に発足し、今年で2年目を迎えたワールド・トレイル・メジャーズは、多様性、持続可能性、そしてトレイルランニングの本来の精神を守ることを目的とした、世界12の独立したレースによる非営利団体です。香港、グラン・カナリア、日本のMt.FUJI 100、マデイラ島など、世界各地の名だたるレースを繋ぐこのシリーズにおいて、RMB Ultra-Trail Cape Townはその最終戦として特別な意味を持っています。
特に2025年は、「Races for Everyone(すべての人のためのレース)」をスローガンに掲げた「ショートシリーズ(Short Series)」が新たにスタートした記念すべき年でもありました。マラソン以上の距離への挑戦を後押しするこの新シリーズの初代王者を決める戦いとしても、世界中のトレイルランニングファンの視線が注がれていました。
開催地であるケープタウンは、都市と大自然が隣り合わせに存在する稀有なロケーションです。象徴的なテーブルマウンテン(Table Mountain)をはじめ、ライオンズヘッド(Lion’s Head)の岩場、そして大西洋に面した美しいビーチまで、ランナーたちは変化に富んだ地形に挑みます。都市の光を背にヘッドランプの列が山へと吸い込まれていくスタートシーンや、激しい海風、そしてエネルギーを奪う砂浜セクションなど、この地ならではの美しさと過酷さが同居するコースが、ドラマチックな展開を演出しました。

Photo © Sam Clark-RMB Ultra-Trail Cape Town – World Trail Majors
UT100:残り2kmの逆転劇、モガベロが執念の勝利
土曜日に開催された100km、獲得標高4676mという過酷なコース設定の「UT100」は、ワールド・トレイル・メジャーズのウルトラシリーズ最終戦として、最大の注目を集めました。
レースは午前4時、ガーデンズ・ラグビークラブ(Gardens Rugby Club)の熱気とともに、ヘッドランプの明かりがライオンズヘッドへと続く長い列を作る幻想的な光景とともにスタートしました。序盤のウォーミングアップ的な登りを終えると、選手たちはファウンテン・ピーク(Fountain Peak)への厳しい登りに挑みます。31km地点を通過する頃には、クリス・マイヤーズ Chris Myers (USA)、ジェフ・モガベロ Jeff Mogavero (USA)、ドミトリー・ミティアエフ Dmitry Mityaev (RUS) らが先頭集団を形成していました。

レースをリードするジェフ・モガベロ。 Photo © Pippa Yates-RMB Ultra-Trail Cape Town – World Trail Majors
レース中盤、美しいランドダノ(Llandudno)のビーチや、エネルギーを奪うサンディ・ベイ(Sandy Bay)の砂浜セクションを経て、中間ポイントではモガベロが力強い走りでリードを奪っていました。しかし、72km地点のコンスタンティア・グレン(Constantia Glen)のエイドステーションに到達した時、トップに立っていたのはミティアエフでした。彼は安定したペースを刻んでおり、このまま逃げ切るかに見えました。
しかし、ウルトラトレイルの神髄は「最後まで何が起こるかわからない」点にあります。痙攣に苦しみながらも前進を続けるミティアエフに対し、後方から猛烈な勢いで追い上げてきたのがモガベロでした。

レースをリードするドミトリ・ミチャエフ Dmitry Mityaev Photo ©Zac Zinn-RMB Ultra-Trail Cape Town – World Trail Majors
モガベロはフィニッシュラインまで残り約2kmの地点でついにミティアエフを捉えます。モガベロの猛迫に、足の攣りを抱えていたミティアエフは対抗できず、先頭を明け渡すことになります。
100kmを走ってなお、わずか数分の差で勝負が決するというドラマティックな展開の末に、モガベロは11時間4分53秒で優勝を飾りました。そのわずか1分未満という僅差でミティアエフが2位でフィニッシュしました。3位には地元の雄、マシュー・ヒーリー Matthew Healy (RSA) が入り、表彰台の一角を死守しました。
一方、女子レースでは、スンマヤ・ブダ Sunmaya Budha (NEP) が圧巻のパフォーマンスを見せました。序盤からフルスロットルでレースを支配し、アントニナ・ユシナ Antonina Iushina (RUS) との差を広げていきました。美しいランニングフォームを崩すことなく、スタート地点と同じラグビーグラウンドに帰ってきたスンマヤは、12時間25分55秒で優勝。2位のユシナ、3位のタラ・フラガ Tara Fraga (USA) を退け、WTMで1月の香港に続く勝利を手にしました。

