世界最高峰のスカイランニングシリーズが、これまでにない大胆な変革を遂げます。2026年のメレル・スカイランナー・ワールドシリーズは、単なる体力勝負の世界から、戦略的なレース選択が勝敗を分ける知的なゲームへと進化を遂げようとしています。
RED RACE vs WHITE RACE ー ポイント1.5倍の重み
2026年シーズンから導入される新分類システムは、シリーズの競争構造を根本から変える可能性を秘めています。全19レースのうち7レースが「RED RACE」に指定され、通常の1.5倍のポイントを獲得できるようになります。アスリートは総合ランキングに算入できるRED RACEを最大2レースまでと制限されており、これにより選手たちは自身の得意なコース特性や体調、移動スケジュールを考慮した緻密なシーズン計画が求められます。
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最高のランキングを目指すには「2つのRED RACE + 2つのWHITE RACE + スカイマスターズ」、または「1つのRED RACE + 3つのWHITE RACE + スカイマスターズ」という組み合わせから選択することになります。この新ルールは、単に多くのレースに出場すればよいという従来の発想を覆し、どのレースで最高のパフォーマンスを発揮するかという戦術的判断を選手に迫るものです。
複雑から単純へ、そして再び戦略的な分類へ
このRED/WHITEシステムは、スカイランナーワールドシリーズの長い進化の過程から生まれました。2018年までは「Sky Classic」「Sky Extra」(旧Sky UltraとSky Extremeの統合)、そして「Overall」という複数のカテゴリーが並立する複雑な構造でした。各カテゴリーは距離や平均標高差、最低・最高標高の差などの基準で細かく定義され、それぞれに独立したチャンピオンが存在していました。
2019年、シリーズは大胆な簡素化に踏み切ります。複数のカテゴリーは廃止され、単一のランキングシステムへと統一されました。このとき導入されたのが「SuperSky Races」という概念で、通常のSky Raceの2倍のポイントを獲得できる特別なレースが指定されました。選手たちは上位4レース(うちSuperSky Racesは最大2つまで)とスカイマスターズの結果で総合ランキングを競う形式となりました。
しかし2020年、Covid-19パンデミックによりシリーズは中断を余儀なくされます。2022年の再開時には、新たに「Tier System」が導入されました。Tier 1レースは最大ポイントを提供し上位20名がポイントを獲得、Tier 2レースはより少ないポイントで上位10名がポイントを獲得するという仕組みです。このシステムは、世界的に認知された名門レースだけでなく、新興の優れたレースにもシリーズへの門戸を開くことを目的としていました。
そして2026年、シリーズは再び進化を遂げます。RED/WHITEシステムは、2019年のSuperSky Racesの精神を受け継ぎながら、ポイント倍率を2倍から1.5倍へと調整し、よりバランスの取れた競争環境を作り出します。選手たちにより細やかな戦術的判断を迫るこのシステムは、複雑なカテゴリー分けの時代を経て、シンプル化され、そして今、より洗練された戦略的システムへと到達したスカイランニングの成熟を象徴しています。
上田スカイレースがRED RACEに選出
日本の上田スカイレース Ueda Skyrace は5月4日にRED RACEとして開催されます。2025年に初めてワールドシリーズに加わったこの大会は、26km/累積標高差±3,050mという数字以上に、日本特有の急峻な地形が特徴です。長野県上田市のシンボルである太郎山(標高1,164m)山系を巡るこのコースは、密林、岩稜帯、古社寺を背景に、平坦区間がほとんど存在しない「純粋な登降」を強いられるテクニカルなレイアウトとなっています。
2025年の初開催では、上田瑠偉 Ruy Ueda 、高村貴子 Takako Takamura の両選手JPN) 選手が優勝を飾りました。わずか1年でRED RACEに選ばれたことは、このレースの質の高さと国際的評価の証明に他なりません。2026年も世界トップクラスの選手たちが上田の山々で激突する光景が期待できます。
5年ぶりの復活と新たなチャレンジ
2026年シーズンは、新規レースと復活レースが絶妙なバランスで配置されています。アルゼンチンのクアトロ・レフヒオス Cuatro Refugios が2月22日のシーズン開幕戦として登場し、アメリカのビースト・オブ・ビッグクリーク Beast of Big Creek が8月1-2日に新たに加わります。