女子のレースをリードするスンマヤ・ブッダ Sunmaya Budha Photo © Zac Zinn-RMB Ultra-Trail Cape Town – World Trail Majors
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Photo © Sam Clark-RMB Ultra-Trail Cape Town – World Trail Majors
UT100 男子
- ジェフ・モガヴェロ Jeff MOGAVERO (USA) 11:04:53
- ドミトリー・ミチャエフ Dmitry MITYAEV (RUS) 11:05:24
- マシュー・ヒーリー Matthew HEALY (RSA) 11:11:26
- ホアキン・ロペス Joaquin LOPEZ (ECU) 11:46:53
- グラント・バーネット Grant BARNETTE (USA) 12:10:48
- オギュスタン・ソレル Augustin SAUREL (REU) 12:22:47
- ロデウェイク・フリンス Lodewijk VRIENS (NLD) 12:22:50
- コク・ワイ・ツェー Kok Wai TSE (HKG) 12:30:03
- エドソン・クムワンバ Edson KUMWAMBA (MWI) 12:32:32
- マルク・ベルナデス Marc BERNADES (ESP) 12:35:08

Photo © Sam Clark-RMB Ultra-Trail Cape Town – World Trail Majors
UT100 女子
- スンマヤ・ブダ Sunmaya BUDAH (NPL) 12:25:55
- アントニーナ・ユシナ Antonina IUSHINA (RUS) 13:33:31
- タラ・フラガ Tara FRAGA (USA) 13:47:04
- アリッサ・クラーク Alyssa CLARK (USA) 14:03:11
- サラ・ハンブル Sarah HUMBLE (USA) 14:46:08
- エミリー・マン Emilie MANN (CAN) 14:59:37
- ユリカ・パール Julika PAHL (NAM) 15:59:07
- ティナ・ミュア Tina MUIR (GBR) 16:11:11
- ジュリア・ハンター Julia HUNTER (RSA) 16:39:49
- ピア・シャライン Pia SCHAREIN (RSA) 17:15:50
PT55:新記録樹立と地元勢の躍動
金曜日には、56.7km、獲得標高2644mの「PT55」がショートシリーズの最終戦として開催されました。このカテゴリーは「誰にとっても挑戦しやすいレース」を標榜し、マラソン以上の距離へのステップアップとして位置づけられています。

PT55の序盤をリードしたロビー・シンプソン Robbie Simpson Photo © Sam Clark-RMB Ultra-Trail Cape Town – World Trail Majors
レースは序盤からハイペースな展開となりました。ハウト・ベイ(Hout Bay)のビーチ(15km地点)を過ぎる頃には、昨年のこのレースを大会新記録で優勝したロビー・シンプソン Robbie Simpson (GBR) や、ヨハネス・ヴィンゲンフェルト Johannes Wingenfeld (GER) らが先頭集団を形成。シンプソンが経験を活かしてレースをリードする場面もありましたが、勝負の分かれ目となったのはテーブルマウンテンへの登りでした。
ここで一気に抜け出したヴィンゲンフェルトは、後続との差を決定的なものとし、5時間13分26秒でフィニッシュして優勝。2位で続いたシンプソンに7分の差をつけての勝利でした。シンプソンの大会記録(5時間18分58秒)を5分以上上回る大会新記録での優勝でした。3位にはチャールズ・ハミルトン Charles Hamilton (AUS) が入り、レジェンドであるミゲル・ヘラス Miguel Heras (ESP) は6位でフィニッシュしました。
女子のレースは、シリーズタイトルを狙うラム・マヤ・ブダ Ram Maya Budha (NEP) に注目が集まりましたが、主役の座を奪ったのは地元南アフリカのレベッカ・コーネ Rebecca Kohne (RSA) でした。47km地点のニューランズ貯水池(Newlands Reservoir)で苦しい表情を見せるラム・マヤに対し、コーネは力強い走りを維持。6時間11分44秒で優勝し、地元の声援に応えました。2位にはオリビア・デュバーン Olivia Dubernn (FRA) が入り、ラム・マヤは3位で表彰台を確保しました。
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Photo © Pippa Yates-RMB Ultra-Trail Cape Town – World Trail Majors
PT55 男子
- ヨハネス・ヴィンゲンフェルト Johannes WINGENFELD (GER) 05:13:26
- ロビー・シンプソン Robbie SIMPSON (GBR) 05:20:35
- チャールズ・ハミルトン Charles HAMILTON (AUS) 05:33:38
- ジェームズ・ミラー James MILLER (RSA) 05:47:11
- ケイン・ライリー Kane REILLY (RSA) 05:57:52
- ミゲル・エラス Miguel HERAS (ESP) 06:05:38
- ムヴュイシ・グコグコ Mvuyisi GCOGCO (RSA) 06:09:29
- アレックス・ゾノ Alex ZONO (RSA) 06:14:35
- ジョン・エイプリル John APRIL (RSA) 06:16:28
- コンスタンディノス・パラディソプロス Konstantinos PARADEISOPOULOS (GRC) 06:21:13

Photo © Pippa Yates-RMB Ultra-Trail Cape Town – World Trail Majors
PT55 女子
- レベッカ・コーン Rebecca KOHNE (RSA) 06:11:44
- オリヴィア・デュベルン Olivia DUBERN (FRA) 06:16:59
- ラム・マヤ・ブダ Ram Maya BUDAH (NPL) 06:21:28
- レベッカ・ワトニー Rebecca WATNEY (RSA) 06:44:22
- ナディア・ボイエンス Nadia BOOYENS (RSA) 07:07:04
- ベアトリス・パロン・アルバレス Beatriz PARRON ALVAREZ (ESP) 07:08:40
- キム・シュライバー Kim SCHREIBER (GER) 07:11:42
- ビアンカ・ターボトン Bianca TARBOTON (RSA) 07:11:43
- アンドレア・オスターラ Andrea OSTERLOH (RSA) 07:27:30
- ジェイミー・ファララ Jaime FARARA (RSA) 07:47:24
初代シリーズチャンピオンたちの横顔
このケープタウンでの結果を受け、各ランナーのベスト2レースのポイント(同点の場合はITRAパフォーマンスインデックスで判定)に基づき、記念すべき2025年ワールド・トレイル・メジャーズのシリーズチャンピオンが確定しました。
- ウルトラシリーズ王者:カレブ・オルソン Caleb Olson (USA)、スンマヤ・ブダ Sunmaya Budha (NEP)
- オルソンは「The North Face Transgrancanaria」と「Grampians Peaks Trail 100 Miler」で勝利を収めました。WTM以外にもウェスタンステイツでも優勝し、多くの成果を挙げた一年でした。女子はスンマヤ・ブッダが「Hong Kong 100」に続いてこのケープタウンでの勝利でタイトルを獲得しました。
- ショートシリーズ王者:ヤン・ジアンジアン Jianjian Yang (CHN) 、シャン・フジャオ Fuzhao Xiang (CHN)
- 男女ともに中国勢が初代チャンピオンに輝きました。ヤンは香港とベトナムでの勝利、シャンはMt.FUJI、ベトナム、グランピアンズでの活躍により、その強さを世界に示しました。
シーズンを締めくくるに相応しい「多様性」の祭典
ワールド・トレイル・メジャーズが掲げる「多様性、持続可能性、そしてトレイルランニングの本来の精神」は、このケープタウンの地で一つの完成形を見せました。
アメリカ、ネパール、ロシア、南アフリカ、ドイツ、中国。表彰台やシリーズタイトルに名を連ねた国籍の多様さは、このスポーツが真にグローバルな広がりを見せていることの証明となりました。特に、ネパールや中国などアジア勢が欧米の強豪と互角、あるいはそれ以上に渡り合っている事実は、トレイルランニングの勢力図が確実に変化していることを示唆しています。
100kmレースのラスト2kmでの逆転劇や、地元選手の大金星など、私たちの想像を超えるドラマが生まれた2025年のフィナーレ。限界を超えた先にある人間の底力を見せつけられたシーズンを経て、2026年はどのような新たな物語が世界のトレイルで紡がれるのでしょうか。
(Source: World Trail Majors)