特に注目すべきは、5年の空白期間を経て復活する中国の亜丁スカイレース Yading Skyrace です。標高3,100mからスタートし、最高地点4,700mに達するこのレースは、32kmのうち26.5kmが登りという過酷なプロフィールを持ちます。酸素の薄い高地での戦いは、選手たちの高所適応能力を試す究極の舞台となるでしょう。また、隔年開催の伝説的なトロフェオ・キマ Trofeo KIMA もスポットライトに復帰します。
25万ユーロの賞金とシーズン途中の報奨制度
メレル・スカイランナー・ワールドシリーズは、総額25万ユーロを超える賞金を用意しています。総合ランキングだけで10万ユーロが用意され、個別レースの賞金を合わせると25万ユーロを超える規模となります。これは2019年の賞金総額7万5千ユーロから大幅に増加しており、シリーズの成長と成熟を物語っています。
2026年の新たな試みとして、スカイマスターズ開催前の時点での総合ランキング上位3名の男女にも賞金が授与されます。これは最終戦を待たずにシーズンを通じた優れたパフォーマンスを称えるもので、選手たちのモチベーション維持にも寄与するでしょう。もちろん、最終的な賞金配分はスペインのエスリダで11月7日に開催されるマラト・デルス・デメンツ Marató dels Dements でのスカイマスターズ後に決定されます。
4大陸19レースで繰り広げられる頂への戦い
2026年のカレンダーは、4大陸、12カ国、19レースという壮大なスケールで展開されます。これは2022年の再開時の13レース、2025年の24レースと比較して、質と量のバランスが取れた適度な規模に調整されています。
総合ランキングに登場するには、スカイマスターズに加えて4レースの完走が必須となり、スカイマスターズへの出場権を得るには少なくとも4レースの完走と1回のトップ20入賞が求められます。選手たちはより多くのレースに出場することも可能ですが、カウントされるのは上位4レースとスカイマスターズのみという明確なルールが設定されています。
2026年シーズン全19レース日程
2026年のメレル・スカイランナー・ワールドシリーズは、2月下旬の南米から11月のスペインまで、約9ヶ月にわたる壮大な戦いが繰り広げられます。以下、全レースを開催日順に紹介します。
【RED RACE – 1.5倍ポイント】
- 2月22日 クアトロ・レフヒオス Cuatro Refugios(アルゼンチン)
- 3月14日 アカンティラドス・デル・ノルテ Acantilados del Norte(スペイン)
- 5月3日 スカイレース・デ・マテザン Skyrace des Matheysins(フランス)
- 5月4日 上田スカイレース Ueda Skyrace(日本)
- 6月20日 亜丁スカイレース Yading Skyrace(中国)
- 8月1-2日 ビースト・オブ・ビッグクリーク Beast of Big Creek(アメリカ)
- 9月26日 ゴルベイア・スジエン Gorbeia Suzien(スペイン)
【WHITE RACE – 通常ポイント】
- 3月7日 メレル・アンデス・マウンテン・スカイレース Merrell Andes Mountain Skyrace(チリ)
- 4月11日 カラモロ・スカイレース Calamorro Skyrace(スペイン)
- 4月26日 ペナン・スカイレース Penang Skyrace(マレーシア)
- 5月23日 スカイレース・デ・ゴルジュ・デュ・タルン Skyrace des Gorges du Tarn(フランス)
- 6月28日 イバラ・スカイレース Ibarra Skyrace(エクアドル)
- 7月5日 コルディジェラ・ブランカ・スカイレース Cordillera Blanca Skyrace(ペルー)
- 8月22日 マッターホルン・ウルトラクス・エクストリーム Matterhorn Ultraks Extreme(スイス)
- 8月23日 トロフェオ・キマ Trofeo KIMA(イタリア)
- 9月5日 マガ・スカイマラソン Maga SkyMarathon(イタリア)
- 10月18日 キナバル山クライマソン Mt. Kinabalu Climbathon(マレーシア)
- 10月24-25日 ソブレスコビオ・スカイレース Sobrescobio Skyrace(スペイン)
- 11月7日 マラト・デルス・デメンツ Marató dels Dements / スカイマスターズ SkyMasters(スペイン)
アルゼンチンの高地から始まり、ヨーロッパ、アジア、南北アメリカを駆け巡り、最後はスペインでシーズンを締めくくるこの日程は、世界中のスカイランナーたちに究極の挑戦を提供します。2026年は、純粋な身体能力だけでなく、戦略的思考が勝利への道を切り開く、スカイランニングの新時代の幕開けとなりそうです。














